第三章




山崎「副長」

土方「山崎か。なんだ?入れ」

山崎「失礼します」

土方「どうした?」

山崎「気になる噂を耳にしまして」

土方「?」

山崎「ここ数日、妙な辻斬り事件が、市中で頻発しているようなのです」

土方「妙な辻斬り?」

山崎「はい。町方の話では、死体の血がほとんど失われているとの事です」

土方「なんだと?」

千世「・・・」

部屋の外で、千世はその話を聞いていた

半月以上かかっているのに、なんの手がかりもない

新見が見つからないまま、羅刹が生み出された

千世〈他人を気にするなんて、馬鹿みたいだ・・・〉

自分が死ぬ事しか、考えていなかった

だが今は、黄麻がしていた事に腹を立てている自分がいる

自分を捨てた事についてはどうでもいい

だが、新選組の人達を妙な事に巻き込み、狂わせている事には腹が立つ

千世〈いつだって死ねる。でも、ここをこのままにして死ぬなんて・・・人間として堕ちるだけ。あいつみたいになるのだけは、絶対に嫌だ〉




















土方「そいつは確かに羅刹なのか?」

斎藤「はい。おそらく失敗して、制御できなくなったために殺したものと思われます」

千世「っ・・・」

この日の夕方、土方は部屋で斎藤と沖田からの報告を受けていた

ちょうど土方にお茶を持って来た千世も居合せ、一緒に聞いていた

昼間、川から男の遺体が上がった

心臓をひと突きにされて殺されていたその男は、羅刹だった

沖田「どうします、土方さん?」

土方「・・・」

山崎「副長」

土方「どうした?入れ」

山崎「失礼します」

襖を開けた山崎は、斎藤に沖田、千世がいるにも関わらず、早々に報告を始める

山崎「たった今、市中の監察方より、新見と思しき人物が田中伊織と名乗り、祇園新地の山緒という料亭に入ったとの知らせを受けました」

土方「総司、斎藤。行けるな?」

斎藤「はい」

沖田「勿論ですよ」

土方「室内での捕物となりゃあ、大勢で行っても意味がねぇ。俺達だけでやるぞ」

斎藤「わかりました」

沖田「とっとと、済ませちゃいましょう」

千世「あっ・・・!」

沖田「千世ちゃん」

千世「!」

沖田「君は留守番。来ても邪魔なだけだよ。その小太刀で、人を斬れるって言うのなら話は別だけど」

千世「っ・・・」

そうして、山崎の案内で土方と沖田、斎藤が山緒という料亭へ向かう事になった

道中で辺りは暗くなり、到着した頃にはすっかり夜になっていた

土方「山崎、裏に回れ」

山崎「わかりました」

土方「行くぞ」

店に乗り込み、部屋を片っ端から探し回る

騒ぎに気付いた新見は、部屋の灯りを落とす

だが直後、襖が開かれた

新見「ひ、土方!」

沖田「いましたね」

土方「こんな所で何やってんだ、新見さん?」

新見「どうしてここに?わ、私に何かしたら・・・せ、芹沢先生が黙ってはいませんよ!」

土方「芹沢先生だ?」

沖田「その薬を尊壌派に渡すのは、芹沢さんの指示なんですか?」

「なんぜよ、おまんら!?」

新見「新選組だ」

「なに、壬生狼?」

ひとりが刀を抜こうとした、その直後

先に沖田の刀が、喉を貫いた

沖田「やれやれ・・・そんなに、死に急がなくてもいいのに」

「おまんら!!」

刀を抜いて突っ込んで来たもうひとりの腕を掴んだ土方は、後ろに引っ張って軽くかわした

そのまま斎藤の刀に、男は貫かれた

新見「このっ・・・政情も弁えぬ愚か者が!私に手をあげたら、ただでは済まんぞ!」

土方「言いてぇ事はそれだけか?」

次の瞬間、懐に仕舞っていた変若水の小瓶を取り出すと、中身を一気に飲み干した新見

土方「なにッ!?」

すぐに刀を抜いた土方は、刃を振るった

難無く自分の刀でそれを受け止めた新見は、怪しげな笑みを向けてくる

彼の髪は白に変色し、瞳の色も赤に変わる

それは、彼が羅刹となったことを示していた

高笑いを発しながら、土方の刀を弾いた

弾き飛ばされた土方は、体制を崩しながらも追撃を避けた

すぐさま斎藤が踏み込み、何度も突きを繰り出す

貫いたはずの新見の姿が、消えた

沖田「一君、上!」

見上げると、新見が斬り込んできた

後退して避けるが、新見を貫いた時に壁に突き刺さった刀は抜く暇がなかった

そのため、着地したと同時に脇差しを抜く斎藤

次に沖田が斬り込み、刃が交わる

だが新見に片腕を捕まれると、畳に倒されてしまった

土方「総司!」

沖田に向かって、新見が刀を振り下ろす

すぐに土方が斬り込み、それを防ぐ事ができた

着地した新見を振り返る土方

新見「遅い遅い。まるで子供の素振りだな」

土方「羅刹になっても、理性を保てるのか?」

新見「言ったろう?私に手をあげたら、ただでは済まさんと」

沖田「気に入らないよねぇ。僕ら三人がかりなのに、あんな人に劣勢っぽいって。笑えないですよ」

新見「これが、羅刹の力だ!新たな時代は、この技術を手にした者に与えられる!長州も薩摩も、土佐さえも・・・それはそれは欲していたぞ」

土方「で、どこに売った?」

新見「折角そいつらが良い条件を提示してきたというのに。お前達が台無しにしてくれた!」

それを聞いた土方と沖田が互いに頷き合うと、新見に向かって刀を振り上げる

新見のすぐ横にいた斎藤が先に刀を振り下ろすが、避けられた上に頬に拳を受ける

さらに土方の一撃も避けると、沖田とまとめて蹴り飛ばした

ふたりは揃って壁に激突する

しかも沖田はぶつかった際、壁と土方に挟まれたような状態になっていた

新見「ははは!まるで相手にならんな!」

そう言って舌舐めずりをした新見

斎藤の刀が掠めていたのか、先程まではなかった頬を流れる血に、舌が触れた

新見「血・・・血だ。血だ!血・・・血を寄越せ!」

キシッ

土方「!?」

千世「!」

土方「馬鹿野郎!なんで来た!?」

千世「っ・・・!」


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