第三章




土方「お前ら、検分が終わるまで人を近付けるな」

「わかりました」

千世「・・・・・・」

まだ少し焦げた匂いが残る中を、立ち尽くして見回す千世

珍しく彼女が同行している事には、理由があった

昨晩、京で両儀黄麻が滞在していた家が、火事になった

“新選組”の名を会津公から頂いた事を、みんなで喜び、祝っていた昨晩に

新見「何も残っていない・・・今一歩の所まで来ていたのに・・・!」

千世「・・・」

落胆の様子を見せる新見を横目に、彼女はただ呆然とした様子で立ち尽くす

山南「大丈夫ですか?」

千世「え?」

山南「一応、黄麻さんはあなたのお父上ですから」

千世「あぁ、はい。そうでしたね・・・薄情、かもしれませんけど・・・正直に言って、思っていたよりも平気です」

山南「・・・そうですか」

俯いていた顔を上げ、高く、青い空に瞳を向ける千世

そんな彼女を、山南と土方は無言で見つめた

夕方、一室に集まった土方と山南は、そこで近藤と話をする

近藤「それで、黄麻さんの行方は?」

土方「わからねぇ。遺体は見つかってねぇから、生きている可能性もあるが・・・」

山南「彼は、このところ頻繁に屯所に出入りしていました。我々との関係が疑われて、尊壌派に襲われた可能性もあります」

近藤「なるほど・・・」

山南「なんにしても、幕命で進めていた変若水の秘密が漏れていないか、調べる必要がありますね」

土方「そうだな・・・とにかく、黄麻さんを探すのが最優先だろうぜ」

その言葉に山南が頷くと、近藤が口を開く

近藤「そういえば、千世君はどうしている?」

土方「いつも通りだ。どんな野郎でも、一応は身内の事だからな・・・てっきり動揺すると思ったんだが・・・」

山南「むしろ彼女は、平然とし過ぎています。それだけ彼女と黄麻さんの関係は、良好ではなかったという証拠とも言えるのでしょうが・・・」

近藤「・・・そうか」

土方「元々、仲良さそうには見えなかったじゃねぇか。あの親子は。そもそも、てめぇの都合で娘を捨てたり拾ったりするような親だ。むしろいなくなって、気が楽かもしれねぇな」

近藤「まあ・・・確かに、そうかもしれんが・・・」

土方「ところで近藤さん。芹沢さんの事なんだが、会津藩からの命令はどうするつもりだ?」

近藤「・・・・・・」

実は、あの大和屋の事件のこともあり、会津藩から芹沢についてなんとかするように言われていたのだ

山南「いっそ局長職を辞してもらってはどうです?」

土方「んな事、あの人が納得するはずねぇだろ」

近藤「俺が、芹沢さんと話をしてみよう」

土方「おいおい、話し合いなら今まで何度もしてきたじゃねぇか。そのたびにぶち壊しにしたのはあの人なんだぜ?」

近藤「だが、志を同じくして上洛した同志なのだ。理を尽くして説明すれば、わかってくださるはずだ」

山南「・・・」

土方「・・・」

その日の夜、近藤は色町の店に芹沢を呼び出し、話をする事を決めた

行動を改めるように、と

だが話は逸れてしまい、芹沢は近藤に局長としての覚悟を問うてきた

覚悟はあると告げる近藤

話を切り上げ、芹沢は近藤が止めるのも聞かずに芸妓を呼ぶように店の者に告げた

結局、話は強制的に切り上げられてしまった




















土方「いずれ何かやらかすんじゃないかとは思っていたが・・・よりによって変若水を持ち出しやがるとはな」

別の日の夜

変若水について知っている者達が集まっていた

変若水ごと、新見が姿を消してしまったのだ

平助「どうするんだよ、土方さん?急いで行方を探さなきゃならねぇんだろ?」

土方「事の重大さを考えれば、隊士総出で新見さんを探したいところだが・・・変若水絡みとなりゃあ、事情を知っている俺達だけで、探し出すしかねぇだろ」

山南「そうですね。幸い、実験し羅刹化してしまった隊士達は、連れ出されてはいませんでした」

原田「ってことは、新見さんが新たな実験を行わねぇ限り、すぐに騒ぎになることはねぇってことだな?」

沖田「だけどあの人、変若水を売り込むためには、手段を選ばないんじゃないですか?」

近藤「とにかく、新見さんを探すことは最優先だ。巡察中も、しっかり気を配ってくれ」

沖田「あれ?」

近藤「どうした、総司?」

沖田「いえ、ひとり足りないなぁって」

平助「え?・・・あ、千世」

井上「千世君なら、もう寝ているよ」

土方「呼んでねぇからな。寝かせといてやれ」

斎藤「彼女には、この事は伝えなくても良いのですか?」

土方「あ?ああ・・・」

沖田「もしあの子が気付いちゃったら、どうするんですか?」

土方「そうなったら、俺が説明すると言っておけ」

翌日から、新見探しは始まった

絵が上手い井吹が新見の似顔絵を書き、それを基に探し回る

そして案の定、千世は事の起こりに気付き、土方から事情を聞いた

千世「そう、でしたか・・・・・・私も、何か手伝えますか?」

土方「はぁ?」

千世「新見さんが消えただけなら、私もなんとも思いません。でも、変若水も消えてるんですよね?無干渉でいたいなんて・・・言ってられません」

土方「・・・それは、お前の親父さんが持ち込んだ薬だからか?」

千世「・・・・・・」

土方「だからって無理に関わる必要は--」

千世「あります」

土方「!」

千世「関わる必要は、あります。変若水の事を知ってしまった時点で、私がここから追い出されるというのはまずなくなってしまいました。そして変若水を持ち込んだのは、両儀黄麻・・・認めたくはないですが、私の父です。こんな事態になってしまった以上、私はもう、関わらないという選択はできないんです」

土方「なぜだ?」

千世「もしここで私が、縁を切った父親がやった事だから関係ないと、皆さんから目を背けたら・・・人間として死ぬ。私は、私という個人が死ぬのは構いません。でも、人間としての心が死ぬのは・・・嫌です。そこまで堕ちたくはありません」

土方「・・・」

千世の言葉と真剣な瞳に、土方は了承するしかなかった


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