第三章




ドォン・・・!

千世「ッ!?」

空が白んできた頃、大きな爆音のようなそれを耳にして飛び起きた千世

何かを予感し身支度を早急に整える

終わるのとほぼ同時に、斎藤が部屋に来た

斎藤「失礼する」

千世「あの・・・!」

斎藤「・・・すぐに広間へ来い」

千世「はい」

広間

芹沢「揃っているか?」

土方「当たり前じゃねぇか!あんだけバカでかい音が聞こえてきたんだ」

山南「砲声は御所の方から聞こえてきたそうです」

永倉「なあ、俺達も出た方がいいんじゃねぇのか?」

山南「いいえ、まだ会津から出動命令は出ていません。勝手な行動は避けるべきです」

土方「すでに、山崎と島田が様子を見に行っている。報告が来るまで待機だ」

そして、戻ってきた山崎と島田の報告を受けるが・・・

土方「なにっ、会津と薩摩が境町御門を警護している!?」

山南「確かあそこは元々長州が警護をしているはずですが・・・」

島田「はい。長州藩は、なんとか御所に入ろうと機会を窺っており、会津・薩摩は一歩も通すまいと、睨みを利かせております」

山崎「一触即発。いつ戦になってもおかしくありません」

原田「戦か・・・」

土方「しかし、なぜいがみ合ってきた会津と薩摩が手を組んでやがる?」

近藤「・・・解せない事だな」

芹沢「世の中は、お前達の頭の中のように単純にはできておらんと言う事だろう」

土方「なんだと!?」

芹沢「薩摩も会津も、朝廷に我が物顔で出入りする長州を煙たがっておったからな。長州潰しのためには、思想の違いなど些細な問題と言ったところだろう」

土方「ご高説ありがとうよ。俺は、状況次第で態度が変わる日和見な連中の頭の中なんざ、興味ねぇんでな」

永倉「で、どうする?」

近藤「会津藩の命令無しに隊を動かす事はできん」

土方「待つしかねぇって事か・・・」

芹沢「・・・・・・出るぞ!このまま座していても、手柄を立てる機会を逃すだけだ」

その言葉に全員が納得し、動こうとした時だった

伝令が伝えられ、御門を守るようにとの命令が入った

近藤「お上の命が下った!壬生浪士組、出陣いたす!天子様をお守りするのは我らぞ!」

「「「「「おう!!」」」」」

彼らが出かける後ろ姿を、千世は心配そうな顔で見送った

だが、壬生浪士組など知らないと、追い返そうとされてしまう

斎藤曰く、自分達はまだ無名だからこそ、藩の中には知らない者もいるのだろうと言う事だ

槍を向けられる近藤

土方が前に出ようとするが、先に芹沢が鉄扇で槍を弾いた

芹沢「さっさと公用方に確認を取れと言っておるだろうが!この俺に槍を向けたからには、即刻斬り殺される覚悟はできておるのだろうな?」

彼の勢いに、会津藩士は怯む

芹沢「俺は盡忠報國じんちゅうほうこく、芹沢鴨。会津藩お預かり壬生浪士組を率いて、禁中まかり通る!」

この様子を、黄麻が離れた場所から見ていた

黄麻「長州一藩にこれだけの騒ぎ・・・幕府の権威も地に落ちたものだ。時代も動くという事か」




















井吹「・・・・・・井上さん!」

千世「!」

辺りが夕陽で赤く染まる頃、表で待っていると井上が隊士2人と帰って来た

井吹「みんなは?」

井上「無事に勤めを果たしたよ」

井吹「そうか・・・良かったぁ」

井上「二人とも、夕餉の準備を手伝ってもらえるかな?」

井吹「うん!」

千世「はい」

そうして翌日、井吹と千世も混ざって広間に集まる

近藤「みんな、先日はよくやってくれた!会津公は我々の働きを高く評価し、今度は正式に、京の見回りを任せたいと仰っている」

永倉「へぇ!そりゃすげぇな!」

原田「これで、巡察も随分やり易くなるな」

近藤「そして大変名誉な事に・・・会津公から、新しい隊名を拝命した!--“新選組”だ!」

千世「あ・・・」

沖田「新選組・・・」

土方「この名は、かつて会津藩に実際あった組織の名らしい。武芸に秀でた者が集っていたんだとよ」

平助「へぇ・・・なんだか身が引き締まるなぁ」

近藤「つまりだ。会津公は、我々浪士組が武士としてその名を継ぐに相応しいと思ってくださっているわけだ。信頼に応えられるよう、より一層、隊務に励まねばな!」

「「「「「おう!」」」」」

平助「こんなにめでてぇ日はそう滅多にねぇよな。土方さん、どうだ?久々にパーッと!」

土方「ああ。今夜は皆で祝うとするか」

原田「そうこなくっちゃな!」

千世「・・・私は遠慮します」

原田「おっと。待てよ、千世」

がしっ

千世「え・・・」

原田「逃がすと思うか?」

千世「・・・・・・その笑顔、怖いです」


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