第二章
千世「・・・・・・いいんですか?彼、置いて来ちゃって」
原田「ま、なんとかなるだろ」
千世「はぁ・・・」
原田「千世、ちょっと付き合ってくれねぇか?」
千世「え?」
隊服を脱いで戻ってきた原田に連れられ、千世は居酒屋の席にいた
千世「いいんですか?」
原田「ん?」
千世「私を外に連れ出している事とか。色町ではなく普通の居酒屋に来た事とか。私なんかと来た事とか」
原田「ああ、連れ出してる事に関しちゃ、心配するな。巡察もそうだが、土方さんからの頼まれ事なんだよ。たまには外に連れてってやれって。ま、直接そう言われたわけじゃねぇがな」
千世「え?」
原田「前に、不逞浪士と出会して、お前に怪我させちまっただろ?あれ以来、外に出してやれなかったからな。たまには息抜きしねぇとな」
千世「私は、別に・・・」
原田「それとな、俺は新八と違って、別にどうしても色町で騒ぎたいわけじゃねぇ。そういうのもたまにはいいが、今日は普通に酒が飲みたかったんだよ。お前と出かけたかったってのもあるがな」
千世「え?」
原田「あん時の詫びもしたかったしな。怪我させちまって、悪かったな」
千世「・・・・・・気にしないでください。あれは自業自得ですから。じっとしてるなり、護身術を使うなりしていれば、なかった事ですし」
原田「・・・・・・変わったな、千世」
千世「えっ」
原田「前のお前だったら、あれは自業自得だからのあとに続いてる言葉はきっと・・・自分が望んであの結果になったんだから。だろうからな。それを考えりゃあ、やっぱ変わったよ。なんかあったのか?」
千世「・・・」
『・・・お前も、見つけりゃあいいだろう。生きてぇって思えるような何かを。それを見つけるまで死ねねぇって、生きりゃあいいんだよ』
千世「言われたんです。生きたいと思える何かを見つければいいと。それを見つけるまで死ねないと、生きればいいと。生きる意味も、目的もない・・・そんな私に、簡単に見つかるわけがない。そう思っていました」
原田「・・・」
千世「でも最近、皆さんと過ごしていて・・・毎日に、色がある事に気付いたんです」
原田「色?」
千世「色が無かったんです。白と黒だけの世界に、私には見えていた。関心がないと、世界はそう見えるんだなと思いました。でも、皆さんと過ごして、少しずつ・・・色が付き始めたんです。最初は怖かった。色が付き始めた事に気付いて、どうしてそんな風になったのかわからなくて・・・」
原田「千世・・・」
千世「でも・・・色が付き始めた事に気付いたからこそ、考えたんです。見つけられるかもしれないって。だから、今は・・・生きる意味や目的を見つけるために、頑張ってみてもいいかもって・・・少しだけ、思えたんです」
原田「--」
千世「最初に羅刹と鉢合わせた時、彼の前に立ったのは死ぬためじゃなかった。あの人にはああ言いましたけど・・・本当に逝き損ねたとは思ってなかったんです。あの時はまだ、色が付き始めた事が怖かった。だからああ言ってしまいました。でも、本当は何も考えてなかったんです。気付いたら、彼の前に出ていたんです」
原田「お前、それって・・・」
井吹を本当に守ろうとして、体が動いていたという事だろう
原田はそう考えていた
自分の命を軽視していた彼女が、こうも大きく変わるとは・・・
思ってもみなかった変化に、驚きから酒を飲む手が止まっていた
生きようと、思い始めている
死に向いていた足が、向きを変え始めている
千世を変えた言葉が、彼女の中にある
原田「・・・・・・そう、か・・・千世」
千世「はい?」
原田「頑張って見つけろよ、生きるために。俺も、手伝ってやるからよ」
千世「・・・・・・あ、ありがとう・・・ございます」
ぎこちなく感謝の言葉を口にする千世の頬は、ほんのりと赤かった
彼女の可愛らしい一面を見られた原田は、満足そうに微笑むと手を伸ばす
大きな掌は緋色の赤毛に乗せられ、優しく撫でる
それを心地よく思いながら、千世は大人しくしているのだった
近藤「どうしたんだ、トシ!?山南君!?」
別の日の夕方、見回りに出ていた土方と山南が、血塗れで帰って来た
千世は急いで桶に水を汲み、手拭いを用意する
千世「使ってください」
土方「ああ」
山南「ありがとうございます」
土方「すまねぇ。浪士組と名乗って押し借りをしていた奴らと出会して、斬り合いになったんだが・・・逃げられちまった」
身体に付いた血を手拭いで拭きながら、土方が簡単に説明した
山南も同じ様に手拭いで血を拭う
沖田「へぇ・・・?土方さんと山南さんが取り逃がすなんて、珍しいですね」
山南「近くに仲間が、大勢隠れていたのです。申し訳ありません、局長」
近藤「いや、それは仕方ないが・・・」
原田「俺達の名を語って、押し借りをする奴が出て来たって事か」
永倉「ちょっと前まで、尊攘志士って名乗ってたくせにな」
山南「それだけ・・・浪士組の悪評が広まってしまったと言う事でしょう」
平助「首を晒した事が、逆効果だったんじゃないのかな?」
「「「・・・・・・」」」
沖田「あの人、最近やり過ぎですよね?」
山南「浪士組の評判が落ちると、会津藩の名前にも傷が付きます。我々もこのままと言う訳にはいかないでしょうね」