第二章
芹沢「押し借りとは不届き者め!屯所にぶち込んでおけ!」
他の隊士達と共に、芹沢がひとりの男を捕らえた
この様子を人混みに紛れ、永倉と斎藤が見ていた
永倉「派手にやってるなぁ」
斎藤「一見すると、不逞浪士の取り締まりのようだが・・・別の目的もあるのであろうな」
芹沢が何かを受け取っているのを見て、斎藤はそう判断した
夕方、蔵に捕らえられていた男のもとに、新見がやって来た
例の変若水を持って・・・
夜、食器を洗っていた井吹は男の叫び声を聞き、外に飛び出す
すると、羅刹となり蔵の戸を壊して出て来た男と鉢合わせになった
平助「なんだ、今の?」
永倉「蔵の方だぞ!」
彼らの声を聞き、羅刹は屯所の屋根に飛び乗って外へと行ってしまった
ただ見ている事しかできなかった井吹は、その場で腰を抜かし座り込んでしまう
平助や永倉をはじめ、土方と沖田と山南、そして斎藤と原田が集まった
平助「龍之介、何があった!?無事か!?」
永倉「土方さん!」
周囲の様子を見て、土方はすぐに現状を察した
土方「どこへ行った!?」
怒鳴るような土方の問いに、井吹は震える手で指差した
土方「追え!総司、山南さん!」
呼ばれた2人は、土方のあとに続き蔵に向かう
他は羅刹を追い、外へ向かう
平助「お前見たんだな?どんな奴だ?」
井吹「ええっと・・・」
平助「お前も来い!」
井吹「お、おい!」
一方、蔵に向かった土方達は新見を見つけた
新見「な、なんの用です?」
土方「とぼけるんじゃねぇ!あれは羅刹の声だろうが」
新見「ッ・・・」
沖田「斬られたいの?」
芹沢「夜中に、なんの騒ぎだ?騒々しい」
芹沢の姿を見るなり、新見は彼の後ろに走って行った
新見「わ、私はただ、変若水の実験をしただけですよ」
土方「誰に飲ませたんだ?」
新見「隊士ではありません。芹沢先生が捕縛した浪士です」
山南「新見さん!なぜひとりでそんな勝手な真似をしたのです!?」
新見「早く研究の成果をあげるためですよ!それに、今回の事はまるっきり失敗でもありません。最初は、ちゃんと理性を保っていましたし」
土方「だが、結局無差別に人を襲う化け物を外に出しちまった。この責任はどう取るって言うんだ?」
新見「せ、責任と言われても・・・!」
土方「今後!俺達に隠れて勝手な真似をしたら黙っちゃいねぇ。法度破りは切腹だ!」
新見「ひっ・・・!」
土方「忘れるな」
新見「せ、精々肝に銘じておきますよ」
それから、羅刹となった男を探しに行った者達のうち、平助と井吹が見つけた
だが、羅刹に逃げられてしまった
羅刹となった男を殺す事に、平助が躊躇したのが原因だと、彼は自ら謝罪する
結局それから羅刹は見つからず、翌朝となってしまった
昼間は動かないため、他の隊士に気付かれないよう巡回し、日が落ちてからが勝負と言う事になった
そして夜・・・
山南「幕府の機密事項が、外部に漏れるような事があってはなりません」
近藤「羅刹による犠牲を出すわけにもいかん」
土方「今晩中に終わらせるぞ。わかったな?」
「「「おう!」」」
井吹「平助!俺も連れて行ってくれ!」
平助「龍之介・・・」
井吹「あいつを取り逃がした責任は俺にもある!それに、人手は多い方がいいだろ?」
平助「いや、でも・・・」
迷う平助だが、井吹の真剣な表情を見て決めた
平助「・・・・・・わかった。その代わり、オレの言う通りにしてくれ。絶対に危険な真似はするな」
井吹「ああ!」
2人1組になり、夜の町を歩き回る
羅刹を探すために
「きゃあぁぁぁーーー!」
平助「あっちだ!」
悲鳴が聞こえた方に向かうと、そこで羅刹を見つけた
平助「龍之介、その人を頼む」
倒れている女性を井吹に任せ、平助は刀を抜いた
建物を半壊させる程の拳を叩き込んだ際、腕の骨が折れたようだった
だが、そんなものはあっさりと治ってしまった
平助〈やるしかない・・・〉
飛び込んできた羅刹を斬りつけた平助
傷は深いらしく、羅刹は地面に倒れたままだ
刀を握り直し、平助は羅刹にとどめを刺した
井吹「平助、大丈夫か?」
平助「ああ、さっきの人は?」
井吹「気を失ってるだけだ」
平助「良かった・・・」
そう言うと、血で汚れた自分の左の掌を見る
平助「龍之介・・・オレが選んだのは武士の道だ。己の信じるもののために、立ち塞がる相手を斬り捨てる・・・だからこの先オレは、斬って斬って斬り続けて・・・いつかこういう事に、慣れちまうのかな・・・」
その言葉は、平助の心の叫びに聞こえた
彼の不安そうな言葉に、井吹は何も返してやる事ができなかった