第二章




千世「あれ・・・」

掃き掃除をしようと外に出ると、芹沢を先頭に何人かが出て行くのが見えた

平助「お、千世。おはよう」

千世「おはよう。どっか行くの?」

平助「ん?ああ。大坂だよ」

千世「大坂?」

昨年、京都守護職が置かれてから、不逞浪士の本拠地が京から大坂に移っているらしい

芹沢曰く、“京で成果のあがらない巡察をするより、大坂で捕縛実績をあげる方が手っ取り早いだろう”との事

大坂には永倉、斎藤、芹沢、平間、沖田、近藤、山南、井上、島田、山崎が向かう事になった

平間は芹沢の付き人として、というのが正しいだろう

本来は井吹がついて来るように言われていたのだが、平間が嘘をついてまで代わったのだ

自分達が大坂に行っている間くらい、ゆっくり羽を伸ばしてほしいと

井吹〈平間さん、ありがとう〉

千世「ふぅん・・・じゃあしばらくは静かね。食卓も」

平助「そこかよ」

黄麻「芹沢様達は、大坂へお発ちですか?」

千世「【ビクッ】!!」

新見「両儀殿!」

嬉しそうな声で黄麻を呼び駆け寄る新見と、焦ったような顔をして一瞬肩を震わせた千世

今話をしていた平助の後ろに回り込み、隠れるようにして小さくなる

平助「千世?」

千世「・・・」

なんでもないような事を言ってはいたが、やはり気まずいのだろう

竹箒を握り締めたまま俯く千世の頭に、大きな掌が乗せられた

顔をあげると、優しく微笑む原田がいた

新見「待ちかねていましたよ!今日は、ぜひともご相談したい事がありましてね」

黄麻「はい」

平助「新見さん、妙に浮かれてんな?」

原田「横槍を入れる山南さんが、大坂へ行っちまったからな」

土方「平助!」

平助「ん?」

呼び出された平助は、土方のあとについて建物の陰に来た

土方「新見さんと黄麻さんの動きに注意してくれ」

平助「え?」

土方「新見さんは山南さんがいねぇ間に、俺達を出し抜いて、二人で勝手に研究を進めちまうつもりだ」

平助「確かにな」

土方「俺は京を離れられねぇから、山南さんに大坂へ行ってもらったが。勝手な真似をさせるつもりはねぇ」

平助「じゃあ、オレを大坂に行かせずに残したのは・・・」

土方「こういう仕事は、変若水や羅刹の事情を知ってて、その上で信頼できる仲間にしか頼めねぇ」

平助「そっか!オレの腕が信用できねぇってわけじゃなかったんだな!」

土方「当たり前ぇだろ」

平助「え、じゃあ、土方さんも、あんな薬に頼りたくねぇって思ってるって事だよな!?」

土方「声がでけぇ」

平助「あ、ごめん」

土方「俺は、原田とこれから奉行所へ出かける。頼んだぜ」

平助「任せとけって」

土方「それから・・・俺達が留守の間、あいつの事も頼む」

平助「あいつって・・・あ、千世の事か?」

土方「ああ。お前もさっきの見ただろ?なんでもねぇみたいな言い方してたが、自分を捨てた親だ。簡単に受け入れられるわけがねぇ。黄麻さんの方は、あいつが来たのが好都合だとか言ってたからな。何もしないとは限らねぇ。あの二人は、あまり近付けねぇ方がいいだろう」

平助「確かにな・・・わかった、気を付けとくよ」




















その日の夜

黄麻「では、これで」

井吹「ああ」

中に戻ろうとした井吹だが、平助が姿を現したのを見て動きを止める

平助「送ってくよ。帰りに不逞浪士に襲われでもしたら、大変だし」

黄麻「いいえ、大丈夫でございます。お気遣い、感謝いたします」

平助「研究は進んだのか?」

黄麻「そう一朝一夕に成果を、というわけには参りません。あなたは、我々が変若水の研究をする事を、快く思っていらっしゃらない様子ですね」

平助「ああ。事情は理解できるよ。それでもオレは、仲間にあんな薬使ってほしくねぇ」

黄麻「確かに使うべきではありません。ですが、あの薬の力で救われる者が大勢いるのも・・・また、事実なのです」

平助「救われる?化け物になる薬でか?」

黄麻「無力であるが故、全てを失った者は一様に思うものです。力さえ・・・あればと」

平助「っ・・・!」

黄麻「変若水がもたらす力は紛い物--真の力ではないかも知れません。ですが、例え紛い物であれ、力があればこそ、守れるものがあるのです」

平助「あんたにも、力を求める理由があるのか?」

黄麻「さて?私はあくまでもただの医者で、千世の父です」

平助「もしあんたの求める力が、オレ達に害をなすものなら・・・」

そこで平助は抜刀し、切っ先を黄麻に向けた

平助「その時はオレがあんたを斬る!」

黄麻「・・・」

平助「人には、それぞれ立場・思想・志がある!話し合いでなんとかできりゃあいいけど、そうでねぇ時は・・・曲げられねぇ志がぶつかった時は・・・戦うしかねぇ。オレはそう思ってる。それでも、できれば・・・殺さずに済む相手なら、殺したくねぇ。誰一人殺さずにいられたらいいと思ってる」

言い終えると、刀を鞘に収める

黄麻「では」

軽く一礼すると、平助の横を通って行く黄麻

平助「・・・・・・ひとつ、教えて欲しい」


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