第二章
新入隊士達の、簡単な自己紹介が進んでいく
島田魁という、優しそうな顔の身体が大きい男は、永倉とは知り合いだったらしい
江戸の道場で一緒だったとか
次に名乗った山崎烝は、大坂の生まれ
父親が針医者だったのもあり、医術の知識も持ち合わせているとの事
千世〈うちと似てる・・・〉
父親・黄麻は千世が元々いた時代でも医者だった
母親も看護師で、家には医学関連書がずらりと揃っていた
それを絵本代わりにして、何度読み耽った事か
それからも、隊士達の自己紹介は進んだ
土方「これで全員だな?一旦浪士組に入った以上、生まれや育ちは一切関係ねぇ。武士として扱う。その覚悟はできてるな?」
「「「「「はい!」」」」」
永倉「ところで、芹沢さんはどうしていねぇんだよ?」
斎藤「近藤局長に全て任すと言われたらしい」
原田「どんな奴が入って来ようと、あの人には関係ねぇんだろうよ」
小声でそんな会話がされているなど、誰も知りはしないだろう
近藤「よろしく頼むぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
千世「・・・・・・私、もう行きます」
沖田「え?」
千世「顔はもう見ました。皆さんの顔と名前も覚えましたし、もういいでしょう?」
井吹「もう覚えたのか!?」
千世「うん、覚えた。私、これでも物覚えは良い方だから」
井吹「早っ・・・」
沖田「ふぅん・・・だったらいい加減、僕達の事も名前で呼んで欲しいんだけど?物覚えが良いなら、当然わかるよね。僕達の名前。君、一度も呼んだ事ないでしょ」
井吹「あ・・・」
千世「・・・・・・部屋に帰ります」
沖田「あ、逃げた」
近藤「お、千世君!少しいいだろうか?」
千世「?」
立ち去ろうとする千世を見つけ、近藤は呼びながら手招きをする
不思議そうにしながらも、彼女はパタパタと駆け寄って来た
千世「なんですか?」
近藤「いや、実はその・・・確認したいのだがな・・・君のお父上は蘭方医だと聞いたのだが・・・」
千世「別にいいですよ、あの人の話は普通にしても。今更あの人が父親面してきたら苛つきますけど、別にもう家族でもなんでもないと思ってますので」
近藤「そ、そうか・・・では、その黄麻さんから、医術を教わった事はあるだろうか?」
千世「ないですね。あの人が私を捨てたのは7歳の時でしたから。ですが、母も看護師をしていたので、医学関連書は家にたくさんありました。幼い頃は、それを絵本代わりに読んでた事はあります。きちんと内容を理解できるように読み直したのは、13歳の頃からでしたけど」
山南「ちょっと待ってください。失礼ですが千世君、歳は幾つですか?」
千世「16歳、ですけど・・・」
近藤・山南「え?」
土方「は?」
永倉・平助「なっ!?」
斎藤「・・・」
沖田「え・・・」
原田「十六・・・」
井吹「嘘だろ!?てっきり、十八か十九くらいだろうって・・・!」
千世「いや、16・・・あれ、17?まあいいか、次の2月で。どうせこっちに来た時にズレてたみたいだし。うん、16歳。ところで、本題はなんですか?」
近藤「え?あ、ああ!そう!本題だ、本題!君ももし医術に明るいのなら、ぜひ彼と協力して欲しいと思ってな」
山崎「ど、どうも。山崎烝だ」
千世「あぁ、大坂出身の・・・お父さんが針医者だとか」
山崎「あ、ああ。覚えていたのか」
千世「先程の自己紹介で、皆さんの顔と名前は覚えましたから」
山崎「そ、そうか」
近藤「今後は君にも、医術の知識をぜひ役立てて欲しい。その時は、山崎君と協力してもらう事になるだろうからな。二人共、よろしく頼む!」
山崎「はい」
千世「はぁ・・・私、まだここに置いてもらえるんですか?」
近藤「え?あ、ああ。そのつもりだ」
千世「そうですか・・・よろしくお願いします」
山崎「ああ、こちらこそ」
千世「では、失礼します」
ぺこりと頭を下げると、千世は広間から出て行った
それを呆然と見送った山崎は、振り返って近藤達に顔を向ける
山崎「あの、今のは・・・」
近藤「両儀千世君だ。少し事情があってな。今は、我々と行動を共にする仲間だ。と、俺は思っているのだが・・・」
土方「あいつの事は、この場で言えるような事情じゃねぇんだ。とはいえ、お前とは関わる機会も多くなりそうだからな・・・あとで教えてやる」
山崎「はぁ・・・ありがとうございます」
山南「どうかしましたか?」
山崎「あ、いえ。大した事では・・・年齢に、驚いただけです」
山南「そうですね。少し意外でした・・・」
土方「あいつ、十六だったのか・・・」
永倉「そういや、今まで聞いた事なかったな・・・千世ちゃんの歳」
沖田「あれだけ物静かだと、確かに十八とか十九くらいには見えるよね」
斎藤「だが、十六だったとは・・・」
平助「千世の誕生日は二月か・・・」
原田「平助お前、千世の誕生日を覚えてどうするつもりだ?だいたい正確な日付なんかわかんねぇだろうが」
平助「あ」