第二章
土方「芹沢さん、俺はこの薬の研究には反対だ。羅刹になった家里は、俺達の事もまるでわかってなかった」
近藤「私も、同意見です」
新見「しかし、両儀殿の話では、まだ改良の余地は十分にあると」
土方「そいつを試すには、また人間で実験しなきゃならねぇだろうが!」
新見「これは幕命ですよ!?」
土方「理不尽な命令に従う必要はねぇ」
芹沢「本来武士は、上からの命に従う事を美徳とするものだ。例えそれが理不尽な命令であってもな」
土方「芹沢さん、あんた・・・!」
芹沢「ま、武家の生まれでもない者に言っても、理解できぬかも知れんがな」
土方「なんだとっ!?」
近藤「トシ!」
山南「確かに今の我々の立場では、幕府の意向を無視する事はできません」
土方「山南さん・・・!」
山南「ですが、改良の余地が残されているならば、二度とこのような事態を引き起こさないためにも、新見さんには局長職を辞して頂き、研究に専念してもらうのが良策と思いますが」
新見「なっ!?ば、馬鹿な!私が局長を辞すなど・・・!」
芹沢「良かろう」
新見「せ、芹沢先生!」
何かを訴えるように言い掛ける新見だが、芹沢の睨みで大人しくなる
新見「わ、わかりました・・・」
山南「では、薬の研究は新見さんと黄麻さん。それを私が手伝う形にしましょう」
ニッコリ笑顔で言う山南
千世〈怖っ・・・〉
土方「今夜はこれで解散だ。この事は他言無用。いいな?」
その後、様々な思いを抱えたまま、一同は解散した
翌朝、いつものように朝食を取ろうと集まる
だがその中に、千世の姿はなかった
近藤「千世君はどうしたんだ?」
原田「一応、声はかけたんだが・・・要らねぇって言われちまってよ」
沖田「昨日の今日ですからね。仕方ないと思いますよ」
近藤「う、うむ・・・」
永倉「・・・」
珍しく無言だった永倉は、手にしていた箸を膳に置く
永倉「・・・・・・あいつ、母親に殺されそうになったって・・・言ったよな」
原田「・・・ああ」
平助「なんでだよ・・・嫌いになったり、殺そうとしたり・・・なんでなんだよ!?千世が何したってんだよ!?」
原田「落ち着けよ、平助。死人に何言っても仕方ねぇだろ」
平助「そうだけどよぉ・・・!納得いかねぇよ!」
斎藤「母親に殺されかけ、目の前で死なれた。容易に話せるものではない。それに己を捨てたはずの父親に、意外にも再会をしてしまった。彼女が混乱するのも無理はない。俺達が納得がいかないからと、今の彼女から無理に話を聞くのはやめた方がいいだろう」
平助「わ、わかってるよ。別に無理に聞き出そうなんて思わねぇけどさ・・・」
山南「・・・・・・そう言えば、我々は何も知らないのですね。千世君の事を。しばらく、彼女の話すらしていませんでした」
土方「・・・」
沖田「千世ちゃん、いる?」
室内からの返答はなく、無音だけが返ってきた
沖田「いるよね?部屋から一歩も出てないみたいだし。入るよ」
そう言って、襖を開けて入る沖田
布団の中でうずくまっている千世は、さらに体を丸めて縮こまる
彼女は布団を被っているので、顔は勿論だが姿さえも見えない
沖田「君さ、いつまでそうしてるつもり?」
千世「・・・」
沖田「いい加減出てきなよ。じゃないと斬るよ?」
少しして、ゆっくりと顔を出す千世
とは言っても、出したのは目元だけだが・・・
沖田「そういう格好の君も可愛いけど、出てきてくれないと僕が困るんだよ。だからほら、出てきて」
千世「・・・・・・なんで、困るんですか?」
ようやく言葉を発した千世に、沖田は呆れたような笑みを見せる
沖田「新入隊士との顔合わせ。みんないるから、君も広間においでよ。ていうか来て。近藤さんに君を連れてくるよう頼まれたからさ」
千世「・・・・・・なんで、私が?」
沖田「これから屯所で一緒に暮らすんだから、顔くらい見ておいた方がいいでしょ?」
千世「・・・・・・要らないのに?」
沖田「まあね。でも、ここを出るまで一緒にいる事には変わりないんだし。誰が誰なのかわからなかったら、君だって不便じゃない?」
少し嫌そうな顔をしたが、ゆっくり布団から這い出る
それを見た沖田は、外で待ってるからと言って一度部屋を出た
無気力そうな彼女の手を引きながら、沖田は広間に向かう
広間に着けば、もうすでにみんな集まっていた
沖田「なんで君、いるの?」
隣に座る井吹に、不機嫌そうに訪ねた沖田
井吹「知らないよ。一緒に屯所で暮らす仲間なんだから、顔を見とけって近藤さんが」
沖田「ふぅん・・・」
井吹「・・・千世はなんでいるんだ?」
千世「同じ理由で引っ張られて来た、この人に」
井吹「あー・・・なるほどな」
疲れたような顔で言って沖田を指差す千世に、井吹は思わず苦笑した