第二章
山南が男の死体を調べていると、原田がある事に気付いた
原田「こいつの顔、どこかで見た事があるぞ」
土方「斎藤、原田!すまねぇがこいつを中に運び込んでくれ」
原田「ああ」
斎藤「わかりました」
土方「みんなは広間に集まってくれ、話がある。お前もだ、井吹」
井吹「えっ?」
土方「見ちまったからな。それとお前も・・・ん?」
千世も来るように言おうとした土方だが、そばには彼女の姿が見当たらない
辺りを見回すと、しゃがんでうずくまる彼女の背中を見つけた
建物の壁にもたれかかり、背中を丸めている
土方「・・・おい、大丈夫か?」
すると周りも気付いたらしく、視線が一気に千世に集まった
千世「すみません・・・人が殺されるとこなんて、初めて見たので・・・ちょっと・・・」
『ねぇ、君の時代でもさ。人って殺し合いをしてるの?』
『今程じゃないです。比較的平和な世界です。世界で全く殺し合いや殺戮がないわけじゃないですけど。日本はわりと平和に近い方、かとは思います』
以前、沖田の問いに対して、そう話していた千世の言葉を思い出す
目の前で人が死ぬのを見たのは、おそらく初めてなのだろう
嘘をつく理由も無ければ、現代について知らない事が多過ぎる
だからか、土方も少しは信じてもいいと考えていた
真っ青になってうずくまる彼女を見て、思う
本当に、目の前で人が死ぬのを、初めて見たのだろうと
土方「・・・・・・悪かった」
両手で口元を覆ったまま、首を左右に振る千世
その姿を、全員が心配そうに見つめていた
千世〈気持ち悪い・・・目が痛い・・・なんなの・・・?〉
どくん、どくん
心臓の鼓動が、妙にうるさい気がした
私も、本当ならあんな風に死んでいた?
死--
暗くて、何も無い・・・虚無だ
そして酷く、孤独だ--
どくん
千世「っ!?」
建物の影から、芹沢と新見が姿を現す
その後ろには、両儀黄麻の姿もある
黄麻は視線を千世の背中に向け、見つめる
黄麻〈やはりまだ、か・・・〉
視線に気付いたのか、顔をあげた千世が振り返る
一瞬だけ向けられた燃えるような紅
だがそれはすぐに、青い色に変わった
黄麻〈いや、もうすぐか・・・〉
千世「・・・・・・うそ・・・なんで・・・?」
沖田「千世ちゃん?」
千世「・・・・・・なんで、ここにいるの・・・・・・お父さん?」
土方「なっ!?」
近藤「千世君の・・・お父上だと!?」
平助「千世の父親って事は・・・まさかこの人も!?」
原田「未来から来たって事か!?」
黄麻「・・・そうか。話したのか、千世」
千世「・・・」
黄麻「まさかお前までこちらに来ているとは思わなかったが・・・あの女はどうしてる?」
千世「・・・・・・死んだよ、お母さんは。私の目の前で・・・ベランダから飛び降りて・・・私を、殺そうとして」
土方「!?」
殺そうと、して・・・?
初耳である彼らは、驚きから一斉に千世を見る
黄麻「使えない女だ。まあいい、お前さえ生きていればな。この時代に来たのも好都合だ」
千世「どう、いう・・・?」
黄麻「両儀家の血は、この時代で生きるべきだという事だ。そのうちわかる。今は私の仕事をさせてもらおう」
千世「・・・?」
広間
黄麻「これは、幕府が異国との交易で手に入れた、変若水という薬です」
目の前に置かれた、硝子の小瓶に入った赤い液体--それが変若水だった
黄麻「これを口にすると、戦闘能力が著しく増強し、同時に驚くべき治癒能力を手にします。しかしその一方で、理性を失い、正気でいられなくなります」
千世「なんで、そんな薬を・・・」
黄麻「お前は黙っていなさい、千世」
千世「薬って、人を治すためにあるはずじゃないの?なのに・・・それじゃあ副作用の方がハイリスクじゃない」
黄麻「その通りだよ、千世。相変わらず、頭の回転は良いようだな。だが、“ハイリスク”なんて言葉は、この時代の者達には通じないぞ」
千世「・・・・・・要は危険性が高いって事」
平助「あ、なるほど」
黄麻「しかもその力を発揮できるのは、闇の中でのみ。薬を飲んで力を発揮した者を、我々は“羅刹”と呼んでいます」
千世「羅刹・・・人を食らう悪鬼・・・」
永倉「あの姿・・・羅刹に違ぇねぇや」
原田「思い出したぜ。あいつは家里だ!」
土方「そうだ」
平助「家里って・・・【ハッ】確か、一緒に江戸から来た奴じゃねぇか!?」
永倉「仲間をそんなわけのわからねぇ薬の実験に使ったって事か!?」
近藤「ッ・・・!」
新見「奴は隊規違反で、腹を詰めさせる事になってました。処罰と同じですよ」
永倉「だからって・・・!」
芹沢「やり方が切腹ではなかった!それだけの事だ」
永倉「・・・」