第二章




夜の闇に響き渡った、男の叫び声

それを聞いて、全員が飛び出す

平助「なんだよ!?今の悲鳴!」

永倉「ただ事じゃねぇな!」

戸を開けようとする平助だが

平助「あれ?」

永倉「どうした?」

平助「開かねぇんだけど!?」

土方「くそっ!どうなってんだ、こいつは!?」

近藤「トシ!山南君!外へ出すな!」

山南「ええ!」

永倉「退け平助!」

中からの声を聞いた永倉が言うと、鍵が掛かっていて開かなかった門を壊す

そのまま駆け込む永倉に、平助が続く

斎藤「源さんはここを頼みます」

井上「ああ!」

斎藤「左之は、表の方を固めてくれ」

原田「おう!」

斎藤も中に駆け込むと、それを井吹も追いかけようとする

井上「井吹君!」

沖田「君は来たって、足を引っ張るだけだよ」

井吹「な、なんだとぉ!?」

言ってから走り去って行った沖田にムキになるが、原田に肩を掴まれ止められた

原田は首を左右に振ると、後ろに視線を向けてから井吹を見る

原田「お前は千世とここにいろ」

井吹「え?」

言われて後ろを見ると、井上のさらに後ろに彼女はいた

どうやら千世もついて来てしまったようだ

一方、中では白い髪に赤い目をした男が、刀を口で咥えたまま平助を壁に叩きつける

平助「な、なんだこいつは!?」

そこへ永倉が斬り込むが避けられ、そのまま男はまるで獣のような動きで逃げた

だがその先には沖田がいた

沖田「人間の動きじゃないね」

そう言って刀を構え、迫って来た男の腹部を貫いた

確かな手応えに、沖田は笑みを浮かべるが・・・

永倉「危ねぇ総司!」

腹部を貫かれたまま刀を振り上げる男を、斎藤が斬りつける

だが男は、まるで何もなかったかのように笑みを浮かべ、沖田を弾き飛ばした

斎藤に斬り落とされた右腕を拾い、男は逃げて行く

男が向かっているその先には、原田と井吹が回り込んでいた

結局、彼は原田について来てしまったのだ

井吹が刀に手をかけると、原田が口を開いた

原田「そいつを抜いて、人を斬る覚悟がねぇんなら、戻ってろ!」

その時、戸が破壊されるのと同時に、永倉が中から吹っ飛ばされてきた

原田「新八!」

出て来るであろう男に向かって、槍を構える原田

斎藤「気をつけろ、左之!」

沖田「そいつ、普通じゃないよ!」

飛びかかって来た男の刀を弾き、攻撃を防ぐ

着地して振り向いた男の左腕を刺すが、顔をあげた男は笑っていた

まるで原田の槍が効いていないかのようだ

さらには左手だけで槍を掴み、原田を持ち上げると払い飛ばした

平助「左之さん!」

腕に刺さったままの槍を抜くと、その傷はあっという間に塞がってしまった

平助「なっ!?」

原田「傷がっ!?」

斎藤、永倉、沖田もこれには驚く

千世「なんで・・・」

井吹「!?」

原田「千世!?お前なんでここに!?」

井吹の後ろにある、木造の門

そこに隠れるようにして、千世はいた

男の目が、井吹と千世に向けられた

刀を抜く井吹だが、彼の手は震えている

原田「逃げろ、龍之介!千世!」

千世「--」

沖田、斎藤、平助が走り出す

一瞬だけ、それよりも早く動き出した千世

井吹の目の前で、鮮やかな緋色が揺れた

井吹「ッ!!」

それを認識した瞬間、彼は手を伸ばす

だが、男の攻撃が届く前に割り込んだ土方が、彼の胸に刀を突き刺した

原田「土方さん、離れろ!そいつは・・・!」

土方「大丈夫だ」

山南「それは心臓を刺すか、首を落とせば死ぬそうです」

近藤「みんな、怪我はないか?」

沖田「近藤さん!」

斎藤「ご無事でしたか」

永倉「全く・・・なんなんだ、そいつは?」

まだ刀を構え、震えている井吹に気付いた千世

千世「ねぇ」

井吹「!?」

千世「もう終わったよ?」

刀を鞘に収めた土方は、横目で睨むように井吹を振り返る

土方「なんの覚悟もねぇ奴が、戦場にのこのこ出て来るんじゃねぇ」

井吹「くっ・・・!」

千世「・・・・・・」

土方「てめぇもてめぇだ。なぜ来た?まさか死のうなんて腹積りじゃねぇだろうな?」

千世「・・・逝き損ないました」

土方「てめぇ・・・!」

千世「・・・・・・生きる意味も目的もない。なのにそれを見つけろなんて・・・私には、難しいです」

土方「ッ・・・!?」

苦しそうにそう言う千世を、初めて見た

だからか、まだ死のうとしている彼女を叱りつけようと思っていたのに

土方は言葉が続かず、袴を両手で握り締める千世をただ、見下ろすだけだった


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