第二章
千世「・・・・・・ん・・・?騒がしい・・・なに・・・?」
とある朝、目覚めると遠くで騒ぐ声が聞こえた
着替えて部屋の外に出ると、何やら嬉しそうに話をしている彼らを見た
千世「・・・?」
井吹「あれ、千世?今起きたのかよ・・・」
千世「ん・・・なんの騒ぎ?」
井吹「あぁ、あれか?なんか、会津藩のお偉いさんと会えるんだってさ。で、その人の前で試合するんだと」
千世「ふぅん・・・」
原田「よ、千世」
千世「あ、どうも。今、彼から聞きました。良かったですね」
原田「おう!そうだ、お前も来るか?」
千世「は?」
原田「ずぅっと籠りっぱなしなのもつまんねぇだろ?たまには外に出て、息抜きしねぇとな。近藤さんと土方さんには、俺から話しとくぜ」
千世「別にいいです。私なんかが行っても、何かできるわけでもないですし」
原田「そんな事ねぇよ。女が見てる前だと、男ってのは良いトコ見せようと張り切るもんなんだよ」
千世「はぁ・・・でももう、皆さん張り切ってるご様子ですけど」
原田「まあな。ようやく巡ってきた、晴れ舞台だからな」
千世「なら私、余計にいりませんよね」
原田「あのなぁ・・・」
千世「?」
近藤「千世君!ここにいたのか」
千世「私に何か・・・?」
近藤「実はな」
千世「あ、会津藩の事なら今伺いました。おめでとうございます」
近藤「おぉ、そうだったのか!ありがとう!そこでだ、どうだろう?千世君も一緒に」
千世「・・・は?」
近藤「千世君も、我々と共に暮らす仲間なのだからな。一緒にどうだろうと思ってな。遠慮はいらんぞ」
千世「・・・・・・私、やっぱり行きません」
近藤「え?」
千世「勘違いされているようなので言いますが、私は仲間ではありません。あなた方にとって私は、ただのお荷物のはずです。いつでも切り捨ててください。使えると思われたのなら、使って頂いて構いません。ですが、邪魔になりたくはありません」
近藤「ち、千世君?千世君!」
立ち去る千世の背中に手を伸ばすも、近藤の声に振り返る事なく遠くなって行く
原田と井吹は、彼女の背中を並んで見送った
やはり関わらないつもりなのだと、なんとなくわかってしまったからだ
当日--結局、千世は行かなかった
残った千世は何もしないのもな、という事で掃除をする許可をもらっていた
邸内の掃除をしていると、思う事がひとつ
千世「汚ったな・・・」
さすが男所帯と言うべきか、細かい所の汚れが目立つ
千世「ハァ・・・こんな掃除のし甲斐がある所、そうそう無いって・・・」
呆れながらも掃除を続けていると、鴉の鳴き声が聞こえ始めてきた
ふと顔を上げると陽が傾き、辺りが夕陽で赤く染まっている事に気付く
千世「夕陽・・・」
『・・・夕陽の色だな』
千世「・・・・・・」
毛先を摘み上げ、自分の髪を見つめる
緋色の赤毛が、夕陽の色に見える・・・そんな事を言われたのは、あれが初めてだった
千世「・・・・・・夕陽、か・・・」
平助「おーい!」
千世「?」
大きな声が聞こえて、顔を向ける
嬉しそうな笑顔を見せて、大きく手を振る平助がいた
近藤と芹沢を先頭に土方達、他の隊士の姿も見える
みんな嬉しそうなのが、表情を見てわかった
平助「たっだいまー!千世!」
千世「おかえりなさい。上手くいったみたいだね」
平助「おう!って、すげぇ!なんか綺麗じゃん!」
千世「掃除したんだから当たり前でしょ?」
平助「掃除って・・・千世がやってくれたのか!?ありがとうな!」
千世「・・・・・・別に・・・汚かったから掃除しただけ・・・お礼なんて言われる筋合い無いし、その・・・要らないっていうか、あの・・・」
平助「・・・千世ってさ、素直じゃねぇのな」
原田「嬉しい癖にな」
その日の夜、広間は大変盛り上がった
近藤「君達のおかげで、会津中将様より、大変有り難いお言葉を頂戴する事ができた。今日は無礼講だ!好きなだけ飲んでくれ!」
千世〈男って、こういうの好きだよね。あ、今の私も男扱いか・・・男装してるし〉
永倉「おーい、千世ちゃん!飲んでるかぁ?」
千世「飲んでません、飲めませんし。第一、私が動かなくなったら誰が処理するんですか。料理とか、お酒とか」
即答する千世が呆れた顔をしているのは、永倉の顔が赤いから
酒を飲んで酔っているのだ
彼女が何かするとも思えない
という考えもあってか、勝手場に立って料理や酒類の用意をしていたのは千世だった
千世「ハァ・・・」
井吹「お前も大変だな・・・手伝うか?」
千世「いい、たまにはゆっくりすれば?あの人もいないんだし」
井吹「お、おう・・・」
そう言って立ち上がり、背を向ける千世を目で追う井吹
井吹「・・・あいつ、意外と優しいんだな」
周りには一切無干渉、と言いたそうにしていた千世
言い方は素っ気なく聞こえるが、井吹を気遣っているように思う
井吹〈もしかしてあいつ、本当は・・・〉