第一章
土方「・・・・・・聞いてもいいか」
千世「なんでしょう?」
土方「・・・・・・お前の母親は、なぜ・・・」
千世「なぜ私を嫌ったのか?」
土方「・・・」
千世「・・・・・・私が生まれ持った変な体質と、この赤毛が原因。です。両親は特に嫌っていましたから。兄は、そうでもなかったんですけど」
土方「兄?お前、兄貴がいたのか?」
千世「両儀千輝・・・兄は・・・千輝だけは、私の味方でした。いつも私を守ってくれました」
土方「・・・いくつ上なんだ?」
千世「同い年、双子だったから・・・“色違いの双子”って、よく言われていました」
土方「そうか」
千世「本当に聞きたいのは、そこじゃないですよね」
土方「・・・」
千世「・・・・・・ここに来たの、つい最近なんですね?」
土方「あ?」
千世「騒がしくなったと、草木が騒ついています。また物騒な人達が来たと、風が囁いています」
土方「何を、言ってやがる・・・?」
千世「・・・・・・やっぱり、あの人とは上手くいってないんですね」
土方「ッ!」
千世「・・・・・・声無きモノの声が聞こえる・・・変な体質でしょう?」
土方「な--」
千世「自然は昔から、いろんな事を教えてくれました。幼かった頃、そんな声が聞けるのは私だけなんだってわからなくて・・・両親に話したら、気味の悪い子だと・・・髪の色は私だけが違う。こんな変な体質を持ってるのも私だけ。嫌われて当然です。気味が悪い、イカれてる、嘘つき・・・要らない子、そう言われるのも、当然です」
土方「・・・・・・」
『160年も先の未来から来たとかほざくような、こんなイカれた小娘をここに置いて、わざわざ俺達で面倒見ろってのか?』
自分の発言を、思い返していた
彼女と対面し、初めて話をした時の
芹沢がここに置けばいいと言った時に、自分が言い返した言葉を
千世にとっては耳慣れた、だが彼女にとっては心に深く残る言葉
言葉には気を付けろ、と言った芹沢の言葉も思い出す
癪だと思うが、知らなかったとはいえ事実であることにも腹が立つ
千世「・・・・・・生きるって、なんですか?」
土方「?」
千世「あなたは、私に生きる意志がないと言いました。私自身、そう思います。でも、じゃあ、逆に知りたいんです。生きるって、なんなんでしょうか?どうして生きようとするんでしょうか?どうして死にたくないと思うのでしょうか?」
土方〈こいつ・・・〉
本気で、わからないんだ
生きる意味がわからない
生きる理由がわからない
だから、周りが望むままに消える事を選んだ
それを拒む事すらしなかった
土方「・・・・・・んなもん、人それぞれだろう。何かを成し遂げてぇって奴もいる。誰かのために死ねねぇって思う奴もいる。何かのために死ねない、死なねぇために足掻く。それが、生きるって事なんじゃねぇのか?」
千世「・・・・・・あなたにも、あるんですか?死ねない理由というものが」
土方「ああ、あるさ」
千世「・・・・・・そう、ですか」
間を開けて言葉を返す千世は、顔を俯かせる
まるで何かに迷っているように、青い瞳は揺れていた
土方「・・・お前も、見つけりゃあいいだろう。生きてぇって思えるような何かを。それを見つけるまで死ねねぇって、生きりゃあいいんだよ」
千世「・・・・・・私は・・・」
土方「今日は遅い、もう寝ろ」
そう言って伸ばした右手で、彼女の頭を軽くくしゃりと撫でた
驚いた様子で顔を上げた千世に微笑を見せ、土方はこの場から去った
その後ろ姿を呆然とした様子で眺め、見送った
千世「・・・・・・あの人も、あんな顔するんだ・・・」
思わずポツリと漏れた呟きは、誰に聞かれる事もなく、空気に溶けて消えた
だが、自然は聞いていた
柔らかい風が、千世の頬を撫でるようにして吹き抜けていった
『あんたなんか産まなきゃよかったのよ!!』
千世「ッ!!」
飛び起きた千世の呼吸は乱れ、嫌な汗が背中を伝う
千世「ハッ、ハァ・・・ハァ・・・ハッ、ハッ、ハッ・・・」
久し振りに見た、あの日の夢
千世「ッ・・・」
『・・・お前も、見つけりゃあいいだろう。生きてぇって思えるような何かを。それを見つけるまで死ねねぇって、生きりゃあいいんだよ』
千世「・・・・・・見つかるのかな・・・私に」
昨晩の土方の言葉が、まだ耳に残っている
千世「・・・・・・私には、何があるの・・・?」
平助「おーい、千世!朝飯だぞー!千世ー!起きてるかー?」
千世「・・・・・・起きてる。すぐ行くから、少し待って」
平助「おう!早くしないと、新八っつぁんに盗られちまうぞ!」
千世「・・・平和な食卓は一生なさそうね」
平助「え?」
千世「なんでもない」