第一章




平助「千世!」

千世「?」

平助「ちょっと出掛けねぇか?」

千世「え?」

平助「ここ来てからずっと、お前部屋にこもりっきりだろ?たまには息抜きしようぜ」

そう、将軍・家茂公の警護に出掛けた事があったが、その時の千世は留守番をしていた

あれから、千世がたまに木刀を振るう姿は見掛けるものの、それ以外は特に何かをしている様子はない

相変わらず、無表情のような読み難い顔をする

強いて言えば、食事の時に眉間にシワが寄り、不機嫌そうな嫌そうな顔はする

が、それは味付けの問題だという事を、全員が察していた

いつもは少し寄る程度だが、酷い時は呆れたようなため息も吐く

そんな彼女を見兼ねたからか、平助が外出に誘って来た

言わない限り、千世はおそらく何もしない

大人しく過ごしているだけ

千世「でも、私が勝手に出掛けるのはまずいのでは?」

平助「ああ、そこは大丈夫!土方さんにも近藤さんにも言ってあるからさ」

千世「許可したんですか?あの人が?」

平助「ああ!」

千世「・・・意外。あの人は私の事、信じて無さそうだったから」

平助「まあ・・・土方さんも堅いとこあるからなぁ・・・でもさ、土方さんも別に悪い人じゃないんだぜ?厳しいけど」

千世「・・・・・・そう、ですか」

平助「・・・なぁ、敬語やめようぜ。言ったろ?同い年くらいなんだからさ、もっと軽くいこうぜ。こないだもオレには敬語使ってなかったじゃねぇか」

千世「じゃあそうする」

平助「順応早いな」

永倉「おい平助!まだか?」

平助「るっせぇな、新八っつぁん!ちょっと待てよ!」

原田「よう、千世。悪いな、急な話でよ」

千世「お二人も一緒に?」

原田「ま、何があるかわかんねぇからな。今の京は」

永倉「俺達も一緒に行った方が安全だろ?」

平助「なんだよ、それ?オレが頼りねぇみたいじゃんか!」

永倉「実際、こないだの稽古でぼろ負けだったじゃねぇか。千世ちゃんに」

平助「うっ・・・」

原田「ま、そういうわけだ。ほら、行くぞ千世」

千世「・・・」

原田「どうした?」

千世「別に、無理に気を遣わなくていいですよ」

原田「・・・」

千世「だって私は、あなた達にとっては要らない存在なんでしょう?なら居ない存在として扱えばいい。なのになぜ、あなた達は私に構うんですか?」

原田「・・・・・・なんで、か。なぁ、千世。お前はなんでここにいるんだ?」

千世「行く当てなんか無いし、ここに置かれる事が決まったからです。出て行けと言う人がひとりでもいるのなら、出て行きますが?」

原田「そうは言ってねぇだろう。お前がそんなだから、俺としちゃあ放って置けねぇんだよ」

千世「関係のない・・・仲間でも家族でもなんでもない、赤の他人なのに?」

原田「っ・・・」

届かない--

瞬時にそう思った

どれだけ言葉にして伝えても、彼女には届かない

原田「・・・とにかく行くぞ、付き合え千世」

千世「あ」

縁側に腰掛けたままだった千世の手を掴み、原田は彼女を引っ張り出した

永倉と平助も後を追い、京の町に繰り出す

だが千世は周りに目を向ける事はなく、ただ歩き回るだけ

掴んでいなければ見失う・・・そう思った原田は、千世の手を離す事なく、彼女の歩幅に合わせる

平助「な、なぁ!あそこの甘味屋寄ってこうぜ!」

永倉「お、おう!いいな!」

原田「ほら、行くぞ」

千世「・・・」

甘い物になら、千世も表情を変えるかもしれない

そう思ったのだが、店に入っても注文をしても、無表情のような顔は変わらなかった

失敗したか・・・そう思ったのだが

千世「・・・美味しい。甘い物は、久し振り」

ふと、口元が緩んだ

その顔はまるで、笑っているように見えた

原田「そうか。なら良かった」

彼女の言葉に、ようやく平助と永倉のぎこちない笑顔が消えた

上手くいったと言いたそうに、ふたりは笑っていた

原田も満足そうな笑みで、隣の千世を見ている

原田「食えるだけ食っていいからな」

そう言って、千世の頭をくしゃりと撫でる

すると反射的になのか、パッと顔を上げた彼女が見上げてきた

驚いたように目を見開いている彼女に、原田は不思議そうに見下ろす

原田「どうした?」

千世「・・・・・・い、いえ・・・なんでもない、です」

原田「?」

完食し、甘味屋を出た4人

だがよく考えれば、千世は自分が無一文だと気付いた

気にするな、と3人が出し合っていたので、お言葉に甘えるしかなかった

千世「すみません」

平助「気にすんなって。誘ったのは元々オレ達なんだしさ」

永倉「そうそう!」

原田「それにこういう時は、謝罪じゃなくて礼を言うもんだろ?」

千世「そう、なんですか?」

原田「ま、その方が奢った側としちゃあ嬉しいわな」

千世「・・・・・・あ、ありがとう、ございます。ご馳走様です」

ぎこちなかったが、素直に訂正して言い直した千世

その言葉と様子に、「それでいいんだよ、どう致しまして」と原田は笑いながら言った


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