序章




花京院「ん?」

微かに聞こえた音に、花京院が目を覚ます

続いてアヴドゥル、ジョセフ、承太郎も

視線を彷徨わせると、客席を飛び回る何かを見つけた

承太郎「か、カブト・・・?いや、クワガタ虫だ」

ジョセフ「アヴドゥル、幽波紋スタンドか?早くも新手の幽波紋スタンド使いか」

アヴドゥル「ありうる。虫の形をした幽波紋スタンド

ジョセフ「座席の影に隠れたぞ」

アヴドゥル「ど、どこだ・・・?」

花京院〈・・・で、なぜこんな状況で寝ていられるんだ?〉

隣から未だに聞こえる、静かな寝息

まだ眠っている明日華に呆れた視線を向けてから、周囲を見回す花京院

花京院「ジョジョ、きみの頭の横にいるぞ!」

全員が、クワガタ虫を視界に捉えた

だがその虫は、どこか普通ではない

いや、そもそもこの時期に、しかも機内にクワガタ虫がいること自体が普通ではない

花京院「で、でかい。やはり幽波紋スタンドだ。その虫は、スタンドだ!」

承太郎「気持ち悪ぃな。だが、ここは俺に任せろ」

アヴドゥル「き、気を付けろ。人の舌を好んで引き千切る虫の幽波紋スタンド使いがいるという話を聞いた事がある」

承太郎「スタープラチナ!」

現れた承太郎の幽波紋スタンドスタープラチナが攻撃をする

だがそれは、予想外な事にかわされてしまった

アヴドゥル「か、かわした!?し、信じられん!弾丸を掴むほど素早く正確な動きをする、スタープラチナより速い!」

花京院「やはり幽波紋スタンドだ。その虫は幽波紋スタンドだ!どこだ?どこにいる?こいつを操る使い手は、どこに潜んでいる?」

だが先に、虫の方が動いた

花京院「こ、攻撃してくるぞ!」

口から伸ばされた奇妙な舌は、スタープラチナの掌を貫通した

承太郎「しまった!」

奇妙な舌が、スタープラチナの舌を掴もうと伸ばされる

到達するのと同時に、スタープラチナが口を閉じた

ジョセフ「承太郎!」

アヴドゥル「ジョジョ!」

思わず声をあげる2人だが、承太郎の舌は抜かれる様子がない

ジョセフ「歯で悪霊クワガタの口針を止めたのはいいが・・・」

アヴドゥル「承太郎の幽波紋スタンドの舌を食い千切ろうとしたこいつは・・・やはり奴だ。タロットでの塔のカード。破壊と災害、そして旅の中止の暗示を待つ幽波紋スタンド--タワーオブグレー!タワーオブグレーは、事故に見せかけて大量殺戮をする幽波紋スタンド。昨年300人が犠牲になった、イギリスでの飛行機墜落もこいつの仕業と言われている。噂には聞いていたが、こいつがディオの仲間になっていたのか」

承太郎「オラ!」

『オラオラオラオラオラオラオラオラァ!』

スタープラチナの両手で繰り出される拳のラッシュ

だがそれは、クワガタに1発も当たらなかった

アヴドゥル「か、かわされた!?片手ではない、両手でのスピードラッシュまでもかわされた。な、なんという速さだ!?」

『ヘッヘ。たとえここから1センチメートルの距離より、10丁の銃から弾丸を撃ったとして、俺の幽波紋スタンドには触れる事さえできん。もっとも、弾丸で幽波紋スタンドは殺せぬがな』

ジョセフ〈必ず近くにいるはずだ。どいつだ?幽波紋スタンドを操っている本体はどこにいる?この乗客の中の誰だ?本体さえ・・・そいつさえわかれば〉

承太郎〈またしても消えた〉

羽音だけが、クワガタの存在がまだ近くにあると教える

そのクワガタが姿を現したのは--

花京院「あそこに移動したぞ!」

眠っている乗客達の後ろ

そこで、クワガタが怪しく笑う

承太郎〈何をする気だ?〉

アヴドゥル〈ま、まさか・・・!〉

あっという間だった

乗客数人の後頭部を、クワガタが一直線に突き抜けて行った

『ハッハハハ!ビンゴ!舌を引き千切った!そして、俺の目的は!』

壁に血文字を書き出すクワガタ

その文字は、マサクゥル

意味は--“皆殺し”だ

花京院「や、やりやがった!」

アヴドゥル「クソッ、焼き殺してくれる!マジシャンズレッド!」

花京院「待て!待つんだアヴドゥル!」

アヴドゥルがマジシャンズレッドを引っ込めた直後、老人が目を覚ました

この騒ぎに目を覚ました様子だ

トイレに行こうと立ち上がった老人が、壁の血文字に気付いた

騒ぐ前に、花京院が気絶させた

花京院「他の乗客が気付いてパニックを起こす前に、奴を倒さねばなりません」

明日華「それなら花京院くんに任せればいいんじゃない?」

全員が驚いて振り返ると、腕と足を組んで座る明日華がいた

承太郎「起きてやがったのか?」

明日華「少し前にね」

欠伸を噛み殺しながら言う明日華に、随分と呑気な態度だと承太郎の眉間に皺が寄った

承太郎「だったら手伝いやがれ」

明日華「言ったでしょ?ディオに私の幽波紋スタンド能力を知られたくないって」


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