序章
教室の、一番後ろの座席
右目を長い前髪で隠した、藍色の髪の少女
その隣--窓際の席に座る、長身で頑強な体格の少年
高校生とは思えないような体格の彼の周りには、高確率で女子生徒が集まる
そのせいか、毎度の事ながら喧しい
ウォークマンのイヤホンで両耳を塞ぎ、音楽を聞きながら本のページをめくり、文字を目で追う
彼女は彼に興味がなかった
しかしふと前に視線を向ければ、黒板に記載されている名前が見えた
日直という文字の真下にあるのは、“空条”と“風祭”の文字
“風祭”というのは、風祭明日華という少女の事を指す
“空条”というのは、空条承太郎という隣席の少年を指す
とはいえ、彼は日直の仕事を何もしていない
正確には、“何もできない”の間違いなのだが
彼のあだ名とも言える“
それに邪魔されていた
明日華は特に気にしていなかったが
ほとんどひとりでも出来てしまう仕事内容だからだ
明日華「あ」
日誌を書いている途中、当日の日直の名前を書く必要がある欄に行き当たる
明日華「空条くん」
鞄を片手に席を立った彼を見上げながら、その名前を呼ぶ
彼は帰るために席から離れようとしていたが、呼ばれた事で動きを止めた
明日華「日誌出すから、名前だけもらえる?」
承太郎「・・・ああ」
言いながら手を伸ばした承太郎は、明日華の机の上にあったシャープペンシルを掴んだ
それを使って、日誌に名前を書いていく
明日華「ありがとう。また明日」
言いながら立ち上がり、シャーペンを承太郎の手からひょいと取り上げた
そのまま日誌を片手に、職員室に提出するために教室を出た
戻るついでに図書室に寄ったのもあり、教室に戻ったのは夕方だった
本を借りて、家に帰る
一人暮らしなのもあり、わりと気ままで気楽な生活を送れている
本を読みながら紅茶を飲むのが、彼女の日課だ
風祭明日華、17歳
身長160cm
藍色のショートヘアで、横髪と右側の前髪が長い
その長い前髪で右目を隠しているのが特徴だ
それ以外はどこにでもいる、ごく普通の女子高生
そのはずだった
ある日、空条承太郎が警察の留置所に入ったと、聞くまでは--
その日の帰り道、ある喫茶店の前を歩く
明日華「あ」
承太郎「ん?」
留置所に入ったはずの彼が、そこにいた
しかも、彼と似て体が大きい男性が2人
それから女性が1人、彼と同じように店から出て来た
承太郎「なんだ、お前か」
ホリィ「承太郎の知り合い?あら、かわいい子!目が片方隠れてるのが、ちょっと勿体ないわね」
明日華「え、あ・・・え?」
ジョセフ「なんじゃ、承太郎のガールフレンドか?お前も隅に置けんのう」
明日華「え?あ、いえ・・・」
承太郎「んなんじゃねぇ」
明日華「ただのクラスメイトです。はじめまして、風祭明日華と申します」
ホリィ「承太郎の母でーす!よろしくね、明日華ちゃん」
明日華「えっと、よろしくお願いします・・・」
承太郎「・・・行くぞ」
明日華「あ、空条くん。ノート使う?」
承太郎が今のクラスになってから、授業に出なかった日
ノートを貸そうとやはり女子達が騒いだが、彼は「鬱陶しい!」と怒鳴って断っていた
そしてやはり、ウォークマンのイヤホンで耳を塞いでいた明日華
チラリと見ただけで、関わろうとしなかった
その彼女に、承太郎の方から関わってきた
校門で待ち構えていたらしい承太郎は、「おい」と一言で明日華を引き止めた
足を止めた明日華は、やはり騒がない
そんな彼女を見ながら「お前、確かやたらとマメにノート取ってるだろう」と言う承太郎
確かに明日華のノートは、他の人から見てもわかり易く、細かく記載がされている
しかし、本人にはその自覚はないため「えっと、たぶん・・・」と曖昧な答え方をする明日華
その彼女に、承太郎は「・・・貸してくれ」と言い難そうに小さな声で、呟いた
ぽかんと口を開けた明日華だったが、数秒の沈黙のあと「いいけど・・・」と言っていた
これを機に、承太郎は授業に出なかった時のノートを、明日華によく借りに来るようになった
承太郎「・・・借りとく。明日返す」
明日華「急がなくていいよ。4日分もなんて大変でしょう?ルーズリーフあるから、大丈夫」
鞄からノートを出すと、「はい」と言いながら差し出す
承太郎「おう」
ホリィ「見慣れないノートがあると思ったら、この子からいつも借りてたのね?ごめんなさいね、いつもありがとう。今度よかったら、お礼に何かご馳走させて!」
明日華「いえ、あの・・・お気遣いなく。では、これで失礼します。空条くん、また明日」
承太郎は返事の代わりに、軽く片手をあげてこの場から立ち去った
ホリィ「じゃあまたね、明日華ちゃん」
彼の祖父、ジョセフ・ジョースターとその友人、モハメド・アヴドゥル
彼らはそれぞれ明日華に手を振り、軽く頭を下げると、続いてこの場を去った
明日華「・・・・・・運命・・・」
その呟きを聞いた者は、誰ひとりいなかった--
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