第一章




その夜

宿屋の一室で、ベッドに膝を抱えて座る優姫は顔を埋めていた

紅孩児が残した言葉を、考えていた



「貴様が、“時空の姫巫女”だな」

「我々の計画に必要な力だ。いずれ、貴様を迎えに来る」



優姫「・・・・・・なんなんだよ?“時空の姫巫女”って・・・蘇生実験に使えるような、そんな力・・・オレにあるわけないのに・・・っつか、そもそもなんであいつがオレの存在を知って・・・・・・你健一?あいつか?」

いつの間にか色々と知っている彼の事だ

優姫の事も調べた可能性はあるが、牛魔王サイドに認識される機会は今日までなかったはず

優姫「・・・・・・わっけわかんない・・・もう・・・」

体を倒し、ベッドに体を横たえる

なぜ自分がここにいるのか

なんのためにここに来たのか

死ぬはずだった自分が、なぜ今生きて彼らといるのか

何もかもがわからないままなのに、訳もわからないまま牛魔王サイドに狙われる

正直に言うと、思考回路はショートする寸前だ

こんこんっ

優姫「ん?」

ノックされたその小さな音は、ドアから聞こえたものではない

顔を上げると、窓に軽く頭をぶつけてノックする白竜と目が合った

優姫「・・・またお前か」

小動物が好きな優姫は、白竜にも当然甘かった

呆れたような声色ではあるが、すぐに体を起こすと窓を開け、白竜を室内に入れた

これまでも何度か白竜は彼女を訪れているが、追い返された事も放置された事もないのだ

白竜「きゅ、きゅー」

優姫「なんだよ」

ベッドの上に戻った彼女を追いかけ、座った事で動きが落ち着くと肩に止まる白竜

途端に鳴き声を上げる白竜に顔を向けると、優姫の頬を小さな舌がペロッと舐めてきた

きょとんと呆けていると、そのまま何度も頬を舐めてくる

優姫「・・・・・・オレ、そんなに酷い顔してる?」

白竜「きゅう」

小さな頭にはっきりと頷かれる

白竜が気付くくらいだ、三蔵や八戒辺りも気付いていそうだ

優姫「ハァ・・・」

思わずため息が出た優姫に、白竜は首を傾げた

なんのため息なのか、白竜にはわからなかったからだ

まさか自分のお仲間に対してのため息だとは、思っていないらしい

優姫「お前、鋭いのか鈍いのかわかんないな」

白竜「きゅー!きゅ、きゅー!」

優姫「心外だとでも言いたそうだな」

白竜「きゅう!」

優姫「・・・・・・ふはっ」

吐き出して笑った優姫に、今度は白竜がきょとんとする

彼女が笑みを浮かべたのを見たのが、初めてだったからだ--










三蔵「今夜は冷えるな」

窓からぼんやりと外を見つめていた八戒に、同室の三蔵が後ろから声をかけた

八戒「三蔵・・・僕らが出会ってから、もう3年も経つんですね」

三蔵「なんだ、あれからまだ3年か。呆れる程に長く感じるけどな」

八戒「あっははは、言われてみれば・・・ちょっと、色々思い出しちゃったんで。別に忘れてたわけじゃないんですけどね」

三蔵「八戒・・・お前がもし、あの時の事に復讐という形ででも決着を付けたいと思っているなら、無理にこの旅に付き合う事もない。お前はお前の思う道を進めばいいんだ」

八戒「そうですね・・・だけど、今ここにいるのもちゃんと僕の意志です。それに」

ばんっ

彼の言葉を遮るように、ドアが勢いよく開けられた

そこにいたのは、別室のはずの悟空と悟浄だ

悟空「三蔵!やっぱオレこっちの部屋がいい!こいつ寝てる間に足の裏に落書きしやがったんだぜ!?」

悟浄「こっちはてめぇのイビキが煩くて眠れねぇんだよ」

悟空「オレ絶対悟浄と同じ部屋はやだからな!」

悟浄「こっちから願い下げだ、猿!」

悟空「猿って言うな!」

悟浄「お、じゃなんだ?バカか?バカだな」

悟空「バカでもねぇ!」

三蔵「うるせぇんだよ。毎日毎日飽きもせず・・・黙らせるぞてめぇら!」

当然、キレた三蔵の怒鳴り声が響いた

「怖ぇ!」と声を揃えた悟空と悟浄だが、やはりまた喧嘩になる

三蔵が怒ったのはお前のせいだ、と

八戒「やっぱり、保父さんがいた方が育児は楽でしょう。保護者さん?」

三蔵「全くだ・・・」

頭を抱える三蔵に、笑みを浮かべて見せる八戒

問題児の引率も、楽ではない

八戒「はいはい。良い子のみんな、真面目な話の時間ですよ」

「「え?」」

三蔵「あ?」

てっきり寝るように言うのかと思えば、真面目な話をしようと言い出す八戒

言い合いをしていた悟空と悟浄も、思わずそれをやめて八戒を見る

顔を上げた三蔵もだ

八戒「優姫さんの事ですよ。今なら彼女が盗み聞いてしまう心配もありませんし」

悟空「優姫の話?」

悟浄「なんで優姫ちゃんが来ないってわかんだよ?」

八戒「実はさっき、白竜が向かいましたからね。彼女、白竜には心を許しているようですから。今頃はきっと、白竜相手に話をしているか、一緒に寝てるかじゃないですかね」

悟浄「なるほどね」

悟空「なんだよ、八戒?優姫についての真面目な話って」

八戒「紅孩児が彼女を、“時空の姫巫女”と呼んでいた事は覚えていますか?」

悟浄「計画に必要だって事は、牛魔王の蘇生実験に優姫ちゃんを利用しようとしてるってこったろ?ひでぇ話だ」

三蔵「だが逆を言えば、奴が捕まらん限り蘇生実験は進められないという事でもある」

八戒「それもそうなんですが、ここで問題がひとつあります」

悟空「なに?」

八戒「僕らは最初、この町に優姫さんを置いて行くつもりだったという事です。彼女が狙われているのだとしたら、このまま置いて行く事すら危険だという事。つまり、僕達に選択肢は無くなったという事なんですよ。優姫さんを置いて行くという選択肢が」

悟空「あ・・・」

悟浄「あー・・・確かに、な」

三蔵「・・・ちっ」

八戒「とはいえ、彼女に本当にそのような力があるのかすらわかりませんが・・・優姫さんの反応からして、本人に自覚はないようですし」

三蔵「だろうな。ありもしないモンを狙われて、有り得ねぇって顔だったからな。あれは」

悟空「なぁ、三蔵。“時空の姫巫女”ってなに?なんか知らねぇの?」

三蔵「・・・・・・俺も昔話程度の事しか知らん」

悟浄「って、知ってはいるのかよ?」

八戒「意外ですね・・・」

三蔵「うるせぇ・・・もう500年も昔の話らしいが、かつて世界を超える力を持つ姫巫女がいたらしい。別の世界へ渡る力、あるいは時空を超える力とも呼ばれた--それを持つ女を、“時空の姫巫女”と呼んだそうだ」

悟浄「優姫ちゃんがそれだってのか?」

三蔵「さあな。この話自体、事実かどうかもわからん。仮にそんな力が実在したとして、それを蘇生実験にどう利用しようとしてるかもさっぱりだ」

八戒「・・・ですが、そんな話があるのなら納得できますね」

悟空「なにが?」

八戒「優姫さんが別の世界に来た、という解釈にですよ。最初は僕も、有り得ないだろうと思いましたが・・・全く違う世界から、時空を超える力を使ってやって来た。彼女にはその力がある。そう説明されれば納得できます」

悟浄「そりゃあ、まあ・・・確かにそうだけどよ・・・」

三蔵「・・・・・・なんにせよ、このままあの女を置いて行くのは得策じゃねぇな。その特殊な力があるにせよないにせよ、紅孩児達に狙われているのは事実だ。それによく考えてもみろ。あいつは俺達を知っていると言った。それをペラペラと喋られても面倒だ」

悟浄「素直じゃねぇな、三蔵サマは」

三蔵「うるせぇ、死ね」

八戒「なんにせよ、決まりですね」


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