第一章




八百鼡「いざ!」

八戒「ちょ、ちょっと待って--!」

だが静止の言葉は届かず、八百鼡は槍で攻撃を仕掛けて来た

避けながら後退し、そのまま酒場の外へ

沈黙したまま事の成り行きを見ていた優姫は、閉じていた瞼を開くと体を起こす

気を失ったフリをしていたのだ

優姫「悪ぃな」

ぽつりと、そう呟いた

床を蹴ってまず飛び付いたのは、悟空

最初に目を覚ますのが悟空だと、覚えていたからだ

ならばそのまま、流れに沿って悟空を先に目覚めさせる方がいいだろうと考えた

優姫「おい、起きろ!おーい!」

悟空「・・・・・・」

が、静かな寝息が聞こえるだけ

目を覚ます様子はない

カチンッ

優姫「起・き・ろ!」

悟空「ぐえっ!?」

優姫の右肘が、悟空の腹にめり込んだ

いくら人間の力とはいえ、さすがに寝ている無防備な腹への一撃は妖怪である悟空にも応えた

悟空「げほっ!?ごほっ!え、は?なに?」

優姫「やっと起きたか、阿呆」

悟空「え、優姫?え?」

優姫「呆けてないで残りを起こせ」

悟空「え?あ、おう・・・お、おい三蔵!起きろよ悟浄!」

悟浄「てぇ〜・・・」

三蔵「これは・・・どうなってるんだ、一体・・・?」

優姫「刺客だよ。睡眠薬で眠らされてたんだ」

三蔵「なんだと?」

優姫「ちなみにまだ続いてる」

そう言って指差された外を見ると、八戒と八百鼡が戦っているのが見えた

優姫〈オレがここで手や口を出せば、絶対に目を付けられる。それだけじゃない、こいつらの足を引っ張りかねない・・・それは、嫌だ〉

一方、八戒と八百鼡の方では・・・

八百鼡「こうなったら最後の手段です」

八戒「そ、それは・・・!?」

八百鼡「本当は、あまり被害を広めたくなかったのですが・・・その酒場に、爆薬を仕掛けておきました」

八戒「!」

八百鼡「このスイッチひとつで・・・ッ!」

カチッ

・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・

八百鼡「あれ?」

何度も起爆スイッチを押す八百鼡だが、うんともすんとも言わない

すると申し訳なさそうな苦笑を浮かべ、爆弾を手にする八戒が口を開いた

八戒「えっと・・・これの事ですか?すみません、さっき見つけて危ないなぁって思って、引っこ抜いちゃいました」

優姫〈ああ、うん。オレ、これがあって八百鼡ってドジキャラか?って思ったんだよな〉

目の前で膝をついた八百鼡に、八戒も膝を曲げてしゃがんだ

八戒「あの、すみませんでした。さっきは反撃しちゃって・・・どこか痛くありませんか?」

そう言って伸ばしてきた八戒の手を、「触らないで!」と八百鼡は払った

八百鼡「敗北した上、敵に情けをかけられたなど・・・私はもう、紅孩児様のもとへ帰る資格がない!もはやこの命など、必要ない!」

涙を流しながら、短刀を鞘から引き抜いた

その刃は、八百鼡自身の首に向けられる

八戒「待って!」

八百鼡「来ないで!紅孩児様・・・最後までお役に立てなくて、申し訳ありません・・・!」

悟空「バカ!やめろって!」

自らに刃を向ける、女の姿--

それは八戒の中で、かつての過去に繋がった

“さようなら、悟能”

八百鼡「さようなら、紅孩児様」

八戒「やめ--!」

止めようとした八戒を、赤い風が取り囲んだ

その風はすぐに消え、顔を上げた八戒が見たのは・・・

八百鼡を横抱きにした、赤い髪をなびかせた妖怪の青年だった

八百鼡「こ、紅孩児様!?」

全員が、息を呑んだ

優姫でさえも

紅孩児は軽やかに屋根へ着地し、4人を見下ろして「三蔵一行だな」と問うような、だが確認するような口調にも聞こえる一言を口にした

紅孩児「我が部下を引き取りに来た。要件はそれだけだ。貴様らとはいずれまた会うだろう。その時まで、命を大事にしておく事だな--ん?」

優姫「え--?」

僅かに視線を動かした紅孩児と、目が合った気がした

気のせいだと思いたかった

だが確かめる前に、悟空の声が紅孩児を引き留めた

悟空「待てよ。折角来たんだから、遠慮しねぇで遊んで行けって!」

如意棒を手に飛びかかった悟空に、左手を突き出した紅孩児

彼の手から、赤い炎のような風が吹き出す

八戒「悟空!」

地面に叩き付けられた悟空

次に悟浄が錫月杖の鎖鎌で攻撃するが、難なく受け止められてしまう

紅孩児「子供騙しだな」

悟浄「おいおい、マジかよ・・・」

紅孩児「今度は俺の番か?」

そうして仕掛けられた攻撃を、八戒が防護壁で受け止める

この隙をついて、紅孩児の背後に立った人物がひとり--

三蔵「そこまでだ」

銃口を紅孩児の後頭部に突き付ける

紅孩児「よく登って来たな」

三蔵「おかげで服が汚れた。随分と派手なご挨拶をどーも」

紅孩児「昇霊銃か・・・フッ」

三蔵「お前には聞きたい事が山程あるんだ、王子様」

紅孩児「生憎だが、日を改めて出直すとしよう。この界隈で戦うと民家を巻き込みかねん。今までの部下の非礼は詫びておこう。だが、貴様らが我々の計画を阻む限り、必ず貴様らを抹消させてもらう」

三蔵「人付き合いは苦手なんでな。手短に願いたいもんだ」

紅孩児「同感だ」

優姫が知る通りなら、ここで彼は八百鼡と共に姿を消す

だが--

紅孩児「女」

優姫「え?」

彼の目は間違いなく、優姫を捉えていた

紅孩児「貴様が、“時空の姫巫女”だな」

優姫「・・・は?」

紅孩児「我々の計画に必要な力だ。いずれ、貴様を迎えに来る」

そう言い残すと、紅孩児は八百鼡と共に姿を消した

三蔵〈初めてだな。悪意でない殺意を感じたのは・・・〉

ふっと、体から力が抜けた

その場に座り込んだ優姫に気付き、屋根から彼女を見下す三蔵

彼が見たのは不安そうな、恐怖したような・・・そんな顔をした優姫だった

八戒「大丈夫ですか、悟空?」

悟空「・・・あいつ、強ぇ」

八戒「え?」

悟空「むちゃくちゃ強ぇじゃんかよ!ちょー面白ぇ!」

三蔵「あの顔は・・・」

悟浄「新しいおもちゃを見つけた、ガキの顔だ」

八戒「楽しそうでなによりです・・・」

悟浄「ま、俺もカッコ悪ぃままってぇのは御免だけどな」

三蔵「しかし結局、何も聞き出せず終いだな」

八戒「いいえ、ひとつだけわかった気がします。紅孩児が妖怪達にとって、カリスマ的存在である理由が」


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