第一章




優姫「・・・・・・」

ジープの後部座席に座る、ぼんやりと景色を眺める優姫

隅っこで膝を抱えて縮こまる彼女に、隣の悟空は冷や汗を流している

悟空「・・・あ、あのさ、優姫?」

優姫「ん?」

悟空「なんでそんな端っこにいるんだよ?」

優姫「・・・・・・なんとなく」

八戒「いますよねぇ、座席の端とか部屋の隅っこが好きって人。そこが落ち着くんだそうですよ」

悟浄「へぇ?」

八戒「優姫さんもそうなんじゃないですか?」

優姫「・・・ん、まあ」

八戒「あ、皆さん。次の町が見えてきましたよ」

悟空「やったぁ!飯、飯!」

悟浄「おめぇはそればっかだな」

悟空「しょーがねぇじゃん!腹減ってんだからさ!」

悟浄「脳みそ胃袋猿」

悟空「エロ河童」

悟浄「んだと、この野郎!?」

スパパァン

三蔵「うるせぇんだよ、てめぇら」

優姫「・・・もう突っ込まねぇからな、そのハリセンの出所は」

八戒「あ、はは・・・」

優姫「今回は飯から?」

八戒「そうなりそうですね。優姫さんは構いませんか?」

優姫「ああ、まあ・・・意見できる立場じゃねぇし、オレ」

八戒「・・・そう、ですか」

そんな、いつも通りな彼らとそこに混じる彼女だった

町に入ると、今回は早々に酒場へと向かう事に

どうやらこの町には、その酒場1軒しかないらしい

優姫〈なんか見た事あるような・・・〉

なんとなく、この酒場には見覚えがあるような気がした優姫

だがそれを口にする事もできず、彼らと席に着いた

すると、何やら奥の方で騒ぎが聞こえた

どうやら女性店員に、酔った男の客が絡んでいるようだ

気付いた悟浄はテーブルに備え付けてある灰皿を手に取り、フリスビーのように投げた

男の後頭部に直撃したそれは床に落ち、怒った様子の男は投げた本人を怒鳴りながら探す

だが悟浄は素知らぬ顔で、すでにメニュー表に顔を戻していた

優姫「クリンヒットナイス」

悟浄「そりゃどーも」

名乗り出るつもりはないとわかったからか、小声で話しかけた優姫

同じく小声で悟浄が返すと、注文のために悟空が女性店員を呼んだ

優姫〈あれ、この人って確か・・・〉

次々と口から出る悟空の注文を書き留める女性店員を、ちらりと見上げる

やはり見覚えがある、その女性店員

優姫〈あ、そっか〉

八百鼡だ

紅孩児直属の薬師、八百鼡

という事は・・・

優姫〈あ、ヤベ・・・これ「美しき暗殺者」って話だ。原作なら飲み勝負だけど、アニメだと乱闘になるんだよなぁ。どっちだ、これ?〉

そんな風に考えていると、悟空の注文が終わるところだった

やはりというか、あまりの品数に戸惑ったような笑みを見せる八百鼡

そんな彼女に、灰皿をひとつ頼んだ悟浄

テーブルに備え付けの灰皿がない事に気付く八百鼡だったが、あくまでも彼女の中の彼らは敵だ

まさかね、とその場を離れた

優姫「・・・・・・」

八戒「どうしました、優姫さん?」

優姫「え?あ、いや・・・」

ぼんやりと八百鼡の背中を見送る優姫に気付き、八戒が声をかけた

だが八百鼡の事を言うわけにもいかず、優姫は沈黙するしかなかった

三蔵、悟浄、八戒が真面目な話を始めたのだが、少しすると注文した料理達を手に八百鼡がやって来た

八百鼡「お待たせしました。ご注文の料理です」

悟空「わーい!」

喜ぶ悟空に、一気に脱力する3人

それを目にした優姫は、キョトンとした表情をすると一度瞬きをした

悟浄「ま、腹が減ってちゃ戦はできねぇ。ってか?」

八戒「そのようですね」

優姫〈毒入りなんだよな、これ?全然見えねぇな・・・〉

悟空「いっただっきまーす!」

八百鼡「きゃあ!?」

優姫「あ」

悲鳴がした方を見ると、八百鼡の腕を掴んで絡む男性客が数人いた

「そう嫌がんなって。一緒に飲もうや」

八百鼡「嫌!放してください!」

「いててて!」

八百鼡「えっ?」

気付いた八百鼡が振り返ると、彼女の腕を掴んでいた男の腕を、八戒が捻り上げていた

八戒「やめた方がいいですよ。彼女、嫌がってるようですから」

「こ、この野郎!タダで済むと思うなよ!」

悟浄「おっさん、また灰皿食らいたいわけ?カッコーンて」

「カッコーン?てめぇか、さっきの灰皿は!このっ!!」

怒った様子の男は、三蔵達のテーブルを蹴ってひっくり返す

それを見て「なんてことするの!?」と思わず叫ぶ八百鼡だったが、毒入りだと知っている優姫は助かったな、とこっそり感謝した

が、隣でひとり嘆く人物がいた

優姫〈あ、食い物の恨みは恐ろしいんだったわ・・・〉

悟空「やっちゃいけねぇこと、やりやがったなぁ!ぜーったい、許さねぇ!」

悟浄「食いもんの恨みは恐ろしいってか」

三蔵「バカ猿が」

「なんだ、くそガキ?やろうってのか?」

悟空「ぶっ飛ばす!」

「やっちまえ!」

優姫〈あ、うん。乱闘の方だったな・・・〉

呆れたような顔で、八戒の後ろに隠れる優姫

だが、優姫は忘れていた

三蔵「妖怪どころか、人間とまで争ってどうする・・・」

八戒「血気盛んですね」

「落ち着いてんじゃねぇよ!お前らだって仲間だろうが!」

そう言って、椅子に座ったままの三蔵に殴りかかった男だったが、拳はあっさり避けられた

それだけではなく、組んでいた三蔵の足に引っ掛けられて転がされる

三蔵「足が気取ってんぞ?もうできあがってんのか、酔っ払い」

「「舐めてんじゃねぇぞ、こらぁ!」」

優姫〈あ、ここも安全地帯じゃねぇわ〉

「お、お客さーん!!やめて!店がぁ・・・!」

可哀想な店長さん、と思いながらもこそこそと店の隅に移動する優姫

すると視界の端で、項垂れている八百鼡を見つけた

八百鼡〈三蔵一行の行動は一筋縄では測れない--そう紅孩児様が言ってたけど・・・確かに違う。この人達根本的に違う!・・・と思う〉

八戒「気にする事ないですよ。あなたのせいじゃありません」

八百鼡「あ、でも・・・」

八戒「セクハラおじさんは許せませんからね」

この八戒の一言で、八百鼡はいつかの過去を思い出した

八百鼡が思い出していたのは、初めて紅孩児と出会った時の事だ

ただの薬売りの娘だった彼女は、美しいという理由だけで百眼魔王に献上されようとしていた

紅孩児「その女、気に入った。俺が預かる」

そう言って、紅孩児は八百鼡を引き取った

薬師として働け、と言って

その時、彼の本心がどうだったかはわからない

知るのは彼だけだ

だが結果だけ見れば、八百鼡は紅孩児に救われたのだ

八百鼡〈そう、私の命はあの日から紅孩児様と共にあるはず。任務を遂行しなければ・・・何を躊躇っているの?この男達は敵なのよ?紅孩児様の敵は--私の敵!〉

悟浄「まだ立てるの?タフだねぇ、おっさん」

「ったりめぇよ!てめぇらとは体の作りが違うんでぇ!」

その時、辺りに霧が立ち込めた

優姫〈きたか〉

そっと口元に袖口を当て、霧を吸わないようにする優姫

悟浄「頭が急に・・・!?」

三蔵「目の前が暗く・・・?」

八戒「薬の匂い?この霧、吸っちゃだめです!」

気付いた八戒がすぐに叫ぶが、絡んできた男達も他の客も、次々と意識を失い倒れていく

悟浄も、三蔵も悟空もだ

咄嗟に悟浄を受け止めた八戒は、彼の様子を観察する

八戒「正常に呼吸している?これは・・・」

八百鼡「そう、安心してください。これはただの睡眠薬です。一般人を巻き込むわけにはいきませんから」

八戒「あ、あなたがこれを?」

八百鼡「薬、嗅がなかったんですね」

なぜだろう?あなたにだけは、眠っていて欲しかった--

右手首にある、腕輪型の妖力制御装置

それに手をかけ、外した

脱ぎ捨てられた衣服に視界を遮られた八戒だったが、槍の一撃をかわす

切先が頰を掠めたが、それでも目の前の彼女を見つめる

八戒「あなたも、紅孩児の刺客ですか・・・」

八百鼡「三蔵法師一行の、猪八戒殿とお見受け致しました。我が名は八百鼡。我が主君、紅孩児様のため--あなた方には今この場で、死んでいただきます!」


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