序章
八戒「ただいま戻りました」
三蔵「遅ぇぞ、てめぇら。一体どこで油売って--」
八戒「いやぁすみません、三蔵。優姫さんの服を選ぶのに、少々熱が入ってしまいまして。なにせ女性の服を選ぶなんて、滅多にない機会ですからね。ちょっと楽しんでしまいました」
優姫「楽しむな。着せ替え人形にさせられたオレの気持ち考えろよ・・・」
疲れた様子で項垂れる優姫
その彼女を視界に入れた途端、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした三蔵
元々着ていた黒いハイネックと青い短パンはそのままに、桜柄の入った着物を身に纏っている
それは、悟空が選んだ着物だった
帯や帯締めは、着物や彼女の好みに合わせて八戒が選んだ
スニーカーだった履物は、悟浄が選んだ白いショートブーツに
三蔵「・・・」
優姫「・・・・・・んだよ?」
悟浄「お?三蔵サマ、まさか優姫ちゃんに見惚れたか?」
スパァン!
悟浄「いってぇな!なにしやがるクソ坊主!」
三蔵「黙れエロ河童」
優姫「だからどっから出んだよ、そのハリセンは」
悟空「な?な?やっぱり似合ってるよな、これ!オレさ、優姫には絶対に桜が似合うと思ったんだ」
悟浄「猿にしちゃ上出来じゃねぇの。俺も良いと思うぜ」
八戒「そうですね。いっそ髪も、桜の簪とかでまとめても良かったかもしれませんね」
優姫「あんま女の見た目にしたくねぇから、それはパス」
悟浄「そりゃまたなんで?」
優姫「・・・・・・似合わねぇから。それにオレなんかが着飾ったって、誰もなんとも思わねぇよ」
八戒「そんな事はないと思いますが・・・実際、似合ってますよ。その桜柄の着物。青も似合いますが、僕は桃色の方も良かったと思いますよ」
優姫「絶対に嫌」
八戒「そ、そこまで嫌そうな顔をしなくても・・・」
三蔵「・・・ふんっ」
見惚れたんじゃない・・・
青い桜柄に包まれる優姫を見て、まさか自分があんな風に感じてしまうとは--
取り出した煙草を咥えて火を点けた三蔵は、そう考えてしまった
本物の桜のように、彼女も儚く散っていってしまいそうだと--
優姫「・・・・・・」
三蔵「なんだ?」
優姫「・・・・・・ありがとう、服・・・とか。いろいろ・・・助かった」
三蔵「・・・気にするな。そいつらが勝手にやった事だ」
優姫「でもカード渡したのはあんただろ?」
三蔵「買い出しもあったからな。それに俺の金じゃない」
優姫「まあ、確かに・・・」
悟浄「素直じゃねぇな、三蔵サマは」
三蔵「うるせぇ、殺すぞエロ河童」
八戒「はいはい。優姫さんの前で銃を出すのはやめてくださいね、三蔵?」
三蔵「・・・ちっ」
八戒「ところで、この町なのですが・・・住人に聞いて回ったんですけど、治安が少々不安なんです。というわけで、次の町まで優姫さんを連れて行っても構いませんか?」
優姫「あんたいつの間に聞いてたんだよ?」
三蔵「・・・断っても乗せるんだろうが、お前は」
八戒「僕はそのつもりでした」
優姫「別にちょっと治安が悪いくらい」
八戒「優姫さん」
優姫「あ、はい・・・」
八戒「この世界で右も左もわからないあなたが、こういった町で何事もなく平和に過ごせると自信を持って言えますか?」
優姫「・・・・・・」
八戒「前回大怪我をされたのはどこのどなたでしたっけ?」
優姫「・・・・・・モンクナイデス」
八戒「なら決まりですね」
優姫「笑顔怖ぇ・・・」
悟空「優姫、八戒は怒らせない方がいいって」
悟浄「そいつは俺も同感・・・」
優姫「直で見るとやべぇな、アレは・・・」
八戒「そういえば、優姫さんに確認したい事があるのですが」
優姫「なに?」
八戒「優姫さんは僕らの事を、どこまでご存知なんですか?」
悟空「え?」
優姫「・・・」
八戒「あなたは僕らを初めて見た時、コスプレイヤーかと聞きましたよね?つまりあなたのいたという世界には--」
優姫「最遊記」
八戒「え?」
優姫「予想通りだよ。最遊記ってタイトルで、あんた達の旅は物語になってる。オレも見た事ある」
八戒「・・・・・・」
優姫「なにキョトンとしてんの?否定されるとでも思った?」
八戒「あ、いえ・・・意外とあっさりなんだなと、思いまして・・・」
優姫「別に否定する事でもねぇし」
八戒「・・・では、やはり知っているんですね?僕達の事を」
優姫「まあ、粗方は・・・過去も今も、未来も・・・遠い過去も」
八戒「・・・そうですか」
優姫「でもさすがに、未来は全部知ってるわけじゃない。それにオレがいると、変わっちゃう部分だって出てくる可能性はある」
悟浄「なるほど。優姫ちゃんが知ってる俺達の旅には、元々優姫ちゃんはいなかったわけだしな。変わっちまう可能性は否定できねぇな」
悟空「けどさ、オレは別に知らなくていいと思うけどなぁ」
優姫「なんで?」
悟空「だってさ、これからどうなるのか知ったらつまんねぇじゃん」
優姫「例えばこの先、あんた達が死ぬって未来でもか?」
悟空「え!?オレ達って死んじまうの!?」
優姫「いや死なねぇよ、少なくともしばらくは」
悟空「あ、よかったぁ・・・」
優姫「“もしも”の話だよ、オレが聞きたいのは」
悟空「ん〜〜〜・・・うん、いいや。それでもやっぱり、オレは知らなくていいや。その方が面白いしさ」
優姫「・・・・・・ふぅん・・・」