序章




誰かの泣き声が聞こえる--

知っているような、知らないような・・・

なんで泣いてるのか、わからない



“置いて行かないで”

“ひとりにしないで”



あぁ、そうか・・・

泣いているのは--










優姫「・・・・・・ん・・・」

意識が浮上すると、不規則に体が揺れる事に気付いた

何度か瞬きをし、右腕を持ち上げる

体が動く

その向こうに見える空が動いていて、景色がどんどん変わっていく

優姫「・・・・・・生きてる・・・?」

小さな声で呟くと、それが聞こえていたらしい誰かが覗き込んできた

額にある金鈷が少し眩しい

悟空「八戒!優姫が起きた!」

八戒「本当ですか?あぁ、よかった」

悟浄「気分はどうだ、優姫ちゃん?」

優姫「・・・・・・ちゃん付けやめろ」

言いながら体を起こす優姫

悟空が背中を支え、起きるのを手伝う

優姫「・・・で、これってどういう状況だよ?」

運転している八戒の背中に疑問をぶつけると、単純な答えが返ってきた

八戒「次の町に向かっているところです」

優姫「そうじゃねぇ。それもだけど、そうじゃねぇよ」

八戒「子供は無事でしたよ」

優姫「・・・そっか」

八戒「ええ、代わりにあなたが重傷でしたけど」

優姫「・・・」

八戒「治療は終わっていますし、傷は残りませんから。安心してください」

優姫「・・・オレがここにいる理由は?」

八戒「さあ?三蔵の判断ですから」

優姫「え?」

八戒の隣にある背中に、反射的に視線を向けた

助手席に座っている三蔵は、煙草の煙を吐き出した

三蔵「妖怪に襲われた町に置いて行っても、貴様が苦労するのは目に見えていたからな。俺達といるところも見られてる。下手に話をされても迷惑だ。これ以上の厄介事も、足止めも御免だったからな。連れて来た方が早かった。それだけだ」

優姫「じゃあ、次の町で降ろすのか?」

三蔵「・・・・・・お前も大概、うるせぇな」

優姫「ん???」

三蔵「・・・」

それは、声にならない声だった

だが、彼には届いていた--










2、3日ほど車を走らせて、次の町に到着した

優姫にとっては初めての野宿だったが、むしろ少し楽しかったのが本音だ

テントを張ったり、食事を作ってみんなで食べたり

特にテントについては、初めての経験だった

食事は、八戒と分担して作った

元々は一人暮らしをしていた彼女だ、家事全般はある程度できる

悟空と悟浄が絶賛してくれた事、八戒がベタ褒めしてくる事が、少し恥ずかしかった

三蔵は特に何も言わなかったが、残さずに食べ切った事が感想とも捉えられた

そんな野宿生活を終えて町に辿り着くと、違う意味で一息つける

町に着くと、まずは宿探しから始まる

場合によっては食事から始まる事もあるんだとか

というより、高確率で食事が先になる

今回はたまたま、宿探しから始められただけらしい

意外とすぐに宿は見つかり、2人部屋を3部屋確保できた

優姫「いいの?オレまで部屋もらっちゃって」

八戒「気にしないでください。それよりも優姫さん。治療が終わっているとはいえ、まだ無理は禁物ですからね」

優姫「わかってるよ」

八戒「それならいいんです。さて、それじゃあ買い物に行きましょうか」

優姫「オレも?」

八戒「大丈夫ですよ、荷物は僕と悟浄と悟空で持ちますから」

優姫「いやそういう事じゃなくてだな」

八戒「買い足したい物もありますが、なにより、あなたの服も必要でしょうからね」

優姫「え?」

八戒「その格好だと、何かと目立ちますし。着替えもあった方がいいでしょう?」

優姫「それは・・・そう、だけど・・・」

八戒「お金の心配ならしなくて大丈夫ですよ。三蔵からカード預かってますから」

優姫「三仏神のカードだろうが、それ」

悟空「八戒!優姫!早く行こうぜぇ」

八戒「悟空も呼んでますし。行きましょう」

優姫「・・・・・・」

渋々と言った様子の優姫に手を差し出す、笑顔の八戒

これは従わなければあとが怖いと、彼女の本能が語っていた

思わずため息を吐き出すと、差し出された彼の手を無視して横を通り過ぎた

八戒「・・・」

そんな彼女の背中を見つめてから、八戒はそれを追い掛けた










悟浄「な、こんなのはどうよ?」

優姫「却下」

悟浄が選ぶ服を、次から次へと却下していく優姫

それもそのはず、露出が多かったりスカートが短かったりと

そんな服ばかりを選んでくるのだから

八戒「こういうのはどうですか?」

優姫「んー・・・もうちょいシンプルなのがいいかなぁ」

八戒「そうですか・・・ではこちらでどうでしょう?」

優姫「部屋着としてならいいかな、採用」

悟浄「なんで八戒のは良くて俺のは駄目なんだよ」

優姫「逆になんでいいと思うのかがわかんねぇよ」

悟空「う〜〜〜ん・・・」

悟浄「お?珍しく猿が真剣に悩んでんじゃねぇか」

優姫「なんでオレの服にそこまで真剣なんだよ、あんたら・・・?」

悟空「ん〜〜〜・・・・・・あ。なあ優姫!これは?オレ絶対似合うと思う!」

優姫「ん?」


4/6ページ
スキ