序章




優姫「ほい、煙草」

三蔵「・・・ああ」

優姫「じゃあオレ、部屋にいるから。ちょっと疲れたし」

八戒「ええ、ゆっくり休んでください」

そうして優姫が部屋から出ると、煙草に火を点けた三蔵が口を開く

三蔵「・・・で、どうだった?あの女の様子は」

八戒「景色を見て驚いた様子はありましたが、やはり冷静でしたよ--はっきり言って、少し怖いくらいに」

悟浄「自分がいた所とこことの違いを、冷静に分析して判断してたな。で、今自分に必要なものがなんなのか・・・ちゃんと見極めてやがった」

悟空「なぁ三蔵。やっぱさ、優姫を連れてくのは」

三蔵「駄目だ」

八戒「悟空、さっきも言いましたよね?僕達の旅には危険がつきものです。それでもし彼女を死なせてしまったら、どうするんですか?」

悟空「わかってるよ、わかってるんだけど・・・なんか、こう・・・よくわかんねぇんだけどさ・・・オレ、優姫をひとりで放っておいたらダメだって、思うんだ」

悟浄「は?なんだよ、それ」

悟空「だから、オレもよくわかんねぇんだって!」

悟浄「てめぇの事だろうが、この猿!」

悟空「しょーがねぇだろ!わかんねぇんだからさぁ!」

八戒「そうですね。悟空のその、なんとも言い表せない不安は・・・なんとなくですが、僕もわかります」

悟空「え?」

八戒「特に僕がそう思うのは、彼女が自分の死を語った時です」

悟浄「自分の死、か・・・まあそこは、俺も冷静だとは思ったが」

八戒「冷静過ぎるんです。まるで世間話のように平然と語って・・・これでは彼女は・・・まるで・・・」

三蔵「自分が死ぬ事をなんとも思わねぇんだろうな、あの女は」

八戒「!」

三蔵「“まるで”じゃねぇ。おそらくその読みは当たりだろう」

悟空「え、なに?どういう事だよ?」

八戒「つまり優姫さんは、自分が生きようが死のうがどうでもいいと・・・そう思っているかもしれない、という話です」

悟空「え・・・」

悟浄「・・・」

八戒「彼女がなぜ、そう思うようになってしまったのかはわかりませんが・・・おそらくはご家族や生活環境が、主な原因かもしれませんね」

悟浄「友達はなし。家族ともお互いほぼ無干渉。確かそう言ってたよな?」

八戒「ええ。それに・・・自分の子供を愛する親ばかりではない、とも言っていましたね」

悟空「・・・」

彼女は、この町に置いて行く

頭では理解しているのだが、心では納得できていない悟空

だが連れて行ったとして、彼女にとって危険だというのも理解していた

自分の死をなんとも思わないのなら、余計にだ

三蔵「・・・・・・この町から出ん限りは、そう簡単には死なんだろう」

黙って顔を俯かせる悟空に、三蔵はそう言った

悟空「うん・・・わかってる。わかってんだけど、さ・・・」

なんとも言えない不安が、悟空の中にはあった

それは八戒も同じだった

嫌な予感がした

そしてそれは、現実となる--










優姫「やっぱ、そう簡単には見つかんないか・・・」

ひとりで外に出ていた優姫は、早速この町での働き口を探していた

だがやはりというか、上手くいっているわけではなかった

優姫「・・・・・・一回戻るか」

お昼までには戻って来て欲しい、と八戒に念を押されていた

この世界には時計があちこちに常備されているわけではないため、確認ができないが・・・体感時間としてはそれだけ経っていた

彼らがいる宿に戻ろうと、一歩を踏み出した時--

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!」

優姫「!?」

突然響き渡った悲鳴

陶器のような物が割れた音

そして、妖怪達の姿が見え、高笑いが響いた

優姫「妖怪、って・・・あれが?」

初めて見る妖怪に、すぐには体が動かなかった

そんな優姫のそばを、町の人達が走り抜けていく

誰かの肩とぶつかり、倒れる

体を起こすと、目の前に妖怪が立っていた

「死ねぇ!」

優姫〈あ、これ死ねる・・・わ〉

ガウンッ

一発の銃声が鳴り響くと、目の前の妖怪は倒れた

振り返ると、昇霊銃を構えた三蔵が立っていた

悟空「おりゃあ!」

駆け出して来た悟空が、如意棒を駆使して妖怪達を倒していく

さらに悟浄が錫月杖を使い、同じく妖怪達に向かって行く

八戒「優姫さん!大丈夫ですか?」

駆け寄って来た八戒に無事を確認され、頷く

彼に手を取られて立ち上がると、後ろに隠された

かと思えば、どうやらこちらに向かって来ていたらしい妖怪達に、気功術を放って攻撃した

三蔵も昇霊銃を撃ち続けている

「ママァ」

優姫「ッ!」

聞こえた声の方を向くと、母を求めて泣く子供がいた

逃げている途中ではぐれたのか、置いて行かれたのか

だが優姫には、理由なんてどうでもよかった

子供に襲い掛かろうとしている妖怪が、視界に入ったから

何かを考える前に、誰かに伝える前に、体が動いていた

八戒「優姫さん!?」

慌てた様子の八戒の声に、3人もそちらを向く

そして彼女の向かう先に、子供と妖怪がいる事に気付いた

三蔵「ちっ!」

悟空「伸びろ如意棒!」

悟浄「間に合わねぇ!」

八戒「優姫さん!」

優姫は、間に合った

彼らは、間に合わなかった

子供に向かって振り下ろされた爪は、庇った優姫の背中に傷をつけた

その直後、三蔵の銃弾が、悟空の如意棒が、妖怪に命中した

それぞれが目の前にいる最後の妖怪達を倒すと、倒れたまま動かない優姫に駆け寄る

悟空「優姫!!」

悟浄「しっかりしろ!」

八戒「ふたりとも退いて!」

すぐに八戒が、気功で傷を塞ごうと動いた

その間に悟浄が子供を確認し、怪我はないとわかった

探しに来たらしい母親に子供を渡し、悟浄は優姫のそばに戻る

悟浄「どうだ八戒?」

八戒「思ったよりも傷が深い・・・少し時間がかかります」

気絶している様子の優姫は、まるで眠っているかのように瞼を閉じている

死にに行ったんじゃない--4人ともがわかっていた

彼女は子供を助けようと、動いた

その結果が死だと、彼女ならば納得するだろう

だが彼らは、ここで彼女が終わる事に納得できない

三蔵「・・・」

八戒に治療される優姫を、三蔵は黙って見下ろしていた

ふと瞼を閉じると、長いため息を吐く

三蔵「ったく・・・おい、行くぞ。これ以上の厄介事は御免だ」

悟空「え、三蔵?行くって・・・」

八戒「待ってください、三蔵!このままにして行けば、優姫さんは死んでしまいます!せめて治療だけでも」

三蔵「誰がそいつを置いて行けと言った」

八戒「え?」

三蔵「厄介事も御免だが、これ以上足止めを食うのも御免だ。さっさとそいつも車に積み込め」

悟空「さ、三蔵・・・?」

悟浄「お前、反対してたじゃねぇか。どういう風の吹き回しだよ?」

八戒「三蔵・・・」

三蔵「・・・うるせぇんだよ」

声が、聞こえた--


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