星が紡ぐ運命の糸
さてそろそろ寝ようかと、淹れたコーヒーを飲み干して席を立つ。空のポットとカップを台所で洗い、一通り片付けて部屋に戻ると遊びに来ている女神様は既にベッドに潜り込んでいた。
「おや珍しい」
「今日は冷えるもの」
……返事を聞いて、布団を大きくめくりたい衝動にちょっと駆られながらも我慢した私を誰か褒めてほしい。というか、神様も寒かったりするのね。内心そんなことを思いつつ私もベッドに入る。先にニメーヤが入っているベッドは彼女の体温でほんのり暖かくなっていて、心地がいい。ベッドの中でその細く綺麗な白い髪を撫でていると、不意に彼女が上にのしかかってきた。……前にもこんなことがあったな、と思いながらされるがままにされる。
「今日はどうしたの」
「特に何もないわよ」
いつものように、ね。と言いながら私の頬に触れてくる彼女の腰に軽く腕を回す。いつものように、とは言うが大体何かしらあるじゃない。主に貴女からのあれこれで。と喉まで出かかった言葉を私が飲み込むのに苦労しているのを知ってか知らずか、ニメーヤが更に顔を近付けてくる。
「……なに」
「そんなに警戒しなくていいじゃない」
そうやってふふ、と軽く笑う星神の目にはいたずらっぽい光が宿っているのである。それを警戒するなという方が無理というものだろう。ニメーヤもそれを察しているのか、啄むように口づけをされただけで終わった。やれやれ、と思いながら片手を布団から出してぽんぽん、と頭を撫でると彼女が私の胸に頭を乗せてくる。
□■□■
いつものお茶会の片付けを一通り終えた彼女が戻ってきた。今日はいつも以上に冷え込むので、一足お先にベッドの温もりを享受することにした私の姿を見た彼女はちょっと驚いた顔をしたあと、ややあってからベッドに入ってきた。……彼女のことだから、あの妙な間のあいだに布団をめくってくるだろうと踏んでバレないようにカバー越しに布団を掴んでいたのだが、杞憂に終わり安心するやら“仕返し”の口実ができなくてがっかりするやら。そんなことを私が思っているのに気付いているのかいないのか、隣に横たわった彼女の手が私の髪に触れる。
……本人に自覚があるのかは聞いていないので分からないが、どうも彼女は私の髪を撫でるのが好きらしい。まあ、触られて嫌な気分になる訳でもないので好きに撫でさせている。が、少しばかり悪戯っ気が出てくるのも事実。極力布団の中に冷たい空気が入らないように身体を動かして、彼女の上にのしかかってみせる。しかし今回が初めてではないので彼女の方も平然としたものだ。あまりにも動じないので顔を近付けると目に見えて警戒されてしまったので、誤魔化すように軽い口づけを交わすだけに留めた。……私もビエルゴを見習って、ちょっと演技の練習をしようかしら?
まったく、と言いたげに頭を撫でられたので、それをいいことに彼女の胸に頭を乗せる。彼女の鼓動を聞いていると不思議と落ち着くのは何故だろう。
□■□■
お互いまだ眠気が来ないのか、布団の中でじゃれあっているところにやってきた小さな気配。そちらを見ると、黒いクァールの幼獣が黄金色の眼を光らせてこちらを見ていた。彼(彼女?)は私たちに顔を近付けてふんふん、と匂いを嗅ぐような仕草をしばらくしていたかと思うと、おもむろに胸と胸の隙間に頭を突っ込もうとしてきたではないか。思わず二人して幼獣の様子を見ていると、入り込む余地がないことにご立腹なのか不満げな声で鳴いてみせる。
「流石にそこは貴方でも入れないんじゃないかなあ」
彼女が首の後ろを撫でてやりながらそう言うと、もうひとつ不満そうな声を出しながら幼獣は布団に潜り込む。そして何やら感じる重みと微かな痛み。
「……ねえ」
「ん?」
「あの子、私の背中に乗ってきたんだけど」
「……んっ、ふふっ」
……どうやら彼女の笑いのツボにはまったらしい。横を向いて必死に笑いを堪えてはいるがどうしても身体の震えは抑えられないようで、私の身体を伝って感じる振動に幼獣が苦情を申し立てているらしいくぐもった声が布団の中から聞こえる。
「どれどれ……ふふふふ、ホントに乗ってるのね、って、いてっ」
触って確かめたらしき彼女の手の動きとそれに応戦したと思われる幼獣の動きを感じる。それは構わないのだが、一人と一匹して私の背中で何をやっているのか。
「困ったわね、これじゃ動けないわ」
「その割には困っているような雰囲気が全然ないんですけど」
「ソンナコトナイデスヨォ」
突っ込まれてしまった。が、事実として動けないことには変わりないので彼女の胸に両手を重ねて、その上に顎を乗せる。
「仕方ないからもうしばらくこうしていましょ?」
「まったく……しょうがないわね……」
彼女は苦笑いを浮かべると、私の肩に腕を回してきた。……思いがけない展開になったが、これはこれで忘れられない夜になりそうである。
──Fin
「おや珍しい」
「今日は冷えるもの」
……返事を聞いて、布団を大きくめくりたい衝動にちょっと駆られながらも我慢した私を誰か褒めてほしい。というか、神様も寒かったりするのね。内心そんなことを思いつつ私もベッドに入る。先にニメーヤが入っているベッドは彼女の体温でほんのり暖かくなっていて、心地がいい。ベッドの中でその細く綺麗な白い髪を撫でていると、不意に彼女が上にのしかかってきた。……前にもこんなことがあったな、と思いながらされるがままにされる。
「今日はどうしたの」
「特に何もないわよ」
いつものように、ね。と言いながら私の頬に触れてくる彼女の腰に軽く腕を回す。いつものように、とは言うが大体何かしらあるじゃない。主に貴女からのあれこれで。と喉まで出かかった言葉を私が飲み込むのに苦労しているのを知ってか知らずか、ニメーヤが更に顔を近付けてくる。
「……なに」
「そんなに警戒しなくていいじゃない」
そうやってふふ、と軽く笑う星神の目にはいたずらっぽい光が宿っているのである。それを警戒するなという方が無理というものだろう。ニメーヤもそれを察しているのか、啄むように口づけをされただけで終わった。やれやれ、と思いながら片手を布団から出してぽんぽん、と頭を撫でると彼女が私の胸に頭を乗せてくる。
□■□■
いつものお茶会の片付けを一通り終えた彼女が戻ってきた。今日はいつも以上に冷え込むので、一足お先にベッドの温もりを享受することにした私の姿を見た彼女はちょっと驚いた顔をしたあと、ややあってからベッドに入ってきた。……彼女のことだから、あの妙な間のあいだに布団をめくってくるだろうと踏んでバレないようにカバー越しに布団を掴んでいたのだが、杞憂に終わり安心するやら“仕返し”の口実ができなくてがっかりするやら。そんなことを私が思っているのに気付いているのかいないのか、隣に横たわった彼女の手が私の髪に触れる。
……本人に自覚があるのかは聞いていないので分からないが、どうも彼女は私の髪を撫でるのが好きらしい。まあ、触られて嫌な気分になる訳でもないので好きに撫でさせている。が、少しばかり悪戯っ気が出てくるのも事実。極力布団の中に冷たい空気が入らないように身体を動かして、彼女の上にのしかかってみせる。しかし今回が初めてではないので彼女の方も平然としたものだ。あまりにも動じないので顔を近付けると目に見えて警戒されてしまったので、誤魔化すように軽い口づけを交わすだけに留めた。……私もビエルゴを見習って、ちょっと演技の練習をしようかしら?
まったく、と言いたげに頭を撫でられたので、それをいいことに彼女の胸に頭を乗せる。彼女の鼓動を聞いていると不思議と落ち着くのは何故だろう。
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お互いまだ眠気が来ないのか、布団の中でじゃれあっているところにやってきた小さな気配。そちらを見ると、黒いクァールの幼獣が黄金色の眼を光らせてこちらを見ていた。彼(彼女?)は私たちに顔を近付けてふんふん、と匂いを嗅ぐような仕草をしばらくしていたかと思うと、おもむろに胸と胸の隙間に頭を突っ込もうとしてきたではないか。思わず二人して幼獣の様子を見ていると、入り込む余地がないことにご立腹なのか不満げな声で鳴いてみせる。
「流石にそこは貴方でも入れないんじゃないかなあ」
彼女が首の後ろを撫でてやりながらそう言うと、もうひとつ不満そうな声を出しながら幼獣は布団に潜り込む。そして何やら感じる重みと微かな痛み。
「……ねえ」
「ん?」
「あの子、私の背中に乗ってきたんだけど」
「……んっ、ふふっ」
……どうやら彼女の笑いのツボにはまったらしい。横を向いて必死に笑いを堪えてはいるがどうしても身体の震えは抑えられないようで、私の身体を伝って感じる振動に幼獣が苦情を申し立てているらしいくぐもった声が布団の中から聞こえる。
「どれどれ……ふふふふ、ホントに乗ってるのね、って、いてっ」
触って確かめたらしき彼女の手の動きとそれに応戦したと思われる幼獣の動きを感じる。それは構わないのだが、一人と一匹して私の背中で何をやっているのか。
「困ったわね、これじゃ動けないわ」
「その割には困っているような雰囲気が全然ないんですけど」
「ソンナコトナイデスヨォ」
突っ込まれてしまった。が、事実として動けないことには変わりないので彼女の胸に両手を重ねて、その上に顎を乗せる。
「仕方ないからもうしばらくこうしていましょ?」
「まったく……しょうがないわね……」
彼女は苦笑いを浮かべると、私の肩に腕を回してきた。……思いがけない展開になったが、これはこれで忘れられない夜になりそうである。
──Fin