星が紡ぐ運命の糸
眠りの海に沈んでいた意識が浮き上がる。目を開けると、共に泊まっているはずの彼女の姿がない。ゆっくりと頭を動かして周りを見ると、窓から日の光が差し込んでいるのが分かる。光の加減からして、もう既に日は昇っているらしい。……ということは朝市か何かに行っているのだろうか。
そんなことを考えながら寝返りを打つ。昨夜、思いがけず熱い夜になってしまったせいで身体がだるい。そのうちにうとうとし始めたので、いつ帰ってくるか分からないしもう少し寝ようかな……と瞼を閉じようとしたところに聞こえるドアが開く音。
「おはよう、起こしちゃったかしら」
「おはよう……さっき目が覚めた……」
部屋にニメーヤが入ってくる。手に持っているのはサンドイッチと、何かが入っているらしい器。器の形状的に、中身はスープだろうか。それをテーブルに置き、未だベッドに転がっている私のもとへやって来た。……それにしても。
「……そんな衣装、いつ用意したの?」
「ああ、これ?貴女が寝ている間にちょっとね」
星芒祭のローブと思しき衣装を脱ぎながら彼女が言う。パッと見た印象だが、今までの星芒祭で出されたものに見えないので自作したのだろう。“ちょっと”と言う割にはだいぶしっかりした作りに見えるのだが、気のせいか……?というかあれから今までの間に作り上げたのか?朝イチで材料調達して?そもそもの話として、星神が“星神の聖人”をやってるというのはどういうことなのか。
寝起きの頭に疑問が山のように浮かんでは消えていく。「突貫で作ったからかなり荒いのよね……」などと言いながらどこからともなく取り出した裁縫セットでローブを縫い直しているが、とてもそんな風に見えないあたり流石は裁縫師が奉じる神なだけあるな、と妙なところで感心してしまう。そんなことを思いながら作業を眺めていると、不意に彼女がこちらを向いた。
「いつまで寝てるの。ごはん冷めちゃうわよ」
「うぅーん……もうちょっと……」
「全く……」
ベッドの上でゴロゴロしながら返事をすると、ため息を吐きながらニメーヤが立ち上がりベッドにやって来た。縁に腰掛けると、相変わらず横たわっている私の頬をむにっと摘んでくる。
「ほら、シャワー浴びてきなさいな。出かけられる時間が短くなるわよ」
その言葉と共に伸ばされた手を掴むと身体ごと引っ張り上げられる。まだ少々瞼と身体が重たいが、ここまでされては起きない訳にもいかないので渋々起き上がってシャワーを浴びに向かうのであった。
□■□■
シャワーを浴びているうちに目も覚めてきた。身だしなみを整えて浴室から出ると、星神が食事の準備をしてくれていたのでありがたくテーブルにつく。最初に見た時に思った通り、器の中にはクラムチャウダーが入っていた。温かいスープと大ぶりにカットされた野菜が胃に染み渡る。一緒に置かれたサンドイッチを頬張りながら、壁に掛けられた猫耳パーカーに目を向ける。
「そんなに猫耳嫌だったの……」
「そんなにあれ着せたかったの……」
「うん」
「あのねえ……。……また着てあげるわよ」
そっぽを向きながら彼女が言う。その態度にどことなく照れが見えるが、追求すると怒られそうなので我慢。そのまま他愛ない話をしながら遅い朝食を済ませた私たちは、それぞれお出かけのための準備に入る。ニメーヤは先程の衣装修繕の続きを、私はそんな彼女の服を見てるうちにそれに合わせたコーディネートでも作るか、と思い立ったのでミラージュドレッサーに向かう。
ミラージュプリズムを触媒に、対象の衣装を幻影化して収めることができるこの装置は大変便利である。これが作られる前はお洒落を優先して力量に合わない装備を着続けたせいで魔物の攻撃が致命傷になってしまう事例がそこそこあったのだが、これのおかげでそういったケースの死傷者は有意に減ったと言われる。体感としてもそういう怪我人や死者の対応をすることが少なくなったと感じているので、あながち間違いでもないのだろう。
「あら、これとかいいんじゃない?」
いつの間にか後ろからドレッサーを覗いていたらしいニメーヤがある服を指差す。指差した先には白と薄い青を基調としたケープコート。サベネア近海の海底遺跡で見つけたこの服は、デザインの良さと冬場に似合いそうなもこもこの質感が気に入ってドレッサーに追加していたものだ。確かに言われてみれば、赤く染色すればこの時期に良さそうである。その後も一緒にドレッサーを眺めながらあーだこーだと言い合っているうちにコーディネートができあがったので、早速今の装備に投影してみせる。
「今は便利なものがあるものね」
一瞬で服の外見を変えられることに感心しながら星神が頷く。軽く身体を動かしてみて問題がないことを確認し(稀に服がブーツの金具に引っかかったりとかするため)、ドレッサーを閉じる。
「おまたせ。それじゃ行きましょうか」
「面白いものが見れて楽しかったわ。……今日は雪合戦は無しね」
……念押しされてしまった。まあ流石に二日連続はどうかとは思ってはいたけども。
「そんなことを言われたら考えちゃうわね……」
「いいわよ?その代わりただじゃ済まさないから」
「おぉ怖い怖い……」
大げさに震え上がってみせたらデコピンを食らってしまった。そうやってお互い軽口を叩きながら、私たちは部屋を出る。
「さて、今日は何をしましょうかね?」そう言いながらニメーヤの手を握れば、ふっと笑って彼女が私の手を握り返してくれた。
「貴女と一緒なら、なんでも」
──Fin
そんなことを考えながら寝返りを打つ。昨夜、思いがけず熱い夜になってしまったせいで身体がだるい。そのうちにうとうとし始めたので、いつ帰ってくるか分からないしもう少し寝ようかな……と瞼を閉じようとしたところに聞こえるドアが開く音。
「おはよう、起こしちゃったかしら」
「おはよう……さっき目が覚めた……」
部屋にニメーヤが入ってくる。手に持っているのはサンドイッチと、何かが入っているらしい器。器の形状的に、中身はスープだろうか。それをテーブルに置き、未だベッドに転がっている私のもとへやって来た。……それにしても。
「……そんな衣装、いつ用意したの?」
「ああ、これ?貴女が寝ている間にちょっとね」
星芒祭のローブと思しき衣装を脱ぎながら彼女が言う。パッと見た印象だが、今までの星芒祭で出されたものに見えないので自作したのだろう。“ちょっと”と言う割にはだいぶしっかりした作りに見えるのだが、気のせいか……?というかあれから今までの間に作り上げたのか?朝イチで材料調達して?そもそもの話として、星神が“星神の聖人”をやってるというのはどういうことなのか。
寝起きの頭に疑問が山のように浮かんでは消えていく。「突貫で作ったからかなり荒いのよね……」などと言いながらどこからともなく取り出した裁縫セットでローブを縫い直しているが、とてもそんな風に見えないあたり流石は裁縫師が奉じる神なだけあるな、と妙なところで感心してしまう。そんなことを思いながら作業を眺めていると、不意に彼女がこちらを向いた。
「いつまで寝てるの。ごはん冷めちゃうわよ」
「うぅーん……もうちょっと……」
「全く……」
ベッドの上でゴロゴロしながら返事をすると、ため息を吐きながらニメーヤが立ち上がりベッドにやって来た。縁に腰掛けると、相変わらず横たわっている私の頬をむにっと摘んでくる。
「ほら、シャワー浴びてきなさいな。出かけられる時間が短くなるわよ」
その言葉と共に伸ばされた手を掴むと身体ごと引っ張り上げられる。まだ少々瞼と身体が重たいが、ここまでされては起きない訳にもいかないので渋々起き上がってシャワーを浴びに向かうのであった。
□■□■
シャワーを浴びているうちに目も覚めてきた。身だしなみを整えて浴室から出ると、星神が食事の準備をしてくれていたのでありがたくテーブルにつく。最初に見た時に思った通り、器の中にはクラムチャウダーが入っていた。温かいスープと大ぶりにカットされた野菜が胃に染み渡る。一緒に置かれたサンドイッチを頬張りながら、壁に掛けられた猫耳パーカーに目を向ける。
「そんなに猫耳嫌だったの……」
「そんなにあれ着せたかったの……」
「うん」
「あのねえ……。……また着てあげるわよ」
そっぽを向きながら彼女が言う。その態度にどことなく照れが見えるが、追求すると怒られそうなので我慢。そのまま他愛ない話をしながら遅い朝食を済ませた私たちは、それぞれお出かけのための準備に入る。ニメーヤは先程の衣装修繕の続きを、私はそんな彼女の服を見てるうちにそれに合わせたコーディネートでも作るか、と思い立ったのでミラージュドレッサーに向かう。
ミラージュプリズムを触媒に、対象の衣装を幻影化して収めることができるこの装置は大変便利である。これが作られる前はお洒落を優先して力量に合わない装備を着続けたせいで魔物の攻撃が致命傷になってしまう事例がそこそこあったのだが、これのおかげでそういったケースの死傷者は有意に減ったと言われる。体感としてもそういう怪我人や死者の対応をすることが少なくなったと感じているので、あながち間違いでもないのだろう。
「あら、これとかいいんじゃない?」
いつの間にか後ろからドレッサーを覗いていたらしいニメーヤがある服を指差す。指差した先には白と薄い青を基調としたケープコート。サベネア近海の海底遺跡で見つけたこの服は、デザインの良さと冬場に似合いそうなもこもこの質感が気に入ってドレッサーに追加していたものだ。確かに言われてみれば、赤く染色すればこの時期に良さそうである。その後も一緒にドレッサーを眺めながらあーだこーだと言い合っているうちにコーディネートができあがったので、早速今の装備に投影してみせる。
「今は便利なものがあるものね」
一瞬で服の外見を変えられることに感心しながら星神が頷く。軽く身体を動かしてみて問題がないことを確認し(稀に服がブーツの金具に引っかかったりとかするため)、ドレッサーを閉じる。
「おまたせ。それじゃ行きましょうか」
「面白いものが見れて楽しかったわ。……今日は雪合戦は無しね」
……念押しされてしまった。まあ流石に二日連続はどうかとは思ってはいたけども。
「そんなことを言われたら考えちゃうわね……」
「いいわよ?その代わりただじゃ済まさないから」
「おぉ怖い怖い……」
大げさに震え上がってみせたらデコピンを食らってしまった。そうやってお互い軽口を叩きながら、私たちは部屋を出る。
「さて、今日は何をしましょうかね?」そう言いながらニメーヤの手を握れば、ふっと笑って彼女が私の手を握り返してくれた。
「貴女と一緒なら、なんでも」
──Fin