星が紡ぐ運命の糸

 ノックの音がしたので玄関先へ降り、来客を迎え入れるためにドアを開ける。このタイミングで来るとなると、多分“あの人”しかいない。

「トリック・オア・トリート!」
「……また随分なご挨拶ね」

ドアの向こうではニメーヤ神がいつもの衣装を守護天節風にちょっとアレンジした格好で私を驚かせようと待っていた。神様が何をやっているんだとは思うけれど、神がこうやって人の祝祭に混ざれるような情勢になった、と考えれば存外悪いことでもないのかもしれない。……今からの私が置かれるであろう状況はともかくとして。

「思ったほど驚かなかったわね……」
「何となく予想がついてたもの」

私が思っていたような反応を示さなかったことに少々不満げなニメーヤ神の頭をぽんぽんと撫で、彼女が入れるようにドアを大きく開ける。今も若干不服そうではあるがそこはそれ、と気持ちを切り替えたのか女神様が家の中に入ってきた。

「それにしても衣装まで作ってくるなんて随分気合い入れてるじゃない?」
「ふふふ、たまにはこういう趣向もいいかと思って」
「恐れ入るわ……」

階段を登り、キッチンへ。ちょうど今日の夕食を考えていたところだったのだ。いつも彼女が家に来た時は(私の食事が済んでいなければ)一緒に食事を摂るのが習慣化しており今回もそうなりそうなので、エプロンを着けつつ女神様に希望の料理があるか問いかける。

「うーん、やっぱりこの時期ならではの料理が食べたいわねえ」
「この時期ならではかあ」

エオルゼアでは一年を通して色々な催しや祝祭が行われるが、守護天節にちなんだ料理といえばパンプキンクッキーを始めとしたお菓子の方が多い。流石にお菓子ではお腹が膨れないので、今が旬の食材を使ったものがいいだろう。パンプキンはないがちょうどポポトを買ってきていたので、それを主体にした料理でも作りますか。
今日のメニューも大体決まったことだし、ということでキッチンの向かいにあるカウンターに腰を下ろしたニメーヤ神に見つめられながら私は料理の準備を始めた。


□■□■


 食事を終え、浴室へ。何故だか分からないが割と最初の頃から一緒にお風呂に入っていたような気がする。同性同士だから問題ないのでは?といえば確かにそうなのだが、今でもちょっと解せないのは私だけの秘密。まあ……同性とはいえ相手は神様だし……人の常識が通用しなくてもあまり驚かない。
一足お先に着替えを終え、キッチンの棚に隠していた“あるもの”を取りに向かう。多分女神様が来るんだろうなと思って用意しておいた守護天節のお菓子の詰め合わせである。後ろ手に隠して部屋に戻ると彼女も着替え終わって寛いでいたので、その顔の前にお菓子を突き出してみせる。

「じゃーん」
「あら、これは……お菓子?」
「そうよ。きっと貴女が来ると思って用意しておいたの」
「完全に予想ついていたってわけね……」
「最初にそう言ったじゃない」

私からお菓子の入った器を受け取った彼女はまじまじとそれを見つめる。器は木製で作られたジャック・オ・ランタンの形をしていて、なかなか可愛いのである。頭の蓋を開けると、守護天節用に作られたクッキーやキャンディが入っているというわけだ。女神様はその中からキャンディを一つ摘むと、包み紙を開いて口に入れる。

「……美味しいわね」
「それならよかった」

しばらくそのままキャンディを舐めていた女神様が、不意にベッドに寄りかかっている私を膝立ちで跨ぐように乗ってきた。何事かと思い、少し上にある彼女の顔を見上げるとひんやりとした手が頬に触れる。そのまま指で撫ぜられるがままにされていると反対側の腕が背中に回り、ふんわりと抱き寄せられた。
一連の動きからそこはかとなく“何がしたいのか”は分かったものの、こちらからは何もせずに相手の出方を待つ。その沈黙を受容と受け取ったのか、女神様が顔を近付けてきたので目を閉じるとお互いの唇が触れる。

「ん……」

彼女の舌が口をこじ開けてきた。それに応じるように少しばかり開くと、私の口内にもキャンディの甘味が広がっていく。そして口移しでキャンディが私の口の中に入れられ、そのままキャンディごと舌を絡められる。その思いがけず情熱的な動きに、反射的に彼女が着ている服を掴む。
そうしてされるがままになることしばし、唇が離れる気配がしたのでうっすらと目を開けると、彼女の赤い瞳と視線がぶつかり合った。その、凪いだ海のような瞳に私の顔が映っているのがはっきりと見てとれる。服から手を離し、両腕を腰に回しながらふと思う。……その目に私は、一体どのように映っているのだろうかと。

「……もう」
「……ふふ、全然驚いてくれなくて面白くなかったから、つい」
「まったく」

今度はこちらから抱き寄せる。膝立ちのまま軽く微笑んでいる彼女の頭に手を回し、お返しに口づける。そのままさっきと反対に舌を差し込んで、その柔らかい舌を撫ぜ、ついでにさっきもらったキャンディも一緒に送り返してその甘い味を堪能する。そんな私に彼女はちょっと驚いたようだったが、すぐにイタズラっぽい目付きになったのでどうやら“受けて立つ”気になったらしい。

……やれやれ、これは長い夜になりそうね。

体重をかけられ押し倒されながら、私はこれから過ごすであろう時間のことを考えて一人こっそりと苦笑した。





──fin
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