星が紡ぐ運命の糸

 一日の終わり、一仕事終えた開放感に浸りつつのんびりしていると、いつものように運命を司る女神様がやって来た。
……家に神様が友達のように遊びに来る日が来ようとは、冒険者家業を始めた時には思いもしなかったなあ……。
そんなことを思いながら女神様を家の中に迎え入れる。

「ごはんは食べたの?」
「いや、まだ。食べる?」
「うん」

そろそろ夕食を作ろうとしていたところだったのでちょうどよかった。一人だと食事も適当になりがちだが、他に食べる人がいるなら作りがいもあるというものである。
さて、材料は何があったっけ……。


□■□■


 思いがけず二人で摂ることになった夕食と入浴を終え、他愛もない話のお供に温かい飲み物とちょっとしたお茶菓子を用意する。きっかけは忘れたが、いつからかこれを用意するのが定番になった。……おかげで毎回長話になるが、それもそれで悪くないと思っているあたり、私もこの時間が嫌いではないのだなと気付かされる。
まあ……それを女神様に気取られているらしいのは少々癪に障らないでもないが。
今回もそんなとりとめのない話にしばらく興じていると、女神様が欠伸を噛み殺しているのが見えた。

「おや、眠たそうですね」
「ソンナコトナイデス」

などと宣っているが眠たそうな気配を消しきれていない。この機を逃がすわけにはいかない、と素早く立ち上がり、女神様を抱き上げる。

「ちょっと?」
「眠い子はベッドに行きましょうねえ」

抵抗されるが、その程度じゃ逃しはしません。そんな駄々っ子みたいになっている女神様を無理矢理ベッドに乗せ、ついでに私もベッドに横になる。
こういう時大きなベッドは便利である。最近ちょこちょこ遊びに来る“人”がいるのでサイズアップしたのだが、買い替えて正解だった。

「……まだ寝ないわよ」
「嘘おっしゃいな、『眠たいです!』って雰囲気が全身から出てます」
「……そんな雰囲気とか出てないでしょ」

抗弁こそしているものの、やはりどことなくいつものキレがない女神様の頭をわしゃわしゃと撫でる。普段はそれなりに抵抗しつつああだこうだと言い返すのに大人しくされるがままにされているあたり、やはり眠気に負けつつあるな?
ひとしきり撫でたあと、女神様の頭の下に私の腕を滑り込ませた。“寝れない”のか“寝たくない”のか分からないが、どうもこの女神様は寝ることに抵抗感があるらしい。

「人の依代使っている時はちゃんと睡眠取らなきゃダメなんでしょ?」
「……それはそうだけど」
「じゃあ寝ないとね」
「むぅ……」

腰に腕を回し、ゆっくりとしたリズムでぽんぽん、と軽く叩く。それと同時に腕枕にした左手でゆっくり優しく撫でていると安心したのか、女神様がゆっくりと目を閉じる。

「ふふ、えらいえらい。昔から『寝る子は育つ』って言うからね」
「……私はもう育たないわよ」
「まあまあ、そんなこと言わずに」

そんな軽口を叩きながら再びぽんぽんと腰のあたりを叩いていると、いよいよ眠たくなってきた様子の女神様がくっついてきたのでこれ幸いと軽く抱き寄せた。ここでまだ寝ないなんて言ったら許しませんからね?というアピールでもある。

「よしよし。……今日はこの辺で寝ましょ」
「ん……」
「おやすみなさい」
「おやすみ……」


□■□■


 ……ようやく寝入った様子の女神様を見つめながら、起こさないように小さくため息をつく。大体いつも私が耐えきれずに先に寝てしまうので、彼女の寝顔を拝むのが大変なのである。
そして大体寝てないか、寝ても仮眠程度の睡眠時間であることがザラなので分かってはいても心配になる。何かあったら私がお兄様に合わせる顔がないのだが。

(まったく……心配する人間の身にもなってほしいものだわ)

そう内心ひとりごちながら眠っている女神様をもう一度抱き寄せる。……密かに抱いているこの感情を悟られる訳にはいかない。だからこそこうやって、一人静かに感情を吐露できるタイミングを待っていた。
ゆっくりと髪を撫でながら、もう一度静かに、ゆっくりと息を吐く。身の程を弁えないこの感情に、いつか裁きが下る日が来るのだろうか。そんなことを思いながら、私も目を閉じた。





──fin
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