Bystander Journey
レポリットたちとシャーレアンを始めとする人類が共同で計画している月面探査計画が一段落したので、僕は久し振りに地上に戻ってくることにした。久しぶりの地上はまず何よりもこんなにたくさんの「匂い」があったのだな、という感想に尽きる。そういえば終末の折一時期月に滞在していたウリエンジェが似たようなことを言っていた気がするが、なるほどこういうことだったのか……と納得してしまったほどだ。今いるのがトライヨラなのも大きいだろう。見慣れたはずの鮮やかな色彩も、月面帰りには眩しく映る。タコスのチーちゃんで買ったタコスを片手にベイサイドべヴィーを散策しながら、さてどこに行こうかと思案しているとあるものが目に入った。それはトラル旅行公司のトライヨラ支店。そういえばある程度運営が軌道に乗ってからは手伝いに行く頻度も減っていたが、久しぶりにみんなの顔見に行くのもいいな。
そうと決まれば善は急げ。僕は近くにあるエーテライトからコザマル・カ上流に向けてテレポするのであった。
□■□■
こちらも久方ぶりに訪れたコザマル・カはよく晴れており、少しばかり暑いくらいの陽気に出迎えられる。トゥム停船所から月面でもらったパワーローダーに乗り、空路で一路朋友の灯火を目指す。元々は翼なき姉弟の大階段建設時の労働者たちの憩いの場であったらしい朋友の灯火を越え、ひとっ飛びでポガ停船所へ。空からでも旅行公司は今日も賑わっていることが伝わってくる。入り口手前で着陸しそのままパワーローダーを降りて旅行公司の正門をくぐると、僕を目ざとく見つけたユーベリが手を振ってきた。
「ああ、特別顧問!いいところに!」
カウンターに行くと挨拶もそこそこに待ってましたと言わんばかりの一言が飛んできた。あ、これはなんか手が回らなくなってるな?と内心思っていたら、その通りの話が出る。曰く、毎日観光客が訪れて忙しいのはいいのだけれどそのせいでプヌティーたちが疲弊しているのでリフレッシュに連れ出してはくれないかとのこと。承諾してプヌティーたちがいるプールに向かうと、今度はミースジャさんが救世主が来たみたいな顔で僕を見た。どんだけ忙しいんだ。
「いいところに来てくれたわぁ特別顧問さん!ユーベリさんからお話は聞いてる?」
「ええ、大体は」
「よかった、実はお願いしたい仕事がいくつかあって……そろそろお客様を乗せたプヌティーちゃんたちが帰ってくるからその子たちへおやつをあげて労ってほしいのと、前にもお願いしたアルパカちゃんたちとの水遊びの付き添い、あとひとつが観光中のお客様へ親愛の水を披露してきてほしいの」
「それは確かに忙しい。任されましょう」
「ありがとう〜。貴方が請け負ってくれるのならおばちゃんも安心だわ」
胸に手を当てて心底ホッとしたようなミースジャさんの姿に思わず苦笑する。何を隠そう僕、何故かここのプヌティーたちに好かれているっぽいのである。とりあえず引き受けたからには近場で済むやつからこなしていこうということで、建物に沿って併設された桟橋を渡りプールのひとつへ。そこでしばらく待っていると観光客を乗せていたらしきプヌティーたちが帰ってきたので、おやつの準備に入る。プヌティーたちも僕の様子に気がついたのか、そわそわと落ち着かない様子だ。おやつをバケツに入れ、桟橋の端っこに来ると待ちきれないのかプヌティーたちが我も我もとやって来る。
「はーい、みんなにあげるから順番ね〜」
バケツからおやつを一個づつ取り出してはプヌティーたちにあげていく。プヌティーたちがお利口だなと思うのは一個もらったらちゃんと他のプヌティーに場を譲っていることである。プヌティーは社会性の高い動物だとは聞いているが、ここまでちゃんとできるのは中々にえらい。下手したら人間は我先にと奪っていきかねない時あるからな……。一通り配り終え、撫でて撫でてとやってくるプヌティーたちを撫で回して労ってあげたので次の仕事に移る。今度はプヌティーとアルパカたちの仲立ちだ。
□■□■
プールの入り口に戻ってきたら、ミースジャさんが一匹のプヌティーを連れて待っていた。この、他の個体よりちょっと小柄なプヌティーは見覚えがある。
「この子、貴方が来てるって分かったんでしょうね。しきりに行きたいって鳴いてたからこの子と行ってきてくれるかしら」
「おー久しぶりだねえ。元気してた?」
「きゅうぅ」
軽く撫でるとプヌティーは嬉しそうに鳴く。よしよしと撫でつつ背中に乗せてもらい、川沿いで遊んでいるアルパカたちの元へ。アルパカたちもこちらに気付いたのか、ぷうぷう鳴いている。それにプヌティーも返事しているようなので、両者の間でだいぶ意思疎通が図れるようになってきたのだろうか?良さそうな頃合いを見計らってプヌティーに合図を出すと、プヌティーが周りの環境エーテルを操作して水魔法を発生させ、周りに心地よい水の噴射を浴びせかける。──これがプヌティーたちが行う親愛の水と呼ばれるものである。分類的には魔法になるが、ダメージなどはなくどちらかというと原初的な防御魔法に近いのでは、というのが僕の見立て。実際、この水を浴びるといい暑気祓いになるのだ。プヌティーたちはこれを親しい相手に行うとされるところも暑さから身を守るための魔法のように思えるのである。
そんなわけで、アルパカたちも何度か親愛の水による水浴びを行っているからか慣れたものだ。パチャパチャと水辺で楽しそうに遊んでいる姿を横目にアルパカたちの引率をしているペルペル族に挨拶をしてからその場を離れ、入り口に向かう。
「おう、今から出かけるのか?」
呼びかけられた声の方を向くと、ワーケサが厨房から出てくるところだった。
「あれ、調理はいいの?」
「いやな、今お前さんが出てくるのが見えたからよ。プヌティーに乗ってるってことは今からどっか行くんだろ?よかったらイフイカ・ベニノキの種子取ってきてくんねえかと思ってな」
思いがけないところから追加の依頼が飛んできて思わず一瞬頭の中で地図を開く。……確かイフイカ・ベニノキは観光客へのデモンストレーションの場から近いところに生えていたはずだ。
「オッケー、いいよ。いつものように三袋くらいあればいい?」
「おう、助かるぜ。それじゃよろしくな」
ワーケサは手を上げて返事をすると厨房へと戻っていく。やれやれ、仕事が山積みだがそれだけ千客万来ということで喜ばしいことでもある。きゅうん?と問いかけるプヌティーを撫でてやりつつ僕はプヌティーと共に竿網桟橋に向かって出発した。
□■□■
照らされし参道を越えて竿網桟橋に到着すると話に聞いていたロスガル、もといシュバラール族の夫婦が案内人と共に待っていたので簡単な前口上の後に親愛の水を披露。この時水面すれすれにプヌティーを待機させておくとプヌティーが発する水がより綺麗に映えていいのである、というのは僕の密かなこだわり。
「素敵ねえあなた」
「そうだな。いいものを見せてくれてありがとう、大物を釣ったくらいの十分な満足感があったよ」
「いえいえ。楽しんで頂けたなら幸いです」
一礼し、案内人に連れられて観光客が去っていくのを見届けたら追加の種子を取りにプィフ橋へ。この橋と橋の間にある小島にイフイカ・ベニノキが生えているのである。もうここまでくればプヌティーのお仕事もおしまい。ということで降りようとしたのだが、なんだか降ろしてくれる気配がない。
「どうしたの?もう戻って大丈夫だよ」
「ぷゅーん……」
……僕にプヌティーの言葉は分からないが、何やら不服そうなことは分かる。何か不満を感じさせるような出来事があっただろうか?と今までの出来事を思い返してみても思い当たる節はない。しばらく考えてふと思いついたことがあった。
「……もしかして、まだ散歩したいとか?」
「きゅーん!」
正解だったらしい。まあプィフ橋付近は魔物もいないから大丈夫かな……?とりあえず現地には行こう、ということでプヌティーにプィフ橋にまで連れてきてもらう。目的がわかっているのか、今度は素直に降ろしてくれる。
「多分大丈夫とは思うけど、危ないなと思ったらすぐに逃げるんだよ」
「きゅぅっ!」
一応言い含めておいたところ大変良い返事が帰ってきた。これは一緒に帰るって腹づもりだな?内心苦笑しながらイフイカ・ベニノキの種子を取っていると興味津々といった様子でプヌティーがついてくるので風上に立たないようにするのが大変である。プヌティーにイフイカ・ベニノキの種子が悪いのかどうか聞いたことがないので分からないが、もしものことを考えると不用意に触れないのが一番だ。
「よーし、これで十分かな。そしたら帰ろうか」
「ぷゅ〜ん」
川で手を洗ってもう一度プヌティーに乗り、僕たちはポガ停船所への帰路についた。
□■□■
上空からポガ停船所に戻り、先にプヌティーたちのプールへ。思っていた以上に帰りが遅くなったので先にプヌティーを帰そうという訳だ。流石にミースジャさんも心配してるだろうし。
「あら、おかえりなさい。遅かったわねえ」
「すみませんミースジャさん。この子がもっと散歩したいっていうものですから」
「うふふ、大丈夫。追加のお仕事の話はユーベリさんから伺っているし、この子も満足してるみたいだからおばちゃん言うことなしよ」
そう言ってもらえてホッと胸をなで下ろす。それと共にあとでユーベリに礼を言っておかないとなあ、と頭の中にメモしておく。名残惜しそうなプヌティーをひとしきり撫で回して別れを告げてから、イフイカ・ベニノキの種子を渡しに厨房へ向かう。食事処は今食事時のようで、各地の観光から帰ってきた客と案内人たちで賑わっている。
「今大丈夫そう?これ頼まれてたやつ」
「おお、ありがとうよ。こいつは風味付けや肉の色付けに使えて便利だからな……消費量が激しいんだわ」
「スパイスは使うからねえ」
「だろ?……まあなんだ、いつも遠いところまで採ってきてくれてありがとな、助かってるぜ」
「どういたしまして」
渡し終わったのでさて帰るか……とワーケサに背を向けたところで呼び止められる。なんだ?と思い振り返ると腕を組んだワーケサと目が合った。
「そういや特別顧問どのはまだうちの料理食ったことねえんじゃねえか?せっかくだ、まかない作ってやるから食っていけよ」
「えっ」
思いがけない提案に驚いていると、厨房の他のスタッフからも賛同の声が上がる。その流れに目を丸くしたものの、確かにまたとない機会でもあるしな……ということで受諾する。
「よしきた。それじゃ空いてるとこ座ってくれや。腕によりをかけて作ってやるからよ」
「そこまで言うなら楽しみにしておこうかな」
「任せとけ」
ワーケサと軽口を叩き合いながら、僕は適当な席に腰掛けた。
──Fin
そうと決まれば善は急げ。僕は近くにあるエーテライトからコザマル・カ上流に向けてテレポするのであった。
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こちらも久方ぶりに訪れたコザマル・カはよく晴れており、少しばかり暑いくらいの陽気に出迎えられる。トゥム停船所から月面でもらったパワーローダーに乗り、空路で一路朋友の灯火を目指す。元々は翼なき姉弟の大階段建設時の労働者たちの憩いの場であったらしい朋友の灯火を越え、ひとっ飛びでポガ停船所へ。空からでも旅行公司は今日も賑わっていることが伝わってくる。入り口手前で着陸しそのままパワーローダーを降りて旅行公司の正門をくぐると、僕を目ざとく見つけたユーベリが手を振ってきた。
「ああ、特別顧問!いいところに!」
カウンターに行くと挨拶もそこそこに待ってましたと言わんばかりの一言が飛んできた。あ、これはなんか手が回らなくなってるな?と内心思っていたら、その通りの話が出る。曰く、毎日観光客が訪れて忙しいのはいいのだけれどそのせいでプヌティーたちが疲弊しているのでリフレッシュに連れ出してはくれないかとのこと。承諾してプヌティーたちがいるプールに向かうと、今度はミースジャさんが救世主が来たみたいな顔で僕を見た。どんだけ忙しいんだ。
「いいところに来てくれたわぁ特別顧問さん!ユーベリさんからお話は聞いてる?」
「ええ、大体は」
「よかった、実はお願いしたい仕事がいくつかあって……そろそろお客様を乗せたプヌティーちゃんたちが帰ってくるからその子たちへおやつをあげて労ってほしいのと、前にもお願いしたアルパカちゃんたちとの水遊びの付き添い、あとひとつが観光中のお客様へ親愛の水を披露してきてほしいの」
「それは確かに忙しい。任されましょう」
「ありがとう〜。貴方が請け負ってくれるのならおばちゃんも安心だわ」
胸に手を当てて心底ホッとしたようなミースジャさんの姿に思わず苦笑する。何を隠そう僕、何故かここのプヌティーたちに好かれているっぽいのである。とりあえず引き受けたからには近場で済むやつからこなしていこうということで、建物に沿って併設された桟橋を渡りプールのひとつへ。そこでしばらく待っていると観光客を乗せていたらしきプヌティーたちが帰ってきたので、おやつの準備に入る。プヌティーたちも僕の様子に気がついたのか、そわそわと落ち着かない様子だ。おやつをバケツに入れ、桟橋の端っこに来ると待ちきれないのかプヌティーたちが我も我もとやって来る。
「はーい、みんなにあげるから順番ね〜」
バケツからおやつを一個づつ取り出してはプヌティーたちにあげていく。プヌティーたちがお利口だなと思うのは一個もらったらちゃんと他のプヌティーに場を譲っていることである。プヌティーは社会性の高い動物だとは聞いているが、ここまでちゃんとできるのは中々にえらい。下手したら人間は我先にと奪っていきかねない時あるからな……。一通り配り終え、撫でて撫でてとやってくるプヌティーたちを撫で回して労ってあげたので次の仕事に移る。今度はプヌティーとアルパカたちの仲立ちだ。
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プールの入り口に戻ってきたら、ミースジャさんが一匹のプヌティーを連れて待っていた。この、他の個体よりちょっと小柄なプヌティーは見覚えがある。
「この子、貴方が来てるって分かったんでしょうね。しきりに行きたいって鳴いてたからこの子と行ってきてくれるかしら」
「おー久しぶりだねえ。元気してた?」
「きゅうぅ」
軽く撫でるとプヌティーは嬉しそうに鳴く。よしよしと撫でつつ背中に乗せてもらい、川沿いで遊んでいるアルパカたちの元へ。アルパカたちもこちらに気付いたのか、ぷうぷう鳴いている。それにプヌティーも返事しているようなので、両者の間でだいぶ意思疎通が図れるようになってきたのだろうか?良さそうな頃合いを見計らってプヌティーに合図を出すと、プヌティーが周りの環境エーテルを操作して水魔法を発生させ、周りに心地よい水の噴射を浴びせかける。──これがプヌティーたちが行う親愛の水と呼ばれるものである。分類的には魔法になるが、ダメージなどはなくどちらかというと原初的な防御魔法に近いのでは、というのが僕の見立て。実際、この水を浴びるといい暑気祓いになるのだ。プヌティーたちはこれを親しい相手に行うとされるところも暑さから身を守るための魔法のように思えるのである。
そんなわけで、アルパカたちも何度か親愛の水による水浴びを行っているからか慣れたものだ。パチャパチャと水辺で楽しそうに遊んでいる姿を横目にアルパカたちの引率をしているペルペル族に挨拶をしてからその場を離れ、入り口に向かう。
「おう、今から出かけるのか?」
呼びかけられた声の方を向くと、ワーケサが厨房から出てくるところだった。
「あれ、調理はいいの?」
「いやな、今お前さんが出てくるのが見えたからよ。プヌティーに乗ってるってことは今からどっか行くんだろ?よかったらイフイカ・ベニノキの種子取ってきてくんねえかと思ってな」
思いがけないところから追加の依頼が飛んできて思わず一瞬頭の中で地図を開く。……確かイフイカ・ベニノキは観光客へのデモンストレーションの場から近いところに生えていたはずだ。
「オッケー、いいよ。いつものように三袋くらいあればいい?」
「おう、助かるぜ。それじゃよろしくな」
ワーケサは手を上げて返事をすると厨房へと戻っていく。やれやれ、仕事が山積みだがそれだけ千客万来ということで喜ばしいことでもある。きゅうん?と問いかけるプヌティーを撫でてやりつつ僕はプヌティーと共に竿網桟橋に向かって出発した。
□■□■
照らされし参道を越えて竿網桟橋に到着すると話に聞いていたロスガル、もといシュバラール族の夫婦が案内人と共に待っていたので簡単な前口上の後に親愛の水を披露。この時水面すれすれにプヌティーを待機させておくとプヌティーが発する水がより綺麗に映えていいのである、というのは僕の密かなこだわり。
「素敵ねえあなた」
「そうだな。いいものを見せてくれてありがとう、大物を釣ったくらいの十分な満足感があったよ」
「いえいえ。楽しんで頂けたなら幸いです」
一礼し、案内人に連れられて観光客が去っていくのを見届けたら追加の種子を取りにプィフ橋へ。この橋と橋の間にある小島にイフイカ・ベニノキが生えているのである。もうここまでくればプヌティーのお仕事もおしまい。ということで降りようとしたのだが、なんだか降ろしてくれる気配がない。
「どうしたの?もう戻って大丈夫だよ」
「ぷゅーん……」
……僕にプヌティーの言葉は分からないが、何やら不服そうなことは分かる。何か不満を感じさせるような出来事があっただろうか?と今までの出来事を思い返してみても思い当たる節はない。しばらく考えてふと思いついたことがあった。
「……もしかして、まだ散歩したいとか?」
「きゅーん!」
正解だったらしい。まあプィフ橋付近は魔物もいないから大丈夫かな……?とりあえず現地には行こう、ということでプヌティーにプィフ橋にまで連れてきてもらう。目的がわかっているのか、今度は素直に降ろしてくれる。
「多分大丈夫とは思うけど、危ないなと思ったらすぐに逃げるんだよ」
「きゅぅっ!」
一応言い含めておいたところ大変良い返事が帰ってきた。これは一緒に帰るって腹づもりだな?内心苦笑しながらイフイカ・ベニノキの種子を取っていると興味津々といった様子でプヌティーがついてくるので風上に立たないようにするのが大変である。プヌティーにイフイカ・ベニノキの種子が悪いのかどうか聞いたことがないので分からないが、もしものことを考えると不用意に触れないのが一番だ。
「よーし、これで十分かな。そしたら帰ろうか」
「ぷゅ〜ん」
川で手を洗ってもう一度プヌティーに乗り、僕たちはポガ停船所への帰路についた。
□■□■
上空からポガ停船所に戻り、先にプヌティーたちのプールへ。思っていた以上に帰りが遅くなったので先にプヌティーを帰そうという訳だ。流石にミースジャさんも心配してるだろうし。
「あら、おかえりなさい。遅かったわねえ」
「すみませんミースジャさん。この子がもっと散歩したいっていうものですから」
「うふふ、大丈夫。追加のお仕事の話はユーベリさんから伺っているし、この子も満足してるみたいだからおばちゃん言うことなしよ」
そう言ってもらえてホッと胸をなで下ろす。それと共にあとでユーベリに礼を言っておかないとなあ、と頭の中にメモしておく。名残惜しそうなプヌティーをひとしきり撫で回して別れを告げてから、イフイカ・ベニノキの種子を渡しに厨房へ向かう。食事処は今食事時のようで、各地の観光から帰ってきた客と案内人たちで賑わっている。
「今大丈夫そう?これ頼まれてたやつ」
「おお、ありがとうよ。こいつは風味付けや肉の色付けに使えて便利だからな……消費量が激しいんだわ」
「スパイスは使うからねえ」
「だろ?……まあなんだ、いつも遠いところまで採ってきてくれてありがとな、助かってるぜ」
「どういたしまして」
渡し終わったのでさて帰るか……とワーケサに背を向けたところで呼び止められる。なんだ?と思い振り返ると腕を組んだワーケサと目が合った。
「そういや特別顧問どのはまだうちの料理食ったことねえんじゃねえか?せっかくだ、まかない作ってやるから食っていけよ」
「えっ」
思いがけない提案に驚いていると、厨房の他のスタッフからも賛同の声が上がる。その流れに目を丸くしたものの、確かにまたとない機会でもあるしな……ということで受諾する。
「よしきた。それじゃ空いてるとこ座ってくれや。腕によりをかけて作ってやるからよ」
「そこまで言うなら楽しみにしておこうかな」
「任せとけ」
ワーケサと軽口を叩き合いながら、僕は適当な席に腰掛けた。
──Fin
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