捧げ物
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※高遠さんがお姉さん呼びをします。
※血は繋がっておりませんが、苦手な方はご注意下さい。
「凜華お姉さん」
窓の近くに椅子を置き、本を読みながら暖かい風を感じていると、外から聞き慣れた声がした。
「あら、遙一くん」
「こんにちは、凜華お姉さん。今日は具合が良さそうですね」
「久しぶりね。そうなの、今日はなんだか調子がいいみたい。遙一くんが来ると分かってたのかしらね?」
本を閉じ微笑みかけると、彼も同じく微笑み返してくれた。
彼、高遠遙一くんは昔のご近所さんで、実の姉のように慕われてきた。
私も同じく実の弟のように接していた。
彼が引っ越してしまってからしばらく会えずにいたが、ここ数年でまた不定期に会いに来るようになった。
彼の話を聞くと、父親の仕事やマジシャンの修行でヨーロッパにいたらしい。
幼き頃にとても小さかった遙一くんから
「凜華ちゃん、僕遠いところに行く」
と泣きながら言われたが、まさか海を越えていたとは。
私もまだ小さかった故にそういった事情は全く知らなかった。
「嬉しいですね。お姉さんに会いに来た甲斐があります。はい、この間旅行した時のお土産です」
「あらありがとう…!いつも申し訳ないわ。私もらってばっかりで…」
立ち上がり受け取ろうとすると、それをやんわりと制止される。
「お姉さんは体が弱いんですから、座ったままでいいですよ」
「少しくらい大丈夫よ」
再会してから私の体が普通の人より弱いと知り、私がなにかをしようとするとすぐに「私がやりますから」と止めてくる。
「そう言って以前立ちくらみを起こしてたでしょう。ダメです」
「遙一くんはほんと過保護ねえ」
なんて言うと、半ば呆れたようにため息をつき、そしてちょっとだけ真面目な顔で
「凜華お姉さんには長生きしてほしいんです」
そう言われてしまった。
「立ちくらみくらいで早死にはしないわ」
「貴女なら分かりません」
「失礼ねぇ」
全く、彼はどれだけ私のことを病弱だと思ってるのかしら。
確かに体は人より少し弱くてよく風邪を引いちゃうけれど、それにしたって遙一くんは心配しすぎだと思う。
「お姉さんのことを思ってるんです、言うことを聞いてください」
「んー……仕方ないわね…」
仕方なく立ち上がるのをやめると、玄関へまわった遙一くんが部屋に入ってきた。
改めて彼の手からお土産を受け取る。
「どうぞ、きっと喜んでもらえると思います」
可愛らしい包みから出てきたのは、以前読んだ雑誌に載ってたお店の紅茶。
「これ、私が雑誌で読んで気になってたお店の…」
「えぇ、そのお店のローズティーです。今回はそちらの方へ行きましたもので」
「ありがとう!お取り寄せできないって書いてあったから嬉しいわ」
すう、と吸い込むとちょっと独特な匂いで胸がいっぱいになった。
昔は少し苦手意識を持っていたローズティーも、今ではお気に入りの紅茶の1つ。
その雑誌を見ていたのは結構前なのに、よく覚えていたなあと感心してしまう。
「ふふ、気に入ってもらえたようで何よりです。それからもう1つあるんですよ」
「まだ何かあるの?」
「えぇ、シフォンケーキを買ってきていますよ。ローズティーと一緒にと思って」
「本当に気が利くわね。いい時間だし、早速いただこうかしら。遙一くんも一緒にどう?」
本当にこの人は抜かりがない。
至れり尽くせりで申し訳ないくらい。
毎度買ってきてくれるものだから、その度にお金を渡そうとするのだが全く受け取ってもらえない。
受け取ってもらえないならと、こっそりジャケットのポケットや貸した本の中に挟んだりといろいろ試したが、彼にはお見通しのようでいつの間にかテーブルに置かれてたり私が持ってる本に挟まってたりする。
「お誘いは嬉しいですが、せっかくの楽しみが減ってしまいますよ?」
「遙一くんとなら減るどころか増えるわよ。誰かと一緒に食べたり飲んだりできる方がより美味しく感じられるから」
だからお願い、と言うと遙一くんは少し肩を竦めて
「そう言うのなら、お言葉に甘えて」
と言ってくれた。
「決まりね!じゃあ…」
「ではお姉さんはそこにいてください。私が全て支度しますから」
この勢いで立ち上がろうとしたのに、彼は即座に私を制すると「キッチン借りますね」と言い残して部屋を出ていってしまった。
「えー……私にもやらせてよ」
やらせてばかりではこちらとしても申し訳ない。
日常生活を一人で送っているのだからお茶くらい何てことないのに。
キッチンまでついていって手を出そうとすると
「ダメです。お姉さんに何かあったら困りますから。さあ部屋に戻って待っていてください」
ばっさりと切り捨てられた。
気にかけてくれるのは嬉しいけど、でもなんだかなぁ。
「遙一くん少し見ない内にまた過保護になったわね…。私そんなに病弱じゃないわよ?」
「……お姉さん」
「ん?」
「私は貴女のことを本当に心配しているんです。離れていても元気なのか、何事もなく過ごしているのかといつも思っているんですよ」
いつもと違った真面目な表情でじっと見つめられる。
あれ、遙一くんこんなに身長高かったっけ。
それにこうやって見ると美形だなあなんて思ったり。
そんな人がいつも私のためにお土産を買ってきてくれてるのか。というか彼女くらいいそうなのに私に構ってばかりで平気なのだろうか、なんて変な事ばかり頭の中を駆け巡る。
「遙一くんが心配してくれるのは嬉しいけど、いつまでも私に構ってちゃダメよ?いい歳なんだから好きな人や彼女がいるでしょう。その人を大切にしてあげて」
どこかの小うるさい母親のような言い方。
でも本当に彼には幸せになってほしいのだ。
「……大切にしているつもりなんですがねえ。どうも鈍いようで気付いてもらえないんです。どうしたらいいんでしょうか」
なんだ、やっぱりいるのね、大切に思っている人が。
「彼女に気持ちは伝えてるの?」
「いえ、まだ早いかと思って伝えてはいません。でもよく会ってはいます」
よく会っているだなんて、なかなかやるわね。
「そうなのね…。頻繁に会っているのなら相手にもそれなりの気持ちがあると思うわ。もう伝えてみてもいいんじゃない?早くしないと誰かに取られてしまうかも」
彼ならうまくいきそうなものなのに、なぜ何度も会っていながら気持ちを伝えていないのだろう。
よっぽど大切なのか、何か事情があって伝えるのを躊躇っているのか。
「そうですよね…。今度会ったときにとびきりのプレゼントを持って伝えようと思います」
「いいんじゃない?でもあまり派手なものや大きなものは重いから、渡すとしてもシンプルなものでいいと思うわ」
「ありがとうございます。お姉さんの意見参考にしますね」
そう言って微笑んだ彼は、一緒にお茶とケーキを楽しんだ後に「頑張ります」と言って帰っていった。
「ふう…これでお姉さん離れができるかしらね…」
なんとなく寂しい気もするけど、遙一くんだってもういい大人。
私ばかりに構わず、これからは大切な人と一緒に過ごしてほしい。
…でも、たまに顔を見せてくれたらいいなあ。
そう思いながら彼の吉報を待った。
「お姉さん」
いつものように窓辺で椅子に腰かけ編み物をしていると、外から遙一くんの声が聞こえた。
「遙一くん、こんにちは。今回は早いのね、この間来たばかりよ?」
いつもは数ヵ月から長ければ半年近く期間が空くのに、今回はまさかの数週間後の訪問。
「ええ、お姉さんに報告があって」
「あら、例の?」
とにかく入って、と促し彼を部屋に通す。
近くにある椅子に座るように言うもこのままでいいと言われてしまった。
「それで?報告ってなにかしら」
編み物の手を止め、じっと彼の目を見つめる。
「あれから考えたんです。どうやったらいいのかと。気持ちを伝えるには何が一番良くてしっくりくるのか悩みました」
「うんうん」
「考えた結果、私にはこの方法が一番だと思ったんです」
そう言って彼は目の前に薔薇の花束を出した。
「11本の薔薇を、凜華お姉さんに」
赤い薔薇の花束につい見とれてしまった。
「なるほど薔薇の花束なんて素敵ね…………え?私に?」
「はい、お姉さんにです」
にこ、と微笑む遙一くんの表情は冗談を言っているようには見えず。
渡された花束をまじまじと見つめる。
薔薇の花束は本数によって意味が違っていたはず。
確か11本の薔薇の意味は…………
「最愛」
「正解です。愛しています、凜華お姉さん」
***************************
長らく、大変長らくお待たせしてしまったキリリクです。
楓栗さまへ捧げます。
ちょっと体の弱い元近所のお姉さんと高遠さん。
高遠さんが年下なのはこのサイトでは激レアです。
如月が歳上好きなもので…。
でも楽しく書けました、新しい切り口だったので!
ちなみに、時系列的には魔術列車手前くらいです。
7/18/2016 22:57
如月凜華
4/4ページ