捧げ物
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「今度二人で旅行でも…どうでしょう」
「へ?」
「ですから…旅行ですよ。全部抜きにして、行きませんか」
突拍子もないお誘いだったけれど、私には断る理由なんてなかった。
高遠さんと行けるなんてこの上なく嬉しいことだし、何より珍しく目を泳がせてどもりがちな高遠さんなんて、この先見れるかどうかってくらいレアだったし。
「もちろん、ぜひ一緒に行きたいです…!」
「……良かった」
心底ほっとした顔を見て、余程私に断られると思っていたのかと聞くと、こんな誘いをしたことがないから変に緊張したと話していた。
なんて、なんてかわいい人なんだ。
他のことはなんだって涼しい顔でこなしてしまうのに。
「凜華相手だと緊張するんですよ。あなたは私をいつもドキドキさせてくれる、とても素敵な人ですから」
ほら、またそんな事言っちゃって。私の方がいつもドキドキさせられてばかりなのに。
…なんて言うと、また高遠さんに可愛らしい、と言われてしまうから口には出さない。
無限ループみたいなもので、いつもこういうやり取りがあるのに私は懲りずにドキドキする。悔しい。
でもこの人はこの先もずっとそうやって私の気持ちを攫っていくんだ。
「じゃあ…どこに行きますか?」
「ふふ、実はもう決まってるんです。出発は2日後ですから準備してくださいね」
「2日!?明後日ですか!?」
まさかの旅行直前のお誘いに、慌ててバッグに荷物を詰めて2日後に出発する事態になった。
「突然だったからびっくりしたじゃないですか……お誘いは嬉しかったけど」
「すみません。どうしても今日じゃなきゃダメだったんですよ。急いでもらった分ちゃんと凜華を楽しませますからね」
「ダーメ、私だけじゃなくて高遠さんも楽しまなきゃ!急だったけど丁度仕事は休みだったし、せっかくの旅行だから色々思い出作りましょ?」
新幹線で目的地へ向かっている最中、景色を眺めながら会話が続く。
そう言えば最近はずっと仕事に追われて、同じ日の繰り返しをしていて満足に休めていなかったような気がする。
こんなに穏やかな気持ちで景色を眺めたのもいつぶりだろう。
「───まあ、私は最初から凜華の休みを知っていましたがね」
「…抜かりないですね…。ん、だから今日だったわけですね…?」
「計画は完璧を目指さなければ。ねぇ?」
本当にこの人にはかなわないなと心底思った。
でもその完璧なプランでどこに行くのか、今から期待に胸を膨らませながら景色や会話を楽しんだ。
旅館にチェックインをして荷物を預けたところで、早速行きたいところがあると高遠さんに言われた。
「どこに行くんですか?」
と聞いても、
「それは行ってからのお楽しみ。きっと凜華なら楽しめるところですよ」
とだけ返されて場所は教えてもらえなかった。
初めて来る土地、初めて見る景色、建物。
多くのものに目を奪われる。
こんな所があったのかと思うくらい新鮮な気持ちになる。
そして隣には大好きな高遠さん。
こうやって一緒に並んで同じ道を歩けることがどれだけ嬉しいか。
「凜華、随分と楽しそうですね」
「もちろんです。高遠さんと一緒だからとても楽しいですよ、とても新鮮な気がして」
つないでいる手を少しだけ強く握る。
「それは良かった。私も……凜華とここに来ることができて嬉しいです」
すると高遠さんも同じように手を少しだけ強く握り返してきた。
その強さの分彼からの愛を感じられる気がした。
「いつになく高遠さんが素直ですね?」
「おや、私は凜華の前ではいつでも素直のはずですが?」
ちょっとからかってみるとおどけてみせる高遠さん。
いつもと変わらない会話が、いつもとは違う風景の中で交わされる。
「えぇー?そうですか?」
「そうですよ。全く、失礼ですねぇ凜華は。……さて、この坂をのぼれば目的地に着きますよ」
見ると少しだけ急な坂道。
急な上にゴールまでは少し長そう。
「少し急ですがここしか道がなくて…」
「大丈夫ですよ。伊達に高遠さんと一緒に飛び回ってませんよ?私の脚力なめないでください」
「ふふ…さすが凜華。それを聞いて安心しました」
「さっ行きましょ!何なら上まで走りますよ?」
繋いだ手を少し引っ張ると、高遠さんは笑って「そんなに急がなくても大丈夫ですよ」なんて言いながらも歩みを少しだけ速めてくれた。
高遠さんがこんな風に自然に笑ったのを見るのは本当に久し振りだった。
いつもはどこか作ったような、仮面のような笑みを浮かべているから。
自然の中にいるってことも関係ありそうだけど、本当にこの旅行を楽しんでくれてるんだと思うとその分また嬉しくなった。
めいっぱい楽しまなきゃ。
そう思い、急で長い坂を一気にのぼった。
「……あれ?」
確かに建物はそこにあった。
看板を見ると天文館と書いてある。天体の大好きな私のためにここを探してくれていたんだろう。
でも扉は厳重に閉まっていて明かりもついていない。
それに、扉には何か貼り紙がされているようだった。
「高遠さん…」
「……まさか」
高遠さんの顔を見上げると、彼が私の手を離して扉の貼り紙を確認しに行った。
慌ててその後を追いかける。
「……うそ」
貼り紙を見ると
『建物内緊急メンテナンスにつき臨時休館』
と書いてあった。
よりによって今日に当たるなんてタイミングが悪い。
「……あの、高遠さん…」
貼り紙を見てから一言も発しない高遠さんの名前を呼ぶ。
「…すみません、私が事前に確認をしていたら……」
「全然。こういう事もありますって!こればかりは仕方ないですよ、ね?」
すかさずフォローを入れる。
物事を完璧にこなそうとする彼にもそんな事があるのかと一瞬思ったが、彼だって人間だ。
「あ、ほら、さっき駅でもらったパンフレットにハーブ専門店があるって書いてあったんです。良かったらこっち行ってみませんか?自宅で使う石鹸とか、午後のティータイムに飲むハーブティーとか買えるみたいですし!ここからも割と近いですよ?」
珍しく、そしておそらく落ち込んでいる…彼の場合落ち込むという表現より怒りの方が正しいのかもしれないけど、と思われる彼に別の場所を勧めてみる。
「ここはまた今度来ましょ。私、またここに高遠さんと一緒に来たいです」
離れていた手をそっと握る。
予定に狂いが出ることはきっと嫌がる彼だけど、だからといってここで立ち尽くしていても仕方ない。
彼の名前を少しだけ強調して話す。
「ね、遙一さん?」
そう言って彼の顔を覗き込むと、彼はふにゃりと笑って見せてくれた。
よかった、大丈夫みたい。
「ふ……そうですね。また今度来れば良い話ですよね。すみません、あまりにも自分が不甲斐なくて…」
優しく握り返された手。
その手をまた少しだけ強く握る。
「私としては高遠さんの貴重な一面を見れた感じがしてとても嬉しいというか、やっぱり人間なんだなぁって思えたというか」
帰りは下り坂となった道をゆっくりと歩いていく。
「おや、私のことを何だと思っていたんです?」
「うーん……………鬼畜?」
「…鬼畜かどうかは分かりませんが、 凜華 を虐めて泣かせたい衝動は時々あります、かね」
「えっやだなにそれ!」
「ふふ、好きだからこそ壊したくなるときもあるんですよ」
「ええぇ……!こわ、気を付けよう…」
そう言って彼からちょっと距離を置いてみればすぐに近づいてくる。
手を離そうとすれば力強く握られちっとも離れられない。
「やだー離して高遠さん」
「それはできませんねぇ」
「怖いからいやなんですけど」
「実際にやったことはないでしょう?それくらいの理性は……えぇ、多分あります」
「多分って!やだ怖い!やっぱり鬼畜じゃないですか!」
「ふふ」
多分って。この先いつか高遠さんに私は泣かされるのか。私の反応見て笑ってるし。
「ほら、凜華が楽しんでるうちに見えてきましたよ。あれじゃないですか?」
楽しんでないし、目的地に着いたことで話はそらされるし。
本当に高遠さんって人は。
「………あれ、ここあと10分しない内に閉店…」
いざお店の前まで来ると、ドアにかけられている看板には営業時間が丁度あと10分程で終わると書いてあった。
個人でやっているお店のようだったから、閉店時間も早いのかもしれない。
「うーん……ダメかな、さすがに」
「あと10分ですからね、せっかくですけど今回は…」
諦めて帰ろうとすると、中にいたお店の人に呼び止められた。
「お客さんたち、せっかく来たんですからどうぞ見ていってくださいな」
「いえ、でも……」
「いいのよ、気にしないで見ていって?こんなところまで来てくれて嬉しいわ」
優しそうに笑う店員さんに促され、私と高遠さんは少し戸惑いながらお店の中に入った。
「わぁ……」
パンフレットに書いてあった通り、ハーブの優しい匂いが店内に広がっていた。
ハーブがところ狭しと並んでいて、グッズもたくさんあるようだった。
「これいいな…キーホルダーにラベンダーの香りがついてるんだって。あぁ、これもいいな、ラベンダーの香りがする枕!どうしよう、みんな素敵なものばかり…!」
「ふふ、凜華は本当にラベンダーが好きですね」
「すごく好きです。リラックスさせてくれるので……ほら、高遠さんも1つ買いませんか?お揃いで!」
ラベンダーの香りつきのキーホルダーを差し出すと、高遠さんは「お揃い…いいですね」なんて、珍しく素直に受け取ってくれた。
普段なら「いい年をして何を言うのか」って言われて終わりなのに、なんだか違うのは旅行に来てるからなのかな?
「他に欲しいものはありますか?」
「うーん、あとは家で飲むハーブティーを買っていきましょ。カモミールとかジャスミンとか」
両手で抱え込むようにあれこれ持っていると、高遠さんに「持ちますよ」と言われ、素直に渡すとそのままレジまで向かい、あっという間に会計を済ませてしまった。
「ちょっ…あの、私もお金…!」
「いいんです、私に支払わせてください」
財布を出そうにもその手を止められ、結局お言葉に甘えてしまった。
「ありがと」
「いえいえ」
「ほんと、お二人とも仲がよろしいんですねぇ。微笑ましいわ、ご夫婦?」
カウンターの向こうの店員さんが私たちのやり取りを見てにこにこしながら放った「夫婦」という言葉。
「いやいやそんなまだ!」
「あらーじゃあこれからなのね!おばさん照れちゃうわー!」
「あぁっ違うんですそういう意味では…!」
墓穴を更に掘ってはまた墓穴を掘って、の繰り返し。
やだ、顔が熱くなってきた。
「じゃあ彼の方に聞こうかしら。これからご結婚なさるんでしょう?」
「ええ、これから夫婦になります」
今までに見たことのない素敵な笑顔で答える高遠さん。
あぁもう、突っ込みが追いつかない。
「素敵ねぇ、未来の夫婦に来てもらえたなんて嬉しいわ。またぜひいらしてね?今度は"夫婦"として」
店員さんに出口まで見送られ、頭を下げてお店をあとにする。
「もう…高遠さんあんなこと急に言わないでくださいよ、びっくりするじゃないですか」
「ふふ、あの時の凜華の表情といったら。心底驚いた顔をしていましたねぇ」
「そりゃ…!だって、便乗してあんなことっ…」
「でも、そうなりますよ」
「え?」
ピタリと彼の歩みの足が止まる。
「凜華と私は夫婦になりますよ。私がプロポーズすることによって」
「………え?」
「……………近いうちに、ね」
私の髪をそっとかきあげ、そう耳元で囁くと優しげな微笑みをたたえて先に歩いていってしまった。
完全においてけぼりを食らった私の脳内は完全にフリーズ。
確かにいつかは、そうな…………
「………ちょっ、ちょっと待って高遠さん…!」
あわてて彼のあとを追いかける。
私の声に彼は振り返ってそっと私に向かって手を差し出してくれた。
私も手を伸ばし彼の手を取る。
「さあ旅館に戻りましょう。今日はハプニング続きだったのに充実してたのでなかなか楽しめましたよ、ハニー」
「は、はにーってまた恥ずかしいことをさらりと…!…確かに、旅行はうまくいかないもんですね…。でも高遠さんと一緒だったからすごく楽しかったです。また旅行に来なきゃいけない理由もできたし!今度こそ天文館リベンジしなきゃね」
「次はもう少し物事がうまく進むように一緒に計画を立てましょうか。二人ならもっと楽しめる。その時は…きっと」
繋いでいた手を少し持ち上げられ
「ここに誓いのリングもあるでしょうね」
「っ……!」
薬指にそっと口付けられた。
本当にこの人には始終ドキドキさせられっぱなし。
「ふふ。さ、戻ったらお風呂に入りましょう。混浴露天風呂貸し切りですよ」
「露天風呂貸し切り!………待ってください混浴!?」
何度聞いても笑顔のまま一切答えてくれない高遠さんに、そのまま露天風呂に連行されたのは言うまでもなく。
「これからは毎日お風呂に一緒に入りましょうか」
「や!です!!死んじゃう!」
「おや、なにもしていないでしょう?」
「楽しそうにじろじろ見てきました!恥ずかしい!」
「今更何を言うかと思えば…」
「うるさい!」
二人の人生、どうやらこれから始まるようです。
……いいえ、無事に始まりました。
また改めて天文館へ来たときに、プラネタリウムを見終わったあとでプロポーズされて。
確かに次の旅行の時には、私の薬指に指輪がつきました。
幸せな永遠誓うリングが。
Fin
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こんにちは、如月です。
長らくお待たせしました、いっちゃんさまの10万リクです。
旅行甘夢と頂いておりましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。
旅行って事前に色々計画は立てますけどうまくいかないことってありますよね。
私がそんな感じなので高遠さんには申し訳ないですが軽くドジ(というほどでもありませんが)を踏んでいただきました。
急な坂道、昨年訪れた神戸の異人館への坂道を思い浮かべていました。
下り坂となった帰り道、隣を歩いていた友人が雨に濡れた路面に滑り、私の視界から消えたのはいい思い出の1つです。
いっちゃんさまいかがでしょうか?
少しでもアニメ放送前に高遠さん補充できたなら幸いです。
リクありがとうございました!
如月凜華
9/6/2015 1:06