明智健悟
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やっぱり何かおかしい。
駅から自宅へと急ぐ凜華は、背後に迫る何かを感じ取っていた。
「(…誰かにつけられてる…?)」
少し足を早めると、後ろから響く足音も早まる。
「(うそ…!)」
ほとんど誰も通らない、暗い夜道。
でもそこを通らない限り、自宅には辿り着けない。
「(笙悟兄…!)」
凜華は心の中で助けを求めた。
自宅までの道のりが長い。
そう思ったのは初めてだった。
「(どこかで表通りに出て、遠回りして帰ろう…)」
嫌な冷や汗が背中を伝う。
「(何でこんな時に携帯の電池なくなるのよー…)」
携帯をそっと取り出して恨めしそうに見る。
だが、表通りまでもうすぐだ。
表通りに出れば、公衆電話があったはずだから、電話して笙悟兄に迎えに来てもらおう。
そう思った。
だが、ストーカーは凜華の向かう先に気付いたのか、突然凜華に向かって走り出してきた。
「きゃあっ!」
驚いた凜華も慌てて走り出す。
だが、うまく走れず結局捕まってしまった。
「はっ、なしてください…!」
「君、如月凜華ちゃんだよね…!ずっと見てたんだ……君可愛いから僕の家においで…可愛がってあげる…ふふ…」
当人の力は強く、凜華がいくら抵抗しても離さない。
その時、凜華の頭にある光景が蘇り、即座に携帯を握った。
「ってぇ!」
何かが当たった鈍い音と、ストーカー男の叫び声が響く。
凜華はとっさに携帯電話を男の顔面に直撃させて、怯ませたのだった。
「っ!」
その隙に、凜華はすぐに男の腕から逃れ、再び走り出した。
―――。
余程効いたのか、凜華が表通りに出てからは追いかけて来なくなった。
「…ふぅ」
安堵の溜め息をついて、改めて家路へと急ぐ。
「近代化は困るよ…」
携帯の普及で、公衆電話はすっかりなくなっていた。
「しかも笙悟兄今日は遅いんだった…。早く家に帰って電話しよ」
表通りを歩いた後、やっと自宅付近の通りに入った。
「(もう少し…)」
急ぎ足で行くと、誰かが家の前にいるのが見えた。
もしかして、早く帰ってきた笙悟兄…?なら助かった…!!
「笙悟兄っ…!」
「ハーズレー」
「えっ…!」
凜華の自宅の前にいたのは笙悟ではなく、先程のストーカー男だった。
「ふふ、君の個人情報は全部押さえてあるからね?」
男の手が凜華に伸びて体に触れる。
「やっ…!」
「あぁ…凜華ちゃん僕の想像したとおり、いい匂いがするし柔らかいねぇ……!」
本当に怖い時は声なんて出るもんじゃないと、凜華は思った。
とにかく身を守れ、と頭の中で反芻し、響いているだけ。
「そこまでです。婦女子暴行未遂の現行犯で逮捕します」
聞いた事のある単語に顔を上げると、ストーカー男は見知らぬ男性に腕を掴まれていた。
「!?くそっ、刑事か!」
ストーカー男は男性の腕を無理矢理振り払って、そのまま逃げてしまった。
「――逃がしませんよ。…剣持警部。今…」
男性はすぐさま携帯を取り出して、電話で指示を出し始めた。
あまりの冷静で迅速な対応に、凜華はただ圧倒されるばかりだった。
「もう大丈夫です。さっきの男はじきに警察が見つけ出します。おっと…失礼、私は警視庁の明智と申します。以後、お見知りおきを」
明智と名乗る男性は携帯を閉じるやいなや、警察手帳を出して言った。
「あ、ありがとうございます……」
安心しきったせいか体の力が抜ける。
明智が傾いた凜華の体をそっと抱き締めてくれた。
その瞬間、凜華の気持ちが溢れた。
「怖かった…!」
そう言ってしがみつく凜華を明智は強く抱き締め、何度も「大丈夫です」と囁いてくれた。
「落ち着いた所ですみませんが、事情を聞くためにも一度警視庁まで来ていただけますか?」
凜華の背中にそっと腕を回して支え、車へと促した。
…このまま一人で家にいるのも怖い。今警視庁に行けば、もしかしたら笙悟兄に会えるかもしれない。
「…分かりました」
凜華は素直に従い、車で警視庁へと向かうことにした。
「凜華ッ!」
警視庁に入ったとたん、誰かが走って来て凜華を強く抱き締めた。
「わっ、笙悟兄!?」
何とか衝撃に耐えて受け止める。
抱きついて来たのは、凜華の兄の笙悟だった。
明智と同じく、警視庁勤務で、捜査一課の警部である。
「明智警視から聞いた。お前、ストーカーに遭ったらしいな。怖かったろ…?」
「うん…。怖かったけど、明智さんが助けてくださったから」
そっと笙悟を離し、明智を見る。
「ほんとだな。あの場に明智警視がいなかったら、俺の可愛い凜華は今頃あの男に…!」
「笙悟兄!」
笙悟はいわゆるシスコンで有名だ。
昔はそうでもなかったのだが、両親が亡くなってからは凜華と二人でやっていかなければならないという気持ちから、いつの間にか彼をそうさせたらしい。
凜華もそれには慣れたから問題はないが、明智の前でそれを暴露されるのは何となく気まずい。
「大丈夫ですよ。警視庁でも如月警部のシスコンは有名です」
「全然大丈夫じゃない…」
にこにこ微笑む明智に、がっくりと肩を落とす凜華。
「だから貴女が如月警部の妹だと分かったんです」
「なるほど、さっきの無線で笙悟兄が知って抱きついてくる訳だ…って、笙悟兄、離れて」
「あぁ、悪い」
いつの間にかまた抱きついてきていた笙悟に冷たく言い放つ。ぱっと離れる笙悟に、悪そびれた様子はない。
「事情聴取は俺がやっておきます。だから、今日は連れて帰ってもいいでしょうか?俺も今仕事が終わったところなので…」
笙悟の言葉に、明智はすぐに頷いた。
「そうしてください。相当参ってるようなので。凜華さん、これからは夜道を歩く時は気を付けてくださいね」
「はい…。そうします」
しっかり返事をして誓う。
「よし、じゃあ帰るか」
「うんっ」
一度振り返って、明智にもう一度お礼を言って本当に帰路に着いた。
「…なるほど、如月警部が可愛がる訳だ」
二人の姿を見送った後、明智は意味ありげにつぶやいてその場を後にした。
2013/10/13
12:35大幅修正
如月凜華