高遠遙一
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「凜華さん、もう許してくださいよ」
「いーや、です!」
「抱き締めたのと軽く口付けただけじゃないですか。凜華さんを傷つけるようなことは何もしていませんよ?」
「だけって…!傷付いてなかったらいいってことですか!?」
「そういうわけでは」
「もー!」
ルームサービスを利用し夕食を済ませ、お風呂も入りいざ寝るという時の出来事だ。
男の人と同じ部屋で寝たことがないと伝えていたし、ベッドは別々ですよ、とも言ってたのに。
さっきの後ろから抱き締められて寝ていたのは…そこまで嫌では、なかった、とは思うけど。
今もまた「一緒に寝ませんか?」なんて言う始末。今度こそ何をされるか分かったもんじゃない。
「今私が承諾の言葉を発したら、今度こそ何をされるか分からないじゃないですか!」
「何もしませんよ。随分信用がないですねぇ」
「まだ出会ったばかりだし、さっきの行動で誰が信用なんかできますか!」
「おやおや、ご飯を食べたら随分お元気になりましたね」
「ちが、誰のせいだと…!」
何を言ってもめげることなく飄々としている高遠さん。
とことん食えない人だと思った。
「絶対こっちのベッドに来ないでくださいね。来たら枕で殴ります」
「ふふ、なんと可愛らしい」
「人の話聞いてます?」
いざ寝るときになってもう一度高遠さんに念を押す。
高遠さんが窓際、私は壁際のベッドに寝ることになった。彼がベッドに入るのを見て私も自分のベッドに潜り込む。
「本当にそちらには行きませんから。安心しておやすみ」
「……おやすみなさい」
「おやすみなさい、凜華さん」
彼が背を向けて寝るのを確認してから、私も壁の方を向いて目を瞑る。
ここ数日でバタバタしてるのに高遠さんに翻弄されてかき乱されている。自由になれたのは嬉しいけど、こんなんじゃ身が持たない気がする。
何よりも彼の意図が分からない。助けてくれたのは私の状況が不憫だったからだとしても、なぜお昼にあんなことをしていたんだろう。
「(…いずれ分かるのかな)」
焦って考えても答えが見つかるわけでもない。
彼がゆくゆくは話してくれるかもしれないし、私は私でうまく彼との距離をうまく保てばいい。
そう考えていたときだった。
突然部屋の中が一気に明るくなった。
それと同時に耳を劈くような轟音。反射的に布団を頭まですっぽりかぶる。
「(むりむりむり……!)」
突然の雷に、悲鳴を上げないように口を固く閉ざす。
こればかりはいくつになっても慣れない。
屋敷にいたときも天気の悪い日はカーテンをしめきって、音楽やテレビの音量を上げて過ごしていた。
最初は遠かった雷が、光と音の間隔が迫ってきて近づいてきているのが分かる。
そのうち眠くなって寝るか雷が去るのを待つしかない。
ちょっと息苦しいけど、怖い思いをするよりはとより深く布団をかぶってベッドに潜り込んだ。
どのくらい時間が経っただろう。
いつの間にかあんなに荒れていた天気が嘘のように晴れたようで、雷の轟音も光も止んでいた。
「………ふー」
そっと布団から顔を出し小さくため息をつく。
ずっと布団の中にこもりっぱなしだったからか、顔が外気に当たってひんやりとした。
「雷が怖いんですか」
「ひっ!」
突如隣から聞こえてきた声に肩が跳ね上がる。
見ると高遠さんが私の方を見ながら口元に笑みをたたえている。
「失敬。驚かせてしまいましたか」
「ま、まだ起きてたんですか…」
「ええ。凜華さんが怯えているのを楽しく見ていました」
「なんて最低な人なの…」
深くため息をついて見せても、彼の表情は変わらず微笑んだままだ。
「雷が怖いという方は他にもいますけど、こんなに怯えるなんて、と思いましてね。………あ」
高遠さんの言葉と同時かそれより少し早かったか、再び窓の外が青く光った。
それと同時に勢いよくベッドに潜り込む。
少し遅れて、でもかなり大きな音が響き渡った。
再び響き渡る轟音にひたすら耐える。
面白がられてもいい。本当に耐えがたいもので、克服しようとしても無理だったのだから。
「…凜華さん」
「…何ですか」
顔を出さずに返事をする。
多分彼は今私のベッドの近くに来てる。
「こうしたら、少しは違いますか?」
そう言って高遠さんはベッドの中で耳をふさいでいた私の手を握ってきた。
「手を握っていたら少しは怖くないかな、と思ったのですが」
「……」
「嫌ですか?嫌なら手を離します」
握られていた手を離されそうになって、思わず強く握り返す。
「嫌じゃない、から……お願い離さないで」
そっと顔を出して伝えると、彼は満足したような顔で微笑んだ。
「素直で良い子ですね。さぁ、凜華さん目を瞑って。貴女が眠るまでこうしていますから」
ちゅ、と額に軽く口づけられる。
「…高遠さんは眠くないですか?つらいですよね?」
「問題ないですよ。それに、こんなに怖がってる貴女を置いて先に眠れません。気にせずに眠りなさい」
手から伝わる温もりと優しい言葉に、睡魔がゆっくりと近づいてくる。
でも。
「…何もしないなら一緒のベッドに寝てもいいですよ」
「おや。凜華さんそれはいわゆるツンデレというものですか?」
心底楽しそうなのか嬉しそうなのか、微笑みながらそんな事を言ってくるものだから
「やっぱり今のなし!」
と拒否してみたが。
「おやおや」
それでも彼には全く効き目なしなのは分かっている。
もう拒否したところで最初の言葉を忘れてはくれない。
「わっ!」
「では失礼しましょうか」
なしって言ったのにお構いなしにベッドに入ってくる高遠さん。
「取って食うようなことはしませんよ。さあ、ゆっくりおやすみ」
そう言って再び手を優しく握ってくれた。
「……おやすみなさい」
こう言ったら失礼かもしれないけど、意外と高遠さんの手は温かかった。
その後も何度か響く音に身を竦めて、その反動で手を強く握ってしまう事があったけど、高遠さんも優しく、でも強く握り返してくれた。
大丈夫ですよ、と言ってくれているかのように。
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大変ご無沙汰しておりました。
久々の更新は何となくシリーズっぽくなってるお話の続きです。
雷は怖い。光も音も全く慣れず、友人が窓の近くで眺めるのが楽しいと話していた時は狂気の沙汰だ…と思ったくらいに攻略できません。
2021/9/7 0:32
如月凜華
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