高遠遙一
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高遠さんが海外へ旅立ってから数ヶ月。
頻繁でもないけど、連絡が取れるときは取っていた。
時差の関係もあるし、お金もかかるから長くは話せなかったけれど、高遠さんの声はいつ聞いても安心できた。
「早く帰って来ないかなぁ…」
「そう言えば、凜華の彼氏さんもう海外行ってから結構経つよね?まだ帰って来ないの?」
教室の窓から外を眺め、ぽつりとこぼした言葉をクラスメイトの晴香が聞いていたようだ。
「うーん…。もう少しとは言ってたから…多分そろそろなんじゃないかな?」
「遠距離恋愛も大変ねぇ。それでもあなたたちはよく続いているんじゃない?遠距離恋愛はなかなかうまくいかないって聞くし。私も遠距離恋愛なんかしたら寂しくてダメかも…。ましてや海外なんて!」
「私も寂しいよー。でも、電話もメールもしてるし、帰ってきたら真っ先に会いに来てくれるって約束してくれてるし!」
「おーおーお熱いようで?」
ヒューと口笛まで吹いてみせる晴香に、すかさずそんなんじゃないと否定する。
「全く、凜華は照れ屋さんね。あ…やだ、もう塾の時間じゃない?」
「だから、違うってば…!ん、ほんとだ。面倒だなぁ……晴香行こう?」
鞄に荷物をつめつつ話すと、晴香は少し悩んでから
「あー……ごめん、今日は休むわ」
と小さな声で漏らした。
「えっ!?休むの?」
「昨日数学の講師と揉めたんだよね。面倒だから今日はサボる」
「えぇー……」
「凜華にもサボろうって言いたいけど、そういうのできないでしょ?次回は行くからさ、だから今日はごめん!」
「んー……また私怒られるじゃーん…。でも…晴香のサボリは今に始まった事じゃないし…止めても無駄だもんね。じゃあ今日塾終わったら連絡する」
鞄を持ってそう声をかけると、晴香は申し訳なさそうに「ほんっとごめん!」とひたすら謝り倒された。
校舎を出て塾への道のりを行く。
外はまだ暑さが残っており、じわりと汗がにじむ。
「(きっとまた塾長に聞かれるんだろうなぁ、高宮晴香はどうしたー!なんて…)………はぁ」
「あの、すみません」
深くため息をついたところで、背後から声をかけられる。
「?」
振り返るとそこには少し年上くらいの男の人。
「あ、いや…ため息ついていたみたいなので何か悩んでいるのかと。つい声かけちゃいました」
はは、と笑う男の人にすぐに警戒心を覚えた。
「あぁ…でも大丈夫ですので」
知り合いでもないのに、そんな事で今の時代声なんてかけて来る方が珍しい。
そっけなく返事をして少しだけ歩みを早める。
すると彼も同じように私の隣を歩き始めた。
「どこかへ急いでいるんですか?」
「はい」
「友達とお出かけ?」
「塾です」
「そうか、学生さんだもんねー。お疲れさま!」
「……」
「あ、俺のことビビってるでしょ?」
「いいえ」
厄介なのに絡まれた。
淡々と返事をしても全然めげないこの男。
しかも段々と口調が馴れ馴れしくなっていく。
「ねぇねぇ、塾なんか今日くらい休んで俺と少し話さない?」
やっぱりナンパか、こんな時間から。
「お断りします」
「偉いねぇ。しっかりしてる優等生ちゃん」
「……急いでいるので」
「あっちょっと!なんなら俺もその塾まで一緒に行くよ。送っていく!」
「別に来なくてもいいです!」
歩みを早めても早めてもついてくる。
何なの、もう。
「……っちょっと…!」
「いいじゃん、塾に着くまでくらい。ね?」
ぞわ、と嫌な感触が右手から伝わる。
見ると男に手を取られ、手を握られていた。
「やっ、めてください…!」
離そうとしても離してくれない。
振り払おうとしても、繋がれたまま手がむなしく振り下ろされるだけ。
「つれないなぁ。そんなに俺のこと嫌?」
「嫌です。離してください!」
「もうちょっと、もうちょっとだけ!ね?あと10秒くらい!」
「っいい加減に……!」
「ほう…何をしているのですか?」
懲りない男に対しての怒りが沸点に達しそうになった瞬間聞こえたのは、覚えのある、低くて………怖い声。
顔を上げると、そこにいたのは帰りを待ちに待っていた高遠さんの姿だった。
「た、かとおさ…!」
「え…、彼氏いたの?」
「君はこんなにも嫌がっている彼女に何をしているのですか?そんなに痛い目を見たいのなら…お望み通りにして差し上げますがどうでしょう?」
冷たい目で、冷たい声で男を見据え問いかける。
「いや…その…」
「あわよくば私の大切な彼女を連れ出してやらしいことしようとでも?…やはりあなたは一度痛い目を見てもらいましょうかね、さあ」
「っ失礼します!」
その言葉を聞いた瞬間、ぱっと私の手を離し男は走ってそのまま見えなくなってしまった。
「……」
「……」
残された2人の間に沈黙が流れる。
「…あの、たかとおさ…」
ようやく振り絞った声は自分でも不思議に思うくらい震えていた。
高遠さんがいなかったら、ずっとこのままだったんだろうか。
あの手を振り払えず、どうしていいかもわからず。
「凜華」
「…はい」
「ただいま帰りました」
「おかえり、なさい。高遠さん…………ありがとう…」
「この日に帰ってきて良かった。大切な凜華を傷つけられるところでした」
そう言ってそっとあの男に握られた右手を撫でるように両手で包み込んでくれる。
「……よかった」
自分ではああする以外どうしようもできなかった。
今日に限って何で晴香がいないんだろうとか、このまま塾に行ったら本当に解放してもらえてたのかなとか色々考えが巡っていた中、最後にたどり着いたのは
『高遠さん助けて』
その高遠さんが本当に目の前に現れて助けてくれた。
「良かった…」
ほっとして高遠さんの手を握ると、高遠さんも同じように握り返してくれた。
さっきとは違う、握ったときの安心感と温もり。
「凜華…」
目を細めて高遠さんが私の頭を撫でてくれる。
「……全然嫌じゃない、やっぱり高遠さんじゃなきゃダメ」
さっきの男に握られたときには、ぞわりと何とも言えない気持ちの悪い感触しかしなかったけど、今は違う。
「…おいで」
そう言われ、ぎゅ、と抱き締められる。
「本当に、良かった」
背中に回された腕に力が籠るのが分かった。
「そう言ってくれる凜華に、何もなくて良かった。ここまで来て良かった」
いつもの高遠さんらしくない。
さっきみたいな絶対零度の冷たい視線と行動で突き進む彼からは想像もできない、焦りと安堵。
「…会いたかったよ、高遠さん」
「私も会いたかったです。待っててくれてありがとうございます」
「…寂しかったよ」
「…こんなに恋しいと思ったのは凜華が初めてです。同じく寂しかった。しばらく遠出はありませんから、離れていた分側にいますからね」
ここがそこまで大きな道路ではないにせよ、他の人に見られてるかもしれないのにちっとも離れてくれない高遠さん。
でも私自身も離れる気が全くない。
高遠さんに包まれて、背中に大きな手を感じて、肩の辺りに顔を埋めて思い切り息を吸う。
ずっとこれがしたかった。
…なんて本人には恥ずかしくて言えないけど。
「……今日は私と一緒に夕食を食べませんか。そのあとはよろしければ泊まりにきてください、久しぶりに会えたから話したい事がたくさんあります」
電話などではなく、凜華に触れたまま目の前で話がしたい。
そんな風に言われて断る理由なんてどこにもない。
「…塾サボっちゃお」
「おやおや。いつからそんな悪い子に?」
なんて言いながらも嬉しそうな顔をしてる。
「今日くらいはいいでしょ?久しぶりに彼氏に会えたからゆっくりしたいな。夕食はどこに行きます?新しくできたレストランがありますよ!」
「ほう、それは気になりますね。ではそこへ行きましょう」
優しく右手を握ってもらい、持っていた鞄を自然に持ってくれリードしてくれる。
さっきとは全然違う優しい時間。
次の塾は怒られてもいいや、なんて思いながらレストランへと歩き出した。
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遠距離恋愛難しいけど、高遠さんとなら頑張れる
割とマメに連絡くれそうだから生き延びれそう
如月凜華
2020/06/01
01:17