高遠遙一
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「お疲れ様でしたー!」
「凜華さん今日も良かったです!」
「如月さんお疲れ様でした!」
イタリアで行われた如月凜華マジックショーは今日も大成功に終わった。
「みなさんお疲れ様でした。今日もありがとう、また明日からもよろしくお願いしますね」
すれ違うスタッフに声をかけられ、同じように労いの言葉をかける。
裏方として活躍してくれるスタッフがいるからこそ私のステージは更に色がつく。
控え室に行くまで色んなスタッフとすれ違い、その度に声をかけてようやく部屋に入った。
「ふう……」
椅子に腰掛けため息をつく。
ここまで来るまで必死だった。
修行時代を経て、たまたま私の技術を見てくれた人がいて今ではショーを開催できるまでになった。
『凜華さんならきっと素敵なマジシャンになれますよ』
過去に共に修行してきた仲間の一人にそう言われた事がある。
うまくいかなくて、このまま自信をなくしていきそう、と言えば
『凜華さんはきっとショーを開催できるまでになれます。そんな気がします』
『大丈夫、自信をなくさないでください』
そうやっていつも優しく声をかけてくれた。
一緒に修行をし、気が付いたら誰よりも一緒に時間を過ごした人。
私の一番の支えになってくれた人。
今もその言葉があるから頑張れる。
『貴女がショーを開催したら必ず見に行きます』
私も必ず見に行く、そしていつか一緒にショーをやろう、そう言えば
『もちろんです。それまで頑張りましょう』
そう言って笑ってくれた高遠さんは、いつの間にか日本へ帰国し、そして地獄の傀儡師と名乗って指名手配されていた。
「見に来てくれるって、一緒にショーをやろうって言ってたのに…」
いつの間にか好きになっていた彼と、もう再会することはできないだろう。
好きという気持ちすら伝えられないまま彼は私の前から姿を消してしまった。
今でもきっと高遠さんのことを好き、だと思う。
彼のことを思い出せば頑張れる気がするから。
でも確証が持てなくなったのは、彼が犯罪者として追われる身となってしまったからなのか。
今では確かめる術もなく、多忙な毎日に身を沈めるだけだった。
「……ふー」
再びゆっくりと息を吐き出した時に、控え室のドアがノックされた。
「どうぞ」
「お休みのところ失礼しまーす。如月さん宛に先程花束を受け取ったようなんですが…」
大きな花束を抱えたスタッフが控え室へ入ってきた。
「ありがとう、いただくわ」
「メッセージカード付きみたいですよ。別のスタッフが対応したんですが、こちらが受け取ったらすぐにいなくなってしまったようです」
「そう。あとで確認するわね」
失礼しましたーとスタッフが控え室を出ていく。
いつもは開演前にもらう花束だが、終了後に持ってくる人も少なくない。
「綺麗な薔薇……」
深紅の薔薇の花束をもらったのは初めてだ。
思わず見とれてしまう。
その花束に添えられているメッセージカード。丁寧に赤い封筒に入っている。
花束をテーブルにそっと置き、メッセージカードを取り出す。
白いカードに書かれていたメッセージを見た瞬間、花束を抱えたまま控え室を飛び出した。
「ちょっと、この花束を受け取ったのは誰!?」
「ぼ、僕です……」
あまりの剣幕に驚いたのか、おずおずと手をあげるスタッフ。
「いつどこで受け取った…!?どんな人だった!?」
「え?えーと、ショーが終わった少し後です…。確か裏口にいて、声をかけたら如月さんのファンで花束をお渡してほしいと、男性の方に……」
「ありがと!」
ショーが終わってからずいぶん時間が経ってしまっているけど、そこに行かずにはいられなかった。
【如月凜華さん
今日は素敵なショーをありがとうございました。ずっと前から思っていた通り、貴女は素敵なマジシャンです。】
過去にこの言葉を言われた記憶がある。
この花束の送り主はきっと高遠遙一さん。
あの人がここまで来ていたなんて。
勢いよく裏口のドアを開けて外に出る。
夜のため辺りは暗く、街灯が所々照らすだけだった。
「……」
乱れた息を整えながら辺りを見回す。
「さすがにもういないか…」
なんと言っても彼は追われる身。
そんなやすやすと人前には出てこないだろう。
「……ずるいわ」
それでもずるい。
私の前に現れておきながら、直接顔を合わせずにいなくなるなんて。
私は彼の姿を見てないのに、勝手に来て帰るなんてずるい。
「この花束だけ置いていくなんて、ずるいじゃない……」
「狡くてすみません」
つぶやきに対して返ってきた言葉。
そして、それはよく聞いていた懐かしい声。
「…うそ」
「貴女ならきっと気付いて来てくれると思っていましたよ」
振り返るとずっと会いたいと思っていた高遠さんの姿。
相変わらずの整った顔に思わず見とれてしまう。
「なんで…高遠さんなんでここに」
「用事があって来ていたんですが、たまたま凜華さんのマジックショーがあると聞いたもので。チケットも何とか手に入ったので見に来ていました」
とても良かったですよ、と高遠さんは微笑んだ。
その微笑みも見るのも久しぶりだ。声も姿も話し方も、何もかもが懐かしい。
「貴女がショーをやるまでになっていたとは。さすが凜華さん、私の言った通りでしたね。美しいマジックでした」
「……お褒めの言葉をありがとう。まさかあなたは指名手配されているとはね。新聞を見て驚いたわ」
「ええ。…まあ色々ありましてね」
「高遠さんのマジック、好きだったのに」
「……」
「私の前から突然消えたり、かと思えばこうやってまた突然現れたり。あなたはどこまでも自分勝手でずるい人ね。結構ショックだったのよ、あなたとは一番仲良かったと思ってたから。何も言わないでいなくなって、そして気が付いたら指名手配されてるなんて」
彼が黙っているのをいいことに、どんどん話し続ける。
「あなたのマジックをもう見れないことが何よりもショックだった。あなたのマジシャンとしてのショーを見たかったし、一緒の舞台に立ちたかった。そう約束したじゃない…」
「──すみません、あの頃は様々な事情があったんです。貴女にそんな思いをさせてしまっていたんですね」
「……高遠さんがマジシャンの道を諦める事情なんか、」
彼から目をそらし、それ以上先を言うのをやめた。
彼には彼なりの事情が本当にあったのだろう。
それがどうして指名手配されるに至ったのかは分からないけど、彼の人生が変わってしまう出来事があったとしたら、ダメなことだけど私にはそれをとやかくいう権利はない気がした。
「……凜華さん」
「───なんですか、高遠さん」
視線をそらしたまま返事をする。
「…なぜ、あの頃のように呼んではくれないのですか」
その言葉に身を固くする。
「…別に、理由なんて。久しぶりだし」
「貴女は学生時代の友人を久しぶりだからという理由で他人行儀で話すんですか?」
「そんな事はないわ、ないけど」
敢えて呼ばないようにしているだけ。
「…それは、私が犯罪をおかしている人間だからですか」
「……」
「凜華さん」
もう、そんな悲しそうな声で私の名前を呼ばないで。
「違う、いや多分違うけど…!遙一くんって言っちゃったら、あの頃の事思い出しちゃうから…。仲間だと思ってたし………それにあなたは私にとってもっと特別だったから、」
一緒に修行して、仲間ができて。
共に頑張ろうと同じ道を歩んできた。
中には様々な事情で夢を諦めた仲間もいた。
それでも、遙一くんと私は諦めずに頑張ってきた。
いつでも一緒にいた。一番側にいて彼の腕を見てきた。私の技術も見てもらってきた。
「ずるい、あなたばかり……」
「……それは私も同じです」
ぐい、と腕を引かれ、気が付いたら私はすっぽりと彼の腕におさまっていた。
ばさりと音を立てて、せっかくの薔薇の花束が地面に落ちる。
彼の言った言葉と、今の状況に頭が追い付かない。
「帰国したときに、凜華さんとの思い出やこの気持ちは置いてきたつもりでした。もうきっと会うこともないだろうと、そう思っていました」
「……うん」
「けれど凜華さんは夢を叶えた。貴女の姿を見ることはないと思っていましたが、メディア露出が増えてむしろ目にする機会が増えました」
抱き締められたまま、彼の優しい声が上から降ってくるのをただ黙って聞く。
「貴女を忘れられませんでした、凜華さん」
その言葉と共に更に強く抱き締められる。
修行時代でもこんなに近付くことができなかった。
今初めて彼の温もりと香りに包まれ、体いっぱいに感じている。
「……ほんと、ずるい人」
「ずるいのは凜華さんですよ。私の気をどれだけ引けば気がすむんですか」
「なに言ってるのよ、それはこっちの台詞だわ」
「……ふふ」
「……もう、」
お互いに見つめ合って、そして微笑む。
「また今度見に来てよ、遙一くん」
「ええ、もちろん」
「…今度帰国したらお茶しましょ」
「いいお店探しておきます」
「あの、」
「今度デートしましょう。色々話を聞かせてください」
「……私、」
今とってもダメなことしてる気がする。
「気のせいですよ、凜華さん」
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マジシャンとして活躍しているお話でした。
もうこれでもかってくらいあっためてあっためて、いつも通りこっちの方がいいなと思うエンディングが降ってきたので、急遽大幅に書き換えました。
いやー楽しかった。
この目線もいいなと思いました。
高遠さん書くの楽しいです。
御題は「moshi」さまより。
2018/7/21
22:01
如月凜華