高遠遙一
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「凜華って噂の年上の人がいるんでしょ?」
「え?」
「彼氏よ彼氏!」
「え、あぁ……まあ、いるかな」
お昼を食べているときに、突然学生時代からの友達であり、仕事の同僚から男の話を引き出されつい箸の手が止まる。
「まぁ、って。ねえどんな人?見たことないんだけど」
「なーいしょ」
「それ他の人にもそう言ってるらしいじゃない。特徴とか、性格はどんな人なの?写真は?長い付き合いの私にくらい教えてくれてもいいんじゃない?」
少々面倒くささを感じつつ、この質問をどうかわそうか考え始める。
「うーん……優しい人かな。写真は撮ってないからない」
当たり障りのない答えを口にする。間違ってはいない。むしろ正解。
「ふーん…?」
なんだか腑に落ちないような表情の同僚。
しかし構うことはない。これ以上詮索されたくなかった。
「ほら、早く食べないとお昼終わっちゃうよ」
「あっ!やだ、まだ全然食べてない!おやつもあるのにー!」
「置いてっちゃうよー」
「凜華待ってー!!」
どんな人だっていいじゃない。
私はあの人が好きだし、あの人も私を好きだと言ってくれる。
もったいないくらい愛してくれる彼を私も同じように愛したいだけ。
高遠遙一さんを。
数日後。
「高遠さんっ!」
「おやおや、凜華。そんなに慌てて走ってきたら転んでしまいますよ?」
「そ、そんなおっちょこちょいじゃないですっ!遅れてしまってすみません…!」
「とんでもない。私も今来たところですから気にしなくていいですよ」
高遠さんから会えないかと連絡が来て、ある駅の改札口付近で待ち合わせをしていた。
それなのに忘れ物はするし電車に乗り遅れてしまうしで、待ち合わせの時間から少し過ぎてしまった。
「そ、うですか…?」
「えぇ。…凜華、会いたかった」
ふわりと頭を撫でられ、とたんに顔が熱くなった。
「私も、私も会いたかったです…!」
そう言って高遠さんの目を見れば、高遠さんは私にしか見せない優しい顔で微笑んでくれた。
その優しい表情にまたきゅんと胸が締め付けられる。
「本当にあなたという人は…」
「な、なんです…?」
「…可愛すぎます。私をどうしたいんですか」
「べっ別にどうも…!というか、私はただ本当の気持ちを言っただけで…!」
「なるほど。凜華は素直でとてもいい子ですねぇ」
いとも簡単に彼の口から出てくる言葉に、未だに慣れなくて翻弄される。
「ふふ、私の言葉に簡単に翻弄されていてはダメですよ?」
「む、無理ですっ!」
「おやおや、断言するんですか。困りましたね、それではこれから身が持ちませんよ?」
「もう高遠さんたら…!」
でも、そんな高遠さんも好き。
本当に私のことを愛してくれてる高遠さんが大好き。
「さあ、行きましょう。この1ヶ月分の凜華の日常、聞かせてください」
差し出された手をそっと握り、高遠さんのオススメの喫茶店に向かって歩き出した。
「んん、この紅茶おいしい」
「でしょう?凜華ならきっと気に入ると思いました」
「さすが高遠さん…こういうおいしいものを見つけるの得意ですよね」
もう一度カップを口に運び、その味を堪能する。
「凜華のことを考えていると自然と見つけるんですよ。それに、いいところを見つけると真っ先に凜華に教えたいと思いますね」
「そ、そうなんですか…?」
「えぇ。凜華ならきっとこんな可愛い表情で喜んでくれるだろうとか、笑ってくれるだろうとか思うとお店のリストが何ページもできそうです」
カップを片手に微笑む高遠さんが言った言葉は、また私を翻弄するには容易いもので。
「おやおや。また顔が赤くなっていますよ?」
「…どうして高遠さんはそうやって簡単に私のことドキドキさせるんですか。やだもう、反則です」
手で顔を隠して高遠さんに見えないようにすると、その手首をそっと握られた。
「凜華、顔を隠さないで。可愛い顔を見せてください」
「やだ、今めちゃめちゃ顔が熱いから真っ赤になってますもん、きっと。そんなの恥ずかしい…!」
「真っ赤になってる凜華も可愛いですよ。私が言ってるんですから、ほら」
「ばか、やだ、ばかばか」
謎の攻防戦が始まり、必死に守って見せるけど、結局負けるのは私の方。
ゆっくり手を退けるとまたあの優しい微笑みで私を見つめてくれてる。
「……ほら、私の大切な可愛い凜華です」
「…いじわる」
「意地悪するのは好きですね、凜華は私好みのいい顔をしてくれますから」
そう言って私の指にそっと口づける。
ここをどこだと思ってるの。ほら、周りの人たちもチラチラ見てるじゃない。
「ふふ、すみません。つい」
「もう…!やめてくださいっ」
「そろそろ凜華には慣れていただきたいものですが。貴女には何度やっていると?」
「あああもう言わないで!」
せっかくおいしい紅茶の飲める喫茶店、ここにはしばらく来れないかも。
「───あれ、凜華?」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「あ、ほらやっぱり凜華だ!こっちまで来てるなんて珍しいね?」
顔を上げると、そこにいたのはあの同僚だった。
「あー……うん」
「あら、やだー彼氏さんと一緒だったのね!初めまして、凜華がいつもお世話になっています」
まさかこんなところで出くわすなんて。
いつも使う駅からはいくつも離れているから大丈夫だと思っていたのに。
「ほんと、凜華がお世話になってます……高遠遙一さん?」
その瞬間、私の肩が跳ね上がり、高遠さんの表情が少し険しくなった。
「なん……で」
「ごめんね、凜華。少し前から知ってたの、凜華がこの人と一緒にいるって」
同僚は笑っていたけど目が笑っていなかった。
「犯罪研究のサークルにいたのもあって、見た瞬間すぐに分かったの。でも凜華は言ったところでこの人と別れないでしょう?だから、申し訳ないけどこっちはこっちで手を打つことにしたんだ」
「ふふ…随分用意周到ですね。ここにいる人たちが全員あなたの関係者ですか」
その言葉を聞いて慌てて周りを見渡すと、みんながこちらを見ていた。
ここに来ることすら最初から知られていたのか。
「高遠さ「凜華」
この状況をどうしたらいいのかと高遠さんを見ると、いつになく真剣な眼差しで私を見ていた。
「貴女次第です」
その言葉で私は今この場で選ばなければならないことを察した。
高遠さんと離れるか、それとも………。
以前から少しずつ考えていた。
ずっとこのまま穏やかで密やかな時は続かないと思っていた。
そしていつかこんな時が来ると思っていた。
もしその時が来たとき、私はどうしたらいいのか、どうしたいのか。
でも答えはいつも同じだった。
「凜華、聞いちゃダメよ。もうこれ以上そっちに行ったらダメ」
同僚が冷静に、でも必死に私を止めようとしてる。
ごめんなさい、もう戻れないし戻るつもりはないの。
「私は高遠さんの隣にいます、ずっと」
その答えに、高遠さんは満足したように微笑み頷くと、ゆっくりと立ち上がった。
周囲が少しだけざわめく。
「凜華」
名前を呼ばれ、すぐに席を立ち彼の隣へ駆け寄る。
「私も貴女がいなければ困ります」
耳元でそう囁かれつい嬉しくなり頬が緩む。
「凜華!そいつの言うことを聞いちゃダメだってば!」
「ごめんね、私は世間でどんな風に言われていても、どんな人か分かっていても高遠さんが好きなの」
狂ってる、とどこからか聞こえたような気がした。
狂っててもいい。私はこの人と生きたい。
狂ってるならこのままずっと狂ったまま生きていきたい。
「凜華、私の合図で走ってください。一気にここを抜けます」
そう囁かれ、無言で頷く。
さあ、もうすぐお別れだ。
「では諸君、ショーはこれまで。Good luck.」
その瞬間目の前が見えなくなり店内は混乱。
私も前が見えなくなったけど、高遠さんに手を引っ張られ必死についていく。
目を開ければいつのまにか外に出ていた。
不思議そうに首をかしげてこちらを見ている人たちの間を一気に駆け抜けていく。
そのうちどこからかサイレンの音が聞こえてくるようになった。
きっと私たちを追っているんだろう。
後ろからは止まれ、なんて制止する声も聞こえてきた。
長距離を走るのは得意ではなかったけど、今だけはずっと走れる気がした。
向かい風で少し苦しいし、風が冷たいけど握られた手から伝わってくる高遠さんの熱で寒くはなかった。
これでずっと高遠さんと一緒にいられるんだ、そう思ったらなんだか笑いが込み上げてきた。
「おや、なに笑っているんです?」
私が笑っているのに気がついた高遠さんが少しだけ振り返った。
「なんだか楽しくて、つい」
「おやおや、この切羽詰まった状況を楽しめる余裕があるとは」
正直に伝えると、高遠さんは少しだけ呆れて、でもどこか嬉しそうにしていた。
「だって、高遠さんとこれからずっと一緒なんだなって思ったら楽しくて嬉しくて」
もうあなたと一緒にいる事を隠さなくていい。
それが嬉しかった。
それが世間としてはいけないことだとしても。
「凜華」
ある小道に入り、一旦息を整える。
「もう一度聞きます。今しかもう戻れません。貴女は私と来ますか?」
「はい」
何の躊躇いもなく返事をする。
「もう家にも戻れません、その鳴り止まない携帯電話も手離していただかなければなりません」
言われて携帯をポケットから出すと、確かに様々な通知がたくさん来ていた。
走るのに夢中で気付かなかった。今だってずっと誰かが電話をかけてきているようで、メロディーがずっと流れ続けている。
「凜華はそれでもいいですか?」
やはりどこか引け目を感じているのだろう、私に今まで一緒に行こうとは1度も言わなかったのもそれが理由なんじゃないかと、薄々は思っていた。
「………」
ならばと、握りしめていた携帯電話を近くにあったゴミ箱の中へ投げ捨てた。
「凜華…!」
「いいんです、これで。私の覚悟はそんな甘いものじゃないですよ?ずっと前から決めてたんですから」
「……分かりました」
高遠さんがそのまま私の体を引き寄せ抱き締めて囁いてくれた言葉は
「ならば、どこまでも私と共に」
「もちろんです、高遠さん」
再び手をつなぎ、誰の手も届かない遠くへ行くために走り出した。
あなたがいればなにもいらないの。
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大変お久しぶりです、如月です。
高遠さんと駆け落ちするお話でした。
こんなパターンもあるだろうなと思って書いてみました。
あなたなら高遠さんと一緒に行きますか?
彼のために全て捨てて行けますか?
ちなみに如月はついていくと思います。
大変だろうけど、ずっと一緒にいられる手段を取りたいですね。
みなさまはいかがでしょうか?
2016/2/6
19:42
2018/4/1
21:24一部修正
如月凜華