高遠遙一
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日本に着いた私たちが最初に向かった先は、滞在するためのホテルだった。
急にイギリスを発ったことで時差ボケの対策ができておらず、体が重い。
それゆえ眠気や疲労感もある。
どうやらあらかじめ高遠さんはホテルを予約していたらしく、問題なくチェックインすることができた。
「すみません、ホテルなんですが予約はしていたものの、ほぼ満室で一室しか取ることができなかったんです」
「え」
いきなり男の人と2人きり?
さすがにそれは…と少し体が強ばる。
「ふふ、ご安心を。部屋は1つですがベッドは別々ですよ」
部屋に入ると、高遠さんの言ったとおりベッドは別々だった。
その光景にほっと胸をなで下ろし、ベッドに腰を下ろす。
「おや、そんなに嫌でしたか?」
「あ、いや、嫌とかじゃなくて…!その、男の人と同じ部屋で、しかも1つのベッドで寝たことがないのでつい…」
「あぁ、なるほど。確かに貴女は籠の中の小鳥でしたから…それは緊張しますねぇ」
「かごの…?」
「いえ、こちらの話ですよ」
彼はくすくすと笑いながら羽織っていたコートをクローゼットにしまっていく。
という事は、きっと彼は女の人と寝たことはあるのだろう。
明らかに年上だろうし、端正な顔立ちから想像は難くない。
であれば…当然…いや、ダメだそんな事を想像しちゃダメだ。
それ以上先を考えるのは止そう。相手に失礼だ。
あらぬ方向へ向かいそうな考えを振り払い、ぼんやりと外を眺める。
今はお昼時。
窓の外の下では車が行き交い、たくさんの人が歩いているのだろう。
イギリスとはまた違った人や車の流れに、遠い昔を思い出す。
あれはまだ、私が小さい頃の話。
人の波に必死に抗って歩いたスクランブル交差点、大きな広場、しっかりと母親の手を握って出かけたデパート。
あれからもう十数年の時が流れた。
「久しぶりに日本に来たなぁ…。高遠さん、今の日本はこんな感じなんですね。以前と風景は違うけど懐かしいです」
「懐かしいですか、それは良かった。日本に連れてきた甲斐があります。しかし、見慣れないものの方が多くてつらくはないですか?」
「大丈夫です。最初は大変ですけど、これでも色んな国を歩いたことがありますから。すぐに慣れます」
「さすが凜華さんですね。安心しました」
そこで少し会話が続いたが、高遠はやることがあるからとパソコンと向き合ってしまった。
特にやることもなく、体のだるさも抜けないため、ベッドの上でゴロゴロしながらテレビをつけてみる。
見たことないお笑い系の番組、久しぶりに聞く日本語だけのニュース。
いろいろチャンネルを変えて見るものの、イマイチ面白くない。お昼時のテレビなんてこんなものか。
なんて思いながら見ていると、その内時差ボケからなのかどっと睡魔が押し寄せてきた。
頑張って粘ってみるがどうもまぶたが重く上がらない。
今から寝るのは良くないと言われていても、もうまぶたが平和条約を結びそうになっていた。
ほんのちょっとだけ…、と睡魔に素直に身を委ねてみる。
「(さすがに疲れちゃったみたいだし……。ちょっとくらい、いいよね…)」
そのちょっとだけ、から一気に夢の中に引き込まれ、深い眠りの中へと落ちていった。
「さて、ようやく終わりました。凜華さん、軽く外に散歩でも…」
高遠がデスクから顔を上げ凜華の方を振り返ると、凜華はベッドの上で丸くなり熟睡していた。
「…時差ボケと疲労、ですかね」
凜華の眠るベッドに静かに腰掛け、頭を撫でてやる。
「夕食まで時間がありますし、このまま私も眠らせてもらいますか」
ちょうど凜華の背中の方に自分が眠れるほどの余裕がある。
高遠は凜華を起こさないように静かにベッドに上がり、後ろから手を回して抱き締める。
「おやすみ、凜華」
ちゅ、と頬に口づけ、高遠もそっと意識を手放した。
数時間後。
「んー……」
小さくうなり声を上げながら、ゆっくりと目を開く。
カーテンが閉まっている訳でもないのに、部屋の中が暗い。
ずいぶんと眠ってしまったようだ。
「やば、ちょっとだけと思ったのに…!」
部屋の中が暗いと言うことは、高遠さんは部屋にはいないのだろうか。ならばどこに行ってしまったんだろうか。
それを確認するため、慌てて体を起こそうとすると、腰の辺りで何かが引っかかって動かせない。
「…?」
そっと後ろを振り返ると、小さく寝息を立てて眠る高遠さんが目の前にいた。
そして自分の腰の辺りには彼の腕。
どうやら後ろから抱き締められる形で眠っていたらしい。
「!?」
どうしてこうなってるのか検討もつかなかった。
眠る前は自分の目の前にいたはずなのに。
確かに彼はパソコンと向き合っていたはず…。
全然気が付かなかった。
凜華は必死に自身の思考回路を辿ってみるが、いつ彼が背後に来たのかは分からなかった。
「(てことは、私が寝てる間に来たってこと、だよね……)」
ひたすらぐるぐると思考を巡らす。
きっと、きっと何もされてないはず。
……ちゃんと服も着ているし。
「……どうしよう……」
とりあえずここから抜け出したい。
…が、今動いたらきっと彼は起きてしまうだろうか。
再びベッドに横になったまま考える。
せっかく気持ちよさそうに眠っているところを起こしてしまうのは可哀想だ。
「うう…でも…」
でもお手洗いにも行きたい。のども渇いたから水も飲みたい。
そっとこの手を外してベッドからすぐに下りれば大丈夫かもしれない。
そう思い、腰に回されている腕にそっと触れる。
「……ん」
「(起きる…!?)」
動きを止めてそのまま黙っていると、まだ起きていないらしく小さな寝息が聞こえてきた。
ほっと安堵のため息を小さく吐き、再び腕に手を添える。
その瞬間、腰に巻き付いている高遠さんの腕に少し力が籠もった。
「ひゃっ…」
「もう離しません……」
ぽつり、とそんな言葉が聞こえた。
「た、かとおさん…?」
今のはどういう意味…?
そっと彼の顔を伺うと
「……なんだ、寝言か…」
彼は先程と変わらず眠ったままだった。
どうやら寝言だったらしい。
つい私のことかと思って少しドキドキしてしまった。
もう離しません、なんて一体誰に向けた言葉なんだろう。
「──いわゆる元カノ、とか」
きっととても素敵な人なんだろう。
こんなかっこいい人に離しません、なんて言わせるなんて。
その時、彼が低くうなりながら目を覚ました。
「お、はようございます高遠さん…」
「……おはようございます、時間的にはこんばんは、が正しいのでしょうかね…」
何食わぬ顔でベッドの横にあるデスクの時計を眺める高遠さん。
「んん、もうこんな時間ですか。少し寝過ぎましたね…そろそろ夕食をとりましょうか。ルームサービスがありますが、何を食べたいですか?和食洋食どちらもありますよ」
この状況に私は混乱しているというのに、何事もなかったかのような振る舞い。
そしてこの間にも私たちはベッドに横になったままで、彼の腕は私を捕らえたままだ。
「……高遠さん」
「はい、なんでしょう」
くるりと体勢を変えて、彼と向かい合わせになる。
「…私が寝ている間、何かしました?」
そう尋ねると彼は少し考え込み、そして
「そうですねぇ…。おやすみのキス、くらいはしましたが?」
「…え!?」
「軽く、ですよ。ふふ、向こうでは普通にやるでしょう?」
くすり、と笑った彼の笑みは暗がりの中でも近さゆえによく分かる。
その表情はとても妖艶で、私の心を掴んで離さない。
今は普通何でそんな事したんですか、とかセクハラです、とか怒るところなのに、何故か怒る気になれない。
怒るどころか、むしろ変な恥ずかしさが勝りそれどころではない。
「そ、そうですけど…!でも…!」
「───それと」
「?」
「もう離しません……は、貴女のことですよ、凜華さん」
「なっ…えぇ…!?」
さっきのは寝言じゃなくて、もうあの時から彼は起きていたということ?
じゃあ私が必死に彼に気を遣っていたことも、元カノかな、なんて呟いたのも全部……。
「最初からずっと起きていて黙っていたんですね…!?」
「あまりにも可愛らしかったので、つい虐めたくなったというか。初々しい凜華さんの反応、楽しませていただきましたよ」
「もう!」
軽く口を膨らませてみせると、高遠さんはすみません、と肩をすくめてみせる…も、
「その表情もたまらないですね…。実に可愛らしい。どんな表情でも貴女の魅力は損なわれない」
「…!!」
こっ、この人はさらりととんでもないことを…!
とても反省しているようには見えない。
……いや、ちょっと待って、今高遠さんは私のことを離さないって言ったって…。
私のこと……。
とたんに体がかっと熱くなった。
「ふふ、まさか貴女を抱き締めたままの私が離さないと言ったことを、別の女性のことだと思うとは…。まさかの斜め上の発言に吹き出しそうになりましたよ」
「あぁあ……!だって寝言だと思ったから誰かのことを思い出しているのかと…!!」
恥ずかしさから、つい手で顔を覆い隠す。
「凜華さんを目の前にしてどんな女性を思い出すと言うんですか」
「~~~私には分かりませんっ!」
この人、完全に私のこと弄って遊んでいる。完全に彼のペースだ。
「だから、もう少しこのままでもいいですよね…?私は、凜華さんのことを離したくありませんので」
強調される私の名前。
私のことを離したくないと、彼ははっきり言った。
それがどういう意味で放たれた言葉なのか、知るのはまだもう少し先の話。
「え!?いやあの私ちょっとお手洗いに…!」
「少しくらいいいじゃないですか。……ん、なんならここで「しません!!」おやおや」
とにかく、私はとんでもない人に攫われてしまったようだ。
Fin
****************
みなさまこんにちは。高遠さん夢がはかどっている如月です。
おそらく続きます。
個人的にこのお話は好きなもので、色々練っております。
何年越しの続編だろう…御題サイト様で攫ってあげる、というタイトルを見てからとんでもなく妄想が捗ったのを思い出します。
なぜヒロインちゃんのことを攫ったのか、まだ明確な理由を提示していないし、ヒロインちゃんの中ではまだ高遠さんへの気持ちが遠いもので。
なんとかくっつけたい。それまでは高遠さんのじらしプレイの連続(?)な気がしますが、よろしければどうぞお付き合いくださいませ。
09/1/2014
12:42
2018/4/1
21:18一部修正
如月凜華