高遠遙一
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふと、思い出す。
少し前まで目の前にあって、このまま続くと思っていた日常を。
いや、思ってしまっていた日常を。
ぼんやりとした気持ちを抱えたまま、ふらりと行き先も決めず外へ出た。
どこかの店に入るでもなく、ただ歩き続ける。
空は自身の気持ちが反映されているかのような、どんよりとした雲に覆われている。
なぜ、今こんなにも満たされないのだろう。
仕事はうまくいっている方だ。
コーディネーターとしてやるべきことはやれた。時々、最後が美しくなかったのが唯一消化不良を起こしているだけで。
でもそれも今に始まった事じゃない。
名探偵君たちに阻まれることだってある。
そんな事でいちいちこんな気持ちにはならなかったのに、なぜ。
そんな気持ちで海外のマジックショーに参加したものだから、集中できずにマジックに見せかけてショーを抜け出してきてしまった。
「(何をやっているんだ私は……)」
そんなことを考えながら歩いていると、渡ろうと思った目の前のスクランブル交差点の信号が赤になり、人の流れも合わせて止まった。
それに倣い、自身の歩みも止める。
「……」
その時なぜかふと彼女の顔が頭を過ぎった。
獄門塾で英語を教えていた中で、如月凜華はとても優秀な生徒だった。
授業態度も真面目で、終われば必ず質問に来ていた。
内容も的確で、本当に彼女は英語や外国が好きなのだと思った程だ。
留学すればもっと伸びる。そのためにもっと教えてあげられることを教えてあげたい。
いつの間にかそういう気持ちが芽生え、親身になって英語を教えていた。
だが、それ以前に私にはやるべき事があった。
それは『コーディネーター』としての仕事。
彼女のことは二の次なのだ。
あっという間に時は流れ、合宿で事件が起き、金田一君と明智警視にトリックを見破られてその場から立ち去った。
それからだ。
腑に落ちない生活が始まったのは。
仕事をしてもしても、満たされない。何をしていても常に何かが足りない。
そんな事を考えている内に、横断歩道の信号が青になった。
一気に交差点には人が溢れる。
人にぶつかりそうになりながらも、反対側へ渡るために歩き出す。
「───?」
見覚えのある後ろ姿。
もしかして、凜華なのだろか。
……顔が見たい。本当に彼女なら、一言で良いから話したい。いや…話せなくても良いから顔だけ見たい。
急にそんな気持ちが湧き出し、はやる鼓動をおさえながら人の間をすり抜けていく。
だが、凜華と思われる人はどんどん先へと進んでいく。
「ちょっと…待ってください…!」
いつの間にか発せられた声も虚しく、彼女は人混みに紛れ姿が見えなくなってしまった。
横断歩道を渡りきったところでキョロキョロと凜華がどちらへ向かったのが探すが、一度人混みに紛れてしまった彼女の姿は二度と見つけることができなかった。
「……は、何必死になってるんだ…」
自嘲気味に呟き、再び行くあてもなく彷徨う。
何で、何で凜華だと思っただけでこんなにも必死になっているんだろうか。
顔が見たいとも、話したいとも思った。その時だけ、少しだけ気持ちが晴れたような気もした。
あぁ、そうか、彼女が足りないのか。
原因が分かったとたん、重い足取りは一気に軽くなった。
ならば、やれることは一つ。
覚悟の上で彼女に会いに行けばいい。
そこではっきりとけじめをつけてくればいいわけだ。そうすれば、もうこんな気持ちにならなくて済む。
何でこんな単純なことに気付かなかったんだろう。
何でこんなにも彼女に惹かれているのだろう。
そんな事、今はどうでもいい。
そんな事を考えたって惹かれている事に変わりはない。
「……ふふ」
つい口から笑みが零れた。
あぁ、自分はこんなにも凜華に会いたいのか。
「(…今日は塾がある日ですね…)」
日時を確認し、その足で獄門塾へと向かった。
愛しい凜華を、この手で抱き締めるために。
「高遠、さん……」
「お久しぶりですね、如月凜華さん」
**************
高遠さんサイドの「そう、貴女に」でした。
ちょっと細かいところの設定がズレていますが、元々単体で書こうと思ったものがアナザーストーリーにできると分かってしまったもので…。
なるべく合わせられるところは合わせましたが、それ以外はあまりお気になさらず…!
珍しく高遠さんサイドを書いてみました。これはこれで楽しかったです。
また書いてみたいかも。
2014/5/25
11:25
2018/4/3
1:22一部修正
如月凜華