高遠遙一
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ゆっくりと進む船の上に、満天の星と流れ星。
甲板で1人海を眺めていた凜華は、ふと空を見上げた。
「今日は流星群がピークだったんだ…」
今までに見たことが見たことがないくらいの数の流星群。
次第に気が付いた人たちが甲板へ出てきた。
「わあ…。ほんと今日は天気がよくて良かったわね」
「ママ!流れ星がいっぱいだよ!お願い事しなきゃ!」
「今日乗り込んで正解だったな。君に見せることができて良かったよ」
様々な人の、様々な会話が聞こえてくる。
「見せることができて良かった、か…」
私がこの流星群を一番見せたい人は、今はいない。
きっとどこかで同じように見上げているかもしれないし、仕事に夢中で見ていないかもしれない。
「……」
船はゆっくりと進む。
甲板へ出てきた人たちも次第に寒さの為か、自室へと戻り始めていた。
「…また1人になっちゃった」
とうとう1人になった凜華。ぽつりと呟いた言葉はあまりにも広い暗い海に、あっさりと飲み込まれてしまったような気がした。
「……おや、お客様。こんな場所で流れ星でも眺めていたんですか?」
見回りの船員が凜華に声をかけてきた。
「そうなんです。今日は特に綺麗だったから」
「そうでしたか。しかし、かなり冷えますからなるべくお早めにお戻りくださいね」
「親切にありがとう。気を付けます」
船員はにっこりと微笑むと、再び見回りを始めた。
「……」
どういうわけか、気持ちがぐるぐるして落ち着かない。
断言できるほどではないが、何かが迫るような感覚がする。
「…なんだろ……わっ!…?」
不意に多いかぶさる何か。
慌ててかぶさったものを見てみると、タオルケットだった。
「驚きました?」
「……あ、さっきの」
見ればさっきの見回りをしていた船員。
「失礼。寒そうにしていながらなかなか戻られないようでしたので、フロントからお持ちしました」
「あ…りがとうございます。よく見ていますね」
確かに寒くてずっと腕をさすっていた。
この船員さんはちゃんと気が付いて気遣ってくれたようだ。
「いいえ。それが私たちの仕事ですから。───そんなに考え込んで、ご主人と喧嘩でもされたんですか?」
先程のように、にっこりと笑って冗談ぽく言う船員。
「旦那なんていませんよ!…そんなんじゃないです。私の勝手な気持ちで一緒にいた人の場所から出てきちゃいました」
「おや、それはまたどうして?」
「んー…。それがその人のためになるから、かな?」
「その人の為、ですか…。優しいんですね」
「いえ、勝手な思い込みの部分もありますからそうでもないですよ」
2人はいつの間にか話に夢中になっていた。
「きっと今、その人は貴女を必死に探しているんじゃないんですか?」
ずっと一緒にいたんですよね、と聞かれ、
「それなりに長いですけど、でも…探してるだけの時間は彼にはないですから。いないならいないで彼は問題なくやっていけますよ」
「またまた。貴女は彼にとって、大切だったんじゃないんですかね?」
なぜ、彼は貴女と一緒にいたか考えたことあります?
……確かに、考えたことはあるにはある。
でもそれは私が勝手についていきたいと言ってついていっただけだから、高遠さんの気持ちとしては…やっぱりお荷物が増えた感覚だったんじゃないだろうか。
「…私には、分からないわ」
若干うつむき加減に紡ぎだした言葉はさざ波にあっさりと飲み込まれた。
「…何故分からないんです?」
「!」
慌てて顔を上げる凜華。
聞き慣れた声は案外近くから聞こえてきた。
「探しましたよ、凜華」
船員のなりをしているが、それは紛れもない、高遠遙一本人だったと気が付いた。
「え…何で、どうして…」
あまりに唐突すぎて、うまく言葉が出ない。
高遠さんが目の前にいる?
いや、その前に、私を探してた?
「どうしてって、凜華を探しに来たからです」
「だって、」
「あぁ、手紙なら読みましたよ。すぐ捨てましたが」
「えぇ!?」
「……全く。私に黙って身勝手な行動を取るとは、許しがたいですね、凜華?」
鋭い目で射抜かれた凜華はそのまま動けなくなってしまった。
「(高遠さんが…怒ってる)」
「ご、めんなさい……」
「……」
素直に謝ったが、高遠さんからの返事はない。
いつもなら「仕方ないですね」って言ってくれるのに。
「──弁解があるなら聞きましょう」
「……弁解なんてないです。私が独断でしたことですから」
言い訳はしない。
高遠さんの手を煩わせた事にかわりはないから。
「──なら逆に質問しますから答えなさい」
「!はい……」
凜華は小さく肩を震わせて返事をした。
「(やばい、かなり怒ってる…。口調が命令形になってる)」
「何故凜華は私にとって負担だと感じたんですか?」
「私が勝手について行きたいって言ったからです…」
「ほう。で、今になってそう感じたのは何がきっかけだったんでしょう?」
「……」
「──答えられないですか?質問自体は難しくないはずなんですが」
何となく押し黙ってしまったところを、すかさず高遠がつつく。
───怖い。
「……っ」
いつもと違う高遠に、つい凜華は涙が零れた。
「……」
それでも黙っている高遠。
「──明智健悟が、」
「!」
凜華が明智の名前を出した瞬間、高遠がすぐさま反応した。
「明智健悟が、高遠さんといれば私は荷物でしかない。荷物があるから警察が高遠さんに追い付くのに、そう時間はかからない、そう言われたから、わたし…」
「…やはり貴女の前にも現れていたんですね」
「え…?」
ふわり、と風が吹いてあたたかさに包まれる。
あぁ、高遠さんの匂いだ。
ぎゅっと力を入れられて、今高遠さんに抱き締められていると遅らばせながら気付いた。
「いけませんねぇ。私の言葉より、あろうことか日本警察の言葉を信用するなんて」
「だって…私は…」
「貴女にお荷物だ、なんて言ったことありますか?」
「…な、いです」
「ほら」
腰に回されていた高遠の手が、ゆっくりと凜華の頭を撫でる。
そして耳元で、
「確かに貴女は私の仕事を手伝っているわけではなく、連れ添っているだけです。…凜華、貴女は私にとってどれだけ大切だったか」
「高遠さ…ん」
「私はもう1人じゃない。そう思わせてくれた凜華まで離れたら…私は…」
抱き締められている腕に更に力が籠もる。痛いぐらいの高遠の気持ちに、凜華は優しく頭を撫でて
「ごめんなさい…私、貴方を置いていなくなるところだった…!」
泣きながら謝った。
言葉にしなきゃ分からない事はもちろんあるけど、でも、高遠さんはこんなに思ってくれてて、私と一緒にいてくれてたんだ。
それに気付かず、1人の男の言葉に翻弄されて。
「…私は捕まりませんよ」
「え?」
抱き締めていた腕の力を抜き、高遠の目が凜華をとらえる。
不覚にも胸が高鳴る瞳に、凜華は未だに慣れない。
「凜華を置いてそんなことはしません」
「すっごい自信ですね…」
「だから、凜華はいつものように私と一緒にいてくれればいい。分かりましたね?」
ほんとに、この人の自信はどこから出てくるのやら。
「……分かりました」
私にだって、大切な人だもの。もう離れません。
「でもここまで警視が直々に来るなんて、日本警察は優秀になったんですかね」
「さすがにそれは私も計算外でしたが、今回の狙いは私では無かったようです」
「?そう言えば、高遠さんのところにも来たんですか?さっき、」
貴女の前にも、って。
「えぇ、まあ。…凜華は気にしなくて大丈夫です。───さあ戻りましょう」
「?はーい…」
「凜華にはお仕置きが必要ですからね。きつーく躾をしてあげましょう」
「……え!?」
ひやり、と背中に冷たいものが落ちたような感覚。
「さあさあ」
「う…い、いやです!」
「仕事の滞りをどうしてくれるんでしょう?私の可愛い凜華さん?」
あぁ、私はここまでだ。
観念して上機嫌な高遠と一緒に部屋へと戻った。
『高遠、貴方と凜華さんは一緒にいるべきではない。私が正しき道へと戻します』
「(残念。簡単に凜華を渡す私ではないですよ…)」
高遠の中で、はっきりとそんな意思が息づいていた。
************
やっと終わった!
大変お待たせしました。
半分はできてたのに手が止まってしまったという。
高遠→凜華さん←明智
分かりにくいですが、そんな図があったということで。
20120621→2013/10/14
10:13→14:29
如月凜華