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廊下の騒がしさが徐々に遠ざかり、犯人は隊員に引き渡されていった。
残ったのは俺とHoneyだけ。
無線も切れ、ようやく静かな時間が戻る。
タイミングを読んだHoneyが、小走りで俺の隣にきた。
「スタン…さっきは、本当にありがとう。すごく頼もしかった」
そう言って、Honeyは一瞬だけ立ち止まり、俺の頬に軽く唇を触れさせた。
頬っぺに小さなキス。
それだけのはずなのに、心臓が一気に跳ねる。
…クソ、刃物は躱せるが、この不意打ちは防げねえ。
頬が熱くなるのを悟られまいと、わざと視線を前に向けて歩き出す。
「Honey、ああいうんは…」
言いかけて口をつぐむ。
怒るなんてとんでもない。
俺を一瞬で骨抜きにするHoney。
やんじゃん。
横目に映るHoneyは、まるで悪戯が成功した子どものように微笑んでいる。
あぁ…益々、アンタに夢中にされんよ。
任務は全うするが、俺にとっては、Honeyの笑顔を守ることこそが、最優先なんだと改めて自覚する。
この後のゼノへの報告なんざ、正直どうでもいい気分だった。
研究棟の奥、臨時の指揮所。
すでに警備隊が集まり、ゼノは書類の束を机に広げていた。
白衣の裾が揺れる。
「犯人は拘束した訳だが…」
鋭い視線がこちらを射抜く。
俺は無言で頷き、手短に状況を報告する。
ゼノはため息をつきながら椅子に深く腰掛け、爪先でこめかみを押さえた。
「やれやれ…まったく。君は銃火器を扱わせれば百戦錬磨の軍人だが、体術はパワーチームの重量級連中には及ばない。にもかかわらず、ナイフ一本の侵入者など造作もない、と…」
口調は皮肉めいているが、その裏に事実をきちんと認識している色が見える。
ゼノは昔からそうだ。
面倒な事象に表向きは嫌味を飛ばすが、評価すべき部分は冷静に把握している。
「当然。特殊部隊隊長の名を背負ってんだ、あんな雑魚に後れを取るわけねえな。」
肩を竦めて返すと、ゼノは鼻で笑い、わずかに口角を上げた。
「ふん…少なくとも、君が護衛に付いている限り、Honeyに危険は及ばないと証明されたわけだ」
その言葉に、Honeyが隣で小さく笑みを浮かべる。
俺は視線をそらし、タバコに火をつけ誤魔化した。
くそ、ゼノの前で調子に乗るのは癪だが…確かに、俺はHoneyを誰よりも守れる自信がある。
夜。
作戦報告や拘束者の引き渡しも一段落し、研究棟はすっかり静まり返っていた。
俺とHoneyも任務から解放され、自宅に戻っていた。
ソファに座ったHoneyは、温かいハーブティーを両手で包みながら小さく息をついた。
「…今日はありがとう、スタン。もしスタンがいなかったら、どうなっていたか分からないわ」
その声音はいつもの落ち着いた仕事中の口調じゃなく、少し震えを含んだ素の彼女の声。
昼間の軽いキスよりも、ずっと深く胸に響く。
「気にすんな。俺の役目だかんね」
短く返す。
だが自分でもわかっている。
護衛任務だからやったんじゃねえ。
Honeyに指一本触れさせたくなかった。
ただそれだけだ。
俺の沈黙に気づいたのか、Honeyはそっと微笑む。
「ふふ。スタンらしい答えね。でも…本当に安心したの。スタンが傍にいるだけで」
その言葉に、胸の奥がじんわり熱を帯びる。
戦場帰りの鋼みたいな心臓が、彼女のたった一言で簡単に緩む。
カップをテーブルに置き、Honeyが俺の隣に腰を移した。
柔らかな体温が触れる。
俺は彼女の肩を抱き寄せ、頭に唇を落とした。
「…安心しな、Honey。俺はいつだってHoneyを護んぜ。」
そう囁くと、Honeyは安心したように目を細め、俺の胸に頬を寄せてきた。
静かな夜の空気に、2人の鼓動だけが重なる。
不審者との一件も、今は遠く霞んでいった。
翌日。
司令部の会議室。
分厚い扉の奥では、緊張感のある空気が張り詰めていた。
スクリーンには、押収されたナイフの成分解析データと、それに付着していた微量の化学物質の分析結果が映し出されている。
ゼノが椅子にもたれかけ、爪先でペンを回しながら冷静に口を開いた。
「昨夜の不審者が持っていた刃物には、特殊なコーティングが施されていた。この処方は見覚えがある。Dr.ガイル。やつの研究室特有のものだ」
その名を聞いた瞬間、周囲にざわめきが走る。
レナードやブロディをはじめ、特殊部隊員たちは一様に身を固くし、スクリーンに表示された経歴データに目を向けた。
ブラジル出身。
量子エレクトロニクス分野で頭角を現した科学者。
だが、功績の陰にひっそりと記された、ある事件の記録。
「…ガイル、か」
俺は腕を組み、眉間に皺を寄せる。
どこかで聞いたことのある名だった。
だが、具体的な記憶が抜け落ちている。
横に座っていたHoneyが、俺の視線に気づき、そっと小声で囁いた。
「スタン、覚えてる?論文発表論破事件。当時凄く世間から注目されてた分野の論文発表で、私とスタンが止めたのに、ゼノがその発表は間違っているって発表中に論破しちゃって、新聞賑わせちゃった、あの時の発表者よ」
「…あぁ?」
不意に昔の映像が頭の中に蘇る。
確かにそんな記事が新聞を賑わせた。
若干14歳の天才少年ゼノが、大学教授たちの前で堂々と反証を繰り出し、喝采と驚嘆を浴びた。
その時論文発表していたのが、Dr.ガイル。
「…あったな、んなこと」
俺は短く吐き出すように言う。
Honeyの記憶力には毎度のことながら驚かされる。
ゼノは苦笑を浮かべた。
「彼にとっては人生最大の屈辱だったらしい。以後、学会から姿を消し、どこで研究を続けているか不明だったが。世界が復興する中で彼も復活し、こうして牙を剥いてきたわけだ」
ブロディが腕を組み直し、低く呟いた。
「つまり…Dr.ゼノへの復讐ってわけか」
ゼノは頷き、すぐさま画面を切り替える。
衛星写真、推定アジト、動きのあった輸送ルート。
全てが一つの点、Dr.ガイルの潜伏先に繋がっていく。
「作戦行動は明朝。特殊部隊による総攻撃を仕掛ける。…隊長、君の部隊の出番だ」
ゼノの視線が俺に向けられる。
「了解」
短く返す。
このやり取りで、俺の頭も切り替わる。
Honeyの声で思い出した因縁も、ゼノが冷静に下す命令も、すべては現場で果たすべき役割に繋がっている。
静かに拳を握り、これからの戦いに備える。
Dr.ガイル、か。
ゼノへの執着だけでなく、Honeyをも狙っているとすれば…放ってはおけねえな。
夜明け前の格納庫。
金属の匂いとオイルの匂いが混ざり合い、静寂の中にエンジンの低い唸りが響いていた。
俺は部下たちを前に立たせ、作戦最終ブリーフィングをしていた。
「侵入ルートはここだ。遮蔽物を利用しつつ、目標地点までは無駄なく動く。敵の警戒は厳しいだろうが、油断はするな」
特殊部隊の面々が真剣な表情で頷く。
彼らの信頼を背に、俺は最前線に立つ覚悟を固める。
その時、背後から柔らかな気配が近づいた。
Honeyだった。
端末を抱え、ぎりぎりまで解析を続けていたのだろう。
「スタン、最終的に敵のアジトはこの位置で間違いないわ。潜伏経路の監視映像から、兵器の搬入ルートも特定できた」
差し出されたデータを受け取り、目を通す。やはり細かい部分まで抜かりがない。
だがHoneyは標的にされている。
最前線に立つ俺のすぐ近くに置くわけにはいかない。
「Honey」
名を呼び、少し間を置いて言った。
「Honeyの護衛には…コハクをつける。俺の代わりに、しっかり守らせる」
Honeyが瞬きをして俺を見上げる。
少しだけ寂しそうに唇を結んだが、すぐに表情を整えた。
「…わかったわ。スタンがそう決めたなら」
そこへコハクが姿を現す。
金髪が朝焼けに光り、凛とした顔で頷いた。
「スタンリー、Honeyのことは任せろ。絶対に傷ひとつ付けさせはしない」
その力強い言葉に、俺も小さく頷き返す。
「頼む。アンタなら安心だ」
Honeyの横顔を一瞬だけ見やる。
守りたいのは山々だが、今は前線に立つのが俺の役目。
振り返るわけにはいかない。
必ず、終わらせて戻ってくる。
その想いを胸に、部下たちへ最後の号令をかけた。
「総員、出撃準備!」
鋭い返事が格納庫に響き渡り、戦いの幕が開こうとしていた。
空気が張り詰めていた。
夜の密林。
湿った土の匂いと虫の羽音、そして時折遠くで聞こえる爆裂音。
Dr.ガイルが仕掛けたトラップが、隊の進軍を阻んでいた。
俺は仲間に手信号を送り、地面に身を沈める。
「…これ以上、正面から進むんは得策じゃねぇな」
土の冷たさを頬に感じながら、スコープを覗く。
息を殺し、視界を絞り込む。
高倍率レティクルの中で、赤外線センサーと簡易探知機を使って索敵していたDr.ガイルの姿が浮かぶ。
屋根の上だ。
周囲を見渡し、優位に立ったつもりでいる。
「…悪いが、そこが墓場だ」
指の腹でトリガーを撫でる。
スナイパーは待つことが仕事だ。
だが今は逆に、動きを先読みすることが肝だ。
ガイルの足元には設置済みの地雷起爆用リモートスイッチ。
…奴がそれに触れる前に、終わらせる。
呼吸を整える。
吸って、止める。
心拍のリズムを自覚し、鼓動が谷に落ちるタイミングを待つ。
スコープの十字線が、ガイルの胸部に吸い寄せられる。
視界の端で、仲間たちがまだ立ち止まり警戒しているのが見えた。
…部下を危険に晒す気はねぇ。
今だ。
指がわずかに沈む。
無反動ライフルの銃声は、抑制器に吸い込まれ闇に溶けた。
次の瞬間、屋根の上のガイルの身体が跳ね、後方に崩れ落ちる。
Dr.ガイルは足元のスイッチに触れることすら叶わなかった。
即死はしねえ位置に撃ち込んだ。
身柄は拘束すっかんね。
スコープから目を離さず、冷えた息をゆっくり吐く。
「…終了だ」
無線で部下に短く告げる。
「目標、排除。突入を開始しろ」
茂みの向こうで、特殊部隊が一斉に動き出す気配。
俺はボルトを引き、次弾を装填した。
まだ何が起きるか分からねぇ。
だが、仲間の安全は、絶対に守る。
その様子を、ゼノとHoneyは隊員の身体に付いているカメラからリアルタイムで画像を見ていた。
残党を無事確保し、主犯も取り押さえた。
一件落着と思いきや、Honeyが画像を見ながら眉を潜めた。
無線越しに焦るHoneyの声。
Honey「どこかにTNTがある!建物毎自爆するつもりよ!!最長後23秒!!」
スタン「!!一斉退避!建物裏手避難溝!!」
スタンの号令で、建物内に居た隊員達は即座に退避を開始。
視界の端で建物が白く膨張するのが見えた瞬間、建物は木っ端微塵に吹き飛んだ。
離れたスタンの居る狙撃ポイントにも、爆発の熱波と煙が押し寄せる。
「…ッ!」
反射的に目を細める。
夜空が炎に染まり、地響きと共に熱波が押し寄せてきた。
狙撃ポイントまで吹きつけてくる灼熱の風。
髪が煽られ、砂利が頬に叩きつけられる。
肺に焼けるような空気が入り込んだ。
無線も途切れ、何も聞こえなくなる。
だが、すぐに無線の雑音とゼノの声が戻った。
「聞こえているか?!応答せよ!」
俺は咳を押さえながら答える。
「問題ねぇ…全員、退避溝に入れたな?」
数秒の沈黙の後、部下たちの声が次々に入る。
「隊長!全員無事です!」
「溝に逃げ込んで助かりました!」
胸の奥で強張っていたものが、少しだけ緩んだ。
Honeyの声が、震えていたのがわかった。
「よかった…あと数秒遅れてたら…」
無線越しに甘えを漏らせる立場じゃない。
だが俺は思わず言っていた。
「Honey、アンタが知らせてくれたからだ。…命拾いしたんは俺らだ」
焦げた匂いが風に流れてくる。
視界の先には、跡形もなく吹き飛んだ建物の残骸と、黒煙が立ち上っている。
犯人どもは、もう灰になった。
残ったのは俺とHoneyだけ。
無線も切れ、ようやく静かな時間が戻る。
タイミングを読んだHoneyが、小走りで俺の隣にきた。
「スタン…さっきは、本当にありがとう。すごく頼もしかった」
そう言って、Honeyは一瞬だけ立ち止まり、俺の頬に軽く唇を触れさせた。
頬っぺに小さなキス。
それだけのはずなのに、心臓が一気に跳ねる。
…クソ、刃物は躱せるが、この不意打ちは防げねえ。
頬が熱くなるのを悟られまいと、わざと視線を前に向けて歩き出す。
「Honey、ああいうんは…」
言いかけて口をつぐむ。
怒るなんてとんでもない。
俺を一瞬で骨抜きにするHoney。
やんじゃん。
横目に映るHoneyは、まるで悪戯が成功した子どものように微笑んでいる。
あぁ…益々、アンタに夢中にされんよ。
任務は全うするが、俺にとっては、Honeyの笑顔を守ることこそが、最優先なんだと改めて自覚する。
この後のゼノへの報告なんざ、正直どうでもいい気分だった。
研究棟の奥、臨時の指揮所。
すでに警備隊が集まり、ゼノは書類の束を机に広げていた。
白衣の裾が揺れる。
「犯人は拘束した訳だが…」
鋭い視線がこちらを射抜く。
俺は無言で頷き、手短に状況を報告する。
ゼノはため息をつきながら椅子に深く腰掛け、爪先でこめかみを押さえた。
「やれやれ…まったく。君は銃火器を扱わせれば百戦錬磨の軍人だが、体術はパワーチームの重量級連中には及ばない。にもかかわらず、ナイフ一本の侵入者など造作もない、と…」
口調は皮肉めいているが、その裏に事実をきちんと認識している色が見える。
ゼノは昔からそうだ。
面倒な事象に表向きは嫌味を飛ばすが、評価すべき部分は冷静に把握している。
「当然。特殊部隊隊長の名を背負ってんだ、あんな雑魚に後れを取るわけねえな。」
肩を竦めて返すと、ゼノは鼻で笑い、わずかに口角を上げた。
「ふん…少なくとも、君が護衛に付いている限り、Honeyに危険は及ばないと証明されたわけだ」
その言葉に、Honeyが隣で小さく笑みを浮かべる。
俺は視線をそらし、タバコに火をつけ誤魔化した。
くそ、ゼノの前で調子に乗るのは癪だが…確かに、俺はHoneyを誰よりも守れる自信がある。
夜。
作戦報告や拘束者の引き渡しも一段落し、研究棟はすっかり静まり返っていた。
俺とHoneyも任務から解放され、自宅に戻っていた。
ソファに座ったHoneyは、温かいハーブティーを両手で包みながら小さく息をついた。
「…今日はありがとう、スタン。もしスタンがいなかったら、どうなっていたか分からないわ」
その声音はいつもの落ち着いた仕事中の口調じゃなく、少し震えを含んだ素の彼女の声。
昼間の軽いキスよりも、ずっと深く胸に響く。
「気にすんな。俺の役目だかんね」
短く返す。
だが自分でもわかっている。
護衛任務だからやったんじゃねえ。
Honeyに指一本触れさせたくなかった。
ただそれだけだ。
俺の沈黙に気づいたのか、Honeyはそっと微笑む。
「ふふ。スタンらしい答えね。でも…本当に安心したの。スタンが傍にいるだけで」
その言葉に、胸の奥がじんわり熱を帯びる。
戦場帰りの鋼みたいな心臓が、彼女のたった一言で簡単に緩む。
カップをテーブルに置き、Honeyが俺の隣に腰を移した。
柔らかな体温が触れる。
俺は彼女の肩を抱き寄せ、頭に唇を落とした。
「…安心しな、Honey。俺はいつだってHoneyを護んぜ。」
そう囁くと、Honeyは安心したように目を細め、俺の胸に頬を寄せてきた。
静かな夜の空気に、2人の鼓動だけが重なる。
不審者との一件も、今は遠く霞んでいった。
翌日。
司令部の会議室。
分厚い扉の奥では、緊張感のある空気が張り詰めていた。
スクリーンには、押収されたナイフの成分解析データと、それに付着していた微量の化学物質の分析結果が映し出されている。
ゼノが椅子にもたれかけ、爪先でペンを回しながら冷静に口を開いた。
「昨夜の不審者が持っていた刃物には、特殊なコーティングが施されていた。この処方は見覚えがある。Dr.ガイル。やつの研究室特有のものだ」
その名を聞いた瞬間、周囲にざわめきが走る。
レナードやブロディをはじめ、特殊部隊員たちは一様に身を固くし、スクリーンに表示された経歴データに目を向けた。
ブラジル出身。
量子エレクトロニクス分野で頭角を現した科学者。
だが、功績の陰にひっそりと記された、ある事件の記録。
「…ガイル、か」
俺は腕を組み、眉間に皺を寄せる。
どこかで聞いたことのある名だった。
だが、具体的な記憶が抜け落ちている。
横に座っていたHoneyが、俺の視線に気づき、そっと小声で囁いた。
「スタン、覚えてる?論文発表論破事件。当時凄く世間から注目されてた分野の論文発表で、私とスタンが止めたのに、ゼノがその発表は間違っているって発表中に論破しちゃって、新聞賑わせちゃった、あの時の発表者よ」
「…あぁ?」
不意に昔の映像が頭の中に蘇る。
確かにそんな記事が新聞を賑わせた。
若干14歳の天才少年ゼノが、大学教授たちの前で堂々と反証を繰り出し、喝采と驚嘆を浴びた。
その時論文発表していたのが、Dr.ガイル。
「…あったな、んなこと」
俺は短く吐き出すように言う。
Honeyの記憶力には毎度のことながら驚かされる。
ゼノは苦笑を浮かべた。
「彼にとっては人生最大の屈辱だったらしい。以後、学会から姿を消し、どこで研究を続けているか不明だったが。世界が復興する中で彼も復活し、こうして牙を剥いてきたわけだ」
ブロディが腕を組み直し、低く呟いた。
「つまり…Dr.ゼノへの復讐ってわけか」
ゼノは頷き、すぐさま画面を切り替える。
衛星写真、推定アジト、動きのあった輸送ルート。
全てが一つの点、Dr.ガイルの潜伏先に繋がっていく。
「作戦行動は明朝。特殊部隊による総攻撃を仕掛ける。…隊長、君の部隊の出番だ」
ゼノの視線が俺に向けられる。
「了解」
短く返す。
このやり取りで、俺の頭も切り替わる。
Honeyの声で思い出した因縁も、ゼノが冷静に下す命令も、すべては現場で果たすべき役割に繋がっている。
静かに拳を握り、これからの戦いに備える。
Dr.ガイル、か。
ゼノへの執着だけでなく、Honeyをも狙っているとすれば…放ってはおけねえな。
夜明け前の格納庫。
金属の匂いとオイルの匂いが混ざり合い、静寂の中にエンジンの低い唸りが響いていた。
俺は部下たちを前に立たせ、作戦最終ブリーフィングをしていた。
「侵入ルートはここだ。遮蔽物を利用しつつ、目標地点までは無駄なく動く。敵の警戒は厳しいだろうが、油断はするな」
特殊部隊の面々が真剣な表情で頷く。
彼らの信頼を背に、俺は最前線に立つ覚悟を固める。
その時、背後から柔らかな気配が近づいた。
Honeyだった。
端末を抱え、ぎりぎりまで解析を続けていたのだろう。
「スタン、最終的に敵のアジトはこの位置で間違いないわ。潜伏経路の監視映像から、兵器の搬入ルートも特定できた」
差し出されたデータを受け取り、目を通す。やはり細かい部分まで抜かりがない。
だがHoneyは標的にされている。
最前線に立つ俺のすぐ近くに置くわけにはいかない。
「Honey」
名を呼び、少し間を置いて言った。
「Honeyの護衛には…コハクをつける。俺の代わりに、しっかり守らせる」
Honeyが瞬きをして俺を見上げる。
少しだけ寂しそうに唇を結んだが、すぐに表情を整えた。
「…わかったわ。スタンがそう決めたなら」
そこへコハクが姿を現す。
金髪が朝焼けに光り、凛とした顔で頷いた。
「スタンリー、Honeyのことは任せろ。絶対に傷ひとつ付けさせはしない」
その力強い言葉に、俺も小さく頷き返す。
「頼む。アンタなら安心だ」
Honeyの横顔を一瞬だけ見やる。
守りたいのは山々だが、今は前線に立つのが俺の役目。
振り返るわけにはいかない。
必ず、終わらせて戻ってくる。
その想いを胸に、部下たちへ最後の号令をかけた。
「総員、出撃準備!」
鋭い返事が格納庫に響き渡り、戦いの幕が開こうとしていた。
空気が張り詰めていた。
夜の密林。
湿った土の匂いと虫の羽音、そして時折遠くで聞こえる爆裂音。
Dr.ガイルが仕掛けたトラップが、隊の進軍を阻んでいた。
俺は仲間に手信号を送り、地面に身を沈める。
「…これ以上、正面から進むんは得策じゃねぇな」
土の冷たさを頬に感じながら、スコープを覗く。
息を殺し、視界を絞り込む。
高倍率レティクルの中で、赤外線センサーと簡易探知機を使って索敵していたDr.ガイルの姿が浮かぶ。
屋根の上だ。
周囲を見渡し、優位に立ったつもりでいる。
「…悪いが、そこが墓場だ」
指の腹でトリガーを撫でる。
スナイパーは待つことが仕事だ。
だが今は逆に、動きを先読みすることが肝だ。
ガイルの足元には設置済みの地雷起爆用リモートスイッチ。
…奴がそれに触れる前に、終わらせる。
呼吸を整える。
吸って、止める。
心拍のリズムを自覚し、鼓動が谷に落ちるタイミングを待つ。
スコープの十字線が、ガイルの胸部に吸い寄せられる。
視界の端で、仲間たちがまだ立ち止まり警戒しているのが見えた。
…部下を危険に晒す気はねぇ。
今だ。
指がわずかに沈む。
無反動ライフルの銃声は、抑制器に吸い込まれ闇に溶けた。
次の瞬間、屋根の上のガイルの身体が跳ね、後方に崩れ落ちる。
Dr.ガイルは足元のスイッチに触れることすら叶わなかった。
即死はしねえ位置に撃ち込んだ。
身柄は拘束すっかんね。
スコープから目を離さず、冷えた息をゆっくり吐く。
「…終了だ」
無線で部下に短く告げる。
「目標、排除。突入を開始しろ」
茂みの向こうで、特殊部隊が一斉に動き出す気配。
俺はボルトを引き、次弾を装填した。
まだ何が起きるか分からねぇ。
だが、仲間の安全は、絶対に守る。
その様子を、ゼノとHoneyは隊員の身体に付いているカメラからリアルタイムで画像を見ていた。
残党を無事確保し、主犯も取り押さえた。
一件落着と思いきや、Honeyが画像を見ながら眉を潜めた。
無線越しに焦るHoneyの声。
Honey「どこかにTNTがある!建物毎自爆するつもりよ!!最長後23秒!!」
スタン「!!一斉退避!建物裏手避難溝!!」
スタンの号令で、建物内に居た隊員達は即座に退避を開始。
視界の端で建物が白く膨張するのが見えた瞬間、建物は木っ端微塵に吹き飛んだ。
離れたスタンの居る狙撃ポイントにも、爆発の熱波と煙が押し寄せる。
「…ッ!」
反射的に目を細める。
夜空が炎に染まり、地響きと共に熱波が押し寄せてきた。
狙撃ポイントまで吹きつけてくる灼熱の風。
髪が煽られ、砂利が頬に叩きつけられる。
肺に焼けるような空気が入り込んだ。
無線も途切れ、何も聞こえなくなる。
だが、すぐに無線の雑音とゼノの声が戻った。
「聞こえているか?!応答せよ!」
俺は咳を押さえながら答える。
「問題ねぇ…全員、退避溝に入れたな?」
数秒の沈黙の後、部下たちの声が次々に入る。
「隊長!全員無事です!」
「溝に逃げ込んで助かりました!」
胸の奥で強張っていたものが、少しだけ緩んだ。
Honeyの声が、震えていたのがわかった。
「よかった…あと数秒遅れてたら…」
無線越しに甘えを漏らせる立場じゃない。
だが俺は思わず言っていた。
「Honey、アンタが知らせてくれたからだ。…命拾いしたんは俺らだ」
焦げた匂いが風に流れてくる。
視界の先には、跡形もなく吹き飛んだ建物の残骸と、黒煙が立ち上っている。
犯人どもは、もう灰になった。