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翌朝。
作戦後の報告会議室には緊張感が漂っていた。
大型スクリーンにはリモートで繋がれた五知将、治安維持代表の司。
こちらのテーブルにはゼノ、Honey、そして特殊部隊の精鋭達。
俺は椅子に背を預け、腕を組んで報告に耳を傾ける。
隊長としての顔に切り替わっている。
昨夜の甘い時間など微塵も見せない。
レナードが状況を読み上げる。
「海上に墜落した機体はDr.Honeyの指示通り迅速に回収され、解析班に引き渡しました。犯人の身柄は警察に移送済みです。」
画面越しに頷いた龍水が問う。
「そいつは例の石化装置に関与していたのか?」
隊員が冷静な声で答える。
「本人には高度な知識はありません。あくまでも操縦のみで、Dr.ゼノの見立てどおり、裏に知識を持った者がいます。犯人はただの駒にすぎません」
司が続ける
「うん。今回の件を受け、やはり南米の石化装置の山は警備にも限界があるからね。科学が本格的に発展してきた現状を考えても、可能な限り破壊しておくのが望ましいね。チームを直ぐに派遣する。」
それに、画面越しの千空が応えた。
「ああ。構いやしねえ。俺らはタイムマシンクラフトを目的として石化装置を使うが、世の中悪い奴が科学を駆使すりゃ、石化テロが現実になっからな。」
ゼノが顎に指を当て、細めた目で続けた。
「装置の痕跡を解析すれば、改造した人物の癖や理論が見えてくるはずだ。背後に科学者がいるのは確実だろう。彼彼女達の標的は何だ?」
隊員が資料を示し報告を続ける。
「その件ですが、コレを。回収した機のブラックボックスを解析した所。ポルトガル語の通信記録を確認。犯人達は石化装置のステルス性能を認識しており、今回のレーダー射撃もその性能を応用したものと確認が取れました。標的座標は研究棟が記され、通信ではDr.ゼノ,Dr.Honeyの名前有。」
沈黙が一瞬流れる。
俺は口を開いた。
「…裏に本命がいるってんなら、次に備えとく必要があっかんね。今回の奴らは氷山の一角に過ぎねえ。司、大至急こちらに向かいゼノの護衛を。Honeyの護衛は俺が。事態が収拾すんまで気いぬくな。」
隊員達が真剣に頷き、皆の顔にも険が走った。
会議室の空気は冷たく張り詰め、戦場にも似た緊張を帯びる。
俺は視線をスクリーンに向けたまま、声を低く落とした。
「追い詰めりゃ必ず尻尾を出す。…そん時は俺らが仕留める。」
戦闘モードのまま、冷徹に。
昨夜の優しい眼差しを知るHoneyですら、今の俺には一切の私情を見いだせないだろう。
会議が終わり、スクリーンが暗転した瞬間、室内の空気が少しだけ緩む。
だが俺は椅子に腰かけたまま、眉間の皺を解こうとしなかった。
敵の狙いがゼノとHoneyだと判明した以上、気を抜けるはずがねえ。
机上に置いた拳をゆっくり開き、立ち上がろうとした時。
白衣を翻しながらHoneyが俺のそばに寄ってきた。
いつもの柔らかな瞳で俺を覗き込み、静かに囁く。
「スタン、…オンから、オフに切り替えて?」
その一言に、胸の奥で張りつめていた糸がふっと緩む。
Honeyの視線は、どこまでも俺を信じている目。
護るべき対象であり、同時に心を支えてくれる存在。
気づけば、呼吸が深く落ち着いていた。
そうだ。
ゼノとHoneyが標的と分かり、過度に張り詰めたスタンの心情を察したHoney。
「…切り替えんの、アンタにしか出来ねえ芸当だな」
そう言って肩をすくめると、Honeyは小さく微笑む。
大事な存在が脅かされるからこその、無意識な緊張を見透かし、自然に解きほぐしてくる。
護衛任務は決まった。
護る理由は山ほどあるが、根っこの部分は単純明快。
「Honeyを狙う奴がいりゃ、全部俺が叩き潰す」
言葉にした瞬間、今度は本当に隊長じゃなく、一人の男の顔をしたスタン。
オンからオフへ。
切り替えさせてくれるのは、やっぱりこの女しかいねえ。
護衛任務が始まって数日。
朝から晩までHoneyの影に張りつき、彼女の動きを追い続ける生活が始まった。
だが、最初の数時間で、俺は痛感する。
Honeyの毎日は、戦場の作戦行動並みにハードだ。
研究室、会議室、資料室、また研究室。
ゼノの膨大な指示を瞬時に把握し、時には先回りして、必要な物資や資料を取り出しては要点をまとめ、時には他国とリモートで交渉までしている。
科学助手、というよりも、ゼノの科学秘書。
こいつがいなきゃ、この頭脳集団は立ち行かねえんじゃねえか。
昔からHoneyは要領よく、ゼノの研究に立ち合っていたが、ゼノがやりたい科学に集中できんのは、間違いなく隣にHoneyが居るからだ。
Honeyはゼノの数歩先を読んで、瞬時に対応している。
本人はもはや、無意識だろう。
俺の知らない一面が、目の前で次々と露わになる。
冷静に、淀みなく人を動かし、作業を指示する姿。
小さな手帳に走らせるペンの音、端末を操作する指先。
時折俺の視線に気づくと、Honeyは忙しい合間に小さく微笑んでみせる。
それが「大丈夫よ」「気にしないで」という無言の合図だと分かる。
だが俺には気になる。
肩に力が入りっぱなしで、休憩らしい休憩もねえ。
水もまともに飲んでねえ。
周囲は彼女を出来る人として当たり前に頼り切っているが、そんな負担を背負って笑っていられる人間がどこにいる。
…倒れられたら、困っかんね。
護衛の名目で付き添ってはいるが、俺の意識はもっと別のところに傾いていく。
この女の身体と心を壊させるわけにはいかねえ。
次第に、自然と立ち位置も決まってくる。
彼女の背中を守るように立ち、移動の合間にさりげなく水を差し出す。
長時間座りっぱなしの時は、休憩を促す視線を送る。
誰も気づかねえが、Honeyはそのたびにほんの少し緩んだ表情を見せてくれる。
忙殺される日常の中でも、俺の視線の先にHoneyがいる。
護衛任務とはいえ、それ以上の意味を持つ時間になっていた。
そんな矢先、研究室のざわめきの中で、ひときわ鼻につく声が響いた。
「Honeyさん、これ、優先して解析してくれないか? 俺の研究は急ぎなんだ。君科学助手なんでしょ?助手は科学者のお手伝いで楽なんだからやっといて。」
その男は周囲の状況をまるで見ていない。
周りの奴らも、空気読めない発言に青ざめているのが見てとれる。
Honeyのデスクには既に山のような書類とデータが積まれ、他の研究員の依頼も次々と舞い込んでいる。
なのに、自分の都合だけを押し通そうとするその言葉。完全に助手の意味をはき違え、下に見ている。
俺は壁際で腕を組んだまま、視線をそいつに向けた。
「…何だコイツ」
口には出さないが、目つきだけでそう語っていたと思う。
Honeyは一瞬、手を止める。
瞳の奥にかすかな苛立ちが走ったのを、俺は見逃さない。
だが次の瞬間、彼女はいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「ご依頼ありがとうございます。ただ、緊急性と必要性を優先して処理しているので、順番は守っていただきますね。
もしどうしても急ぎなら、Dr.ゼノに確認してから正式に優先指定をお願いします」
柔らかい口調、だが一歩も譲らない。
相手の顔色が少し引きつり、言葉を失う。
研究室の空気がしんと静まった。
やんじゃん、Honey。
俺なら一言で黙らせただろうが、それは脅しに近い。
でも、彼女は違う。
冷静で、大人な対応で、しかも相手の逃げ道まで用意している。
そいつがバツの悪そうな顔で退いたのを見て、Honeyがふっと小さく息を吐いた。
ほんのわずかに肩が落ちる。
疲れが滲んでいる。
俺はその姿を目に焼き付けながら、
今夜は、無理にでも休ませんよ。
そう心の中で決めた。
その夜、他の研究員は帰宅し、ゼノは別室でまだ研究を続けているが、司が付いている。
昼間の多忙も漸く落ち着いたHoneyは、デスクで自身の仕事に集中していた。
その時、研究棟の廊下にわずかな異音が走った。
ガラスを破るような乾いた音。
即座に俺の神経は研ぎ澄まされる。
…侵入者か
書類を片付けていたHoneyも気づいており、椅子から一歩踏み出そうとしたHoneyの前に、すっと腕を伸ばし庇う。
微かに聞こえる、こちらに向かう足音。
1人か…
「下がってな、Honey」
低く短い声を落とすと同時に、足音の主が入り口影から飛び出した。
黒いフードをかぶった男。
手には鈍い光を放つ金属器具。
相手が不用意に踏み込んできた瞬間、俺の身体は反射で動いた。
一歩踏み込み、視線を逸らさず、回し蹴り。
ブーツの先が唸りを上げ、侵入者の顎を捉えた。
鈍い衝撃とともに、男の身体が横に弾き飛ばされ、廊下の床に叩きつけられる。
武器が手から滑り落ち、カラン、と乾いた音を響かせた。
廊下に緊張した空気だけが残る。
俺は息一つ乱さず、倒れた男の襟首をつかみ上げ、動きを封じ込んだ。
「…間抜けが。ここをどこだと思ってんよ」
低い声で吐き捨てる。
背後でHoneyがわずかに息を呑む気配。
振り返れば、彼女の瞳が大きく見開かれていた。
「スタン…すごい…」
彼女の囁きに、ほんの一瞬だけ表情が緩む。
だがすぐに警戒を解かず、俺は侵入者を床に押さえ込んだまま無線へ手を伸ばした。
Honeyがいる以上、絶対に一歩も通させねぇ。
その決意が、全身の動きを鋭くさせていた。
警報が鳴り響き、数秒後には残っていた研究員たちとゼノ・司が駆けつけてきた。
廊下の光景を目にした瞬間、全員が息を呑む。
床に押さえつけられ動けない不審者と、無駄のない姿勢で制圧している俺。
ゼノ「…さすがはスタン。ほんの数秒で片付けるとはね」
ゼノが皮肉めいた笑みを浮かべる。
野次馬と化した研究者達の目は、驚きを隠しきれてはいなかった。
「お、押さえてる相手、もう意識ないじゃないか!」
研究員の一人が声を上げるが、それを制すように司が続けた。
司「うん。彼の判断に間違いはないよ。相手は武器を持っていた。返り討ちにして正解だよ。ただの素人じゃないって事だからね。」
俺はそんなやり取りは気にもとめず、無線で軍の回収班を呼ぶ。
ゼノがちらと侵入者の落とした金属器具を拾い上げた。
ゼノ「…なるほど。市販の物ではないな。改造痕がある。やはり誰か後ろにいる」
研究員たちはざわつく。
だがその視線の先、俺がまるで呼吸を乱さぬまま侵入者を押さえ込んでいる姿に、尊敬と畏怖が混ざった眼差しを向けていた。
「さすが隊長…」
「あの動き、反応速度…」
研究者達からは、そんな小声が漏れる。
俺は視線を動かさず、淡々と応じた。
「仕事は終りだ。」
その一言でざわめきは収まり、静寂が戻る。
背後で、Honeyが小さく微笑んでいた。
緊張の残る空気の中でも、彼女のその表情が俺の心をわずかに和らげた。
作戦後の報告会議室には緊張感が漂っていた。
大型スクリーンにはリモートで繋がれた五知将、治安維持代表の司。
こちらのテーブルにはゼノ、Honey、そして特殊部隊の精鋭達。
俺は椅子に背を預け、腕を組んで報告に耳を傾ける。
隊長としての顔に切り替わっている。
昨夜の甘い時間など微塵も見せない。
レナードが状況を読み上げる。
「海上に墜落した機体はDr.Honeyの指示通り迅速に回収され、解析班に引き渡しました。犯人の身柄は警察に移送済みです。」
画面越しに頷いた龍水が問う。
「そいつは例の石化装置に関与していたのか?」
隊員が冷静な声で答える。
「本人には高度な知識はありません。あくまでも操縦のみで、Dr.ゼノの見立てどおり、裏に知識を持った者がいます。犯人はただの駒にすぎません」
司が続ける
「うん。今回の件を受け、やはり南米の石化装置の山は警備にも限界があるからね。科学が本格的に発展してきた現状を考えても、可能な限り破壊しておくのが望ましいね。チームを直ぐに派遣する。」
それに、画面越しの千空が応えた。
「ああ。構いやしねえ。俺らはタイムマシンクラフトを目的として石化装置を使うが、世の中悪い奴が科学を駆使すりゃ、石化テロが現実になっからな。」
ゼノが顎に指を当て、細めた目で続けた。
「装置の痕跡を解析すれば、改造した人物の癖や理論が見えてくるはずだ。背後に科学者がいるのは確実だろう。彼彼女達の標的は何だ?」
隊員が資料を示し報告を続ける。
「その件ですが、コレを。回収した機のブラックボックスを解析した所。ポルトガル語の通信記録を確認。犯人達は石化装置のステルス性能を認識しており、今回のレーダー射撃もその性能を応用したものと確認が取れました。標的座標は研究棟が記され、通信ではDr.ゼノ,Dr.Honeyの名前有。」
沈黙が一瞬流れる。
俺は口を開いた。
「…裏に本命がいるってんなら、次に備えとく必要があっかんね。今回の奴らは氷山の一角に過ぎねえ。司、大至急こちらに向かいゼノの護衛を。Honeyの護衛は俺が。事態が収拾すんまで気いぬくな。」
隊員達が真剣に頷き、皆の顔にも険が走った。
会議室の空気は冷たく張り詰め、戦場にも似た緊張を帯びる。
俺は視線をスクリーンに向けたまま、声を低く落とした。
「追い詰めりゃ必ず尻尾を出す。…そん時は俺らが仕留める。」
戦闘モードのまま、冷徹に。
昨夜の優しい眼差しを知るHoneyですら、今の俺には一切の私情を見いだせないだろう。
会議が終わり、スクリーンが暗転した瞬間、室内の空気が少しだけ緩む。
だが俺は椅子に腰かけたまま、眉間の皺を解こうとしなかった。
敵の狙いがゼノとHoneyだと判明した以上、気を抜けるはずがねえ。
机上に置いた拳をゆっくり開き、立ち上がろうとした時。
白衣を翻しながらHoneyが俺のそばに寄ってきた。
いつもの柔らかな瞳で俺を覗き込み、静かに囁く。
「スタン、…オンから、オフに切り替えて?」
その一言に、胸の奥で張りつめていた糸がふっと緩む。
Honeyの視線は、どこまでも俺を信じている目。
護るべき対象であり、同時に心を支えてくれる存在。
気づけば、呼吸が深く落ち着いていた。
そうだ。
ゼノとHoneyが標的と分かり、過度に張り詰めたスタンの心情を察したHoney。
「…切り替えんの、アンタにしか出来ねえ芸当だな」
そう言って肩をすくめると、Honeyは小さく微笑む。
大事な存在が脅かされるからこその、無意識な緊張を見透かし、自然に解きほぐしてくる。
護衛任務は決まった。
護る理由は山ほどあるが、根っこの部分は単純明快。
「Honeyを狙う奴がいりゃ、全部俺が叩き潰す」
言葉にした瞬間、今度は本当に隊長じゃなく、一人の男の顔をしたスタン。
オンからオフへ。
切り替えさせてくれるのは、やっぱりこの女しかいねえ。
護衛任務が始まって数日。
朝から晩までHoneyの影に張りつき、彼女の動きを追い続ける生活が始まった。
だが、最初の数時間で、俺は痛感する。
Honeyの毎日は、戦場の作戦行動並みにハードだ。
研究室、会議室、資料室、また研究室。
ゼノの膨大な指示を瞬時に把握し、時には先回りして、必要な物資や資料を取り出しては要点をまとめ、時には他国とリモートで交渉までしている。
科学助手、というよりも、ゼノの科学秘書。
こいつがいなきゃ、この頭脳集団は立ち行かねえんじゃねえか。
昔からHoneyは要領よく、ゼノの研究に立ち合っていたが、ゼノがやりたい科学に集中できんのは、間違いなく隣にHoneyが居るからだ。
Honeyはゼノの数歩先を読んで、瞬時に対応している。
本人はもはや、無意識だろう。
俺の知らない一面が、目の前で次々と露わになる。
冷静に、淀みなく人を動かし、作業を指示する姿。
小さな手帳に走らせるペンの音、端末を操作する指先。
時折俺の視線に気づくと、Honeyは忙しい合間に小さく微笑んでみせる。
それが「大丈夫よ」「気にしないで」という無言の合図だと分かる。
だが俺には気になる。
肩に力が入りっぱなしで、休憩らしい休憩もねえ。
水もまともに飲んでねえ。
周囲は彼女を出来る人として当たり前に頼り切っているが、そんな負担を背負って笑っていられる人間がどこにいる。
…倒れられたら、困っかんね。
護衛の名目で付き添ってはいるが、俺の意識はもっと別のところに傾いていく。
この女の身体と心を壊させるわけにはいかねえ。
次第に、自然と立ち位置も決まってくる。
彼女の背中を守るように立ち、移動の合間にさりげなく水を差し出す。
長時間座りっぱなしの時は、休憩を促す視線を送る。
誰も気づかねえが、Honeyはそのたびにほんの少し緩んだ表情を見せてくれる。
忙殺される日常の中でも、俺の視線の先にHoneyがいる。
護衛任務とはいえ、それ以上の意味を持つ時間になっていた。
そんな矢先、研究室のざわめきの中で、ひときわ鼻につく声が響いた。
「Honeyさん、これ、優先して解析してくれないか? 俺の研究は急ぎなんだ。君科学助手なんでしょ?助手は科学者のお手伝いで楽なんだからやっといて。」
その男は周囲の状況をまるで見ていない。
周りの奴らも、空気読めない発言に青ざめているのが見てとれる。
Honeyのデスクには既に山のような書類とデータが積まれ、他の研究員の依頼も次々と舞い込んでいる。
なのに、自分の都合だけを押し通そうとするその言葉。完全に助手の意味をはき違え、下に見ている。
俺は壁際で腕を組んだまま、視線をそいつに向けた。
「…何だコイツ」
口には出さないが、目つきだけでそう語っていたと思う。
Honeyは一瞬、手を止める。
瞳の奥にかすかな苛立ちが走ったのを、俺は見逃さない。
だが次の瞬間、彼女はいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「ご依頼ありがとうございます。ただ、緊急性と必要性を優先して処理しているので、順番は守っていただきますね。
もしどうしても急ぎなら、Dr.ゼノに確認してから正式に優先指定をお願いします」
柔らかい口調、だが一歩も譲らない。
相手の顔色が少し引きつり、言葉を失う。
研究室の空気がしんと静まった。
やんじゃん、Honey。
俺なら一言で黙らせただろうが、それは脅しに近い。
でも、彼女は違う。
冷静で、大人な対応で、しかも相手の逃げ道まで用意している。
そいつがバツの悪そうな顔で退いたのを見て、Honeyがふっと小さく息を吐いた。
ほんのわずかに肩が落ちる。
疲れが滲んでいる。
俺はその姿を目に焼き付けながら、
今夜は、無理にでも休ませんよ。
そう心の中で決めた。
その夜、他の研究員は帰宅し、ゼノは別室でまだ研究を続けているが、司が付いている。
昼間の多忙も漸く落ち着いたHoneyは、デスクで自身の仕事に集中していた。
その時、研究棟の廊下にわずかな異音が走った。
ガラスを破るような乾いた音。
即座に俺の神経は研ぎ澄まされる。
…侵入者か
書類を片付けていたHoneyも気づいており、椅子から一歩踏み出そうとしたHoneyの前に、すっと腕を伸ばし庇う。
微かに聞こえる、こちらに向かう足音。
1人か…
「下がってな、Honey」
低く短い声を落とすと同時に、足音の主が入り口影から飛び出した。
黒いフードをかぶった男。
手には鈍い光を放つ金属器具。
相手が不用意に踏み込んできた瞬間、俺の身体は反射で動いた。
一歩踏み込み、視線を逸らさず、回し蹴り。
ブーツの先が唸りを上げ、侵入者の顎を捉えた。
鈍い衝撃とともに、男の身体が横に弾き飛ばされ、廊下の床に叩きつけられる。
武器が手から滑り落ち、カラン、と乾いた音を響かせた。
廊下に緊張した空気だけが残る。
俺は息一つ乱さず、倒れた男の襟首をつかみ上げ、動きを封じ込んだ。
「…間抜けが。ここをどこだと思ってんよ」
低い声で吐き捨てる。
背後でHoneyがわずかに息を呑む気配。
振り返れば、彼女の瞳が大きく見開かれていた。
「スタン…すごい…」
彼女の囁きに、ほんの一瞬だけ表情が緩む。
だがすぐに警戒を解かず、俺は侵入者を床に押さえ込んだまま無線へ手を伸ばした。
Honeyがいる以上、絶対に一歩も通させねぇ。
その決意が、全身の動きを鋭くさせていた。
警報が鳴り響き、数秒後には残っていた研究員たちとゼノ・司が駆けつけてきた。
廊下の光景を目にした瞬間、全員が息を呑む。
床に押さえつけられ動けない不審者と、無駄のない姿勢で制圧している俺。
ゼノ「…さすがはスタン。ほんの数秒で片付けるとはね」
ゼノが皮肉めいた笑みを浮かべる。
野次馬と化した研究者達の目は、驚きを隠しきれてはいなかった。
「お、押さえてる相手、もう意識ないじゃないか!」
研究員の一人が声を上げるが、それを制すように司が続けた。
司「うん。彼の判断に間違いはないよ。相手は武器を持っていた。返り討ちにして正解だよ。ただの素人じゃないって事だからね。」
俺はそんなやり取りは気にもとめず、無線で軍の回収班を呼ぶ。
ゼノがちらと侵入者の落とした金属器具を拾い上げた。
ゼノ「…なるほど。市販の物ではないな。改造痕がある。やはり誰か後ろにいる」
研究員たちはざわつく。
だがその視線の先、俺がまるで呼吸を乱さぬまま侵入者を押さえ込んでいる姿に、尊敬と畏怖が混ざった眼差しを向けていた。
「さすが隊長…」
「あの動き、反応速度…」
研究者達からは、そんな小声が漏れる。
俺は視線を動かさず、淡々と応じた。
「仕事は終りだ。」
その一言でざわめきは収まり、静寂が戻る。
背後で、Honeyが小さく微笑んでいた。
緊張の残る空気の中でも、彼女のその表情が俺の心をわずかに和らげた。