緊急出動
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
石化復興後、まだ治安が安定しきっていないこの世界。
文明が戻りつつある街も、テロや犯罪は残念ながら起きるもの。
ある飛行拠点がテロに巻き込まれたと一報が入ってきたのは、1時間程前。
そして不審な機影を遠隔レーダーがとらえた。
ゼノの声が研究棟に響いた。
「特殊部隊隊長スタンリー・スナイダー。スクランブル発令だ。状況は上空にて確認せよ」
言い切る声音はいつも通り淡々としていたが、科学者たちの空気は一瞬で張り詰める。
俺は椅子から立ち上がり、迷いなく格納庫へ向かった。
今日はシャーロットが不在で、出せる機は一機のみ。
足音が滑走路へと吸い込まれるたびに、体が戦闘モードに切り替わっていく。
格納庫前では、ブロディと整備班がすでに機体を仕上げて待っていた。
「燃料満タン、弾装チェック完了!オールグリーン!」
いつもは陽気なブロディの声が妙に張り詰めてる。
俺の視線を受けると整備士たちは直立した。
部下に余計な緊張をさせるつもりはない。
片手を軽く上げて「任せたぞ」とだけ返す。
そのとき無線ヘッドセット越しに、聞き慣れた声が届いた。
「スタン、機影は方位080、高度6000。
速度は巡航より速いけれど、軍用規格にしては中途半端ね。
…不審機に間違いないわ。気をつけて」
管制卓に座るHoneyの声。
視線を送れば、ガラス越しに彼女がこちらを見ているのがわかった。
真剣な眼差し。
だがその奥にあるのは俺を想う気持ちだ。
胸の奥で、何かが静かに燃える。
「問題ねえな、Honey」
俺はキャノピーに足を掛けながら短く答えた。
エンジンスタート。
タービンの唸りが格納庫を震わせる。
コックピットに収まると、いつも以上に世界が狭く静かになった。
無線から聞こえるのは、Honeyの落ち着いた声と、レナードの冷静な方位指示だけ。
キャノピーが閉じる直前、Honeyがかすかに口元を動かした。
「…必ず、無事に帰ってきて」
読唇で理解するには十分だった。
俺は軽く顎を引き、スロットルを押し込む。
滑走路へ機体が動き出す。
離陸許可と同時に、再びスロットルを押し込み、機体は滑走路を駆け抜ける。
振動が一気に軽くなると同時に、視界が地面を離れた。
空だ。
俺の最も馴染む場所。
必ず戻る。あの笑顔のために。
搭乗するのは最新鋭に近い機体だが、復興後の改造戦闘機。
雲を切り裂くように機体を上昇させながら、計器を走査する。
エンジンのレスポンス良好、燃料圧も安定。
ブロディの整備に抜かりないのは分かっているが、それでも自分で確かめるのがパイロットの責任だ。
「こちらアルファ1、上昇中。高度3000通過」
無線に声を落とす。
すぐに返ってきたのはレナードの冷静な声だった。
「アルファ1、機影は依然方位080、高度6000を維持。速度は減速気味。隊長、こちらの存在に気付いている可能性大です」
「了解」
短く答え、さらにスロットルを押す。
無線に一瞬の間を挟んで、今度はHoneyの声。
「スタン、上昇角度良好。このままなら相手と同高度に入れるわ。…気を抜かないで」
…わかってんよ。
彼女自身も俺がわかってるのを承知で伝えてんだろう。
その声を聞いただけで胸の奥が妙に温かくなる。
緊張感で張り詰めた空気が、彼女の声ひとつで少し和らぐ。
雲間を抜けると、視界が一気に開けた。
紺碧の空の彼方、光を反射する小さな影が見えた。
不審機。
まだ距離はあるが、確かにそこにいる。
息を整える。
ここからが本番だ。
キャノピー越しに見える太陽の光が、ほんの一瞬Honeyの笑顔と重なった。
「Honey、すぐ戻んぜ」
小さく呟いて、機首を目標へ向けた。
高度6000。
視界正面に、黒く影を落とす機体がはっきりと姿を現した。
外見は旧式の軍用機。
少なくともただの旅客機や民間のものではない。
間違いなく、テロにあった基地からの機だ。
「こちらアルファ1、敵影確認。識別信号なし、機体外装に国籍標章なし」
俺の声が無線に響く。
ゼノの冷徹な声が管制塔から返った。
「やはりか…。スタン、威嚇飛行で応答を促せ。攻撃はまだするな」
「了解」
スロットルを少し戻し、機首を敵機の進行方向へと滑らせる。
翼端がかすめるほどの距離を保ち、相手の正面へ回り込むと、機体を左右に振って合図を送った。
だが、敵機は応答しない。
逆に、速度を上げてこちらの追尾を振り切ろうとする動きを見せる。
「…逃がさねえよ」
舌打ちが漏れる。
レナードがすぐに声を重ねてきた。
「アルファ1、敵機急加速!このままでは民間航路に入ります!」
その言葉に、俺の中で一気に戦闘態勢のスイッチが入った。
スロットルを押し込み、機体が再び轟音とともに加速する。
空気がキャノピーを叩きつけ、骨まで振動するような力強さが全身に伝わった。
「こちらアルファ1、交戦許可を要請する」
短く言い切る。
管制の奥からゼノの低い声が響いた。
「…許可する。スタン、撃墜は避けろ。追い落とせ」
「Roger」
口元が自然と引き締まる。
その瞬間、無線からかすかにHoneyの声。
「スタン…必ず無事に帰ってきて」
胸の奥に火を灯すような言葉。
スロットルを握る手に、さらに力がこもる。
「任せな、Honey」
短く囁き、機体を敵影へと突っ込ませた。
青い空に二つの影が、交錯するように飛び込んでいく。
ここからが、空の戦場だ。
敵機は予想以上に機動性が高かった。
旧式に見えて、内部は改造されている。
低空へ急降下し、地形を利用して逃げ切ろうとしている。
「ちょこまかと…」
俺は吐き捨て、スティックを倒して機体を鋭く旋回させる。
Gで視界がかすみそうになるが、慣れた身体はブレずに追従する。
「アルファ1、敵機高度3000。街中に入る前に制圧を!」
レナードの緊迫した声が飛ぶ。
「了解」
敵の背後に食らいつき、銃口が相手を捉える瞬間、指がトリガーを半分まで絞った。
だが、撃つ直前、わずかに機体を傾けた。
照準を外し、代わりに敵機の翼端ぎりぎりへ弾を散らす。
コンマ数センチの絶妙な加減。
「警告だ。これ以上暴れんなら、次は胴体だかんね」
一瞬、敵機が揺れた。
怯んだか。
そう思った矢先、逆に急旋回で後ろを取られる。
「…へえ、やんじゃん」
口元が自然と笑みに歪む。
重力で全身にのしかかるGをものともせず、機体をバレルロールさせ、逆に敵機の背中へ潜り込む。
視界いっぱいに黒い機体が広がる。照準器が赤く点滅し、敵を完璧に捉えていた。
その瞬間、無線にHoneyの声。
「スタン!気をつけて、敵機の機首、何か装備してる!」
目を凝らすと、確かに機首下から不審な装置が光を帯びていた。
通常の火器ではない…石化装置の残骸を改造した兵器か。
「チッ…」
すぐに機体を急上昇させ、レーザーのような光が背後をかすめる。空気が焼ける匂いすら感じる距離。
「ゼノ、聞こえたな。奴ら、石化技術を改良してレーダーを流して兵器化してやがる」
「…予想以上だ。スタン、破壊を優先しろ。捕獲は後回しだ」
「Roger」
スロットルを全開。
敵機の背後へと再び入り込み、照準を敵機首の装置へ合わせる。
「ここで、制圧すんぜ」
そう呟き、トリガーを引き絞った。
照準器越しに、敵機の機首下の装置がはっきりと見えた。
小型だが複雑な配線と発光パターン。
ゼノが言った通り、ただの火器じゃない。
誤れば民間地に被害が及ぶ。
容赦はできねぇ。
「今だ、トリガーを引け」自分に言い聞かせるように、手に伝わるスティックの感触を確かめる。
呼吸を一点に集中し、微妙な機体の揺れを舵で消す。
レーザーの閃光が背後をかすめたが、機体は堪えた。
引き金を引く。
弾丸は一列になって機首へ向かい、装置の外殻を容赦なく削り取る。
火花と切れた配線が飛び散り、装置は奇声のようなノイズとともに機能を停止した。
敵機が一瞬、挙動を乱す。
ここで終わらせるわけにはいかねぇ。
「アルファ1、装置破壊確認。相手機機能低下!」
レナードの声が無線を震わせる。
Honeyの声も割れずに入ってきて、安堵の色が混じる
「いいわ、スタン。そこよ、その位置なら」
「あぁ、できるね。」
こういう時に頼りになる女だ。
敵機は必死に逃げを打つ。
高度を落とし、海面ぎりぎりを狙って地形に隠れようとする。
そこで逆にこっちが利用する。
機体を低く、速く、相手を海へ追い落とす。風が耳を切った。
Gが容赦なく体を圧するが、気にもとめねえ。
視界は機体の縁で震えるが、視線は一点、敵機の尾翼に吸いつくようについていく。
最後の一押しは精密な操縦だ。
わずかな角度修正で相手の追従を崩し、海面へ向かう軌道へ追い込む。
相手の翼が波しぶきを上げ始めたとき、確信が来た。
衝撃とともに黒い影が海面に跳ね、やがて尾を見せなくなった。
沈下の痕跡、そして燃え残りの油の虹がすぐに判断を下す。
「アルファ1、敵機追跡終了。海上に追い落とした。被害報告はのちに。帰還を推奨する」
レナードの、少しだけ弾んだ声。
無線口からはブロディの安堵の息遣いも聞こえた。
Honeyは「良かった、帰って来て」短く、しかし確かな喜びが混じる。
胸の奥が熱くなる。
機体を整えつつ、帰路を取る。
操縦席は沈黙と振動だけが残り、俺はハンドルを握ったまましばらく黙していた。
視界の端に、海に浮く黒い影と消えた小さな炎を見下ろしながら、心の中で一度だけ「戻る」と呟いた。
基地に着陸する時、滑走路が視界に伸びたときにふっと肩の力が抜ける。
格納庫へ戻ると、ブロディが駆け寄って機体をチェック、レナードが報告書をまとめる。
ゼノは無表情ながらもデータ確認に忙しく、Honeyが先に来ていた。
管制室のモニターに表示された「追跡成功」を見て、彼女の瞳に安堵の涙が光る。
キャノピーが開き、冷たい風が顔を叩き、塩の匂いが鼻をくすぐった。
Honeyの姿を捉えると、言葉はいらなかった。
彼女が無事でいる顔だけで充分だ。
零れた笑顔を受け止め、俺はヘルメットを脱いで一歩踏み出した。
背後では仲間たちの安堵の声が続いている。
格納庫の喧騒が収まり、デブリーフルームに集まる。
汗の匂いと油の残り香が漂う中、報告は簡潔に進められた。
「アルファ1、装置破壊を確認。敵機は海上に墜落、残骸は一部確認済み。味方に被害なし」
自分の声は低く抑えていたが、部屋にいる全員が安堵した空気を隠さなかった。
ゼノがテーブルの端に立ち、腕を組んでいる。
冷静な分析の目がスクリーンに映る記録をなぞる。
「敵機の石化装置改良兵器、やはり不安定だったようだ。石化装置の技術を応用してレーダーと組み合わせた。南米の石化装置の山は警備が厳重とは言いにくい。何せあの量だ。
今回は外部からの攻撃で容易に機能停止する構造だが、それは意図的な簡素化だろうね。試作品、あるいは囮の可能性が高い」
その声に皆が一瞬静まり返る。ゼノは視線をこちらに向ける。
「スタン、君の操縦技術がなければここまで綺麗に無力化はできなかった。だが、これは終わりではなく始まりだ。背後に供給元がいるはずだよ」
短く頷いた。
ゼノの言葉は余計な熱を帯びず、しかし鋭利だ。
だからこそ信じられる。
「了解だ。…引き続き解析を頼む」
それだけ返し、俺は背凭れに体を預けた。
緊張の糸がようやく切れた感覚が、静かに胸に広がる。
デブリーフが終わり、廊下を歩いていた。
まだ心臓は高鳴ったままだ。
敵機のミサイル軌道、機体の振動、あの一瞬の判断。
すべてが脳裏にこびりついて離れない。
扉の先、人影を見つけた。
Honey、俺を待ってたんか。
目が合った瞬間、胸の奥の疼きが一気に爆発した。
「…Honey」
声は掠れていた。
歩み寄るや否や、彼女を壁際に押し留め、唇を奪う。
抑えが効かない。
命をかけたやり取りの後は生存本能剥き出しになるなんて、新人かよ俺は。
だが、Honeyを前にしてしまえば、そんな事どうでも良くなった。
貪るように何度も重ね、後頭部を掴んで離さない。
腕の中にある細い肩が壊れてしまうんじゃないかというほど力が籠る。
まだ、生きている証が欲しい。
この女の温度を確かめないと落ち着けない。
そんな俺をHoneyは拒まない。
唇を許しながらも、背にそっと手を添えてきた。
震える俺の心を撫でるように。
「…スタン、大丈夫よ。もう終わったの。スタンは帰ってきた。私の所に」
耳に落ちた囁きは、冷え切った戦闘モードの奥に火を灯し、同時に鎮めていく。
「…Honey…」
気づけば額を彼女の肩に落とし、息を荒げていた。
押し潰しかけていた腕の力をようやく緩める。
どれだけ牙を剥いても、この女の前では結局、甘えるしかない。
しばらくの間、肩口に額を押しつけて深呼吸していた。
荒ぶる鼓動が、Honeyの匂いと体温に溶けていくうちに、ようやく戦場の残滓が薄れていく。
「…サンキュ、Honey」
小さく、だが確かに言葉が漏れた。
唇を奪った勢いのままじゃなく、今度は静かにHoneyを見つめる。
俺を鎮められるのは、結局この女しかいない。
Honeyはにこっと柔らかく笑った。
「ふふ、スタンが無事に帰ってきてくれただけで十分。…お疲れさま、スタン」
その一言で胸の奥がまた熱くなり、思わず頬に手を添えて引き寄せた。
今度は短く、優しく口づける。
さっきとは違う。
命の渇きじゃなく、確かな安堵と感謝を込めて。
「帰んぜ、Honey」
差し出した手を、彼女が当然のように握る。その小さな手のぬくもりを確かめながら、二人でゆっくり歩き出す。
外は夜の気配。
だが今は、戦場の闇じゃなく、帰るべき場所へと向かう温かな道だ。
文明が戻りつつある街も、テロや犯罪は残念ながら起きるもの。
ある飛行拠点がテロに巻き込まれたと一報が入ってきたのは、1時間程前。
そして不審な機影を遠隔レーダーがとらえた。
ゼノの声が研究棟に響いた。
「特殊部隊隊長スタンリー・スナイダー。スクランブル発令だ。状況は上空にて確認せよ」
言い切る声音はいつも通り淡々としていたが、科学者たちの空気は一瞬で張り詰める。
俺は椅子から立ち上がり、迷いなく格納庫へ向かった。
今日はシャーロットが不在で、出せる機は一機のみ。
足音が滑走路へと吸い込まれるたびに、体が戦闘モードに切り替わっていく。
格納庫前では、ブロディと整備班がすでに機体を仕上げて待っていた。
「燃料満タン、弾装チェック完了!オールグリーン!」
いつもは陽気なブロディの声が妙に張り詰めてる。
俺の視線を受けると整備士たちは直立した。
部下に余計な緊張をさせるつもりはない。
片手を軽く上げて「任せたぞ」とだけ返す。
そのとき無線ヘッドセット越しに、聞き慣れた声が届いた。
「スタン、機影は方位080、高度6000。
速度は巡航より速いけれど、軍用規格にしては中途半端ね。
…不審機に間違いないわ。気をつけて」
管制卓に座るHoneyの声。
視線を送れば、ガラス越しに彼女がこちらを見ているのがわかった。
真剣な眼差し。
だがその奥にあるのは俺を想う気持ちだ。
胸の奥で、何かが静かに燃える。
「問題ねえな、Honey」
俺はキャノピーに足を掛けながら短く答えた。
エンジンスタート。
タービンの唸りが格納庫を震わせる。
コックピットに収まると、いつも以上に世界が狭く静かになった。
無線から聞こえるのは、Honeyの落ち着いた声と、レナードの冷静な方位指示だけ。
キャノピーが閉じる直前、Honeyがかすかに口元を動かした。
「…必ず、無事に帰ってきて」
読唇で理解するには十分だった。
俺は軽く顎を引き、スロットルを押し込む。
滑走路へ機体が動き出す。
離陸許可と同時に、再びスロットルを押し込み、機体は滑走路を駆け抜ける。
振動が一気に軽くなると同時に、視界が地面を離れた。
空だ。
俺の最も馴染む場所。
必ず戻る。あの笑顔のために。
搭乗するのは最新鋭に近い機体だが、復興後の改造戦闘機。
雲を切り裂くように機体を上昇させながら、計器を走査する。
エンジンのレスポンス良好、燃料圧も安定。
ブロディの整備に抜かりないのは分かっているが、それでも自分で確かめるのがパイロットの責任だ。
「こちらアルファ1、上昇中。高度3000通過」
無線に声を落とす。
すぐに返ってきたのはレナードの冷静な声だった。
「アルファ1、機影は依然方位080、高度6000を維持。速度は減速気味。隊長、こちらの存在に気付いている可能性大です」
「了解」
短く答え、さらにスロットルを押す。
無線に一瞬の間を挟んで、今度はHoneyの声。
「スタン、上昇角度良好。このままなら相手と同高度に入れるわ。…気を抜かないで」
…わかってんよ。
彼女自身も俺がわかってるのを承知で伝えてんだろう。
その声を聞いただけで胸の奥が妙に温かくなる。
緊張感で張り詰めた空気が、彼女の声ひとつで少し和らぐ。
雲間を抜けると、視界が一気に開けた。
紺碧の空の彼方、光を反射する小さな影が見えた。
不審機。
まだ距離はあるが、確かにそこにいる。
息を整える。
ここからが本番だ。
キャノピー越しに見える太陽の光が、ほんの一瞬Honeyの笑顔と重なった。
「Honey、すぐ戻んぜ」
小さく呟いて、機首を目標へ向けた。
高度6000。
視界正面に、黒く影を落とす機体がはっきりと姿を現した。
外見は旧式の軍用機。
少なくともただの旅客機や民間のものではない。
間違いなく、テロにあった基地からの機だ。
「こちらアルファ1、敵影確認。識別信号なし、機体外装に国籍標章なし」
俺の声が無線に響く。
ゼノの冷徹な声が管制塔から返った。
「やはりか…。スタン、威嚇飛行で応答を促せ。攻撃はまだするな」
「了解」
スロットルを少し戻し、機首を敵機の進行方向へと滑らせる。
翼端がかすめるほどの距離を保ち、相手の正面へ回り込むと、機体を左右に振って合図を送った。
だが、敵機は応答しない。
逆に、速度を上げてこちらの追尾を振り切ろうとする動きを見せる。
「…逃がさねえよ」
舌打ちが漏れる。
レナードがすぐに声を重ねてきた。
「アルファ1、敵機急加速!このままでは民間航路に入ります!」
その言葉に、俺の中で一気に戦闘態勢のスイッチが入った。
スロットルを押し込み、機体が再び轟音とともに加速する。
空気がキャノピーを叩きつけ、骨まで振動するような力強さが全身に伝わった。
「こちらアルファ1、交戦許可を要請する」
短く言い切る。
管制の奥からゼノの低い声が響いた。
「…許可する。スタン、撃墜は避けろ。追い落とせ」
「Roger」
口元が自然と引き締まる。
その瞬間、無線からかすかにHoneyの声。
「スタン…必ず無事に帰ってきて」
胸の奥に火を灯すような言葉。
スロットルを握る手に、さらに力がこもる。
「任せな、Honey」
短く囁き、機体を敵影へと突っ込ませた。
青い空に二つの影が、交錯するように飛び込んでいく。
ここからが、空の戦場だ。
敵機は予想以上に機動性が高かった。
旧式に見えて、内部は改造されている。
低空へ急降下し、地形を利用して逃げ切ろうとしている。
「ちょこまかと…」
俺は吐き捨て、スティックを倒して機体を鋭く旋回させる。
Gで視界がかすみそうになるが、慣れた身体はブレずに追従する。
「アルファ1、敵機高度3000。街中に入る前に制圧を!」
レナードの緊迫した声が飛ぶ。
「了解」
敵の背後に食らいつき、銃口が相手を捉える瞬間、指がトリガーを半分まで絞った。
だが、撃つ直前、わずかに機体を傾けた。
照準を外し、代わりに敵機の翼端ぎりぎりへ弾を散らす。
コンマ数センチの絶妙な加減。
「警告だ。これ以上暴れんなら、次は胴体だかんね」
一瞬、敵機が揺れた。
怯んだか。
そう思った矢先、逆に急旋回で後ろを取られる。
「…へえ、やんじゃん」
口元が自然と笑みに歪む。
重力で全身にのしかかるGをものともせず、機体をバレルロールさせ、逆に敵機の背中へ潜り込む。
視界いっぱいに黒い機体が広がる。照準器が赤く点滅し、敵を完璧に捉えていた。
その瞬間、無線にHoneyの声。
「スタン!気をつけて、敵機の機首、何か装備してる!」
目を凝らすと、確かに機首下から不審な装置が光を帯びていた。
通常の火器ではない…石化装置の残骸を改造した兵器か。
「チッ…」
すぐに機体を急上昇させ、レーザーのような光が背後をかすめる。空気が焼ける匂いすら感じる距離。
「ゼノ、聞こえたな。奴ら、石化技術を改良してレーダーを流して兵器化してやがる」
「…予想以上だ。スタン、破壊を優先しろ。捕獲は後回しだ」
「Roger」
スロットルを全開。
敵機の背後へと再び入り込み、照準を敵機首の装置へ合わせる。
「ここで、制圧すんぜ」
そう呟き、トリガーを引き絞った。
照準器越しに、敵機の機首下の装置がはっきりと見えた。
小型だが複雑な配線と発光パターン。
ゼノが言った通り、ただの火器じゃない。
誤れば民間地に被害が及ぶ。
容赦はできねぇ。
「今だ、トリガーを引け」自分に言い聞かせるように、手に伝わるスティックの感触を確かめる。
呼吸を一点に集中し、微妙な機体の揺れを舵で消す。
レーザーの閃光が背後をかすめたが、機体は堪えた。
引き金を引く。
弾丸は一列になって機首へ向かい、装置の外殻を容赦なく削り取る。
火花と切れた配線が飛び散り、装置は奇声のようなノイズとともに機能を停止した。
敵機が一瞬、挙動を乱す。
ここで終わらせるわけにはいかねぇ。
「アルファ1、装置破壊確認。相手機機能低下!」
レナードの声が無線を震わせる。
Honeyの声も割れずに入ってきて、安堵の色が混じる
「いいわ、スタン。そこよ、その位置なら」
「あぁ、できるね。」
こういう時に頼りになる女だ。
敵機は必死に逃げを打つ。
高度を落とし、海面ぎりぎりを狙って地形に隠れようとする。
そこで逆にこっちが利用する。
機体を低く、速く、相手を海へ追い落とす。風が耳を切った。
Gが容赦なく体を圧するが、気にもとめねえ。
視界は機体の縁で震えるが、視線は一点、敵機の尾翼に吸いつくようについていく。
最後の一押しは精密な操縦だ。
わずかな角度修正で相手の追従を崩し、海面へ向かう軌道へ追い込む。
相手の翼が波しぶきを上げ始めたとき、確信が来た。
衝撃とともに黒い影が海面に跳ね、やがて尾を見せなくなった。
沈下の痕跡、そして燃え残りの油の虹がすぐに判断を下す。
「アルファ1、敵機追跡終了。海上に追い落とした。被害報告はのちに。帰還を推奨する」
レナードの、少しだけ弾んだ声。
無線口からはブロディの安堵の息遣いも聞こえた。
Honeyは「良かった、帰って来て」短く、しかし確かな喜びが混じる。
胸の奥が熱くなる。
機体を整えつつ、帰路を取る。
操縦席は沈黙と振動だけが残り、俺はハンドルを握ったまましばらく黙していた。
視界の端に、海に浮く黒い影と消えた小さな炎を見下ろしながら、心の中で一度だけ「戻る」と呟いた。
基地に着陸する時、滑走路が視界に伸びたときにふっと肩の力が抜ける。
格納庫へ戻ると、ブロディが駆け寄って機体をチェック、レナードが報告書をまとめる。
ゼノは無表情ながらもデータ確認に忙しく、Honeyが先に来ていた。
管制室のモニターに表示された「追跡成功」を見て、彼女の瞳に安堵の涙が光る。
キャノピーが開き、冷たい風が顔を叩き、塩の匂いが鼻をくすぐった。
Honeyの姿を捉えると、言葉はいらなかった。
彼女が無事でいる顔だけで充分だ。
零れた笑顔を受け止め、俺はヘルメットを脱いで一歩踏み出した。
背後では仲間たちの安堵の声が続いている。
格納庫の喧騒が収まり、デブリーフルームに集まる。
汗の匂いと油の残り香が漂う中、報告は簡潔に進められた。
「アルファ1、装置破壊を確認。敵機は海上に墜落、残骸は一部確認済み。味方に被害なし」
自分の声は低く抑えていたが、部屋にいる全員が安堵した空気を隠さなかった。
ゼノがテーブルの端に立ち、腕を組んでいる。
冷静な分析の目がスクリーンに映る記録をなぞる。
「敵機の石化装置改良兵器、やはり不安定だったようだ。石化装置の技術を応用してレーダーと組み合わせた。南米の石化装置の山は警備が厳重とは言いにくい。何せあの量だ。
今回は外部からの攻撃で容易に機能停止する構造だが、それは意図的な簡素化だろうね。試作品、あるいは囮の可能性が高い」
その声に皆が一瞬静まり返る。ゼノは視線をこちらに向ける。
「スタン、君の操縦技術がなければここまで綺麗に無力化はできなかった。だが、これは終わりではなく始まりだ。背後に供給元がいるはずだよ」
短く頷いた。
ゼノの言葉は余計な熱を帯びず、しかし鋭利だ。
だからこそ信じられる。
「了解だ。…引き続き解析を頼む」
それだけ返し、俺は背凭れに体を預けた。
緊張の糸がようやく切れた感覚が、静かに胸に広がる。
デブリーフが終わり、廊下を歩いていた。
まだ心臓は高鳴ったままだ。
敵機のミサイル軌道、機体の振動、あの一瞬の判断。
すべてが脳裏にこびりついて離れない。
扉の先、人影を見つけた。
Honey、俺を待ってたんか。
目が合った瞬間、胸の奥の疼きが一気に爆発した。
「…Honey」
声は掠れていた。
歩み寄るや否や、彼女を壁際に押し留め、唇を奪う。
抑えが効かない。
命をかけたやり取りの後は生存本能剥き出しになるなんて、新人かよ俺は。
だが、Honeyを前にしてしまえば、そんな事どうでも良くなった。
貪るように何度も重ね、後頭部を掴んで離さない。
腕の中にある細い肩が壊れてしまうんじゃないかというほど力が籠る。
まだ、生きている証が欲しい。
この女の温度を確かめないと落ち着けない。
そんな俺をHoneyは拒まない。
唇を許しながらも、背にそっと手を添えてきた。
震える俺の心を撫でるように。
「…スタン、大丈夫よ。もう終わったの。スタンは帰ってきた。私の所に」
耳に落ちた囁きは、冷え切った戦闘モードの奥に火を灯し、同時に鎮めていく。
「…Honey…」
気づけば額を彼女の肩に落とし、息を荒げていた。
押し潰しかけていた腕の力をようやく緩める。
どれだけ牙を剥いても、この女の前では結局、甘えるしかない。
しばらくの間、肩口に額を押しつけて深呼吸していた。
荒ぶる鼓動が、Honeyの匂いと体温に溶けていくうちに、ようやく戦場の残滓が薄れていく。
「…サンキュ、Honey」
小さく、だが確かに言葉が漏れた。
唇を奪った勢いのままじゃなく、今度は静かにHoneyを見つめる。
俺を鎮められるのは、結局この女しかいない。
Honeyはにこっと柔らかく笑った。
「ふふ、スタンが無事に帰ってきてくれただけで十分。…お疲れさま、スタン」
その一言で胸の奥がまた熱くなり、思わず頬に手を添えて引き寄せた。
今度は短く、優しく口づける。
さっきとは違う。
命の渇きじゃなく、確かな安堵と感謝を込めて。
「帰んぜ、Honey」
差し出した手を、彼女が当然のように握る。その小さな手のぬくもりを確かめながら、二人でゆっくり歩き出す。
外は夜の気配。
だが今は、戦場の闇じゃなく、帰るべき場所へと向かう温かな道だ。