日常
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深夜。
月明かりがカーテンの隙間から差し込む室内。
スタンはいつも通り、Honeyを抱きしめて眠っていた。
隣で眠るHoneyが小さく身じろぎし、浅い呼吸を繰り返していた。
その吐息が乱れ、震えているのを、俺はすぐに察知する。
泣いている。
静かに目を開け、彼女を覗き込む。
薄闇の中で見えたのは、濡れた頬と、噛みしめた唇。
必死に声を殺しているが、肩は小刻みに揺れていた。
気づかないふりなど、できるはずがない。
そっと回していた腕を、更に胸へ引き寄せる。
「…Honey」
低く、優しく呼ぶ。
驚いたように目を瞬かせた彼女は、泣き顔を見せまいと俺の胸に顔を隠した。
小さく震える声が漏れる。
「…スタン…起こしちゃった…ごめんなさい…」
「謝る必要なんか、ないかんね」
彼女の髪を撫で、背をさすりながら囁く。
「Honeyが苦しんでんのに、眠ってられっかよ。怖い夢、見たん?」
Honeyの震える声が、胸元に滲み込むように伝わってきた。
「……スタンが遠くに行ってしまって……気持ちが離れていってしまう夢だったの。」
その告白は、彼女の一番の恐れを映したもの。
俺の胸が締め付けられる。
彼女の肩を両手で包み込み、顔を上げさせた。
涙で濡れた瞳が、揺れながら俺を見つめている。
「Honey…そんな夢に怯える必要はないんよ」
低く確かに言葉を紡ぐ。
「俺はHoneyから離れねえ。心も、身体も、魂の底からHoneyに繋がってんよ。絶対に」
彼女の頬を親指で拭い、額をそっと重ねる。
「遠くに行ったりしねえ。任務でどこへ出ようが、俺の心はずっとここにある。Honeyの隣だ」
震える唇にキスを落とす。
短く、何度も。
涙を飲み込ませるように、安心を刻むように。
「…Honeyを置いて行く未来なんてありえねえかんね。Honey、信じな」
彼女は声を詰まらせながらも、俺にしがみついた。
強く、強く。
「…スタン…怖かった…夢もなんだけど、たまに漠然とした不安に襲われてしまう事もあって。それが夢に出たのかな?…日々幸せで、スタンの事も信じているのに、こんな不安になってたらダメね…ありがとう、今は少し安心したわ…」
その囁きが、俺の胸の奥に深く染み込む。
ぎゅっと抱き締め、背中をゆっくり撫でながら、彼女の震えが収まるまで寄り添った。
Honeyはスタンを起こしてしまった事に申し訳なさを感じつつ、現実世界の目の前にいるスタンに少しづつ荒れた心が癒されていくHoney。
涙で少し赤くなった目を細めながら、Honeyが小さく微笑んだ。
まだ震えていたが、その奥には確かな安堵が見える。
俺は額に唇を触れさせた。
「Honeyの不安も涙も、全部俺が受け止めるためにここにいんよ」
その一言に、Honeyは胸に顔を埋めて、またしがみついてくる。
細い肩に残る震えを感じながら、俺は背中を大きな手でゆっくりと撫でる。
「…スタンが居てくれて…ほんとに良かった…」
「いつでも居んよ。どんな夢にHoney怯えても、目を覚ませば必ず俺が隣にいる」
しばらくの沈黙のあと、彼女の呼吸が少しずつ落ち着いていく。
まつ毛が重く閉じて、頬が俺の胸に甘えるように押し付けられた。
「…スタン…大好きよ…」
夢と現の間に漂うような囁きが聞こえ、俺の胸を熱く締め付ける。
「俺もだ、Honey。死ぬまでずっと」
囁き返し、腕の中で小さな体を守るように抱き締めた。
やがて、彼女の体が完全に力を抜き、安らかな寝息が夜の静けさに溶け込む。
彼女が見た悪夢とは対照的に、この胸の中には確かな温もりと絆がある。
それを失う未来など存在しないと、俺は改めて強く心に誓った。
スタンリーは、軍人として不安や恐怖をどう制御するかを常に叩き込まれてきた。
任務中に感情に飲まれることは死に直結する。
だからこそ、Honeyのように理性で割り切れない感情に支配される姿は、理解はできても自分には持ち得ないものとして映っている。
けれど同時に、彼はこう解釈している。
不安に揺れるのも、この女の優しさと深い愛情の裏返しで、愛しているからこそ失うのが怖い。
大切に思うからこそ手放すことが恐ろしくなる。
そして同時に思う。
Honeyの底知れない不安は、この女の愛そのものだ、と。
それは軍人としての自分にない人間らしさでもあった。
任務では恐怖を抑え、冷徹に判断しなければならない。
だがHoneyは心のままに揺れ、弱さを晒す。
スタンにとってそれは決して欠点ではなく、自分に足りない温かさであり、だからこそ守りたいと思わせる。
その不安さえも俺の役目であり、不安が彼女の本能から来るものなら、理屈で取り除くことはできない。
ならば俺のすべきことは一つ
繰り返し安心を与え続けること。
抱き締め、言葉で伝え、行動で示す。それでしか彼女を満たせないと理解している。
スタンは、Honeyの制御できない不安を愛の証として受け止め、同時に自分の存在理由として誇りに変えている。
腕に縋るHoneyを抱きしめ、スタンは低く囁く。
「Honey。アンタが抱える不安…それは愛の証だ。俺には持ち得ない優しさじゃん、アンタらしさでもあんよ。だから、決して恥じんな」
涙の跡が残る頬を指で拭い取り、じっと見つめる。
「アンタが不安で震えんなら、その役目は俺が引き受けんよ。不安ごと抱き込むんは、俺の存在理由だ。」
彼は額を寄せ、息をかけるほど近くで、深く刻むように言葉を落とした。
「アンタの不安さえも全部、俺に委ねろ。何度でも、安心を与え続けてやんよ」
Honeyの潤んだ瞳が震え、口元にかすかな微笑が浮かぶ。
「…スタン…そんなふうに言われたら…安心しすぎて…すぐ眠くなっちゃうじゃない…」
掠れた声でそう呟き、彼の胸に顔を埋める。抱き締められた温もりの中、呼吸がゆっくり落ち着いていき、瞼が閉じられる。
「おやすみ、Honey。愛してんよ」
囁きと共に額へ落としたキスの直後、彼女の体は完全に眠りに落ちた。
スタンは、その寝顔を抱き守りながら、自分の誓いを胸の奥でさらに強く噛み締めていた。
翌朝。
まだ朝日は浅く、部屋は静かな淡い光に包まれていた。
スタンは目を覚ましてもなお、腕の中に収まったHoneyを放さずにいた。
彼女は安心しきった顔で、規則正しい呼吸を繰り返している。
昨夜の涙を思い出す。
不安になる自分はダメなんじゃないかと怯えるように呟いたHoney。
軍人として叩き込まれてきたスタンにとって、不安は制御すべきものであり、訓練で押し殺す対象だった。
だが、Honeyの不安は違う。理性や訓練で切り捨てられるものではなく、愛の裏返しとして自然に湧き上がるものだ。
スタンは心の中で静かに整理していく。
彼女は、不安を弱さだと思っている。
だが俺から見れば、それは深い愛情の証であり、俺にはない人間らしさだ。
その違いを、俺は尊いものとして受け止める。
彼女が不安で震えるなら、何度でも抱きしめ、言葉で埋め尽くす。
彼女がダメだと思ってしまうなら、それでいいと伝え続ける。
視線を落とせば、Honeyは少し寝ぼけたように眉をひそめ、枕に頬をすり寄せる仕草をした。
スタンは思わず口元を和らげ、額へキスを落とす。
「不安でもいい。アンタはそれでいいんよ。俺が全部、受け止めっかんね」
囁きは届いていないだろう。
だが、彼女が安らかに眠り続けるその寝顔を見れば、もう答えは出ている。
スタンにとってHoneyの不安はダメなことではなく、守る理由。
そしてそのたびに誓いを強くする自分こそが、彼女に選ばれた意味なのだ。
彼はそっとを抱き寄せ、また目を閉じた。
少しでも長く、この安らぎをHoney分かち合うために。
Honeyがゆっくりと瞬きをして、スタンの胸に頬を寄せたまま目を覚ます。
「…おはよう、スタン」
まだ寝起きの声。どこか甘えていて、安堵に染まっている。
スタンは目を開け、彼女の髪に軽く口づけた。
「おはよう、Honey。よく眠れたか?」
Honeyは小さく頷きながら、昨夜の自分を思い出すように視線を伏せる。
「…ええ。でも…やっぱり思ってしまうの。私の不安って、ダメなんじゃないかって」
その呟きに、スタンは迷わず彼女の顎を指先で持ち上げ、視線をまっすぐ絡めた。
「いいか、Honey。アンタの不安はダメなことじゃないかんね」
「…」
「それは俺への愛情の深さだ。大切だから、失うのが怖い。愛してっから、離れんのが怖い。それはアンタの優しさであり、人間らしさなんよ。俺には持てないもんだ」
Honeyの瞳が揺れる。スタンはさらに言葉を重ねた。
「俺は軍人として、不安を押し殺すように叩き込まれてきたかんね。だからこそアンタのその揺らぎが、温かさが、俺には眩しい。守りたいと心から思わせてくれんよ」
彼はHoneyの頬を撫で、低く誓うように囁いた。
「だから、アンタの不安ごと全部、俺に委ねろ。Honeyが揺れるたび、俺は何度でも安心を与え続ける。それが夫である俺の役目だ」
Honeyの目に涙が滲み、やがて頬を赤らめながら微笑んだ。
「…そんなふうに言ってもらえるなんて…ずるいわ。安心してしまうじゃない」
スタンは口元をわずかに緩め、彼女の唇を捕らえて甘く、ゆっくりと口づける。
離れたあと、額を軽く合わせて囁いた。
「安心していい。何もかも、俺に任せな」
Honeyは胸いっぱいの幸福を抱きしめるように、スタンの胸に顔を埋めた。
「…ありがとう。やっぱり、言葉で聞けると安心するの。スタンの想いが全部伝わってきて…幸せ」
彼はその小さな背を包み込みながら、静かに目を閉じた。
この温もりを、何度でも守り抜く。それが俺の生きる理由だ。
「スタンは…訓練してるとは言っても、それは戦場においての話よね?恋愛もそうなの?」
スタンは一瞬きょとんとし、すぐに低く笑った。
「恋愛まで訓練なんつったら、アンタに怒られんだろうな」
Honeyは少しむくれたように唇を尖らせる。
「だって…スタンは感情を制御するのが当たり前みたいに出来るでしょう?戦場なら必要なことだって分かるけど…恋愛まで同じなら、私の気持ちとずれてしまいそうで」
スタンはその瞳を逃さず見つめ、真剣に答えた。
「いいかHoney。戦場では恐怖を抑えて冷静でいるのが絶対条件だ。だが、恋愛に関しては違う。訓練で感情を抑える必要なんかない」
「…本当?」
「本当。アンタへの気持ちを抑え込んだり、制御したりなんてしたら、それはもう俺じゃねえ。Honeyが好きで、欲しくて、愛してやまねえ、その全部が俺そのもんだ」
彼は彼女の手を強く握り、唇を触れさせた。
「だから安心しろ。俺はアンタに対してだけは、軍人の冷静さも訓練も意味を成さねえ。むしろ全部、アンタ狂わされてんよ」
Honeyは頬を赤くして、胸にぎゅっと抱きついた。
「…それなら良かった。私、スタンに感情を制御されて愛されてるんじゃなくて、心から愛されたいんだもの」
スタンは甘い口づけを落とし、低く囁いた。
「制御なんてしてねえな。Honey、アンタへの愛は常に全開だかんね」
その言葉に、Honeyは安心と幸福を抱えきれないほどに感じ、頬を染めたまま彼の胸にさらに深く顔を埋めた。
洗面所で髪を整えていた俺の背後から、柔らかな声が届いた。
「スタン…大好き」
鏡越しに視線を合わせれば、まだ少し潤んだ瞳のまま、彼女が恥ずかしそうに笑っている。
俺はタオルを放り投げ、そのまま逃げる彼女を後ろから抱き締めた。
「…あぁ、聞き飽きることはねえな。その言葉」
Honeyは頬を赤くして振り返り、俺の胸を軽くポカポカ叩く。
「もう…出勤前なのに、甘やかすんだから」
「仕方ねえだろ。アンタが可愛すぎんよ」
そう囁き、頬にキスを落とすと、Honeyは小さな声で「ん…」と甘い息を漏らした。
朝食の片付け中も、手が重なるたびに指先を絡めて離さない。
玄関で靴を履こうとすれば、Honeyがさりげなくネクタイを直してくれる。
その距離が近すぎて、つい唇を奪ってしまう。
「…もうっ、遅刻しちゃうわよ」
「構わねえ。アンタの唇を奪えんなら、な」
彼女は顔を覆いながらも、耳まで真っ赤にしている。
出勤前のわずかな時間さえ、こうして甘さで埋まっていく。
この女と暮らす朝は、どれほど繰り返しても新鮮だ。
砂埃の舞う訓練場。
分厚い防弾ベストの下で、心臓は一定のリズムを刻み続ける。
射撃の反動も、匍匐前進での重圧も、すべて体に染みついた日常だ。
だが、標的に銃口を定めた瞬間、ふと今朝の光景が脳裏をよぎる。
「スタン、大好き」
あの潤んだ瞳と恥ずかしそうな微笑み。
指先が俺のネクタイを直してくれた感触。
無意識に、微かに口元が緩んだ。
…任務も訓練も、すべてはアンタを守るため。だからこそ、力が入るんよ。
銃を構え直し、引き金を絞る。
乾いた銃声が響き、的の中央に弾痕が刻まれた。
部下たちの視線は驚きと尊敬に変わる。
俺は心の奥で小さく笑う。
Honeyがいれば、どんな状況でも揺るがねえ。
むしろ強さになる。
一方、Honeyはスタンが言う事は信じていたが、分からなかった。
何故スタンはコントロール出来ない底知れない不安に襲われてしまうのが、愛情と認識出来るのか。
Honeyの考えでは、コントロール出来ない底知れない不安に襲われて相手にそのまま、その不安を伝えてしまったら「重い」「面倒くさい」「ウザったい」「暗い」と感じてしまうのではないかと考えている。
昨夜スタンに話したのは、スタンには隠しても無駄で、つい本音をそのまま出してしまって、しまったと内心後悔をしたのだ。
だけど、スタンはそれを愛の証と解釈し、受け止めてくれた。
嬉しくもあり、有難いなと思う反面、その思考に追い付けないでいる。
Honey「…という事があって…不安をコントロールする訓練に興味があって…」
研究所の庭先。
昼休み、芝生に腰を下ろしたシャーロットはペットボトルの水を一口飲んでから、Honeyの問いにじっと耳を傾けていた。
Honeyは恥ずかしそうに視線を伏せ、指先でスカートの裾をいじる。
シャーロットは目を瞬き、そして小さく笑った。
「あぁ、そういう事。なるほど。隊長らしいわ」
「らしい?」
首を傾げるHoneyに、シャーロットは少しだけ頬を赤らめながらも率直に答える。
「隊長はね、私たちには「恐怖を消せ」なんて言わない。むしろ「恐怖は消えねえ。だから、恐怖を理解して動け」って。…あの人にとって、不安や恐怖は存在して当然のものなんだよ」
Honeyは息を呑んだ。
シャーロットは続ける。
「でもHoney、アンタの場合は恋愛の不安でしょ? それを隊長が愛の証って言うのは、全然不思議じゃない。だって私たち部隊員の恐怖すら「強さの裏返し」だって受け止めてくれる人だからさ。ましてや愛する妻の不安なら…あの人にとっては最高の信頼の証なんじゃない?」
「……信頼の、証…?」
目を瞬くHoneyに、シャーロットは肩を竦める。
「アンタがどんなに取り繕っても、隊長には誤魔化せない。だったら隠すより、正直に伝える方があの人は喜ぶのよ。…まぁ、私からすると少し羨ましいくらいだけど」
「え?」
思わず聞き返すと、シャーロットは視線を逸らして苦笑した。
「当たり前だけど私たちに、隊長は怖いくらい厳しい。でも同時に絶対に裏切らない信頼がある。Honeyはその信頼を、愛として独占してるんだもの。…そりゃ、不安になるのも無理ないわ」
Honeyの胸がじんわり温かくなる。
…スタンは、そういう人。
私の不安も愛だと受け止めてくれる人…
シャーロットは軽く立ち上がり、伸びをして言った。
「訓練、興味あるなら付き合うよ。でもま、きっと隊長はHoneyはHoneyのままでいいって言うと思うけどね」
その言葉にHoneyは目を潤ませ、こくりと頷いた。
Honey「シャーロット、ありがとう。大好き!」
Honeyがシャーロットに抱きついた。
芝生の端、部隊棟から戻ってきたスタンは、ふと目に入った光景に足を止めた。
Honeyがシャーロットに勢いよく抱きつきじゃれ合っている。
シャーロットは驚きながらも、軍人らしい安定した体幹でしっかり受け止めて、照れたように笑っている。
スタンは無意識に腕を組み、低く息を吐いた。
…Honey。人懐っこさは相変わらずだな。
胸の奥で小さな独占欲が疼く。
Honeyの柔らかな笑顔や温もりは、自分だけのものだと思っている。
だが、同時に彼女が他人に心を開いている姿を見ると、不思議と安心もする。
Honey自身の不安に向き合おうとしてんのか。…シャーロットに相談したな。
彼は軍人としての自分には教えられない感情の扱い方を、Honeyが女性同士で求めたのだと気づいた。
そして、それを見守れる立場にいることが、妙に誇らしい。
「…俺の前では、もっと甘えさせてやんよ」
誰に聞かせるでもなく呟いたその言葉には、嫉妬と安堵と深い愛情が入り混じっていた。
スタンは腕を組んだまま、ゆっくりと歩を進めた。靴音が芝を踏む感触と混じり、近づいていくにつれHoneyがこちらに気づく。
「…あ、スタン!」
Honeyがぱっと振り返り、まだシャーロットに抱きついたまま笑顔を見せた。
シャーロットは少し気まずそうに腕を解こうとするが、Honeyがしっかり掴んでいて離れない。
スタンは目を細め、低い声で言った。
「…Honey。その抱きつき方は、俺専用じゃなかったんか?」
「えっ……!」
Honeyの頬が瞬時に赤くなり、慌ててシャーロットから離れる。
「ち、違うのよ! シャーロットがすごく頼もしくて、つい……!」
シャーロットは苦笑しながら手を振った。
「いえ、隊長。Honeyさんの無邪気さは、誰だって嬉しいものです」
スタンは彼女に短く頷き、すぐにHoneyへと視線を戻す。
「…まあいい。シャーロット、あんがとな。午後訓練の指揮を頼んだぜ」
「はっ」
軍人らしい返答をしたシャーロットは、その場を下がる。
残されたHoneyは、スタンにそっと寄り添いながら視線を泳がせた。
「…怒った?」
スタンは小さく鼻を鳴らし、Honeyの肩を自分の方へと抱き寄せる。
「怒っちゃいねえ。ただ…そういう可愛い仕草は、俺の前だけで見せな」
甘く低い声に、Honeyはさらに赤くなりながら頷いた。
「あのね、スタン。さっきシャーロットに不安の訓練について相談してたの。…私ね、不安って言葉にしたら相手の負担になるダメな事だって身に付いてしまってるみたいで…その…スタンが今朝言ってくれた事ちゃんと理解したいの。でも、分からなくて…シャーロットに聞いてみたの…」
研究所へ戻る道すがら。
Honeyがぽつりぽつりと話し出したその言葉は、スタンの胸にまっすぐに響いた。
横顔を振り返ると、窓越しの青空を背に、恥じらいで頬を染め、視線を逸らしながらも必死に自分の奥底を伝えようとするHoneyの姿。
その一生懸命さに、スタンは一瞬、喉の奥で笑いが込み上げた。愛おしすぎて。
低く柔らかい声で口を開く。
「…Honey。アンタはいつも俺に全部を理解させようと、真剣に向き合ってんよ」
彼女の肩に大きな手を置き、ゆっくり歩調を合わせる。
「不安を相手に話すことは負担じゃねえ。ましてアンタの不安は俺を想う気持ちから出んだ。…そんなもん、俺からしたら宝物みたいなもんだぜ」
少し照れ臭そうに眉を寄せながらも続ける。
「だから理解できなくてもいい。コントロール訓練なんてする必要もねえ。…アンタが俺を想って揺れるその気持ちを、俺は全部受け止めてえんだ。」
そう言って、彼女の頬にそっと唇を寄せる。
その仕草ひとつで、どれだけHoneyが可愛く、愛しく映っているかを伝えながら。
「スタン…私の悪い癖?みたいなもので…スタンの前では背伸びして、不安なんてなくて、いつも笑顔でスタンの隣にいる女性を思い描いてしまうの。でも、実際には不安に心折れそうな状態で…スタンには隠せないから、昨日はついうっかり本音が出てしまったけど。。いつかスタンに重いな、面倒だなって嫌われちゃうのが怖いの…かな」
スタンは歩みを止めた。
その場でHoneyの肩を掴み、正面に向き合わせる。
真剣な眼差しで彼女を射抜くように見つめ、低く落ち着いた声で言った。
「Honey。いいか、よく聞け。
俺が欲しいんは、作られた強さでも、完璧な笑顔でもねえ。アンタの本音だ。弱さも、不安も、揺れる心も…全部を含めてHoneyだかんね、そんなHoneyに俺は惚れてんよ」
喉の奥にこもる感情を押し出すように、さらに言葉を重ねる。
「昨日のHoneyの涙も、不安を漏らした声も…全部、俺にとっては嫌いになる理由じゃねえ。むしろ、もっと守りてえ、もっと抱きしめたいと思わせる理由になんよ。Honeyが隠さず俺に本音を見せてくれること。それが何より嬉しいかんね」
彼女の頬を大きな手で包み、親指で涙の跡をそっと拭った。
そして、額を優しく合わせる。
「嫌うなんてあり得ねえ。
…むしろ、アンタが不安を見せてくれるたび、俺はアンタを失いたくないって強く思うんよ。Honey、アンタは俺にとって一番大切な女だかんね。どんな顔をしていようと、隣にいてくれるだけでいい」
そう囁きながら、彼女の額に軽くキスを落とした。
照れながらも安心したHoneyは、スタンに抱きついた。
人気が少ない廊下とはいえ、仕事中のHoneyからは珍しい行動である。
「ありがとう、スタン。」
安心した、嬉しそうな笑みをみせたHoney。
少し背伸びをして、スタンの耳元で
「惚れ直しちゃった」
と囁き、頬にチュッとキスをした。
スタンは一瞬、耳に残る彼女の囁きと頬に触れた柔らかい感触に固まった。
その直後、ぐっと奥底からこみ上げる熱を抑えきれず、思わず低く笑う。
「…ったく。勤務中にそんなこと言うもんじゃねえぜ、Honey。惚れ直すんは俺の方だ」
強い腕でHoneyの細い体を抱き寄せ、彼女の背中に片手を回す。
人気のない廊下とはいえ、公の場で自分に抱きつき、さらに囁きとキスをくれる。
その大胆さが堪らなく可愛い。
耳元で息を潜めるように、しかし確信に満ちた声で囁いた。
「今ので今日一日、集中できなくなんじゃんよ。…責任取ってくれるんだろうな?」
そう言いながら、彼女の髪に唇を触れさせてから離れた。
頬にまだ残る甘い余韻を隠すことなく、目尻を少し緩めたまま。
その後は人が来たので、サッと離れたHoney。 その頬は紅潮しており、スタンの機嫌を上げるには十分だった。
スタンの内心は、Honeyを今すぐ抱きたい気持ちに傾いていた。
Honeyが普段は人前で見せない甘えや愛情表現を、自分にだけ、しかも公の場で抑えきれず零してくれた。
その事実がスタンには強烈に響いてる。
軍人としての冷徹な部分は「任務中だ、切り替えろ」と頭のどこかで囁くけれど、夫として、男としての本音は
「今夜は絶対に離さねぇ。思う存分、Honeyを求めんよ」
そう心に決めて、あの紅潮した頬と耳元の囁きを何度も思い出しながら、機嫌よく一日を過ごした。
41 ※ に続く
月明かりがカーテンの隙間から差し込む室内。
スタンはいつも通り、Honeyを抱きしめて眠っていた。
隣で眠るHoneyが小さく身じろぎし、浅い呼吸を繰り返していた。
その吐息が乱れ、震えているのを、俺はすぐに察知する。
泣いている。
静かに目を開け、彼女を覗き込む。
薄闇の中で見えたのは、濡れた頬と、噛みしめた唇。
必死に声を殺しているが、肩は小刻みに揺れていた。
気づかないふりなど、できるはずがない。
そっと回していた腕を、更に胸へ引き寄せる。
「…Honey」
低く、優しく呼ぶ。
驚いたように目を瞬かせた彼女は、泣き顔を見せまいと俺の胸に顔を隠した。
小さく震える声が漏れる。
「…スタン…起こしちゃった…ごめんなさい…」
「謝る必要なんか、ないかんね」
彼女の髪を撫で、背をさすりながら囁く。
「Honeyが苦しんでんのに、眠ってられっかよ。怖い夢、見たん?」
Honeyの震える声が、胸元に滲み込むように伝わってきた。
「……スタンが遠くに行ってしまって……気持ちが離れていってしまう夢だったの。」
その告白は、彼女の一番の恐れを映したもの。
俺の胸が締め付けられる。
彼女の肩を両手で包み込み、顔を上げさせた。
涙で濡れた瞳が、揺れながら俺を見つめている。
「Honey…そんな夢に怯える必要はないんよ」
低く確かに言葉を紡ぐ。
「俺はHoneyから離れねえ。心も、身体も、魂の底からHoneyに繋がってんよ。絶対に」
彼女の頬を親指で拭い、額をそっと重ねる。
「遠くに行ったりしねえ。任務でどこへ出ようが、俺の心はずっとここにある。Honeyの隣だ」
震える唇にキスを落とす。
短く、何度も。
涙を飲み込ませるように、安心を刻むように。
「…Honeyを置いて行く未来なんてありえねえかんね。Honey、信じな」
彼女は声を詰まらせながらも、俺にしがみついた。
強く、強く。
「…スタン…怖かった…夢もなんだけど、たまに漠然とした不安に襲われてしまう事もあって。それが夢に出たのかな?…日々幸せで、スタンの事も信じているのに、こんな不安になってたらダメね…ありがとう、今は少し安心したわ…」
その囁きが、俺の胸の奥に深く染み込む。
ぎゅっと抱き締め、背中をゆっくり撫でながら、彼女の震えが収まるまで寄り添った。
Honeyはスタンを起こしてしまった事に申し訳なさを感じつつ、現実世界の目の前にいるスタンに少しづつ荒れた心が癒されていくHoney。
涙で少し赤くなった目を細めながら、Honeyが小さく微笑んだ。
まだ震えていたが、その奥には確かな安堵が見える。
俺は額に唇を触れさせた。
「Honeyの不安も涙も、全部俺が受け止めるためにここにいんよ」
その一言に、Honeyは胸に顔を埋めて、またしがみついてくる。
細い肩に残る震えを感じながら、俺は背中を大きな手でゆっくりと撫でる。
「…スタンが居てくれて…ほんとに良かった…」
「いつでも居んよ。どんな夢にHoney怯えても、目を覚ませば必ず俺が隣にいる」
しばらくの沈黙のあと、彼女の呼吸が少しずつ落ち着いていく。
まつ毛が重く閉じて、頬が俺の胸に甘えるように押し付けられた。
「…スタン…大好きよ…」
夢と現の間に漂うような囁きが聞こえ、俺の胸を熱く締め付ける。
「俺もだ、Honey。死ぬまでずっと」
囁き返し、腕の中で小さな体を守るように抱き締めた。
やがて、彼女の体が完全に力を抜き、安らかな寝息が夜の静けさに溶け込む。
彼女が見た悪夢とは対照的に、この胸の中には確かな温もりと絆がある。
それを失う未来など存在しないと、俺は改めて強く心に誓った。
スタンリーは、軍人として不安や恐怖をどう制御するかを常に叩き込まれてきた。
任務中に感情に飲まれることは死に直結する。
だからこそ、Honeyのように理性で割り切れない感情に支配される姿は、理解はできても自分には持ち得ないものとして映っている。
けれど同時に、彼はこう解釈している。
不安に揺れるのも、この女の優しさと深い愛情の裏返しで、愛しているからこそ失うのが怖い。
大切に思うからこそ手放すことが恐ろしくなる。
そして同時に思う。
Honeyの底知れない不安は、この女の愛そのものだ、と。
それは軍人としての自分にない人間らしさでもあった。
任務では恐怖を抑え、冷徹に判断しなければならない。
だがHoneyは心のままに揺れ、弱さを晒す。
スタンにとってそれは決して欠点ではなく、自分に足りない温かさであり、だからこそ守りたいと思わせる。
その不安さえも俺の役目であり、不安が彼女の本能から来るものなら、理屈で取り除くことはできない。
ならば俺のすべきことは一つ
繰り返し安心を与え続けること。
抱き締め、言葉で伝え、行動で示す。それでしか彼女を満たせないと理解している。
スタンは、Honeyの制御できない不安を愛の証として受け止め、同時に自分の存在理由として誇りに変えている。
腕に縋るHoneyを抱きしめ、スタンは低く囁く。
「Honey。アンタが抱える不安…それは愛の証だ。俺には持ち得ない優しさじゃん、アンタらしさでもあんよ。だから、決して恥じんな」
涙の跡が残る頬を指で拭い取り、じっと見つめる。
「アンタが不安で震えんなら、その役目は俺が引き受けんよ。不安ごと抱き込むんは、俺の存在理由だ。」
彼は額を寄せ、息をかけるほど近くで、深く刻むように言葉を落とした。
「アンタの不安さえも全部、俺に委ねろ。何度でも、安心を与え続けてやんよ」
Honeyの潤んだ瞳が震え、口元にかすかな微笑が浮かぶ。
「…スタン…そんなふうに言われたら…安心しすぎて…すぐ眠くなっちゃうじゃない…」
掠れた声でそう呟き、彼の胸に顔を埋める。抱き締められた温もりの中、呼吸がゆっくり落ち着いていき、瞼が閉じられる。
「おやすみ、Honey。愛してんよ」
囁きと共に額へ落としたキスの直後、彼女の体は完全に眠りに落ちた。
スタンは、その寝顔を抱き守りながら、自分の誓いを胸の奥でさらに強く噛み締めていた。
翌朝。
まだ朝日は浅く、部屋は静かな淡い光に包まれていた。
スタンは目を覚ましてもなお、腕の中に収まったHoneyを放さずにいた。
彼女は安心しきった顔で、規則正しい呼吸を繰り返している。
昨夜の涙を思い出す。
不安になる自分はダメなんじゃないかと怯えるように呟いたHoney。
軍人として叩き込まれてきたスタンにとって、不安は制御すべきものであり、訓練で押し殺す対象だった。
だが、Honeyの不安は違う。理性や訓練で切り捨てられるものではなく、愛の裏返しとして自然に湧き上がるものだ。
スタンは心の中で静かに整理していく。
彼女は、不安を弱さだと思っている。
だが俺から見れば、それは深い愛情の証であり、俺にはない人間らしさだ。
その違いを、俺は尊いものとして受け止める。
彼女が不安で震えるなら、何度でも抱きしめ、言葉で埋め尽くす。
彼女がダメだと思ってしまうなら、それでいいと伝え続ける。
視線を落とせば、Honeyは少し寝ぼけたように眉をひそめ、枕に頬をすり寄せる仕草をした。
スタンは思わず口元を和らげ、額へキスを落とす。
「不安でもいい。アンタはそれでいいんよ。俺が全部、受け止めっかんね」
囁きは届いていないだろう。
だが、彼女が安らかに眠り続けるその寝顔を見れば、もう答えは出ている。
スタンにとってHoneyの不安はダメなことではなく、守る理由。
そしてそのたびに誓いを強くする自分こそが、彼女に選ばれた意味なのだ。
彼はそっとを抱き寄せ、また目を閉じた。
少しでも長く、この安らぎをHoney分かち合うために。
Honeyがゆっくりと瞬きをして、スタンの胸に頬を寄せたまま目を覚ます。
「…おはよう、スタン」
まだ寝起きの声。どこか甘えていて、安堵に染まっている。
スタンは目を開け、彼女の髪に軽く口づけた。
「おはよう、Honey。よく眠れたか?」
Honeyは小さく頷きながら、昨夜の自分を思い出すように視線を伏せる。
「…ええ。でも…やっぱり思ってしまうの。私の不安って、ダメなんじゃないかって」
その呟きに、スタンは迷わず彼女の顎を指先で持ち上げ、視線をまっすぐ絡めた。
「いいか、Honey。アンタの不安はダメなことじゃないかんね」
「…」
「それは俺への愛情の深さだ。大切だから、失うのが怖い。愛してっから、離れんのが怖い。それはアンタの優しさであり、人間らしさなんよ。俺には持てないもんだ」
Honeyの瞳が揺れる。スタンはさらに言葉を重ねた。
「俺は軍人として、不安を押し殺すように叩き込まれてきたかんね。だからこそアンタのその揺らぎが、温かさが、俺には眩しい。守りたいと心から思わせてくれんよ」
彼はHoneyの頬を撫で、低く誓うように囁いた。
「だから、アンタの不安ごと全部、俺に委ねろ。Honeyが揺れるたび、俺は何度でも安心を与え続ける。それが夫である俺の役目だ」
Honeyの目に涙が滲み、やがて頬を赤らめながら微笑んだ。
「…そんなふうに言ってもらえるなんて…ずるいわ。安心してしまうじゃない」
スタンは口元をわずかに緩め、彼女の唇を捕らえて甘く、ゆっくりと口づける。
離れたあと、額を軽く合わせて囁いた。
「安心していい。何もかも、俺に任せな」
Honeyは胸いっぱいの幸福を抱きしめるように、スタンの胸に顔を埋めた。
「…ありがとう。やっぱり、言葉で聞けると安心するの。スタンの想いが全部伝わってきて…幸せ」
彼はその小さな背を包み込みながら、静かに目を閉じた。
この温もりを、何度でも守り抜く。それが俺の生きる理由だ。
「スタンは…訓練してるとは言っても、それは戦場においての話よね?恋愛もそうなの?」
スタンは一瞬きょとんとし、すぐに低く笑った。
「恋愛まで訓練なんつったら、アンタに怒られんだろうな」
Honeyは少しむくれたように唇を尖らせる。
「だって…スタンは感情を制御するのが当たり前みたいに出来るでしょう?戦場なら必要なことだって分かるけど…恋愛まで同じなら、私の気持ちとずれてしまいそうで」
スタンはその瞳を逃さず見つめ、真剣に答えた。
「いいかHoney。戦場では恐怖を抑えて冷静でいるのが絶対条件だ。だが、恋愛に関しては違う。訓練で感情を抑える必要なんかない」
「…本当?」
「本当。アンタへの気持ちを抑え込んだり、制御したりなんてしたら、それはもう俺じゃねえ。Honeyが好きで、欲しくて、愛してやまねえ、その全部が俺そのもんだ」
彼は彼女の手を強く握り、唇を触れさせた。
「だから安心しろ。俺はアンタに対してだけは、軍人の冷静さも訓練も意味を成さねえ。むしろ全部、アンタ狂わされてんよ」
Honeyは頬を赤くして、胸にぎゅっと抱きついた。
「…それなら良かった。私、スタンに感情を制御されて愛されてるんじゃなくて、心から愛されたいんだもの」
スタンは甘い口づけを落とし、低く囁いた。
「制御なんてしてねえな。Honey、アンタへの愛は常に全開だかんね」
その言葉に、Honeyは安心と幸福を抱えきれないほどに感じ、頬を染めたまま彼の胸にさらに深く顔を埋めた。
洗面所で髪を整えていた俺の背後から、柔らかな声が届いた。
「スタン…大好き」
鏡越しに視線を合わせれば、まだ少し潤んだ瞳のまま、彼女が恥ずかしそうに笑っている。
俺はタオルを放り投げ、そのまま逃げる彼女を後ろから抱き締めた。
「…あぁ、聞き飽きることはねえな。その言葉」
Honeyは頬を赤くして振り返り、俺の胸を軽くポカポカ叩く。
「もう…出勤前なのに、甘やかすんだから」
「仕方ねえだろ。アンタが可愛すぎんよ」
そう囁き、頬にキスを落とすと、Honeyは小さな声で「ん…」と甘い息を漏らした。
朝食の片付け中も、手が重なるたびに指先を絡めて離さない。
玄関で靴を履こうとすれば、Honeyがさりげなくネクタイを直してくれる。
その距離が近すぎて、つい唇を奪ってしまう。
「…もうっ、遅刻しちゃうわよ」
「構わねえ。アンタの唇を奪えんなら、な」
彼女は顔を覆いながらも、耳まで真っ赤にしている。
出勤前のわずかな時間さえ、こうして甘さで埋まっていく。
この女と暮らす朝は、どれほど繰り返しても新鮮だ。
砂埃の舞う訓練場。
分厚い防弾ベストの下で、心臓は一定のリズムを刻み続ける。
射撃の反動も、匍匐前進での重圧も、すべて体に染みついた日常だ。
だが、標的に銃口を定めた瞬間、ふと今朝の光景が脳裏をよぎる。
「スタン、大好き」
あの潤んだ瞳と恥ずかしそうな微笑み。
指先が俺のネクタイを直してくれた感触。
無意識に、微かに口元が緩んだ。
…任務も訓練も、すべてはアンタを守るため。だからこそ、力が入るんよ。
銃を構え直し、引き金を絞る。
乾いた銃声が響き、的の中央に弾痕が刻まれた。
部下たちの視線は驚きと尊敬に変わる。
俺は心の奥で小さく笑う。
Honeyがいれば、どんな状況でも揺るがねえ。
むしろ強さになる。
一方、Honeyはスタンが言う事は信じていたが、分からなかった。
何故スタンはコントロール出来ない底知れない不安に襲われてしまうのが、愛情と認識出来るのか。
Honeyの考えでは、コントロール出来ない底知れない不安に襲われて相手にそのまま、その不安を伝えてしまったら「重い」「面倒くさい」「ウザったい」「暗い」と感じてしまうのではないかと考えている。
昨夜スタンに話したのは、スタンには隠しても無駄で、つい本音をそのまま出してしまって、しまったと内心後悔をしたのだ。
だけど、スタンはそれを愛の証と解釈し、受け止めてくれた。
嬉しくもあり、有難いなと思う反面、その思考に追い付けないでいる。
Honey「…という事があって…不安をコントロールする訓練に興味があって…」
研究所の庭先。
昼休み、芝生に腰を下ろしたシャーロットはペットボトルの水を一口飲んでから、Honeyの問いにじっと耳を傾けていた。
Honeyは恥ずかしそうに視線を伏せ、指先でスカートの裾をいじる。
シャーロットは目を瞬き、そして小さく笑った。
「あぁ、そういう事。なるほど。隊長らしいわ」
「らしい?」
首を傾げるHoneyに、シャーロットは少しだけ頬を赤らめながらも率直に答える。
「隊長はね、私たちには「恐怖を消せ」なんて言わない。むしろ「恐怖は消えねえ。だから、恐怖を理解して動け」って。…あの人にとって、不安や恐怖は存在して当然のものなんだよ」
Honeyは息を呑んだ。
シャーロットは続ける。
「でもHoney、アンタの場合は恋愛の不安でしょ? それを隊長が愛の証って言うのは、全然不思議じゃない。だって私たち部隊員の恐怖すら「強さの裏返し」だって受け止めてくれる人だからさ。ましてや愛する妻の不安なら…あの人にとっては最高の信頼の証なんじゃない?」
「……信頼の、証…?」
目を瞬くHoneyに、シャーロットは肩を竦める。
「アンタがどんなに取り繕っても、隊長には誤魔化せない。だったら隠すより、正直に伝える方があの人は喜ぶのよ。…まぁ、私からすると少し羨ましいくらいだけど」
「え?」
思わず聞き返すと、シャーロットは視線を逸らして苦笑した。
「当たり前だけど私たちに、隊長は怖いくらい厳しい。でも同時に絶対に裏切らない信頼がある。Honeyはその信頼を、愛として独占してるんだもの。…そりゃ、不安になるのも無理ないわ」
Honeyの胸がじんわり温かくなる。
…スタンは、そういう人。
私の不安も愛だと受け止めてくれる人…
シャーロットは軽く立ち上がり、伸びをして言った。
「訓練、興味あるなら付き合うよ。でもま、きっと隊長はHoneyはHoneyのままでいいって言うと思うけどね」
その言葉にHoneyは目を潤ませ、こくりと頷いた。
Honey「シャーロット、ありがとう。大好き!」
Honeyがシャーロットに抱きついた。
芝生の端、部隊棟から戻ってきたスタンは、ふと目に入った光景に足を止めた。
Honeyがシャーロットに勢いよく抱きつきじゃれ合っている。
シャーロットは驚きながらも、軍人らしい安定した体幹でしっかり受け止めて、照れたように笑っている。
スタンは無意識に腕を組み、低く息を吐いた。
…Honey。人懐っこさは相変わらずだな。
胸の奥で小さな独占欲が疼く。
Honeyの柔らかな笑顔や温もりは、自分だけのものだと思っている。
だが、同時に彼女が他人に心を開いている姿を見ると、不思議と安心もする。
Honey自身の不安に向き合おうとしてんのか。…シャーロットに相談したな。
彼は軍人としての自分には教えられない感情の扱い方を、Honeyが女性同士で求めたのだと気づいた。
そして、それを見守れる立場にいることが、妙に誇らしい。
「…俺の前では、もっと甘えさせてやんよ」
誰に聞かせるでもなく呟いたその言葉には、嫉妬と安堵と深い愛情が入り混じっていた。
スタンは腕を組んだまま、ゆっくりと歩を進めた。靴音が芝を踏む感触と混じり、近づいていくにつれHoneyがこちらに気づく。
「…あ、スタン!」
Honeyがぱっと振り返り、まだシャーロットに抱きついたまま笑顔を見せた。
シャーロットは少し気まずそうに腕を解こうとするが、Honeyがしっかり掴んでいて離れない。
スタンは目を細め、低い声で言った。
「…Honey。その抱きつき方は、俺専用じゃなかったんか?」
「えっ……!」
Honeyの頬が瞬時に赤くなり、慌ててシャーロットから離れる。
「ち、違うのよ! シャーロットがすごく頼もしくて、つい……!」
シャーロットは苦笑しながら手を振った。
「いえ、隊長。Honeyさんの無邪気さは、誰だって嬉しいものです」
スタンは彼女に短く頷き、すぐにHoneyへと視線を戻す。
「…まあいい。シャーロット、あんがとな。午後訓練の指揮を頼んだぜ」
「はっ」
軍人らしい返答をしたシャーロットは、その場を下がる。
残されたHoneyは、スタンにそっと寄り添いながら視線を泳がせた。
「…怒った?」
スタンは小さく鼻を鳴らし、Honeyの肩を自分の方へと抱き寄せる。
「怒っちゃいねえ。ただ…そういう可愛い仕草は、俺の前だけで見せな」
甘く低い声に、Honeyはさらに赤くなりながら頷いた。
「あのね、スタン。さっきシャーロットに不安の訓練について相談してたの。…私ね、不安って言葉にしたら相手の負担になるダメな事だって身に付いてしまってるみたいで…その…スタンが今朝言ってくれた事ちゃんと理解したいの。でも、分からなくて…シャーロットに聞いてみたの…」
研究所へ戻る道すがら。
Honeyがぽつりぽつりと話し出したその言葉は、スタンの胸にまっすぐに響いた。
横顔を振り返ると、窓越しの青空を背に、恥じらいで頬を染め、視線を逸らしながらも必死に自分の奥底を伝えようとするHoneyの姿。
その一生懸命さに、スタンは一瞬、喉の奥で笑いが込み上げた。愛おしすぎて。
低く柔らかい声で口を開く。
「…Honey。アンタはいつも俺に全部を理解させようと、真剣に向き合ってんよ」
彼女の肩に大きな手を置き、ゆっくり歩調を合わせる。
「不安を相手に話すことは負担じゃねえ。ましてアンタの不安は俺を想う気持ちから出んだ。…そんなもん、俺からしたら宝物みたいなもんだぜ」
少し照れ臭そうに眉を寄せながらも続ける。
「だから理解できなくてもいい。コントロール訓練なんてする必要もねえ。…アンタが俺を想って揺れるその気持ちを、俺は全部受け止めてえんだ。」
そう言って、彼女の頬にそっと唇を寄せる。
その仕草ひとつで、どれだけHoneyが可愛く、愛しく映っているかを伝えながら。
「スタン…私の悪い癖?みたいなもので…スタンの前では背伸びして、不安なんてなくて、いつも笑顔でスタンの隣にいる女性を思い描いてしまうの。でも、実際には不安に心折れそうな状態で…スタンには隠せないから、昨日はついうっかり本音が出てしまったけど。。いつかスタンに重いな、面倒だなって嫌われちゃうのが怖いの…かな」
スタンは歩みを止めた。
その場でHoneyの肩を掴み、正面に向き合わせる。
真剣な眼差しで彼女を射抜くように見つめ、低く落ち着いた声で言った。
「Honey。いいか、よく聞け。
俺が欲しいんは、作られた強さでも、完璧な笑顔でもねえ。アンタの本音だ。弱さも、不安も、揺れる心も…全部を含めてHoneyだかんね、そんなHoneyに俺は惚れてんよ」
喉の奥にこもる感情を押し出すように、さらに言葉を重ねる。
「昨日のHoneyの涙も、不安を漏らした声も…全部、俺にとっては嫌いになる理由じゃねえ。むしろ、もっと守りてえ、もっと抱きしめたいと思わせる理由になんよ。Honeyが隠さず俺に本音を見せてくれること。それが何より嬉しいかんね」
彼女の頬を大きな手で包み、親指で涙の跡をそっと拭った。
そして、額を優しく合わせる。
「嫌うなんてあり得ねえ。
…むしろ、アンタが不安を見せてくれるたび、俺はアンタを失いたくないって強く思うんよ。Honey、アンタは俺にとって一番大切な女だかんね。どんな顔をしていようと、隣にいてくれるだけでいい」
そう囁きながら、彼女の額に軽くキスを落とした。
照れながらも安心したHoneyは、スタンに抱きついた。
人気が少ない廊下とはいえ、仕事中のHoneyからは珍しい行動である。
「ありがとう、スタン。」
安心した、嬉しそうな笑みをみせたHoney。
少し背伸びをして、スタンの耳元で
「惚れ直しちゃった」
と囁き、頬にチュッとキスをした。
スタンは一瞬、耳に残る彼女の囁きと頬に触れた柔らかい感触に固まった。
その直後、ぐっと奥底からこみ上げる熱を抑えきれず、思わず低く笑う。
「…ったく。勤務中にそんなこと言うもんじゃねえぜ、Honey。惚れ直すんは俺の方だ」
強い腕でHoneyの細い体を抱き寄せ、彼女の背中に片手を回す。
人気のない廊下とはいえ、公の場で自分に抱きつき、さらに囁きとキスをくれる。
その大胆さが堪らなく可愛い。
耳元で息を潜めるように、しかし確信に満ちた声で囁いた。
「今ので今日一日、集中できなくなんじゃんよ。…責任取ってくれるんだろうな?」
そう言いながら、彼女の髪に唇を触れさせてから離れた。
頬にまだ残る甘い余韻を隠すことなく、目尻を少し緩めたまま。
その後は人が来たので、サッと離れたHoney。 その頬は紅潮しており、スタンの機嫌を上げるには十分だった。
スタンの内心は、Honeyを今すぐ抱きたい気持ちに傾いていた。
Honeyが普段は人前で見せない甘えや愛情表現を、自分にだけ、しかも公の場で抑えきれず零してくれた。
その事実がスタンには強烈に響いてる。
軍人としての冷徹な部分は「任務中だ、切り替えろ」と頭のどこかで囁くけれど、夫として、男としての本音は
「今夜は絶対に離さねぇ。思う存分、Honeyを求めんよ」
そう心に決めて、あの紅潮した頬と耳元の囁きを何度も思い出しながら、機嫌よく一日を過ごした。
41 ※ に続く