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第一章


気持ち悪い……スカートで足がスースーする。なまじ中身が男なだけに女装をしている気分だ。こんな姿を見られることすら羞恥以外の何物でもない。そう思いながら、またスカートの裾を足に押し付けた。その仕草はもう何度目になるか分からない。早くコパートメントに入ってローブを羽織りたい。

なぜ我輩がこんなモノを履かなければならないのだ…忌々しい!!

「本当…見つけたわ!開いてる所。セブって何でも分かるのね。」

そりゃあ、一度ホグワーツを卒業しているのだし。車内の作りくらいは覚えている。曖昧に笑って流しておいた。

「ねえ、セブルス。ホグワーツってどんな所なのかしら。」

リリーが先にコパートメントに入っていったのでその向かい側に座った。

「動く絵があるって聞いたことがある。」

余り詳しく言うよりかはホグワーツに着くまでの楽しみとして取っておいた方がいいだろうと思い曖昧な言葉を返した。
他には?そう言って身を乗り出して興奮した様子のリリーは落ち着きがない。どんな仕草でもリリーがすると可愛いなあと思ってしまうあたり僕もまだまだ重症だった。僕が女になってしまった時点でリリーへの想いが成就する可能性など地に落ちているし、未来でもあのクソ忌々しいポッターと身を寄せ合うことは分かっているのに、僕も中々未練がましいものだなと思う。

そんな時、安らぎの一時をぶち壊すコンコン、というノックの音が響いた。

ビクリと肩を震わせたリリーがコパートメントの扉の方に目をやった。
躊躇いがちに開かれたその扉の向こうにいたのは

「ここ、座ってもいいかな。2人、なんだけど」

出た…忘れもしない、憎たらしいあの顔だった。
───ジェームズ・ポッター。この先、僕を苛め抜きリリーと結婚した挙句守りきれず、あの子供をおいて死んでいった男だ。…そういえば前の時も入学式の日にこうやってコパートメントで出会ったような気がする。思わず顔を顰めてしまった。どうやらもう開いているコパートメントが無いらしい。

「ええいいわよ。ね、セブ」

本当は今すぐ追い返してやりたいが、リリーは理由もなく困っている相手を突き放す奴は嫌いだろう。前に何があろうとリリーにとってはこれが初対面なのだ。そう思い仕方なく、こくりとひとつ頷いて入れてやった。

ポッターは一度ちらりと此方をみたが、すぐにリリーの隣に座った。その後から入ってきたシリウス・ブラックは必然的に僕の隣に座ることとなった。…出来るだけさり気なく距離をとっておいた。

「僕はジェームズ・ポッター。で、こっちは…」
「シリウス・ブラックだ」

よろしく、と差し伸べられた手をリリーはにこやかにとった。正直ヨロシクなど死んでもしたくない。リリーと握手を交わしたその手がこちらにも伸びてこないことを信じてもいない神に願った。いやいやだがここで手を取らないのは不自然だろうと「ええ」とにこやかにその手を受け入れた。攻めてリリーの手の感触を上書きしてやるという気持ちでぎゅっと少々力を込めてやった。手をスカートで拭ったのをバレてないといいが。
このスカートはホグワーツについたらスコージファイで清めておこう。

「君達は?」
「リリー・エバンズよ。」
「セブルス……プリンス。」

ファミリーネームを名乗るとポッターとブラックの2人は目を見開いた。

実際にこの性を名乗ったのは今が初めてだった。
1年半ぐらい前、記憶を取り戻した僕は現在の自分の魔法力を測るため、順応性の高い子供の感覚を利用して杖なしで魔法をしようと色々と模索していたのだ。それを母に目撃されてしまい天才児だと囃し立てられプリンス家に迎えられた。
実際プリンス家に入っても、混血だったし祖父母達にはあまりいい目で見られなかった。けれどプリンスの家系に名を入れてもらえたのはまだ杖を持つことを許されていない年齢にも関わらず魔法を使ったのを見て祖父母が僕の才能に興味を示したからだ。然し、公の場に姿を出したことは一度もなかったので名乗る機会も殆ど無かったのだ。

「君はプリンス家の子なのかい?」
「ええ」

ポッターはさっきのリリーよりも身を乗り出して言った。

「でもプリンス家って、もう跡継ぎがいないんじゃなかったか?あそこ、歴史だけならうちより長いから子供がいるならすぐ耳に入るはずだ。」

うちの血も入ってるらしいし。そう言ってブラックが何か探るような目を向けてくる。

「私は『知らぬ間に死んだ母の忘れ形見』なの。公の場に出させて頂いたこともないから無理もありませんわ。」

少し困り顔で曖昧に微笑みながら、普段使いの言葉よりも丁寧な口調で予め用意しておいたセリフを並べた。僕が混血であることはプリンス家のトップシークレットだ。幸い女である僕は母の面影を強く残しているようであまり違和感はなかった。まだ納得していないようだったが、ポッターがキング・クロスでお祖母様とお祖父様を見たらしくその話はそこで終わった。

…ああ、いつまでこんな喋り方をしなければいけないのか。リリーと二人なら普段の口調で問題ないのに。普段の口調は野蛮だとお祖母様に叱られて以来こんな女のような喋り方をするようになった。……そこまで自分は野蛮な口調などしていないつもりだったが女性としては駄目らいし。
取り繕ったり演じたりするのは得意だが、自分の口から女性ような柔らかな声が出るたびに吐き気がしてくる。

……何故我輩は女になってしまったのだろう。
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