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それは甘い


「あ、ありがとうございます、大丈夫です」
「それなら良かった。ごめんね、怖い思いさせちゃって」
「いや、全然!私がぼーっとしてただけで。それに佐藤くんが謝ることじゃ…」
「俺の名前知ってるの?」


 飛んできたサッカーボールから守ってくれた佐藤くんは、私より頭ひとつぶんくらい背が大きい。どうやら私を抱きしめてボールから守ってくれたようだ。近くにボールが転がっている。サッカー部のジャージを着ていることから、きっと佐藤くんはサッカー部なんだろう。こんなイケメンがサッカーをやっていて、しかも代表なんだから、名前を知らない人はいないはずだ。


「だって新入生代表だったから」
「覚えてくれてたんだ。みんな代表の挨拶なんて興味なさそうだったから」
「みんな佐藤くんかっこいい、って注目してたよ」
「…柴野さんは?」
「え?」
「柴野さんも見てくれてたの?」


 そりゃ私も見てたけど…なんでそんなこと聞くのかな?それよりなんで佐藤くんは私の名前知ってるの?聞こうと思うと、サッカー部の人の声によって遮られた。どうやらボールを飛ばしてしまった人らしい。そしてその声でそういえば周りに人がいっぱいいたことを思い出した。


「ごめんね!俺がコントロールミスって…」
「い、いえ!私は全然!むしろ佐藤くんの方が当たってしまって」
「佐藤もごめんな、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」


 みんなに見られていることを思い出すと急に恥ずかしくなってきて、転がっているボールを拾い上げる。佐藤くんもそばに来てくれた。ボールを渡すときに少し指先が触れてどきっとする。


「あの、ほんとにありがとう。佐藤くんのほうが怪我してない?」
「俺は大丈夫。男だし、怪我したとしても平気だよ。それに、女の子に怪我させられないからね」


 こういうことをさらっと言える佐藤くんは中身までかっこいい人だ。さっき少しだけ触れた指先がじんわり暖かかった。

03.指先
(少し触れただけでもどきどきする)
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