それは甘い
真新しい制服を着て、塀に沿って咲き乱れる桜並木を歩く。校門が見えてくると同時に"南海高校入学式"と書かれた看板を見つけた。今日の入学式を心待ちにしていた私にとっては、その看板を見た途端に高揚感が増して抑えきれない。私は今日、憧れていたこの南海高校に入学する。
私が憧れているこの高校は家から少し距離はあるし、中学の友達はほとんどいないけど、どうしても行きたかった。まあ、よくある理由だけど私立で制服が可愛くて、学力的にも割と高めだし、部活動も強い正に文武両道の学校だから。あと、私のお兄ちゃんが卒業生で、文化祭に行った時にとても生徒達がきらきらして見えて、私もこの学校で楽しい高校生活を送りたい、と一瞬にしてこの高校に惹かれたのだ。
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玄関に貼られていたクラスの割り当て表をなんとか人混みの中かから探し出し、4階まで上ってやっと辿り着いた教室。私は1年7組だ。教室に向かうまでの途中、すれ違った人や色の違うネクタイをした先輩たちが姫だ、と騒ついていた。なんだろう?ひめちゃんって子でもいるのかな?
そんな周りの声を気にしつつも教室に入ると、丁度良いくらいの時間だったのか、思ったよりも人がいる。黒板に座席表が貼られていて、確認すると私の席はど真ん中の列の一番後ろ。これはなんとも言えない微妙な席。ただ、左隣には既に女の子が座っていて、とっても美人な子だった。
「おはよう!隣、よろしくね」
いきなり話しかけるのに少しどきどきしながらも、本を読んでいる隣の席の女の子に話しかけてみる。黒髪ロングのストレート。近くでみるとさらに美人。
「おはよ、こちらこそ宜しくね」
私の挨拶に気付いて、にこっと笑い返してくれる。その子とは、先生が来るまで話したこの数分でとっても仲良くなれた。名前は須藤真希。背が高くて167センチあり、本当にモデルさんみたいで美人。153センチしかない私とは天と地だ。実際にサロンモデルをしていたり、街中で声を掛けられて雑誌に載ったりしているらしい。こんな子と仲良くなれるなんて、夢みたい。
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真希と話をしていたら先生が来て、これから入学式で体育館へ移動する為、出席番号順に廊下へ並ぶよう言われる。私は"柴野"で真希は"須藤"なので前後だ。体育館へと移動し、気付けば入学式も終盤。長い長い校長先生の話が終わって、あとは新入生代表の言葉だけ。
「新入生を代表して1年9組、佐藤廉」
「はい!」
新入生代表、9組の佐藤廉くん。代表っていうことはトップで入学したってことだよね。どんな子かな?そう思ってステージに上がった佐藤くんを見てみると、ばちっと目が合い、胸がざわざわし始める。黒色で無造作に整えている髪。遠くからでも分かるほどのきりっとした整った顔。目が合ったのがなんだか恥ずかしくなって下を向いてしまう。めっちゃイケメンさんじゃん。
壇上にあがって喋り始める佐藤くんは、声までもかっこいい。優しい感じの声質。かっこいい人とか、可愛い人って1から10までいいとこ取りだよね。
「以上、新入生代表、佐藤廉」
拍手に包まれながらステージを降りようとする佐藤くん。また目が合った気がした。勘違いかもしれないのに、心臓がどきどきと音を立てる。
周りの女の子達が佐藤くん、かっこいいね。イケメン!彼女いるのかな?と話している。そして、最後こっち見てたよね?誰見てたんだろう?という会話も聞こえた。そっか、私と目が合ったのは勘違いだったかな。誰かのこと探していたのかも。そもそも彼女が居て探してたのかもしれないし。
自分でそう思いながらも、どきどきしていた気持ちが落ち込む。ちょっぴりしょぼん、として教室に帰る為クラスごとに歩いていると、とんとん、と真希に肩を叩かれた。
「音」
「ん?なに?」
「新入生代表の子、音のこと見てた気がするんだけど」
真希にそう言われてびっくりする。そう、なのかな?私の勘違いじゃなかった?
高校生活は始まったばかり。心臓のどきどきは鳴り止まない。私のこれからはどうなるんだろう?
01.鼓動
(佐藤くん、どんな人なのかな)
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