Short Story

熱×あなた(ken)

風邪引いたらしく熱があるので
今日は行きません。
完治したら会いに行きます。

今日の夜会える?
そうKenちゃんから来たメールの返信に
この文章を選んだ。

こんな時
私がいない時はきっと他の女性と会うのだろう。

まだ付き合いが浅い私は
正直、ミュージシャンは遊び人との考えが
捨てられない。

初めてベッドを一緒にした時は
他の女性からの連絡があって印象が悪かった。

待ち合わせをした時は
ホテル帰りを連想させるように
髪が濡れて石鹸の香りがした。

それなのに今、どうして一緒にいるかというと
嫌いじゃないから。

まあ私も数いる中の1人かもしれない。

連絡取れる人がいるだけというステータスの一部。

そう割り切ったつもりでも
他の女性という響きにやはり普通にはしていられない。

発熱、関節痛に咳に眠れない中で考える。

他の女性に会っていたら嫌だな。

布団の中をゴロゴロしながらため息を吐く。

会う約束をキャンセルしても
あなたには会う人がいるのかな。

真相は未だに聞けないまま
あなたが恋人だという事実は時間が過ぎるばかり。

お大事に
その一言だけの返信も恨まざるを得ない。

今は忘れて寝よう。

夕暮れの空が窓からチラつく。

苦しい。

熱なのか何なのか胃がキリキリ痛む。

頭痛までもが襲う。

気付くと夜はどっぷり更けて日付が変わっていた。

おでこも後頭部も冷たくて
あれ?私、冷却シートなんかしてないのにと
覚醒しない頭で考えた。

あいにく、冷却シートも風邪薬も切らしていて
ただただ大人しくうなされるしかなかったのに。

何かの匂いが鼻をかすめる。

そしてカチャカチャ何やら聞こえる。

泥棒だったらどうしよう・・・

独り暮らしの欠点である不安が過る。

恐る恐る目を開けることにした。

いつもの変わらない部屋を確認して
音の方へ目を向ける。

「Ken・・・ちゃん?」

背が高くてふわふわの髪が揺れているのは
Kenちゃんしかいない。

『おー、目ぇ冷めたん?』

今の私にはKenちゃんがキラキラして見えて
何でKenちゃんがいるのかさえ分からなくて
思考回路がフリーズしそうだ。

声を発っせないでいると
キッチンからよしっとKenちゃんの独り言。

『よっしゃ、Kenちゃん特製たまごかゆの完成』

そう言いながらKenちゃんがトレーを持ってきた。

『これ食べたら元気になるで』

眩しいKenちゃんの笑顔。

「どうして、ここにいるの?」

『どうしてってお前
寝込んどる彼女ほっとけんやろ』

「でも・・・」

『はい、黙って喰う』

渡された茶碗からは湯気が立ち
一日中何も摂取してない体から欲求が指示された。

『ちゃんとフーフーするんやで』

一口を口に入れる。

「美味しい!」

『せやろ、
こう見えて料理は得意なKenちゃんなのです』

おどけるKenちゃんがやっぱり好き。

食べ終わってKenちゃんが買ってきた薬を飲んで
ベッドで再び横になる。

新しい冷えピタをKenちゃんが貼ってくれて。

「Kenちゃん、ごめんね」

『気にせんでええで』

「他の女の人に会いに行ったかと思った」

『はっ?何やねんそれ』

少し強めの口調になる。

だって・・・
疑問だったことを今なら聞けそうだと思って
思いきって聞いてみた。

そしたらKenちゃんは大笑いして言った。

『電話は姉貴で、汗臭いからシャワー浴びただけ』

でも・・・
そう言ったらKenちゃんは真面目な顔になった。

『河南の他にいるわけないやん。
こう見えても俺、遊んだりせぇへんで』

自信が持てるようになったのは
あの日の私の風邪のおかげ。

今はもう疑うこともなくなったけど
今になって疑問に残ることが1つ。

何で部屋に入れたんだろう・・・

そしたらKenちゃんがびっくりしてて
そのびっくりに私がびっくりしてて。

『忘れたん?』

「えっ?」

『最初のデートの時に一緒に作ったやん』

「えっ?」

緊張してて覚えてなかった。

『うちのは特殊やから時間かかるって』

ほれっと手の平に乗せられたのは
Kenちゃんの部屋の合鍵。

『遊び人扱いはされるわ、デートも忘れてるわ
俺の方が散々やん・・・』

下を向くKenちゃんに一生懸命謝ったのは私。

『せや、ホテル行ったら許したげる』

後日、鼻唄混じりのKenちゃんに
連れて行かれてしまったのである。

ー終わりー
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