Short Story

『花火』(hyde)

私は人混みが嫌いだ。

夏の風物詩の花火大会も
行く気にはなれない。

どっちみちhydeさんも仕事だし。

今頃BEASTPARTYなんだろうな。

hydeさんの部屋から見える花火は
程よく見える距離で
すごくキレイなんだよね。

人混みが嫌いだからって
行かなかったライブに
行けば良かったかな。

そう後悔が押し寄せる。

少しはhydeさんと
一緒にいられたかもしれない。

一人で切なく
花火を見ることもなかった。

二人で見たら幸せで
一人で見たら切なくて
花火は何でこうも
気持ちを惑わせるのだろう。

ライブ来る?
そうhydeさんが誘ってくれたのに
hydeさん目当てに押し寄せる波に
酔いそうで行くのをやめた。

今からなんて絶対間に合わない。

もう始まる時間だし
花火ももう始まる時間だし。

だけどどうしてかな。

間に合わないって分かっていながら
新幹線に乗った。

大阪駅では
BEASTPARTYに入れない人が
群がっていて
それを横目にhydeさんに駆けていく。

会いたい。
抱きつきたい。
キスしたい。

ただhydeさんだけを思って走った。

もう少しで貴方に届くのに。

ライブの終わりの花火が
目の前で上がった。

会えなかった。

VAMPSのhydeにも
恋人としてのhydeにも。

孤独を感じた。

幸せを逃した気がした。

何やってるんだろう。

家に帰れば
彼が帰ってくれば会えるのに。

花火に感化されて笑っちゃう。

せっかく来たし
新幹線代高かったし
会って行こうかな。

そう決めて
会場の人の流れとは反対に
会場に入ろうとしたけど
スタッフに止められた。

もどかしい。

裏手を探すのも
敷地の広さに断念した。

大阪湾を眺めれば
キレイな夜景に目を奪われる。

帰宅するオフィシャルバスを
待つファンがガヤガヤしてて
その先で時間が過ぎるのを待つだけ。

鳴る携帯。

「もしもーし!」

hydeさんからだと分かって
空元気な声を出す。

『花火、一緒に見れなくてごめん』

仕事してるのに何でごめんって。

そっかこの間話してた会話
覚えてたんだ。

ー今度の花火
またここで二人で見られるといいな。
そうだった、ライブだったね。
hydeさんは大阪か。
一緒に見るのは無理だね、残念。ー

その電話が嬉しくて
「たぶんだけどね、
一緒に見たよ、花火」

会場のこっち側と向こう側。

並んでは無理だったけど
同じ花火を見たのは確か。

「ライブ、間に合わなくてごめん」

せっかく誘ってくれたのに
素直に行くと言えなかった。

一瞬でも後悔した自分がいるなら
私も謝らなくちゃ。

『えっ?来たん?』

少し訳が分からなくなってるhydeさんに笑う。

「うん、会いたくなって・・・」

同じ地にいるのに
会えないのは寂しいけど
慌てて出てきたから
hydeさんの泊まるホテルの
場所のメモも置いてきてしまった。

帰りの新幹線も時間的にないだろうし
どこかで一夜を過ごすしかない。

まったく無計画。

自分の行動が可笑しくなる。

「しばらく海見たら帰るね」

少し向こうの浜辺では
ファンが余韻に浸って
肩を組んでEVANESCENTを
歌い始めている。

「ねぇhydeさん」
『ん?』

電話なのに微笑む貴方の顔が浮かぶ。

「帰ってきたらキスしようね」





『今しようか』
「えっ?」

汗で濡れてる貴方の髪が頬に触れる。

「何で?」
『あそこから見えた』

振り替えれば
ステージ脇まですぐそこ。

案外近くにいた。

こんな広い場所で巡り会えるなんて
夢のようで運命のようで。

「バレちゃうよ?」
『暗いから大丈夫』

ステージのライトで
浜辺は照らされているのに
タイミングよくライトが消えて
夜を戻す。

温かい唇が触れる。

夜風が気持ちよくて
愛しい人に会えて幸せ過ぎる。

翌日
hydeさんは私専用にステージ脇に
椅子とモニターを置いてくれた。

そして二人で並んで花火も見た。




夏の思い出。
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