レーズンバター(hyde)

hydeは次のレコーディングの為の作詞作業をしていた。

煮詰まると知らずに彼女のことを考えてしまう。

あの日たぶん泣いていただろう河南を思い浮かべる。

無性に会いたいと。

彼女がどんな子で
どこに住んでいるのか
何を職業としているのかさえも分からないのに
あのBARで会いたいと。

いるかいないか深呼吸をしてからドアを開けると
目の前に見覚えのある黒髪が飛び込んできた。

hydeは冷静を装って座る。

しかし彼女は何かに集中している様子で
hydeには気付いていないらしい。

「仕事の締め切りが明日だそうですよ」

マスターがメニューを出すと同時に彼女のことを教えてくれた。

hydeは自分のと河南のをマスターに注文した。

するとマスターがコースターとペンを差し出してきてメッセージを書くことにした。

「あちらのお客様からです」

河南はマスターの声にハッと顔を上げた。

集中しすぎてしまっていた。

あちらの…
見るといつもの彼がいた。

お互いのグラスを目線の高さで乾杯。

淡いパープルの液体を一口飲むと
爽やかでさっぱりとした味が口に広がる。

「おいしい」

河南は初めての味に
仕事を中断して喉の奥を通るそれを味わう。

再び顔を上げるとhydeはいなかった。

ちゃんとしたお礼が言えなかったと後悔する河南。

この間の上着の件も
今日ごちそうしてもらったことも。

河南は次はいつ会えるか遠くを見つめた。
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