チョコレート症候群(hyde)

『河南ちゃん?』

聞こえてきたのはhydeさんの声。

『帰ったって聞いたから』

今どこ?
って聞かれて
自宅ですって答えた。

電話の向こうから
耳元に聞き慣れた音が聞こえて
hydeさんの車の音だって分かった。

ドアの向こうからも同じ音がする。

慌てて玄関を開けると
階段下に私を見上げるその姿。

堪えることが出来ない涙が
地面を濡らす。

『そっち行ってもええ?』

「はい」

もう話すことも出来なくて
駆け寄るhydeさんの姿に
すがりつくように飛び込んだ。

ぎゅって力強く受けとめてくれて
私の事を河南って呼ぶ。

「ごめんなさい」

言われるまで気づかなかった。

ずっとずっと私を見てくれていたのに
ずっとずっと気付かなくてごめんなさい。

『もう3年やな』

河南が事務所に来てから
もう3年。

俺の片想いも3年。
そう言わせてしまった。

『やっと気付いてくれたね』

玄関に散らかった鞄。

リボンがかかった箱が
hydeさんの靴にあたる。

まだ14日じゃないから
渡さないなんて言ったら
ずっと待っていてくれたhydeさんに怒られるかな。

「実はそれバレンタインに渡そうって思って買ったんです」

だけどhydeさんが先だったから渡しそびれてしまった。

『開けてええ?』

頷くだけの返事に
hydeさんは鼻唄を鳴らす。

それを腕に付けて
私に見せた。

にっこり笑うと
私を抱き締める。

『ありがとう』

義理でも嬉しいよと言うから
本命に変えてもいいですかって言ってみた。

『もちろん』

ホワイトデーのプレゼントに変更されたバレンタインデーのプレゼント。

hydeさんがチョコレートがほしいと言ったあの時から
運命の歯車が廻り始めた。

それが今は私にとって大事な恋に発展した。

『お前、河南のこと狙ってたよな?』

ある日、hydeさんがあの人に訪ねたそう。

あいつガードが固すぎてダメっすね。

そう答えた彼に機嫌が悪くなったhydeさんは
彼に塩入りの珈琲を飲ませた。

泣きながら塩珈琲を飲まされ咳き込む彼は
hydeさんが河南って呼んだことに気付く。

hydeさん、河南ちゃんと付き合ってるんですか?!

『せやから、お前、河南に手出したら首ね』

彼を壁際まで追い詰め
壁ドンで襲い返したhydeさんは
それはそれは恐ろしい吸血鬼だったそう。

私の首元にも
hydeさんの手首にも
それぞれの証がキラリと光っている。

ー完ー
8/8ページ
スキ