レーズンバター(hyde)

そのBARは
右側には新築の大きなデザイナーズマンションが建ち
左側には少し古い三階建てのマンションに挟まれている。

それでも隠れ家的存在の小さなBARは
50代前半だろうマスターのお店。

仕事帰りによく寄る店の名前は「OWL」

夜更かし…
梟…

カウンターしかないその店の奥には
存在の大きなグランドピアノが一台
凛と置いてある。

いつ来ても満席にはほど遠いが
男は最近、カウンターに一人座る黒髪の女性を見かけるようになった。

キレイな顔立ちとは言えないが
磨けば美人になるだろう女性は
アジアンビューティな黒髪が腰まで伸びている。

この店で何度か見かけているが
必ず彼女の右側にはレーズンバターが注文されていた。

カクテルは少なく
見れば男と同じようにウイスキーなどの渋めの酒類と
おすすめメニューを口にしながら、
長い時は二時間以上
静かに時を過ごしていた。

いつしか男は
店のドアを開けるたびに
彼女がいるかいないか
気になり始めた。

職業柄か
彼女を観察してしまう男だが
彼女は誰かを待っている訳でもなく
ただ時間を過ごしているように思える。

そしてまた女も
自分の後に入ってくる
その男性が気になっていた。

マスターとよく話しているのを見れば常連なのだと、すぐに分かる。

いつもサングラス越しの目線が
どこを見ているのか分からなくて
見てみぬふりをしてしまう。

どこか見たことがある横顔は美男子そのものだが
住む世界が違うような気がしていた。

職業柄か彼の服装が気になり横目で観察してしまう。
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