pretty girl(ken)


ーKen sideー

河南と会えたのは初日だけだった。

リハ中とライブ中に運転手が仮眠して
機材を積み込んだらすぐに
次に行かなきゃならないのは知っていた。

だけど河南は初めてのことだからか
リハ中でもライブ中でも観客席に来ることはなかった。

あいつ大丈夫か。

心配になっても声をかけるタイミングがない。

遠くであいつが機材を運んでいる姿を見ただけ。

さすがに女の子にはキツかったかな。

巻き込んでしまった責任が俺にはあるはずなのに
彼女としての河南を
うまくコントロール出来なくなってきて焦る。

いつもなら合間に電話して
仕事中の河南でもいつでもどこでも話が出来たのに
今は運転中だろうからと遠慮してる俺がいる。

河南と楽しむはずだった全国ツアーも
二人になる時間も俺達にはない。

そんな中、台風が接近していて
高速道路や国道が通行止めの区間があるらしいと
慌ただしくなっているスタッフたち。

案の定、河南も足止めを食わされているようだ。

普段はニッカ姿の河南だから
回りから色々言われて
男気溢れた女みたいに思われているかもしれないが
中身は至って普通の女の子だ。

泣く時もあるし
繊細な部分もある。

一人じゃ寂しいから嫌だとか
俺には普通に言える女の子。

そんな河南を俺は今、
台風の中に放り出してしまっている。

電話も他のスタッフと話しているのか
話中ばかりで繋がらない。

ため息ばかりが溢れるホテルの部屋。

ベッドの上に寝転がる。

フワッと布団に包まれると思った。

あいつ、もう何日も布団に寝てないんだろうな。

飯、何食ってるんだろうか。

ツアーの始まりは慌ただしくて
河南を気にかける余裕がなかったのが本音だ。

だけど落ち着いた今は
河南を運転手にしてしまったことを後悔し始めている。

男の俺だけぬくぬくしていられて
スタッフと旨い物食って
女の河南は・・・

台風も開けてバスで移動した俺達は
先に到着していたトレーラーを見て安心した。

河南に声かけてやらないとと思って
運転席を覗いたら疲れたのだろうか
そのまま横になって眠ってしまっていた。

スタッフがトレーラーに近づく。

すると後ろから声がした。

『まだ時間あるやろ、運転手寝かせてやり』

テツの声だった。

分かりました、皆にも伝えますと
去るスタッフを横目にテツの顔を見る。

『悪いな』

t『河南ちゃんには感謝しとる。
明日はオフやから二人でのんびりするとええよ』

テツには見透かされてるな、俺の心情。

台風一過の晴れ。

俺はトレーラーの横でラジコンを走らせながら
河南が起きるのを待った。

そして起きた河南を連れて
明日はオフやからと河南の好きな酒を飲んで
居酒屋で時間を過ごして部屋へ戻った。

ゆっくりと湯船に浸かった後
久しぶりのベッドに喜んだ河南は
そのまま眠ってしまう。

何をしようとした俺は気力をなくしながら
河南の寝顔を見て幸せを感じていた。

このツアーが終わったら籍入れようかな。
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