Jewel box(hyde)

・・・あれから
hydeさんとも会わずに逃げ出した私がいる。

あの後、答えを出せずに
黙り込んだ私の前に偶然にも彼が現れて
hydeさんを攻めた。

目の前で二人が揃ったのを見て
相手は芸能人でミュージシャンで
私ごときに二人の世界を邪魔したらいけないと
肌で感じて
勝手に悲劇のヒロインごっこで
勝手に逃げ出した。

答えを出せなかったことに後悔をしながら
また引っ越しをした。

相変わらず既読がついたままのLINEが
一年続いている。

返事をしないのにhydeさんは
メッセージの送信を止めない。

彼は新しく人生を歩み始めた。

それは大々的に
ワイドショーでも取り上げられて
相思相愛という言葉がとても似合うと
素直に感じ
彼らの幸せが羨ましいのと
切り換えの早い彼を恨むふりもした。

でも幸せを掴んだなら
彼を祝わないわけはない。

おめでとうとテレビに向けて微笑んだ。

《元気にしとる?》

そうまた鳴るLINEの音とメッセージ。

一年の間
LINEを頻繁に送信してくれるhydeさんに
心は奪われたままだった。

彼とhydeさんの間に立つことができなくて
こんなことになってしまったけど
彼が本当の幸せを掴んだのなら
もう私も本当の気持ちを伝えてもいいのかな。

既読スルーばかりのLINEのメッセージ、
画面の左側ばかりを占めるのを
今日は
右側にメッセージ表示をしてみようかなと
〈お肉食べに行きませんか?〉
そう一言書いたメッセージが
長い二人の時間を巻き戻した。

《期待してもいいなら喜んで》

すぐについた既読の文字。

〈期待して下さい〉

翌日、待ち合わせたのは橋の上。

夜景を背に緊張に高鳴る胸を抑える。

目の前に止まるスポーツカー。

震える手足。

運転席から降りたのはhydeさんで
何かを話す前にキスをした。

離れていた時間を取り戻すかのような
深い深いキス。

息も出来ないほどに長い長いキス。

『待たせた罰』

「待ってなんて言ってないもん」

『減らず口』

更に深まるキスは心地よくて力が抜ける。

その瞬間に鳴るのは私のお腹の音。

笑い合うのと、ほどけた緊張。

私からhydeさんに抱きつく。

「待っててくれて、ありがとう」

微笑むhydeさんに私からのキス。

『もう待たない』

「大丈夫、もう待たせない」

今日もひとり、
美味しそうなお店を探している。

と言いたいが
最近はひとり、hydeさんの部屋で
美味しいお酒を堪能している。

夜のひとり歩きは危ないからと
少し暗いhydeさんの家までの夜道に
寄り道をしないように言われている。

hydeさんは忙しく飛び回っている。

その地の名産や銘酒を
たくさん送ってくれるから
それで部屋でお一人様をするのが最近の定番。

ひとりでドラマを見たり映画を見たり
それはそれでひとりで有意義にしている。

そしてLINEの通知音が鳴る。

《美味しそうなお肉送ったよ》

〈帰って来たら一緒に食べましょう〉

実際にはhydeさんとのお二人様を
楽しんでいる私がいる。

お二人様になっても
美味しいお酒と肴はやめられそうにない。

hydeさんと一緒。

そんな時間が大好き☆

ー完ー
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